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第八章 「タイムリミット」 2

 第八章 「タイムリミット」 2

 

 

 その日行われたのは、新型機の頭部センサー類の稼動試験だった。

 動力炉が届く前ということもあり、今回も《アルフ・ベル》のプリズマドライブを無理矢理接続する形になっている。

 しかし、今回はいつもとは見て分かるほどに様相が違っていた。

 格納庫の中央に置かれているのは新型機の胴体部分で、肩口から両腕がない腰から上といった状態だ。ただし、装甲はまだ取り付けられておらず、操縦席を覆うフレームと、内部機械が剥き出しの頭部が繋がっているに過ぎない。背面側は新型の動力炉がないため、その部分がぽっかりと空いている。その背の内側からいくつものケーブルやコードが延びて、隣にある《アルフ・ベル》の胴体背面、即ちプリズマドライブに繋げられている。

「操縦席自体も、既存の魔動機兵とは設計がやや異なる。今回は実際に機体を動かすわけではないが、センサー類は操縦席とはセットだからね」

 エクターが機材をいじりながら、説明してくれた。

 装甲取り付け前のフレームだけを見ても、新型は既存の魔動機兵より一回りは大きい。同時に、これまで見てきた手足の長さや太さも鑑みれば、人間に限りなく近いスタイルになるようだ。

「本当はこの機体に乗る時には専用の騎手服があるんだが、まだ仕上がっていなくてね。そっちのテストも動力炉が届いてからかな」

「専用の、服?」

 隣で機材の準備を進めるエクターに、アルザードは首を傾げる。

「性能が性能だからね。騎手への負荷を減らしたり、魔力伝導率を高めたり、いくつかの目的や理由があるんだよ。ヘルムに関してはセンサー類とも関係があるから、調整中のものではあるけど操縦席に用意してもらってある」

 促されて、アルザードは新型の胴体の前へと向かう。

 胸部上面、首の付け根の辺りに操縦席への入り口があった。ハッチはまだ取り付けられる前のようだ。

 操縦席は既存の魔動機兵よりも僅かに広く感じられる。機体自体が少し大型化しているからだろうか。スクリーンパネルの面積も広く、足元と真上のハッチ部分以外はほぼスクリーンになっているようだ。

 シートの首元に、エクターの言っていたヘルムがあった。バイザーを下ろすと鼻先までの顔前面を覆うような形になる。開発途中なのもあってか、装甲で覆われておらず内部の魔力回路が剥き出しになっている場所もある。首の裏側辺りにコードやケーブルが繋がっており、操縦席の裏に接続されていた。

「よし、ではまずセンサー類の接続確認だ」

「これを被ればいいのか?」

 エクターの言葉に、アルザードは操縦席に腰を下ろし、ヘルムを被った。バイザーを上げたままだと、ただ兜を被って操縦席に座っているのと何ら変わらない。

 操縦席自体もまだ開発や調整が終わっていないようで、ヒルトは《アルフ・ベル》のものと同じだった。もしかすると《アルフ・ベル》のプリズマドライブを使うのだから、一時的に移植しているだけかもしれない。

 ヒルトを握り、慎重に魔力を込めて《アルフ・ベル》のプリズマドライブを稼動させる。

 スクリーンパネルに光が灯り、頭部の視覚センサーに映る光景が投影され始める。

「凄いな、視界が広い」

 スクリーンパネルの面積自体が従来の魔動機兵よりも大きいため、操縦席から見える範囲も広い。頭部のセンサー自体も性能が良いのだろう、スクリーンに投影されている映像も従来のものより精細だ。

「センサーのレンズにも魔素含有率の高いクリスタル素材を使っているし、レンズを通して景色を捉えるセンサー底部の魔術回路やそれを施すプレートも拘ったからね」

 エクターはアルザードの感想を聞いて嬉しそうに答えた。

 魔動機兵の頭部センサーは、レンズ部を通してセンサー底部に映った景色を魔術回路を用いて操縦席のスクリーンパネルに補正をかけて転写するという構造になっている。

「レンズ部分は多重構造にしてあるから、魔力を送ってやれば拡大縮小もできるはずだ」

 それを聞いて、アルザードは機材の前に立つエクターに意識を向け、そちらを見ようと魔力を込めてみた。その直後、正面スクリーンパネルの映像が拡大され、こちらを見るエクターの姿が大きく表示された。

「本当だ……けど、加減が難しいな」

 思っていたよりも拡大率が高い。元に戻るように力を抜くと、視界は最初の倍率に戻ったが、狙った場所を狙った拡大率で見ようとするには慣れが必要かもしれない。

「ヒルトもドライブも《アルフ・ベル》のものを無理矢理使っているから、その辺りの加減も今は参考にできないだろうね。本来想定する出力ではないから、画質も粗いはずだ」

 苦笑気味にエクターは言った。

 新型のドライブが届いて、機体への組み込みをした後でなければ細かい調整はできないようだ。今回は機能自体が魔力を送ることで動作するかどうかを見る部分が強いのだろう。

 エクターのことだから今回のデータで使えそうなものは調整に反映させていくのだろうが。

「これで粗いのか……?」

 《アルフ・ベル》のプリズマドライブでさえ、これまで搭乗したことのある魔動機兵よりも映像が精細に見える。《アルフ・ベル》や《アルフ・セル》などは、センサーで捉えた景色の細部は多少簡略化、つまり映像の質や反映速度を落としたりすることで魔力の節約や魔術回路への処理負荷軽減を図っているものだが、新型はそうではないらしい。

「では、次はヘルムを試そう。バイザーを下ろしてみてくれ」

 促されてヘルムのバイザーを下ろす。視界が覆われるのかと思いきや、バイザーの内側がスクリーンとなって頭部センサーからの映像が映し出された。

「これは……?」

「頭部連動型のバイザースクリーンだ。頭を動かせばそれに連動して機体の頭部も動くようになっている」

 言われて、頭を横に向けてみれば、当然のように側面の映像がバイザーのスクリーンに映る。目線までは追跡しないようだが、頭の向きや角度がそれなりに反映された視界になっている。

 外からは機体の頭がアルザードの動きに合わせて動いているのが見えるのだろうか。

「確かに凄いが……これはどういう意図のものなんだ?」

 機体と自分の視界を共有しているような不思議な感覚はある。頭の角度なども機体の関節構造が許す限りは反映されるようだし、機体との一体感という意味では凄いと感じられる。

 だが、実用性の面ではどうなのだろう。これでは操縦席外周のスクリーンパネルが見えない。

「操縦席の構造上、スクリーンパネルのない部分が死角になるだろう? それを補うというのが目的の一つ」

 確かに、構造上スクリーンパネルのない部分に景色は映らない。真上や真下、背面方向をある程度カバーするのには有効かもしれない。

「もう一つは、スクリーンパネルとは別に情報表示ができる」

 機体の警告表示や敵味方の識別などは、スクリーンパネルの面積を奪い、視界を狭めることもある。スクリーンパネルか、バイザースクリーンか、どちらかを常に外の映像のみに絞ることができるというのは確かに利点と言えるかもしれない。

「だとしたら、両方見えないと意味がないんじゃないか?」

 バイザー側も、操縦席側も、どちらもスクリーンとして機能していてこそ意味がある話ではないだろうか。バイザースクリーンを使う時は視界がそれだけになってしまうのでは、バイザーを上げ下げする手間がかかる。

「そう、だから調整中なんだ。バイザーを下ろしていても、パネルの方も見れるようにならないか、ヘルムをいじってもらっているところなんだよ」

「それはまた難易度が高そうだな……」

 当然のことのように、エクターはアルザードが思い付くようなことは考慮しているようだ。簡単なことように聞こえるが、実際の技術面では難しいことが多いはずだ。

 このヘルムも、バイザーへの映像投射用以外にも魔術回路が無数に刻まれていて、騎手の頭の動きを機体の頭部に連動させているのだろう。

 技術的には凄いものが多数使用されているのだろうが、専門家ではない騎手のアルザードには実用的かどうかでしか判断ができない。

「後は、機体との一体感を高める、というのも目的ではあるが」

 エクターがぽつりと呟いた。

 確かに、自分の手足や身体と同じように機体を動かせたら、と思うことはある。

 エクターが言うように、魔動機兵というのは完成されたシステムだ。基礎部分を画一的な構造にし、動作もある程度共通のものに絞り込むことでプリズマドライブを動かせるだけの魔力を持つ者ならば一定以上の水準で操ることができるよう造られている。

 動作の一つ一つは人間を遥かに超えた性能や出力を発揮するが、それが自分の思い通りに動いているか、というのはまた別問題だ。

「よし、機能自体には問題なさそうだ。プリズマドライブが悲鳴を上げる前に切り上げよう」

 アルザードは加減しているつもりだったが、センサーやスクリーン、頭部へ送られる魔力量は思いのほか多かったようだ。無理矢理繋げられたプリズマドライブの負荷値を見たエクターが指示を出し、試験は終了となった。

 操縦席から降りて、アルザードは新型を見上げる。

 エクターによる設計や計算がかなりの精度を誇っているのだろう、試験や開発の経過は順調に感じられる。だが、その進行は決して早いとは言えない。

 形は見えてきていても、完成には程遠いのが現実だった。

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