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第十四章 「魔動要塞」 2

 第十四章 「魔動要塞」 2

 

 

「アンジアのように属国とするか、併合するかしてしまえば運用費を負担させることもでできるでしょうし……」

 実際に、その手法で属国となったアンジアは、いずれアルフレイン王国に併合されることになるだろう。

 《イクスキャリヴル》を中心とした戦力で首都ないし、それに準ずる重要地点を制圧し、降伏を迫ることが不可能ではないのはアンジアで実証されている。

 襲撃し、降伏させ、《イクスキャリヴル》の稼動にまつわる費用を負担させる。

 同じようなことを繰り返して一つずつ国を落としていけば、大陸を統一するというのも非現実的ではないのかもしれない。

「やってやれないことはないでしょう」

 実行することに乗り気かどうかはさておき、エクターは開発者としての見解を述べる。

 騎手であるアルザードとしても、恐ろしいことにそれが実現不可能ではないだろうと思えてしまう。

「大陸の統一、それ自体は世界の平穏のために為すべきことかもしれん。しかし……」

 アルトリウス王は首脳陣を見渡し、自らの考えを口にした。

「力による支配、思想の統一は少なからず歪みを産むものだ。一時は良くとも、内側に不平や不満、火種を抱えることにも繋がるだろう。そうなれば、各国を吸収し、大陸を統一したところでいずれその綻びから争乱は起きるのではないかと私は思う」

 《イクスキャリヴル》による世界の統一は、圧倒的な暴力で他者を従属させていくことにも等しい。表面上は国家として吸収拡大を続けて思想統一が出来たように見えても、元々そこに根付いていたものを塗り潰し切るのは難しい。いかにアルフレイン王国が圧政を避けたとしても、国が滅ぼされた事実は消えない。アルフレイン王国となったことで適用されるであろうルールや文化に不満を持つ者が出ないとは限らない。

「私はな、対話と相互理解によってのみ、真の平和が訪れるものだと信じているのだよ」

 単に力で押さえつけて従わせただけでは、一つになることはできない。アルトリウス王はそう主張する。

「より長く平和な世界を続けるのであれば、異なる思想、異なる宗教、自分たちとは違う、到底相容れぬ思想であってすらも、それらが存在することを互いに認め合い、排除するのでも、どちらが正しいとぶつかり合い潰し合うのでもなく、違うこと、相容れぬことを受け入れた上で共存していけるようになるべきだと思うのだ」

 単に相容れないからと相手を排除しようというのは、相手にも攻撃の理由を与えることになる。相容れぬもの、理解できぬもの、と一度認めた上で、それがどれほど自分たちの思想とかけ離れていても、ありのままを受け止める。

 そして、その上で共存することも認め合う。

 アルトリウス王はそれこそが争いのない世界を作るのだと考えている。

 勿論、言うほど容易いことではないのは理解しているだろう。

 争いとは、相容れぬもの、理解できぬもの、あるいは他を害してでも得たい何かがある時に発生する。およそ、相互理解や歩み寄りの精神からは程遠いものだ。

 奪われた者、虐げられた者は不満を募らせ、やり場のない怒りや憎悪が火種となり、負の連鎖を生んでいく。

「私とて、綺麗事だけでやっていけるとは思っておらん。全く意思の疎通ができぬ相手には対話も相互理解も求められん。一方的に理不尽な要求を呑み続けることが対話や相互理解だとは思っておらぬし、時には強硬手段に出ることも必要ではあろう」

 どうにかして、対話や相互理解の道に応じさせる必要はあるだろう。

 相手を理解することが大事だからと、無防備でいてはただ奪われるだけで終わってしまう。表面上、対話に応じたふりをして騙まし討ちをしようとする者だっていないとは限らない。

 そういった者たちさえ受け入れて、ただ滅ぼされたり、いいように搾取されることが正しいとは思わない。

 同じレベルで互いの共存を考え合えるようにならなければ、アルトリウス王が理想とする世界には辿り着けないだろう。

「それにな、同じ国に住まう人であっても、それぞれ異なる心を持っている。思想の統一とは、それらを画一的なものにすることだと思うのだ。それでは同じ人間ばかりになってしまって、面白くないとは思わんか?」

 少しだけ冗談めかして、アルトリウス王はそう言葉を締め括った。

 一つになること、一つにすることが必ずしも良いことだとは限らない。個というものが存在し、異なるからこその発展や進化がある。

 勿論、大陸の国家統一によってそういった個がなくなり、全てが一つになるとは限らない。極論ではあるだろう。

 ただ、力のみによる性急な侵略と大陸の統一は好ましくないとアルトリウス王は考えているようだった。

「実際のところ、その方法で国を拡大していくとしても、統治が追いつかないでしょうな」

 アーク正騎士長が頷きながら言う。

 《イクスキャリヴル》による電撃的な首都制圧自体は可能だとしても、アルフレイン王国がその後問題なく統治をしていけるかはまた別だ。

 仮に実行に移したとして、取り込んだ国の内政状況、経済状態を、アルフレイン王国の基準にすぐさま切り替えるのは難しい。その国が抱える問題をそっくりそのまま引き受けることにもなる。アルフレイン王国の人員を割いて臨時政府等を作るにしても、他国が対応する隙を与えぬよう次々と制圧して回れば、派遣するための人員も足りなくなる。

 急速な領土拡大に内政や対応が追い付かないという事態に陥るのも目に見えている。かといって、一国ずつ順番に、となれば他の国も警戒をするし反発もされるだろう。

 いかに《イクスキャリヴル》が強力であっても、周辺国家から同時かつ多方面から攻められれば応戦は不可能だ。三ヵ国連合による王都進攻は最終的に一方向からに絞られたため、《イクスキャリヴル》で対応できたが、王都を隙間なく包囲されていたらどうなっていたか分からない。

 《イクスキャリヴル》は一機しかなく、操縦できる人材もアルザードただ一人しかいないのが現状だ。機体そのものはコストを無視すれば量産できても、動かせる人間が他にいないというのは致命的な弱点でもあった。

 アルザード程の規格外ではなくとも、魔力適性の高い者に向けた簡易型イクスキャリヴルとでも言うべきものは作れないのかという話も持ち上がったが、それでは魔動機兵という枠から外れるような機体には出来ない、というのがエクターの回答だった。

「コストや汎用性、利便性などあらゆるものを度外視し、性能のみを追及した結果が《イクスキャリヴル》ですので」

 その性能を抑えて、常識的な範囲で魔力適性が高いと言われる者たちに合わせて機体を造るのであれば、《イクスキャリヴル》のような出力は得られない。

 アルザード以外にも運用が可能な《イクスキャリヴル》のような機体を造るには、また一つ二つ技術革新が必要だとエクターは語る。

「魔力の増幅倍率向上、制御術式や機構の刷新、コストや要求魔力適性の低減をするなら課題はとても多いよ」

 エクターの頭脳をもってしても、それらは一朝一夕にはいかない。そもそも、今現在の彼が持つ技術の粋を結集させたものが《イクスキャリヴル》だ。もしかすると、理論上だけならもっと性能の高いものが設計できていた可能性すらある。今のアルフレイン王国で調達、準備、製造可能という、実現可能な範囲でのコスト無視という条件で《イクスキャリヴル》は生み出されているのだ。

 それをすぐさま改良し、一般化しろというのも無茶苦茶な話だ。

 何度目かの王国議会への出席を経て、事態に動きがあったのはアンジア降伏から半年後のことだった。

「セギマから救援要請が届きました」

 キアロ総騎士長が議会の円卓に集った首脳陣を見渡し、告げた。

 セギマとは停戦協定を結び、三ヵ国連合からの離脱及び、実質的敗戦国としての賠償請求、復興への援助といった契約がなされていた。侵略されたことで民の中にはセギマを良く思わない者も少なくはないが、いち早く敗戦を認め手を引いたことを評価する者もいる。

 とはいえ、属国でも、友好国になったわけでもない。そんなセギマから救援要請が来た、というのが異常事態であることを示唆していた。

「何でも、ノルキモによる侵略を受けており、戦況が芳しくない、とのこと」

 届いた書状を円卓の皆に回しつつ、キアロ総騎士長が説明をする。

 不可解なのは、敵国だったはずのアルフレイン王国に助けを求めているということだった。

「三ヵ国連合を裏切った形になるセギマを攻める、というのは分からなくもないですが……」

 セイル正騎士長が怪訝そうに呟く。

 三ヵ国連合のうち、アンジアの捕虜交換要求よりも前にセギマは連合離脱と停戦の申し入れをしていた。アルフレイン王国からの反撃を受けて属国となったアンジアはともかく、セギマの行動を裏切りと見做すことは出来なくもない。

 だが、いくら《ブレードウルフ》を始めとする精鋭戦力を失ったとはいえ、勢力的にはまだセギマの方が強いはずだ。

 アルフレイン王国に取り込まれるアンジアは無理でも、《ヘイグ》などの魔動機兵開発で繋がりのあるベクティアに救援要請をする方が自然だ。

「ベクティアにも救援要請をしている可能性は?」

 ルクゥス正騎士長が疑問を口にする。

 セギマが隣接している国家は現在四つあり、アルフレイン王国、アンジア、ノルキモ、ベクティアだ。ノルキモに攻められたとしてセギマが救援を求められるのはアルフレイン王国、アンジア、ベクティアとなるわけだが、そのうちのアンジアはアルフレイン王国の属国となっている。

 東西にいるアルフレイン王国とベクティア、両方に救援要請をしている可能性はあるだろう。

「あるいは、こちらにしか救援を求められなくなっているか……」

 アーク正騎士長が書状を見て眉根を寄せる。

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