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第一章 「炎熱の最前線」 2

 第一章 「炎熱の最前線」 2

 

 

 銃声と、着弾の破砕音が断続的に聞こえてくる。

 《ノルス》は《バルジス》系列の機体とは違って、軽量型の機体だ。装甲を薄くすることで重量を減らし、機動力を重視した機体となっている。そのため、機体のシルエットは標準的な魔動機兵に比べて幾分か細くスマートだ。

 ギルジアの乗る《アルフ・セル》が見えた。

 大通りを後ろに下がりながら右手で突撃銃を腰だめに連射し、左手の盾で胴体を守っている。それに迫る《ノルス》は盾で前面を庇いながら短銃を断続的に撃っている。左右へ不規則に機体を振りながら、距離を詰めていく。短銃をまともに当てる気はなく、牽制に使ってギルジアに盾を使わせ、射撃精度を下げているのだ。短銃も近距離で胴体に直撃すれば致命傷になり得る。牽制だと分かっていてもギルジアは防御しなければならない。

 距離を詰めたところで、《ノルス》は短銃を背面の武装ラックにしまい、盾の内側にしまわれていた短剣を抜き放つ。近接戦闘に持ち込むつもりのようだ。

「ギルジア!」

 呼びかけながら、アルザードは突撃銃で《ノルス》の足元を狙って射撃する。《ノルス》の向こう側にギルジアがいる以上、迂闊な射撃はできない。

 足に命中させられればその時点で終わりだったが、弾丸が地面に穴を穿つばかりだった。

 敵がアルザードの存在に気付いたのを見て取り、アルザードはヒルトを握る手の力を強める。

 突撃銃を腰の後ろの武装ラックに預け、背面ラックにある長剣に手を伸ばす。同時に、強く踏み込んだその一歩が大きく距離を詰めていた。ヒビ割れた地面が爆ぜるように、足元で土煙が舞い上がる。

 後退していたギルジアの機体も一転して前へと踏み込み、左手の盾を思い切り突き出す。

 予想していなかったであろう行動に、《ノルス》も咄嗟に盾でギルジア機のシールドバッシュを受け止めた。分厚い鋼同士が勢い良くぶつかり合い、重い金属音が響き渡る。

 二体の動きが止まった。

「今だ! やれ!」

 衝撃に硬直する《ノルス》へ、アルザードの《アルフ・セル》が長剣を叩き付けた。

 アサルトソードと呼ばれる魔動機兵用の剣は、肉厚で、切り裂くというよりは叩き潰すことに重きを置いた武器だ。アルザードの機体に装備されたものは通常のそれよりも一回り長く、厚く、重く出来ている。

 剣は弧を描くように、《ノルス》の胴体、頭部の直ぐ横へ命中した。装甲が拉げ、押し潰され、強引に断ち割られる。そのまま操縦席までをも強引に押し潰すように引き裂いて、もう少しで脇腹へ抜けるように両断するかというところで剣は止まった。

「相変わらずえげつねぇな」

 茶化すようなギルジアの声には、それでも安堵が滲んでいる。

 よく見れば、ギルジアの機体には弾痕がいくつか穿たれている。上手く装甲の厚いところや稼動に影響のない場所で受けることができたようで、戦闘を続けるのに支障はなさそうだ。

「動きを止めてくれたから当てやすかったよ」

 その場に崩れ落ちる《ノルス》から長剣を引き抜き、背面ラックに戻す。

「これで四機か……本命がまだいそうだな」

「囮か牽制、だと思うな」

 ギルジアの言葉に頷きながら、アルザードは周囲に視線を走らせる。

 今二人がいる広い通りの向こうに敵は見えない。

 だが、攻勢を仕掛けて来たにしては手応えが薄い。

 見つけた敵を倒し、一息ついた、そんな時だった。

「グリフレット接敵!」

 通信機に飛び込んできたのは、余裕の無い仲間の声だった。

「《フレイムゴート》がきやがった!」

 その言葉に、緊張が走る。

 アルザードはヒルトを握り締める。魔動機兵が走り出した。

「また厄介な野郎が……!」

 ギルジアのぼやく声を背に、アルザードはグリフレットのいる方へと機体を向ける。

「アルザードは回り込んで側面からグリフレット、サフィールの両名を援護、ギルジアはボルク、キディルスと合流し、敵から奪った装備で可能なら砲撃支援をしつつ周辺警戒。こいつらが今回の本命だろうが、伏兵への注意は怠るな!」

「了解!」

「了解!」

「了解!」

 隊長の低い声に、三人の返事が重なる。

 逸る気持ちを抑えながら、アルザードは魔動機兵を走らせる。その《アルフ・セル》を飛び越えて、ボルクとキディルスの砲撃が始まる。どうにか奪った榴弾砲は使えるようだ。先ほどの戦闘で敵も相当攻撃をしていた。残弾は少ないだろうが、これでいくらか敵が陣形でも崩してくれれば悪くない支援になる。

 建物の合間を縫って、砲弾が向かう方角へと急ぐ。

「砲撃は後二回で限界だ!」

 ボルクが残弾を告げる。

「なら最後の一回はとっておいてくれ!」

 戦場を視界に捉えた。

 緑色の装甲を持つ《バルジカス》に、赤い色でアクセントを加えた配色の機体が見えた。背面に大型のタンクを二つ搭載し、両脇に抱えた火炎放射器で周囲を薙ぎ払っている。肩に刻まれた山羊の頭を模したマーキングから付いた異名が《フレイムゴート》だ。

 通常の銃器や近接武器と違い、火炎放射器は瞬間的に致命傷を与え難いため、多用されない。だが、遮蔽物に身を隠していても炎や熱を完全に防ぐのは難しい。対峙する内部の機械や操縦している人間に、じわじわとダメージを蓄積させる。堪え切れなくなって迂闊に飛び出せば、直接焼かれるか、肩や腕に増設した銃火器で迎撃される。

 付き従う《バルジス》も中近距離仕様の装備で《フレイムゴート》を援護している。

「グリフレット、無事か?」

「アルか、なんとかな」

 アルザードが呼び掛けると、返事が戻ってきた。

 撒き散らされた炎は辺りの廃墟に燃え広がり、辺りを赤く染め上げている。もはや周囲に良く燃えるようなものはないが、火炎放射器から放たれる燃料は長時間炎を上げ続ける。辺りの気温が急上昇し、陽炎が大気を歪ませ、煙が視界を遮る。

 装甲も厚く、耐熱性能も専用に調整されている《フレイムゴート》の部隊ならではの強引な戦法と言わざるを得ないが、それでもその戦果は確かなものだ。

 《フレイムゴート》が引き連れているのは《バルジス》四機、やや離れたところで戦闘の音がすることから、まだ数がいる。

「隊長たちは向こうで六機の相手してる」

「上手く足止めされてるってことか」

 女性の声に、アルザードは渋い顔で答えた。

 いくら隊長と副隊長のコンビとはいえ、六機もの敵と正面から戦って勝てるとは思えない。嫌がらせや足止めのし合いになっているのが容易に想像できる。

「そう簡単にはやられないと思うが、流石にきついぜ、こりゃ」

「でも、やらないわけにもいかないだろ」

 グリフレットの言葉に、アルザードはそう返した。

「そうね……私たちには後が無いもの」

「ああ、悠長にもしていられない。やるぞ、グリフレット、サフィール」

 アルザードは言い、魔動機兵を加速させる。

「ボルク、キディルス、最後の一発、頼む!」

「あいよ、当たってくれるなよ!」

 通信回線に叫ぶように言い、アルザードは返事を聞きながら敵部隊の側面へと突撃する。

 突撃銃を乱射してまずは牽制を行う。五機全てがアルザードの存在に気付く。

 すぐさま傍の建物の影へと機体を滑り込ませ、反撃から身を隠す。直後に砲撃が届く。さすがに、それ用に調整もしていない機体で奪ったばかりの武器で砲撃したのでは命中させるのは難しい。それでも、爆発と衝撃で巻き起こる土煙や爆煙が敵の視界を一瞬でも塞ぎ、警戒させる。

 火炎放射が煙を引き裂いてくるのを横目に、アルザードの機体が建物から躍り出る。

 仲間二人も別方向から銃撃しながら、敵部隊がいるやや開けた場所へと飛び出した。走りながら、アルザードへと意識の向いた《バルジス》へと射撃を集中させる。

「おっしゃ、まずは一機!」

 グリフレットの声と共に、一機の《バルジス》が倒れる。

 火炎放射がグリフレットの行く手を遮り、《バルジス》二体の攻撃が集中する。

「っとぉ!」

 咄嗟にグリフレットは腕で胴体を庇いながら後退する。

「このっ!」

 サフィール機が回り込みながら射撃を行うも、盾を装備した一機の《バルジス》が味方を守るように割り込んだ。

 そこへアルザードは左手に持たせた突撃銃を撃ちながら接近、右手を長剣へ伸ばす。

「アル! 左!」

 グリフレットの声で、制動をかける。目の前を数発の弾丸が通り過ぎて、その先の建物に穴を穿った。

 応戦射撃はサフィールが行い、アルザード機は直ぐにその場から離れる。

 振りまかれた炎により周囲の温度が上昇している。まだ装甲が溶け出す程ではないが、内部機器への負担は増している。

 直後に《フレイムゴート》の左肩のキャノン砲が火を噴くのが見えた。アルザードは咄嗟に飛び退いたものの、また距離を離された。

 盾を持ってサフィールの前に割り込んだ《バルジス》がアルザードへと銃撃を行う。盾はサフィールの方へ向けたままだ。

 向き合っていた敵から視線を逸らす。挑発とも取れるその誘いに、サフィールは乗らなかった。迂闊に接近せず、機体を回り込むように走らせてグリフレットのカバーに入る。

「くそっ、ボルクたちの支援を活かしきれなかった!」

 手近な建物の影に隠れて、アルザードは毒づいた。

「それでも一機は仕留めたんだ、マシな方だろ」

 同じように物陰に身を隠したグリフレットが息をつく。

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