表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/60

第十四章 「魔動要塞」 1

 第十四章 「魔動要塞」 1

 

 

 捕虜救出作戦もといアジール制圧から三ヶ月が経つ頃には、アルフレイン王国の情勢も安定に向かいつつあった。

 アンジアの全面降伏は実質的に三ヵ国連合の敗北を意味し、セギマも連合の離脱を決めて停戦を持ちかけていたため、残るノルキモだけではアルフレイン王国を攻めるには戦力不足であり、争乱の収束も現実味を帯びてきた。

 安定に向かっているとはいえ、アンジアを併合するほどの余裕はアルフレイン王国にはまだなく、ひとまず属国扱いにして今回の戦争で王国が受けた被害の賠償請求をする形となった。

 アンジアの降伏に続いて、セギマが停戦協定を結んだことで、あれからアルフレイン王国領内での戦闘は起きていない。

 下手に刺激すれば《イクスキャリヴル》による報復を受けるかもしれない。そう思わせられたことで、各国は警戒して直接的に戦闘を仕掛けられなくなっているようだ。

 しかし、三ヵ国連合のうち残ったノルキモだけはあれから沈黙を貫いており、敵対行動こそしていないが、セギマのような歩み寄りも見せていない。

「恐らくはベクティアが裏にいるんだろう」

 と言うのがエクターの見立てだ。

 アジールで開発されていたマナストリーム砲は、大陸の南東端に位置するベクティアからの技術供与を受けていたのだろうとエクターは推察している。

 ベクティアには魔動機兵開発の立役者の一人でもあるモーガン・レファイがいる。技術者としての能力や思想から、マナストリーム兵器の実用化には彼が関わっている可能性が高いとエクターは言う。

 三ヵ国連合の中でアンジアが最も資源的に余裕があったため、実験的に作らせてみたのではないかというのがエクターの推論だ。

 セギマの主力魔動機兵である《ヘイグ》系列の機体も、ベクティアとの共同開発だという話もある。

 三ヵ国それぞれに思惑はあっただろうが、それをベクティアが間接的に支援する形になっていても不自然ではない。いや、もしかすると、そもそも三ヵ国連合の発足やアルフレイン王国への戦争はベクティアの策略という可能性も否定できない。

 モーガン個人はエクターに対し並々ならぬ執着があるようだが、それを上手くベクティアに利用されているというのがエクターの見解だった。

 工作員として送り込まれていたヴィヴィアンのことからも、エクターの推測があながち的外れではないことが分かる。

 そして、平静を取り戻しつつあるアルフレイン王国とは対照的に、大陸外周諸国は小競り合いが活発化してきている。現代における重要資源が豊富な土地を多く持つアルフレイン王国と三ヵ国連合の戦争は大陸全体の今後に大きな影響を与えるだろうと各国は予測していた。戦端が開かれてからの三ヵ国連合の電撃的な侵攻により、アルフレイン王国の滅亡は確実視されていただろう。実際に、そうなる寸前まで追い詰められていたのも事実だ。

 そのため、各国は三ヵ国連合がアルフレイン王国を滅ぼした後のことを考えていたはずだ。ベクティアが裏にいたのであれば、三国それぞれを支援した見返りを要求していただろうし、ユーフシルーネは三ヵ国連合の隙を見て滅ぼされたアルフレイン王国領土の一部を得ようするか、アンジアに攻め入るなどの動きを見せた可能性も高い。

 その他の国もアルフレイン王国の消滅を機に何らかの動きを見せていたかもしれない。

 結果的には、《イクスキャリヴル》の投入でアルフレイン王国の滅亡は免れ、加えて強烈なカウンターを放ちアンジアを降伏させたことで、各国の予想は裏切られ、同時にそれまでの思惑を見直さざるを得ないほどの波紋を広げることになった。

 単にアルフレイン王国が三ヵ国連合の侵攻を凌ぎ切った、という話であれば、消耗から手を引かざるを得ないであろう三ヵ国に代わって他の国々が疲弊しているアルフレイン王国を突くという事態も考えられた。

 決定的だったのは、王都防衛から一週間後のアジール制圧だった。

 精強で知られるアルフレイン王国の騎士団にも深刻な損害を出し、王都に次ぐ大都市だったベルナリアは廃都と化し、蹂躙された領土も少なくなく、疲弊しているはずのアルフレイン王国がたった一週間で三ヵ国連合の一角であるアンジアに報復を行い、しかもその一度の攻撃だけで全面降伏させたというのだから、各国が受けた衝撃は相当なものだった。

 その立役者でもある《イクスキャリヴル》と騎手であるアルザードは凱旋式典とアルトリウス王による直々の表彰により、各国の知るところとなっている。

 《イクスキャリヴル》が強烈なインパクトと共に、抑止力として機能するようになったことで、各国はアルフレイン王国への対応を改めざるを得なくなった。それはつまるところ、アルフレイン王国領をひとまず諦めざるを得ないということであり、大陸情勢の変化や自国の利益の画策などを期待していた各国の思惑は丸潰れになったということでもある。

 そういった影響もあってか、かねてより小競り合いが続いていた大陸の北西方面と東方の勢力争いは激化し始めており、いずれはいくつかの国が吸収、あるいは統合されそうな勢いになっている。

 東方は南東端のベクティアが勢力的に強く、そこに吸収されていく可能性が高い。ノルキモやセギマを挟んでいることもあり、距離のあるアルフレイン王国としては手が出しにくい。

 北西諸国に面している隣国ユーフシルーネは情勢不安の影響を大きく受けており、未だ立ち直り切っていないアルフレイン王国に援軍や協力要請の打診をしてくる始末だった。

「侵攻されているわけでもないのに何と図々しい……」

 アルザードとエクターが出席した王国議会の席で、セイル正騎士長が苦々しい表情で呟いた。

「我が国が蹂躙されているその時に援軍の一つも寄越さなかったくせに、快諾するとでも思っているのか?」

 ルクゥス正騎士長も嫌悪感を露わにする。

 敵対こそしなかったものの、ユーフシルーネの友好国としての信頼感は落ちてしまっている。いくらユーフシルーネが西方諸国に面していて情勢に不安を抱えていたとしても、あわや滅亡寸前まで追い詰められたアルフレイン王国に救いの手を差し伸べなかったことに憤っている者は少なくない。

 三ヵ国連合と裏で繋がっていただとか、アルフレイン王国が滅ぼされた後に隙を突いてこの地を得ようとしていた等と言う噂が立っても仕方が無いだろう。

 敵対していないというだけで、もはや友好国と見做し難い。そんな空気が漂っていた。

「恐らくは、《イクスキャリヴル》について探りたいという思惑もあるのだろうよ」

 アーク正騎士長も鼻を鳴らす。

 三ヵ国連合との争いに実質的な勝利を得たとは言え、アルフレイン王国は建て直しの最中だ。王都防衛戦や捕虜救出作戦の直後ほどでないとは言え、騎士団の再編はまだ終わっているとは言い難い。

 廃墟となってしまったベルナリアの復興にも着手し始めたばかりで、他国に手を貸す余裕などない。むしろ、アルフレイン王国の方が援助を求めたいぐらいだ。

 それでもユーフシルーネが協力要請をしてきているのは、《イクスキャリヴル》が目当てだろう。

 今現在アルフレイン王国が比較的自由に動かせて、かつ急な事態や遠隔地でも迅速かつ柔軟に対応でき、部隊としては小規模ながら破格の戦果を期待できるのは《イクスキャリヴル》だけだと考えているのだ。

 こういった要請をした時に、《イクスキャリヴル》は即応できるのか、というこちらの事情を探る目的もあるのだろうというのが首脳陣の見解だ。

 批判や反感を得ることは承知の上で、それでも尚、《イクスキャリヴル》に関する情報を少しでも得たいというのが本音だろう。

「それとは別に《イクスキャリヴル》との模擬戦の要望もありますね」

 キアロ総騎士長も半ば呆れた様子だった。

 親善試合の申し込みと言えば聞こえは良いが、ユーフシルーネの最精鋭がどれだけ《イクスキャリヴル》に対応できるかを見極めたいという狙いが見え見えだった。

 既に《イクスキャリヴル》の性能を目の当たりにしている首脳陣からすれば失笑ものの提案だった。

「武装類を非殺傷のものに換装したとしても、出力が高過ぎて魔動機兵を破壊してしまう危険性はありますね」

 冗談なのか本気なのか分からないエクターの言葉を、もはや否定できる者はいなかった。

 実際、武装に魔力を用いている以上、《イクスキャリヴル》の出力では手加減がきかないというはあながち的外れでもないことだった。素手でも魔動機兵部隊を蹂躙できるのは王都防衛戦時に実証済みであったし、《イクスキャリヴル》はアルザードの莫大な魔力を余すところなく引き出して性能を発揮する設計になっていることもあって、加減するのであればそもそも《イクスキャリヴル》を持ち出す意味がなかった。

「とはいえ、護剣騎士団の試験運用という意味では援軍要請に応じる価値はあるかもしれませんが」

 エクターの言葉に、正騎士長たちも思案を巡らせる。

 護剣騎士団は結成され、専用魔動機兵である《イクサ》タイプ三機も完成し配備された。しかし、アルフレイン王国への攻撃が止まったことで、それらを実際に運用する場がなくなってしまっている。

 国内での模擬戦は何度か行ってはいるが、そのどれも《イクスキャリヴル》を稼動させることのない、三機の魔動機兵部隊によるものに留まっている。

「《イクスキャリヴル》の運用費をユーフシルーネ持ちにするという提案もありますが、それはそれでリスキーですね」

 キアロ総騎士長に、エクターも頷く。

 協力を要請したユーフシルーネ側に今回の《イクスキャリヴル》の稼動費用を請求するという手もある。アルフレイン王国からしてみれば、コストが馬鹿にならない《イクスキャリヴル》をタダ同然で動かし、部隊運用のテストもできるというメリットはある。しかし、逆にユーフシルーネに《イクスキャリヴル》の運用コストという弱点を知られることにも繋がってしまう。

 コストの高さを知られれば、《イクスキャリヴル》が頻繁に動かせないという欠点、隙を晒すことにもなりかねない。

 直接的に侵攻を受けていたアルフレイン王国と違い、急を要する事態でもないユーフシルーネの要請を無視して情報を秘匿したままにすることもできる。

 要請に応じればユーフシルーネは国防面で大きな戦力を借りることができるし、《イクスキャリヴル》について多少なりとも探れるというメリットがある。

「いっそ、《イクスキャリヴル》で攻め落としてしまうというのは?」

 首脳陣の中からそんな声があがった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ