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第十二章 「反撃の光」 3

 第十二章 「反撃の光」 3

 

 

 戦闘直後に気を失うという事態こそ免れたものの、それでも疲労感と反動は凄まじいものだった。

 捕虜の救出を終えた部隊と合流し、あらかじめ用意されていた回収用の輸送車両に《イクスキャリヴル》とシュライフナールを乗せた後、アルザードは身動きが取れなくなってしまった。

 最初に《イクスキャリヴル》を動かした後に見舞われたのと同じように反動に襲われて、文字通り体がまともに動かせなかったのである。

 救出した捕虜の状態確認や移送の関係もあり、一応は五体満足なアルザードはエクターたちと合流するまで《イクスキャリヴル》の操縦席で過ごすことになった。

 体が麻痺して自力ではまともに動けなくなっていたことと、疲労感から眠っているうちに、国境付近で待機していたエクターたちと合流し、王都アルフレアへと帰還した。

 王都に着くと、アルザードは《イクスキャリヴル》の操縦席から数人がかりで引っ張り出され、病院へ搬送、《イクスキャリヴル》とシュライフナールは近衛の機体まで動員してニムエ技術研究所へと輸送、整備と修理が行われることになった。

 アルザードは再び、病室のベッドでその後の報告を聞くことになった。

「まずは作戦そのものは大成功と言える成果だ」

 《イクスキャリヴル》の整備と修理の指示を一通り出し終えたエクターがマリアを伴って病室を訪れた。

 あの時点で生存していた捕虜は全員救出ができ、一命を取り留めた者も多い。捕虜となってから助け出されるまでに命を落とした者もいたものの、そればかりはどうしようもない。

 捕虜たちは一度、騎士用の病院に預けられて怪我の手当てや精神面のチェック等を受けてから、その後の身の振り方を決めるそうだ。

 グリフレットやサフィールは無事だろうか。獅子隊の面々のことは気がかりだったが、話を聞きに行くにしても体が動かせるようになってからだ。

「アンジアも全面降伏に応じた」

 議会を制圧したというのもあるが、力を見せ付けたのも大きかったようだ。

 報告によれば、試作兵器の攻撃性能には絶対の自信があったようだが、《イクスキャリヴル》がそれを防ぎ切り、かつ即座に反撃に出て大破させて見せたことで、反抗的だった議員たちは魂が抜けてしまったかのように大人しくなったそうだ。

 《イクスキャリヴル》から後ろにあった都市部が守られたことで、市民の中にはアンジアの姿勢に不信感を抱いたものも少なくないのだとか。

 アンジアはアルフレイン王国に対し、抵抗力を失った。議会を制圧されたこともそうだが、捕虜も奪還され、虎の子だった試作兵器は防がれたばかりか逆に破壊され、残る戦力を投入したとしても《イクスキャリヴル》に対し勝算がない。もはやアルフレイン王国の要求をはねつけようと言う者はいなかった。

「外はお祭りみたいになってるわ」

 マリアが窓際へ寄って、外を眺めながら言った。

 捕虜と《イクスキャリヴル》の交換要求は予想されていた通り、救出作戦実行の三日前ぐらいにアンジアから公表されていた。

 それからざわついていたものの、《イクスキャリヴル》がシュライフナールでアジールへ向け発進すると共にアルフレイン王国は捕虜救出作戦の実行と開始を発表した。その際、先の戦いで国を救った新型機の名称が《イクスキャリヴル》であること、騎手がアルザード・エン・ラグナ上級正騎士であること、今回の救出作戦にも参加していることも公開されたそうだ。

 作戦成功は既に伝えられ、生存者の名簿も病院での確認が終わり次第公開されるらしい。

 今、王都は救出成功とアンジア降伏の報によって再びお祭り騒ぎになっているようだ。

「体が動かせるようになったら凱旋しろってお達しも来てるわよ」

「凱旋か……」

 マリアの言葉に、アルザードは苦笑いを返した。

 実績が実績だけに、いずれそういうことをさせられるのではないかとは思っていたが、現実にやれと言われると何とも微妙な気分だった。名誉なことであるのは間違いないのだが、自己顕示欲の薄いアルザードの気質的にはあまりそういったものには気が乗らないのである。

「しかし王もしたたかだね」

 ベッド脇に椅子を出して腰を下ろし、エクターが呟いた。

「ちゃっかり僕らの所有権を確保している。凱旋の話も、王族の力が健在だってアピールも含んでいるはずだ」

 実際、アルトリウス王はやり手だ。手腕もさることながら、先見性もある。

 三ヵ国連合に攻め込まれたことで一時は批判もあったが、その裏では《イクスキャリヴル》の開発計画に許可を出し、予算を多く割くよう指示を出していたのだとか。

 いつか立地や国力などの関係からアルフレイン王国が他国から侵略を受けるだろうという危惧を以前から抱いており、単なる魔動機兵戦力の拡充だけではない抜本的な対抗策を模索していたそうだ。プリズマドライブや魔動機兵の実用化に際し、エクターとモーガンとの経緯も知り、それから暫くしてエクターの提案した《イクスキャリヴル》開発に繋がる研究を強く推したのはアルトリウス王だったらしい。

「我らが王は優秀だよ」

 アルザードは王の従兄妹であるマリアを通じて、ある程度の人となりは知っている。幼い頃、まだ王を継ぐ前の彼に遊んでもらったことさえあった。

 驕らず聡明で、しかし冷徹に打算や腹の探りあいもできる優秀な人物だ。当代の王として申し分ない。

 《イクスキャリヴル》の運用費を王家が六割負担するという先の会議での話も、エクターを中心とする《イクスキャリヴル》関連の人材や部隊の所有権を王家として主張できるようにしておこうという意図もある。単純に国防戦力やカードとして重要だから今回限りで捨てるには惜しい、という話だけではない。

 《イクスキャリヴル》の運用に関して王家と、騎士団や内政の意向が異なった際、予算を多く割いている王家の影響力の方が強くなる。

 国防だけでなく、王家の剣としても《イクスキャリヴル》はその存在感を発揮できるようになるのだ。

 今は王家と国政が同じ方向を向いているからさほど気にすることではないが、今後その関係に変化があった時にその影響は出てくるだろう。もっとも、そういった変化を抑制する意図も含んでいるのかもしれない。王家と政府、騎士団が良い方向に影響し合って欲しいものだ。

「それで、《イクスキャリヴル》は?」

「本体の方はまた全面的にメンテナンスが必要で、シュライフナールはほとんど作り直しってところかな」

 アルザードの疑問に、エクターは掻い摘んで要点を告げていく。

 《イクスキャリヴル》本体は外見上の損傷は皆無だが、関節や魔力回路には負荷による影響が出ており修理や交換を要する。オーロラルドライブも炉心内の洗浄と魔素補充、高濃度エーテルの循環システムの見直しと最適化調整を行うらしい。

 シュライフナールの方はと言うと、補助プリズマドライブは結晶粉砕により修理不可、マナストリーム発生器もアンジアの試作兵器を防ぐ際に過剰出力展開となったことで劣化と損傷が著しく、修理するよりも作り直した方が早いだろうとのことだった。

「その代わり、貴重な良いデータが採れた」

 修理費は膨らんでいるだろうに、エクターは嬉しそうだ。

「マナストリーム同士の激突とそれに打ち勝った実戦データなんて早々採れるもんじゃない」

 エクター曰く、マナストリームそのものの発想は現在の兵器開発者たちの中にもあったようだが、それを実用化するためのハードルはかなり高かった。触れた物質を自壊させるという魔術命令を与えた魔素の奔流を放つ、という字面だけでも驚異的なのだが、技術的な部分で着目するべきは、発射装置そのものを自壊させずにマナストリームを生成し放たなければならない点だ。

 マナストリームを生成した時点で発射装置が自壊してしまえば発射も何もあったものではない。その場で収束させたエネルギーの発散が始まって周囲のものを自壊させて終わる。

 エクターはアルザードとオーロラルドライブによる莫大な魔力制御性能によって、機構から魔素が外に放出されるその瞬間に自壊魔術を一気に施すという手法を開発した。

 初出撃の際にライフルが自壊してしまったのは、銃口内部のライフリング部分に螺旋状に配置していた回路と魔術式に対し、アルザードが流した魔力量が大き過ぎたのが原因だった。自壊魔術を与えられマナストリーム化した魔素が想定を上回る魔力出力によってエネルギーを増して膨張し、銃口内にも触れてしまったのだ。アルザードとオーロラルドライブによる魔力供給が多過ぎたことで、回路と魔術式は放射が終わるまでは存在できたものの、魔力供給が途切れた瞬間に自壊したのだった。

「あの時の出力記録は君の魔力適性のデータにもなるから、調整と改良が捗るぞ」

「あんな経験は出来ればもうしたくはないな」

 上機嫌なエクターを見て、アルザードは苦笑した。

 光に呑まれそうになる感覚は思い返してみれば恐ろしい。ただただ純粋に、全てを呑み込んで掻き消そうとする力の塊は、搭乗者の殺気のようなものを感じる魔動機兵の武装類とは隔絶した恐怖感があった。

 それを自分は剣や槍として振り回していたわけでもあるのだが、そこには騎手であるアルザードの意思が乗っていると思いたい。

「少し気になるのはアンジアがマナストリームを実用化していた点だ」

 エクターは顎に手を当てるようにして視線を外し、考え込む仕草を見せた。

 《イクスキャリヴル》が試作兵器を破壊していた際の映像やデータを見ていたエクターは、ある程度その構造を把握したようだが、アンジアがそれを開発していたことが気になったようだ。

「兵器としては大雑把なものではあったと思うが、アンジア単独であれを開発するにはもう少し時間がかかりそうなものだが……」

 確かに、アンジアは魔術的な武装よりも実体的、物理的な武装を好んでいる。物量や物資に任せて重武装化の傾向があったわけだが、言われてみればマナストリーム武装はアンジアの気質とは少しズレているような気もする。

 エクターが見た限りでは、アンジアの試作砲塔は攻城兵器のようなもので、複数のプリズマドライブから送り込んだ魔力で炉心内に流した魔素を充填圧縮していき、大口径の砲口内部の回路と魔術式により、そこを通る魔素に自壊魔術を施してマナストリームにする、という構造のようだ。

 理屈としては《イクスキャリヴル》が初出撃の際に使ったライフルをオーロラルドライブに頼らず使えるようにしたものといったところか。

「運用のし難さを考えたら欠陥品だと思うけど」

「《イクスキャリヴル》にも言えないか、それ」

「いやいや、方向性が違うよ」

 エクターの呟きに突っ込みを入れたら、彼は笑って否定した。

 魔動機兵の武装としては運用できない大型兵器となってしまったことで、取り回しが悪く、見晴らしの良い場所では狙っているのが丸見えになってしまう。ほぼ固定砲台のようなものであるため、可動式や移動式の台座部分などを用いて移動や旋回などを行わなければならず、狙いをつけて発射するまでの手間も多い。

 対して、《イクスキャリヴル》は機動性と性能の高さから運用にコストはかかるものの、こと実用性に関しては最高峰だとエクターは力説する。

「それで、あの話はどうするの?」

 熱弁を振るうエクターを制して、マリアが言った。

「あの話?」

「ああ、そうだった、その話もあったんだ」

 アルザードがマリアに聞き返すと、エクターはうっかりしていたとばかりに頭を掻いた。

「《イクスキャリヴル》を中心とした特殊部隊を創設せよってお達しがあったんだ」

「特殊部隊……?」

「《イクスキャリヴル》と連携して戦闘をバックアップする専用の部隊ってことらしいわ」

 マリアが補足してくれたが、単体での性能が突出している《イクスキャリヴル》にとって、専用の部隊というのがあまりピンとこない。

「エクターに何か考えはあるのか?」

「何も《イクスキャリヴル》並の高性能機で部隊を組むって話じゃないよ。今のアルフレイン王国じゃそんなことしたら破産しちゃうからね」

 アルザードの考えを先読みして、エクターは笑った。

「要するに、《イクスキャリヴル》の支援に特化した部隊を編成するってことさ。大丈夫、考えはある。ただ、人選をどうするかが問題なのさ」

 中核となる《イクスキャリヴル》の騎手であるアルザードの見解も欲しいのだという。

 そこから先は会議のような話となっていった。

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