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第三章 「雨刃踊る防衛戦」 1

 第三章 「雨刃踊る防衛戦」 1

 

 

 《フレイムゴート》との戦いから二日後の昼過ぎに、その報せは舞い込んできた。

「《ブレードウルフ》率いる小隊が防衛網を突破、現在、結界基部へと進攻中」

 格納庫に集まった部下の前で、副隊長のテスが現状確認のための伝令文を読み上げる。

 情報自体は既に多くの者が把握していたが、出撃前に改めて告げられると緊張感が走る。

「交戦したアーク騎士団第十四部隊、セイル騎士団第十七部隊は壊滅。敵の侵攻ルートから、次にぶつかるのはセイル騎士団第十八部隊と推測される。現在、ルクゥス騎士団第十五部隊が救援に向かっている最中だ」

 三ヵ国連合が持つ単体戦力として《ブレードウルフ》は最強と名高い。情報を確認しているだけで、その突破力の高さは驚異的だ。

「我々にも出撃の命が下った」

 テスの視線が仲間たちを一瞥する。

「作戦目標は《ブレードウルフ》の撃破、あるいは撃退。つまるところ、この状況の打破となる」

 交戦するであろう他の部隊の作戦目標は結界基部の防衛だ。だが、レオス率いる部隊の作戦目標は《ブレードウルフ》になっている。

 ベルナリア防衛線でも屈指の戦果を誇るアーク騎士団第十二部隊を《ブレードウルフ》にぶつけようという判断だ。

「獅子対狼か……負けらんねーな」

 グリフレットが小さく呟く。

「現在、ベルナリア各地で戦闘が起きている。そのほとんどは陽動、あるいは他部隊の足止めだろう」

 《ブレードウルフ》の攻勢を援護する形で、三ヵ国の戦力が展開しているようだ。

 応戦可能な部隊の多くはそれらの対応に追われており、控えの戦力も可能な限り投入されてはいる。だが、広範囲に敵が展開しているため、《ブレードウルフ》部隊に対して手薄にならざるをえない。

 本来なら、アルザードたち第十二部隊の出撃順は明日に回ってくる予定だった。だが、《ブレードウルフ》に対抗し得る戦力として適任なのは第十二部隊だと判断された。《フレイムゴート》撃退の戦果もあってのことだろう。

「よし、では各自《アルフ・セル》に搭乗し、隊長に続いて出撃せよ!」

 テスの言葉にアルザードとレオス以外の全員が敬礼を返し、自分の機体の元へと走り出す。

「尚、アルザードは乗機の調整が終わり次第出撃するように」

「了解」

 テスの言葉に、アルザードは胸の前で握り拳を掲げる簡易式の敬礼と共に答えた。

 アルザードの乗る《アルフ・セル》は形こそ組み上がってはいるが、最終調整がまだ終わっていない。このブリーフィングの最中も、背後では整備士たちが大急ぎで作業を進めている。

 急を要する事態なだけに、部隊の出撃を遅らせるわけにはいかない。従って、アルザードの出撃は準備が完了次第、ということになった。

 出撃していく仲間たちを、アルザードは一人格納庫から見送る。

 格納庫から見える外の景色は雨だった。朝から降り続く雨空は暗く、雷こそ落ちないものの、現状も相まってどこか重苦しさを抱かせる。

「《ブレードウルフ》、か……」

 アルザードは小さく呟いた。

 全員で生き残ることはできるだろうか。

 もし、前回の出撃で自分の機体を壊さずに戦えていたら、遅れて出撃する必要はなかった。自業自得とはいえ、もどかしいものだ。

 出撃してから全速力で皆の下に向かうとして、機体にどれだけ負荷がかかるだろうか。全力で機体を走らせたとなれば、間違いなく脚部が破損する。満足に戦えない状態で合流しても意味がない。

「アルザード」

 背後からモーリオンに声をかけられて、アルザードは振り返った。

 視界に入ったアルザードの《アルフ・セル》には、今まで見たこともない装備が取り付けられていた。

「調整はまだ終わっていないが、時間が惜しいからな。先に追加装備ランドグライダーについて説明しておくぞ」

「追加装備……?」

 《アルフ・セル》の両足が一回り大きくなっている。良く見ると、ブーツを履かせたかのように、脚部に新しい何かが取り付けられている。

「まぁ、簡単な話だ。車輪のついた靴を履かせたと思えばいい」

 輸送車両などに使われる頑丈かつ高耐久の魔動車輪を複数用いて作られたものが今回の追加装備ということらしい。

「使い方は簡単だ。魔力を送ると車輪が回る。魔力の強さで速度が上がる。逆回転もできるようにしてある」

 滑走用車輪を回すように魔力を送り、操ることで通常の二足歩行に比べて前後への高速移動ができるはず、というのがモーリオンの見立てだった。

「ただし、重心位置には注意しろよ。下手するとすっ転ぶぞ」

 前方に進むなら重心は車輪より前に、後退するなら逆に車輪より後ろに重心を移動させなければ、加速力によりバランスを崩してしまう構造になっているのだ。推進力を足の裏に持ってきたため、体が引っ張られる形になる。

 結果的に、小回りは利き難くなると考えて良いようだ。

 重心位置、速度、慣性、推進力、と通常歩行とは感覚の違う部分が多く出てくるのは間違いない。

「まぁ、魔力消費量が増えるデメリットもあるにはあるんだが……お前さんなら気にならんだろう」

 本来なら、ランドグライダーを十二分に稼動させるには、魔動機兵を通常稼動させるのに加えてそれなりに魔力が必要になるとのことだった。並の騎手であれば軽視できない消耗量になるらしく、平地での高速移動能力と引き換えに戦闘可能時間の短縮や武装への魔力出力の制限といったデメリットが存在するようだ。

 だが、その程度のデメリットならアルザードには無いも同然だ。

「いつの間にこんな装備を?」

 一通りの説明を受けた後、アルザードは問う。

 このランドグライダーを用いれば、部隊の展開や増援の到着速度は飛躍的に向上するように思える。前線に出て戦う側からすれば、目標地点への移動時間は短く出来るに越したことはない。

「前々から、少しでも足しに出来るような何かは考えていたんだがな……」

 モーリオンはばつが悪そうに頭を掻いた。

 現状に対して少しでもプラスになるようなことが出来ないか、整備士たちもあれこれ考えている。限られた物資の中でやりくりしつつ考え出した追加装備も、現地改修の域を出ないものだ。正式な装備として開発ラインが確保されているわけではなく、ありあわせの材料で作られたものなのだ。

「そろそろ調整も終わるだろうが、何か質問はあるか?」

「そうですね……質問というよりは要望ですが」

 モーリオンの問いに、アルザードは《アルフ・セル》を見上げて、答える。

「武装、もっと積めませんか?」

 今回の任務対象である《ブレードウルフ》との交戦は避けられない。

 《ブレードウルフ》と呼ばれている魔動機兵は、正しくは《グルム・ヘイグ》という名称の機体だ。セギマの主力機《ヘイグ》と、その改良型である《ジ・ヘイグ》をベースに、更に強化を施した機体だと言われている。その推定性能は、アルフレインにおける最高性能機体であり、《アルフ・セル》の上位機でもある近衛部隊専用機《アルフ・カイン》と同等かそれ以上ではないかと噂されている。

 つまるところ、現行の魔動機兵としてはトップクラスの性能だ。

 対策として思いつくことはやっておきたい。


「よし、終わったぞ」

 通信機から聞こえたモーリオンの声に、《アルフ・セル》の操縦席で待機していたアルザードは目を開けた。

 アームレストの先のヒルトを握り締め、魔力を送る。スクリーンに光が灯り、頭部カメラからの映像が投影される。

「アルザード、出撃します」

 格納庫前面の扉が開き、アルザードは両手に魔力を込めた。

 上体を前方に倒してから、足の裏へと意識を向けて魔力を送る。追加装備、ランドグライダーの車輪が回転を始め、機体が一気に加速した。

 前方に倒れ込んでしまうかと思った瞬間、通常走行時のトップスピードを超える初速で、《アルフ・セル》は雨の降るベルナリアへと滑り出した。両足は地面につけたまま、足の裏の車輪が機体を走らせている。

「凄い……!」

 思わず、呟いていた。

 車輪による移動のお陰で、アルザードがただ機体を走らせるよりも脚部の各関節への負荷が抑えられている。その上、ただ走るよりも速い。

 当然、いつもと感覚の違う部分はある。

 方向転換は急には出来ず、曲がるための重心移動や足先を動かすタイミングやその際の程度もいつもと違う。起伏などの地形への対処もそうだ。

 これらは積載重量によってもまた変わってくるらしい。

 雨が降る廃都の中、郊外にある結界基部へと向かって滑走する。高速で回転する車輪は泥を跳ね続けているが、動かすのに支障はない作りになっている。

 ランドグライダーにより移動性能が向上するというのを良いことに、アルザードは武装の追加搭載をモーリオンに提案していた。

 アルザードの《アルフ・セル》が普段標準装備しているのは、突撃銃と中型の盾に、専用の大型アサルトソード、それに予備の弾倉をいくつか、といったところだ。だが、今回は追加で突撃銃と短銃を一丁ずつ、通常サイズのアサルトソードを二本、無理矢理搭載してもらった。

 突撃銃は両手に持ち、盾は小型のものを両腕に固定する形で装着、短銃は腰の裏のガンラックに、アサルトソードを左側の背部ラックに二つ、追加で積んでいる。

 持ち替えというよりは使い捨て前提の積み方だが、ありがたいことにモーリオンは反対せずに応じてくれた。

 既に交戦中であろう仲間へ武装を補充することもできるはずだ。

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