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第十三章 「護剣騎士団」 2

 第十三章 「護剣騎士団」 2

 

 

「サフィはともかく、俺もか?」

 グリフレットが訝しげに問う。

 片腕を失ったグリフレットは、そのままではヒルトが一つしか握れない。片足を失っているとはいえ両腕が健在のサフィールならまだしも、魔動機兵の騎手として隻腕は致命的と言えた。二本のヒルトを握り、それぞれに魔力を送ることで魔動機兵は細かな動きに対応できる。片腕で操縦するとなれば、今まで以上に扱うのが難しくなるだろう。

「まずは概要から説明しよう」

 エクターはアルザードの隣に腰を下ろし、今回の要件の説明を始めた。

 捕虜奪還作戦の成功を受けて、アルフレイン王国は首の皮一枚繋がっていた王都防衛直後から立ち直れそうな状況になりつつある。

 アンジア首都アジールへの強襲作戦は、アルフレイン王国首脳陣の目論見通り、《イクスキャルヴル》のデモンストレーションと同時に他国への牽制にもなった。

 内情的にはシュライフナールが再配備できるという前提ではあるものの、《イクスキャルヴル》には単独で首都を制圧できる力があるということを他国に見せ付けることができた。

 直接手を出してきた三ヵ国連合以外にも、密かにアルフレイン王国を狙っている国は多いとアルトリウス王は見ており、その見解は首脳陣でも一致している。もしもアルフレイン王国が三ヵ国連合に落とされていたら、それを発端として周辺他国が一斉にこの地を求めて戦端が開いていたとしてもおかしな話ではない。

 《イクスキャルヴル》の存在感は、迂闊に攻め入ることを躊躇させる抑止力として機能し始めた。

 王都防衛戦だけでも相当なインパクトを与えることには成功していたが、単独で一国の首都を制圧するだけの力があることも示せた今、《イクスキャルヴル》は敵対する意思のある国にとって見過ごせぬものとなっている。

「実際には運用コストが馬鹿にならないから、そう頻繁に動かせるわけじゃないんだけれどね」

 エクターはそう補足して、話を続ける。

 《イクスキャルヴル》に用いられている資材、一度の運用で消費する資源、作戦後の整備費など、それこそ目玉が飛び出るようなコストがかかっている。そのコストには時間も含まれており、整備や修理、資材などの準備にかかる時間も踏まえると、《イクスキャルヴル》を毎日のように戦闘参加させることはとてもではないができるものではない。

 《イクスキャルヴル》運用の欠点の一つはここにある。

 幸いだったのは、そうした運用面の詳細が外部に漏れておらず、王都防衛から一週間程度でアンジアの首都を強襲することが出来たことだった。捕虜交換の返答期限の指定が一週間であったこともあり、《イクスキャルヴル》の準備に時間がかかったのか、対応を決めるのに時間がかかったのか、外部から判別するのは難しいだろう。

 即ち、《イクスキャルヴル》が連続で動かすことはできないとしても、その頻度、最低限必要なインターバルがどの程度かは他国に知られていないということだ。

 そして、もしも《イクスキャルヴル》に出て来られたら、魔動機兵部隊では歯が立たないことも実証されている。

 アンジアが開発していたマナストリーム砲を不意打ちで当てることが出来れば撃破すること自体は可能ではあるが、気付かれた時点で正面から防げることも実証してしまった。

 アルフレイン王国に対し、迂闊な行動や態度を取れば《イクスキャルヴル》を差し向けられるかもしれない。いささか脅迫的ではあるが、これは強力な外交カードになりうる。

 元々、アルフレイン王国は他国とは良好な関係を築こうと、和平方面に力を入れて外交政治を行ってきた背景がある。だからこそ、三ヵ国連合も戦端を開いてからは一気に攻め落とそうとしてきたわけだが、《イクスキャルヴル》の投入によって簡単に言えば、怒らせたら怖い、という印象を与えたはずだ。

 穏便に外交をしていた方が得策だ、と思わせられていればアルフレイン王国としては喜ばしい。

「で、ここでもう一つの欠点が浮き彫りになった。まぁ、僕は元々分かってはいたことではあるんだが」

 エクターが人差し指を立てる。

「《イクスキャルヴル》に連携できる部隊がいない」

 今回の話はここからが本題だった。

 《イクスキャルヴル》が魔動機兵という枠を超えた新機軸の兵器である故に、現行の魔動機兵部隊では足並みを揃えることができない。

 そもそも、エクターからすれば《イクスキャルヴル》は連携を必要とせず単独で状況を覆すことを目的に開発されている。連携できる存在がいないことは事前に分かり切っていたことであり、そもそも連携を必要としない機体としても設計されている。

「まぁ、だからと言って《イクスキャルヴル》と連携できる魔動機兵を作れるか、っていうとまた難しい話ではあるわけだけど」

 エクターはソファに背中を預けるように力を抜いて、息をついた。

 《イクスキャルヴル》が正式にアルフレイン王国の戦力として認知、公表されたことで、部隊組織をする必要性も出て来た。

 特に、先の捕虜救出においては、作戦そのものは問題がなかったが、《イクスキャルヴル》の回収が運用の難点として挙げられる結果となった。

 《イクスキャルヴル》を前線まで投入するのは、シュライフナールのような外部装置で何とかなる。しかし、戦闘後に《イクスキャルヴル》が動けなくなってしまった場合、シュライフナールのような機動力を補助する装備があっても単独で帰還することができなくなってしまう。

「戦闘を終えた《イクスキャルヴル》の回収と護衛ができる部隊を新設し、それを《イクスキャルヴル》を運用する際の単位としたいってわけ」

 騎士団側から、回収用の部隊を毎回編成しなければならないことが手間だ、という意見が出た。

 《イクスキャルヴル》自体も、一度戦闘を終えて停止してしまうと再起動は難しく、その直後に敵が現れたとしたら即応することができない。《イクスキャルヴル》の魔力感知能力があれば、撃ち漏らしや伏兵に気付かず停止するという事態は考え難いが、用心するに越したことは無いし、備えておいて損することもないだろう。

 何より、停止した機体の回収を含む後始末までを《イクスキャルヴル》運用チームで賄えるようになれば、騎士団はこちらに意識を割く必要がなくなる。エクターたちも要請に従って《イクスキャルヴル》を投入した後、自分たちで回収して帰還できるようになる。

「というわけで、発想を変えて、《イクスキャルヴル》を支援する部隊を作ってしまおうって方向で考えてみることにした」

 そういった話を受けて、エクターはいっそ《イクスキャルヴル》の運用を支援する部隊を編成することを提案し、了承されたと明かした。

「編成は《イクスキャルヴル》の支援に特化した設計の魔動機兵を三機。君たちにはそのうち二つの騎手をやってもらいたい」

 エクターの話を聞いて、グリフレットとサフィールは再び顔を見合わせる。

「手足のことなら心配は要らない。義手義足を用意するし、むしろそれを有効活用する案もある」

 二人の言いたいことを先読みするように、エクターが言う。

 魔力を使って動作させる義手義足、というのは既に存在する。ただし、当然ながら魔動機兵のように魔力を増幅する機構を搭載するスペースはないため、本人の魔力のみで動かさなければならない。魔力伝導率の高い素材は高価なこともあり、関節部など整備も定期的に行う必要があったりと、まだ一般に普及するほどのものにはなっていない。

「特に義手は設計段階から魔動機兵との接続を前提としたものにして、操作の柔軟性と魔力制御の効率を上げようと思っているんだ」

 エクターは、魔動機兵の操縦系統と連携させる前提で設計した義手を用意すると言い出した。

 《イクスキャルヴル》関連ということで、費用や資材に関しては融通が利くことを利用し、高品質かつ専用の機能を持った義手を作るつもりらしい。

「とはいえ、常に着けていられるような代物にはならないから、普段使い用の義手も手配するし、費用はこちらが持つ」

「元々断る理由なんかないんだが、聞いてる限りじゃ待遇が良過ぎて逆に不安になってくるな……」

 エクターの追い討ちとも言える言葉に、呆れたようにグリフレットが答える。

 貧民出身のグリフレットにとっては申し分のない条件だった。利き腕でもある右腕を失った今、これからどうやって家族を養っていけばいいのか途方に暮れていた彼にとって、騎士団に再配属できるというのは願ってももないことだった。

 騎士団として国のために戦い、片腕を失くすほどの大怪我を負って退団せざるを得ないとなれば、国からもある程度の手当ては出る。だが、それだけではグリフレットが養いたい全員の生活は保障できない。

「そうね、私も断れる立場にはないわ」

 サフィールは貴族の生まれだが、家督を継ぐのは弟のギルバートとなっている。その分、彼女はある程度自由に人生を選ぶことができる。しかし、今回の捕虜となっていた件で、彼女自身には消すことの出来ない傷がいくつもできてしまった。

「……嫁の貰い手もなくなっただろうし」

 自嘲気味な呟き。

 事情を考えれば、サフィール自身に落ち度はないし、パルシバル家にとって悪影響とまではいかないだろう。むしろ、最後まで戦い抜き、生き延びたこと自体は騎士としても称えられていい。

 だが、それはそれとして、一人の女性として、貴族の女性としては凌辱されたという事実が重く圧し掛かる。彼女自身に対しても、周囲に対しても、気にするな、というのはさすがに無理だろう。

「それで、最後の一人はどうするの?」

 グリフレットが何か言いたそうにしていたが、サフィールは話を進めようとエクターに問う。

 《イクスキャルヴル》支援用の魔動機兵部隊は三人編成だとエクターは言った。グリフレットとサフィールがこの話を引き受けたとしても、あと一人足りない。

 アルザードは当然ながら、《イクスキャルヴル》に乗るため候補からは除外される。《イクスキャルヴル》を出すほどでもない、様子見の出撃、として魔動機兵に乗るという手がないわけではないのだが、《イクスキャルヴル》を出すとなった時にアルザードが前線で戦っていては本末転倒だ。何より、通常の魔動機兵の枠に含まれる機体であれば、いくらエクターの設計であったとしてもアルザードが乗るには適さない。

「三人目はギルバートだ」

 疑問に答えたのはアルザードだった。

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