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視野の重なり 10

 草むらが途切れて現れたのは何の変哲も無い住宅街だというのに、俺には立ち入るのが躊躇された、建て売りの規格の表情のない一戸建ての密集した小道の上、太陽は何処へ行ったのか分厚い錆色の雲に覆われている。間遠に吹く風は道端のプラタナスの梢を通り過ぎたままの姿勢で俺の頬を撫でる。寂しげな通路といった風情の十字路には、車の影どころか人通りもなく、人影は偶にベランダに干してある洗濯物でも取り込もうという主婦が顔を出すくらいだ。右の足を踏み出せば、がらんどうの町にこつんと音はこぎみよい音が響く。さもそれが当然というように立ちはだかる高層マンションの間を通り抜けてメインストリートの振りをしている皐の生垣の続く大通りに出れば、その音に誘われたように小型車や軽自動車やらが、夕方の雀さながらに群れて俺の目の前を走り去る。道はどこを向いてもただ一点、貨物船に無理に取り付けられた薄汚れた駅に向かって延びている。人々はそれぞれに駅から遠ざかり、そして駅へと向かう。そんな彼らを後目に空はトーンを落とし続け、影のような雨粒が俺の後頭部を軽く叩いた。自転車の主婦は車から降りて、買い物籠から折り畳み傘を取り出す。まあ別にそれは人の話だ。女子高生がアーケードに駆け込む。さすがにこれは少しばかり工夫をしなければなるまい。俺は歩道に乗り上げて止められた軽自動車を避けながらアーケードばかり派手な商店街の中に駆け込んだ。洞窟じみたその中には個人商店の群。客はすべて視界の果てのスーパーに向かって歩いて行く。そんな中、海よりの工場の群から来た買い出し部隊だろうか、上っ張りの若い女子事務員達が花屋の前で立ち話をしているのが見える。すべてが流れる通路に、まるでどぶ川の杭に引っかかったゴミ袋といった格好で早引けの白髪のサラリーマンが白い眼で睨みつけているのも気付かない振りをして、アーケード一杯になって二、三人群を作りつつ雑談に花を咲かせている。俯いて彼らの手にするつるされたビニール袋から飛び出している模造紙をへし折らないように注意しながら通り抜けようとした。弾みがついて見上げればその中の一人が俺に頭を下げている。仲間の輪から少し離れてただじっとデッドストックとなったゴムの木の葉を丁寧に撫でている。よくその表情を観察しようと眼を凝らすと、それを避けるように向こうを向く。そんな俺の動作がいかにもわざとらしく見えたのか、ソフトクリームを持ったその中のリーダー格とでも言った女がいかにも迷惑そうな視線を俺のほうに向けてくる。俺はそれに向かって答えるという訳でもなく通り過ぎ、彼女達の視線を避けるべくアーケードに沿って道を折れ曲がると、目の前の喫茶店に転がり込んだ。



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