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アウトサイドエピソード 三獣士 「狙躍の狡兎」 2

 アウトサイドエピソード 三獣士 「狙躍の狡兎」 2

 

 

 結果から言えば、任務は成功した。 

 王都アルフレアから西へ向かう街道沿いの崖上で持ち込んだ爆薬を使用し、やや広い範囲で土砂崩れを起こした。完全に通行不能とは行かないが、大勢が避難するため通るには困難な程度には街道が潰せただろう。

 まだベルナリアが陥落したという様子はなく、タイミングとしても間に合ったと言える。

 とはいえ、このまま来た道を引き返すのでは王都での決戦には参加できないだろう。

 街道を潰した後、王都から西北西の森の中でレイヴィは野営をしつつ偵察に行かせた部下を待っていた。

 部下を王都に潜入させ、情勢がどうなっているのかを探らせているのだ。

 ここまで辿り着く道中では、隠密移動を優先していたため、ベルナリアでの戦況がどうなっているのかは全く把握できていない。

「隊長はどうするおつもりで?」

 夕食の準備を進めながら、部下がそんなことを聞いてきた。

「タイミング次第だね」

 レイヴィは曖昧に答える。

 ノルキモの制服の胸元を開き、谷間を見せ付けるように緩める。さほど大きいとは言えないが、下着や衣服を身に着ければ見れないほどではないだろう。

 まだ若い部下の視線がそこに向いたことに少し満足しつつ、出された食事の器を受け取った。

「祭りに参加できないってのは、悔しいだろう?」

 脚を組んで、食事を口に運びながら言った。

「……祭り、ですか」

 部下にはピンと来なかったらしい。若く、能力はある方だがまだ実戦経験は少なく、手柄らしい手柄も得たことがない。

「ベルナリアの抵抗は激しいが、そう長く続くとは思えない。そこが突破できれば次は王都攻めに移るだろ?」

 そう言ってやると、部下の表情が変わった。

「我々も参加する、と?」

「そこがタイミング次第だってこと」

 王都に三ヵ国連合が迫っているなら、レイヴィたちも攻撃に参加する目はある。だが、こんな隠密工作任務を終えた状態で、パフォーマンスが最大ではない魔動機兵部隊のみで王都に攻め込むというのは自殺行為だ。

 攻めるなら、三ヵ国連合の本隊が王都に侵攻するのと同時ぐらいが丁度いい。アルフレイン王国からすれば挟み撃ちされた状態になるだろうし、敵が来ると想定していた東ではなく、避難のための逃走を考えていた西側から攻撃されれば混乱もするだろう。

 本隊への牽制にもる上、レイヴィたちも戦闘に参加できる。

 むしろ、三ヵ国連合の大部隊による王都侵攻作戦に参加できないというのは中々に悔しい。

 重要な任務があり、それを達成したとはいえ、道中の退屈さと精神の磨り減り具合を考えると、王都襲撃はストレス発散に最適ではなかろうか。

 あまりにも娯楽がなく暇だったので、こうして休憩や食事のタイミングが重なった部下をつまみ食いして気を紛らわせるしかなかった。一通り全員と寝てはみたものの、それで完全に気が晴れるということもなかったが。

「しかし、機体は万全ではありませんよ」

 目線はレイヴィの胸に行っているが、部下の言うことも間違ってはいない。

 敵戦力がベルナリアに集中していることもあって戦闘を避けてここまで来れたが、現地で行える整備だけでは完璧とは言いがたい。

 それに、王都に攻め入るとなれば精鋭と名高い近衛が混じってくる。

 レイヴィとて、近衛と正面から遣り合うのは避けたい。

「だからって、このままただ帰るのも面白くないだろう?」

 誘うような表情をして言うと、年若い部下は淡い期待感を持った目でこちらを見てくる。

 王都を探らせている部下が戻ってくるまでにはまだ時間がかかるだろうし、周囲を警戒している他の部下たちとの交代までもまだ暫くある。

 食後の運動とばかりに、そのまま野営用テントの中に部下を連れ込んだ。

 

 王都に向かわせた部下が戻ってきたのはその翌日だった。

 ベルナリアの戦況が芳しくない、というのは分かり切った話だが、いよいよ決壊しそうだという噂が流れ始めているとのこと。部下が潜入調査を切り上げようとしたタイミングで、王都の国民全体に避難勧告が出たらしい。

 つまるところ、レイヴィたちの工作任務も時間ギリギリだったようだ。これ以上到達が遅かったならば、避難が始まってしまい、工作地点への警戒が強まっていたはずだ。

 王都まで本隊が辿り着く前にレイヴィたちが見つかってしまえば、まず勝ち目はない。

 いくら《ダンシングラビット》と渾名され名が知られているレイヴィでも、近衛部隊と正面から戦闘はしたくない。魔動機兵の性能もさることながら、近衛一人ひとりの戦闘練度は相当なものだ。今回の作戦でレイヴィが引き連れてきた部下たちと《ノルス》ではまず勝機がない。

 地形的にも、アルフレイン王国領では相手に分がある。

 だが、それは普通に戦うのであれば、の話だ。

「タイミングとしては悪くないね」

 部下たちを集め、報告を聞いたレイヴィは口元に笑みを浮かべる。

 ベルナリアが突破できたとなれば、三ヵ国連合も畳み掛けるため直ぐに王都へと進軍するだろう。どの国もベルナリアへの攻撃とは別に、王都侵攻用に戦力はいくらか温存しているはずだ。前回出撃した部隊を整備し、控えに回すなどローテーションを組み、常に一定数の戦力は確保しているのだ。

 もっとも、それは王都に侵攻する時に直ぐ動けるように、というだけでなく他の二国が裏切った場合も想定してのものでもあるのだが。

「結界の境界線ギリギリまで移動し、待機。消えたら頃合を見計らって王都に侵攻しようじゃないか」

 レイヴィは部下たちを見回して言い放った。

 このまま大人しく帰るのは安全かもしれないが、面白くない。魔動機兵での戦果を挙げたい者もいるだろう。

 何より、王都に攻撃を仕掛けるという機会などこの先二度とあるか分からない。

 王都を蹂躙してみたい。それがレイヴィの本音だった。

「近衛と正面から遣り合うと?」

 部下の一人が不安そうに口にした。

「大丈夫、勝算はある」

 レイヴィは再び笑った。

「王都内での戦闘になれば、奴らは迂闊に銃が使えなくなる。何故だか分かる?」

 その一言で、部下たちには通じたようだった。

 王都内部に侵入しての戦闘となれば、都市戦闘となる。それも、まだ住民がいる状態で。

 何せ、レイヴィたちの工作によって西方の街道は潰されているのだ。避難が始まったとして、通り抜けられるのはごく一部だろう。大勢のアルフレイン王国民は王都に残ったまま、ということになる。

 王都を守る盾たる近衛が、住民の残っている市街地を無視して戦闘はできまい。結果的に、周りの地形そのものを人質に取った形で近衛と相対することができる。そうなれば、練度や機体性能で劣るレイヴィの部下たちにも戦いようがあるというものだ。

「私が王都の外から一人ずつ仕留めていくから、皆には囮として近衛を引き摺り出して足止めして欲しいのさ」

 作戦としては単純だ。

 王都そのものを盾にして、近衛を翻弄する。その間に、レイヴィの狙撃で確実に一つずつ始末していく。

 多少劣勢になったところで、そう間を置かずに三ヵ国連合の本隊が王都に辿り着くだろう。そうなれば、近衛もレイヴィたちだけを相手にしていられなくなる。

 上手く行けば、王都へ三ヵ国連合が攻撃する際、アルフレイン王国の抵抗準備を阻害し、牽制行動をしたという功績も手に入る。いっそ、そのまま王都を蹂躙しながら東へ抜けて本隊に合流してしまってもいい。

 王都での戦闘が始まれば、勝敗は決したようなものだ。

 三ヵ国連合がベルナリアを突破し、王都に辿り着くまでの時間を大雑把に逆算する。王都領域への侵入を感知、魔力通信を遮断する広域結界の消滅が確認されたら行動開始だ。

 連合軍本隊が王都に到達する少し前に、レイヴィたちの部隊は西方から侵入、無差別に攻撃を仕掛けて近衛部隊を引き付ける。

 レイヴィは王都に面した北西の山中まで迷彩外套を纏ったまま隠密に移動しておき、部下たちの王都侵入後、近衛を狙撃していく。

 作戦が決まった後は機体の整備を入念にしつつ、結界が確認できる位置で息を潜めてその時を待った。

 途中、王都の民の避難経路を確認するために何機かの魔動機兵が付近を通ったが、街道沿いからは距離を置いて木々の中に紛れるようにしていたこと、機体を完全に停止させて様子を窺うだけにしていたことなどから気付かれることはなかった。

 王都に引き返していく《アルフ・ベル》が、出て来た時よりも慌てているように見えたのは気のせいではあるまい。街道が土砂崩れで潰れていることを確認して、焦っている姿が想像できてレイヴィはほくそ笑んだ。

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