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アウトサイドエピソード 三獣士 「強剣の刃狼」 1

 アウトサイドエピソード 三獣士 「強剣の刃狼」 1

 

 

 前線基地のブリーフィングルーム代わりのテントの中で、次の作戦が説明されていた。

 三ヵ国連合からの波状攻撃は続いているが、未だにベルナリアは突破できていない。三国それぞれが戦後のことを意識しているのか、同盟を組んでアルフレイン王国に攻撃を仕掛けてはいるが、足並みが揃っているわけではない。

 タイミングを合わせてそれぞれの目標を同時襲撃することはあったが、一つの攻略目標を前に三国はまだ共同戦線を張るという結論には至っていないのだ。

「で、アンジアの《フレイムゴート》の部隊が敗走した」

 前線指揮官の言葉に、それを聞いていた者のうちの誰かが小さく口笛を吹いた。

 指揮官は音のした方を僅かに睨みつけたが、直ぐに表情を戻して言葉を続ける。

「よって、次は我々セギマの番だ」

 共同戦線を張れば、物量で押し切ることができる確率は高い。

 それをしない、というのは、三国それぞれの思惑もあるが、状況的にアルフレイン王国に勝ち筋が無いというのも事実だからだ。アルフレイン王国はもはや防戦一方、というよりも打って出るだけの戦力が残されていないのが実情だ。三国がそれぞれ自分たちの戦力を温存、ないしアルフレイン王国陥落の功績を少しでも増やそうといった思惑で共闘していないこともあり、代わる代わる攻め入っているため王国の最終防衛ラインでもあるベルナリアへの攻撃頻度は高い。

 防衛にほとんどの戦力を割かなければ、ベルナリアの戦線が回らないのだ。

「次の作戦は、ウル、貴様を中心に据える」

 前線指揮官が鋭く細めた視線を向けてくる。

 やや後ろの方で腕を組んで黙って聞いていたウル・ウェンに視線が集まる。

「……具体的には?」

 眉根を僅かに寄せ、ウルは問いを返した。注目されるのは好きではない。

「貴様の戦闘能力を活かして、ベルナリアの突破を試みる」

 指揮官が壁に貼られた地図にピンを打ち、配置を示す。

「あの《フレイムゴート》がただで引き下がるとは思えん。それなりの消耗は与えられているはずだ。そこを突く」

 損耗の穴埋めが出来ていないと予測される間に、三国の中でも戦闘能力に頭一つ秀でたウルを前面に押し出してベルナリアを突破しよう、という作戦らしい。

 前線に配備されているセギマの部隊の多くを広く展開し、それらのほぼ全てを陽動として敵の戦力を引き付けさせる。戦線を広く延ばして薄くさせたところを狙い、ウルを中心とした精鋭部隊で一点突破を仕掛けるのだそうだ。

 聞いてしまえば単純な話ではあるが、広く部隊を展開するとなるとこちらのリスクもそれなりに大きい。セギマの戦力だけでそれをやろうとすると、前線配備されているもののほとんどを出すことになる。いくらアルフレイン王国が防戦一方とはいえ、さすがに無用心だ。

「今回の作戦については上も本気のようでな。陽動にはアンジアとノルスも参加する」

 指揮官の言葉に室内がざわついた。

 他国に協力要請をしたこともそうだが、それが受諾されてるのも驚くべきことだ。

「とはいえ、当然ながら全戦力というわけではない。アンジアからは前線配備戦力の一割、ノルスが二割だ。我々は七割を出す」

 前日に《フレイムゴート》を出撃させたアンジアは消耗を鑑みて一割、ノルスは次回の攻撃を見越して二割、といったところか。とはいえ、他国の攻撃の、しかも陽動役としての協力要請に応じたというのはこれまでのことを考えると異例ではある。

 中々落ちないベルナリアに、三国の上層部連中も業を煮やしつつあるということかもしれない。

 作戦成功の暁には何かしらの見返りは要求されているのだろうが、そうなると失敗した時が怖くもある。

 陣形の配置としては北部側にノルス、南部側にアンジアを交えて、ほぼ中央をウルの部隊に侵攻させるつもりのようだ。ウルの周辺に配備される部隊は突撃を援護するために使われる。

 ブリーフィングを終えてテントから出たウルの表情はあからさまに不機嫌なものだった。眉根には皺が寄っていて、目つきは鋭く、口の両端は下がっている。

「そんなに不服か」

 副隊長のダオグ・バワウが苦笑気味に声をかける。

「ただでさえ隊長なんぞ柄じゃないんだ。ああいう期待や頼られ方は好かん」

 要として期待をかけられる立場となるウルにとっては頭が痛い。

「そういうものに弱いわけでもあるまいに」

 ダオグが呆れたように笑う。

 期待をかけられたり、頼りにされたりすることでパフォーマンスが落ちることはない。だが、そういう重圧に強い弱いではなく、そういう類のものが感情的に嫌いだというだけだ。

「……指揮は任せるぞ」

「ああ、いつも通りだ。お前はただ目の前にいる奴を斬ればいい」

 幾分か気を落ち着けて、鼻を鳴らすように吐いた言葉へ、ダオグは薄い笑みを浮かべてウルの肩を叩いた。

 

 雨が降りしきる中、作戦開始を《グルム・ヘイグ》の操縦席で待つ。

 作戦と言っても、やることは単純明快だ。

 ウルは真っ直ぐ突き進んでベルナリアの防衛線を突破し、結界の破壊に向かえば良い。

 《グルム・ヘイグ》はセギマの主力機体《ヘイグ》の改良機でもある《ジ・ヘイグ》を専用にチューンした機体で、その性能は現行魔動機兵の最高水準と言われている《アルフ・カイン》にも並ぶとされている。《ヘイグ》自体、設計思想がアルフレイン王国の主力機体でもある《アルフ・アル》に近いバランスの取れたものになっているため、この系列の機体は汎用性が高い。

 《ヘイグ》には基礎設計の段階で、魔動機兵の生みの親とも言われるベクティアのモーガン・レファイが関わっているため、三ヵ国の中でも機体の総合的な質はセギマが最も上だ。

 中には、モーガンが関わったのは《ヘイグ》をベクティアの次期主力量産機を開発するための叩き台にするためだ、等と言う者いるようだが、その辺りの事情はウルにとってはどうでも良い。

 濃い灰色のカラーリングに、鋭角的な装甲のシルエット。背面のウェポンラックには片刃の専用アサルトソードを片側三本ずつ、合計六本装備し、腕部には炸薬弾を装填した小型のランチャー、腰部には閃光手榴弾を仕込んである。

 出撃の際には標準的な突撃銃と、予備の弾倉をいくつか搭載した小盾を持って行くのがいつものスタイルだ。

 今回の出撃では閃光手榴弾に特殊な魔術信号を発するよう手を加えたものが含まれており、作戦の成否に関わらず撤退の合図となっている。

 また、普段よりも単独での突出が予想されるため、背面ラックのアサルトソードを左右それぞれ一本ずつ追加し、腕部ランチャーにも追加弾倉が増設されている。

 機体重量が増加してはいるが、専用アサルトソードは元々が軽量なのと使い捨て前提の面もあるため、さほど問題はないだろう、というのが整備士長の言い分だ。

 今回のような作戦の場合、機動力を上げる追加装備などでもあれば良いのだが、そう簡単に開発できるようなものもない。それに、下手な追加装備は魔力消耗を早めるだけだ。

「よし、全機、準備はいいな?」

 ダオグからの通信が入ったのを合図に、機体へ魔力を通す。

 プリズマドライブが唸りを上げ、屈むような姿勢だった《グルム・ヘイグ》が立ち上がる。

「我々はベルナリアに突入次第、全速で突撃をかけるウル隊長を支援する。混戦、乱戦が予測される。同士討ちには注意しろ!」

「了解!」

 部下たちの返事を聞きながら、ウルは《グルム・ヘイグ》を歩き出させた。

「《フレイムゴート》は獅子隊と交戦したとの情報が入っていたな」

「獅子隊か……」

 アルフレイン王国でも名の知られた精鋭部隊だが、これまでに交戦したことはない。

 ベルナリアの防衛において一二を争うほど精強な部隊だと言う噂だ。

 腕が立つというのであればウルとしては是非とも戦ってみたいものだが、《フレイムゴート》を撃退したのが獅子隊だと言うなら無傷とはいかないだろう。《フレイムゴート》の襲撃から今回の作戦実行までの期間の短さを考えると、修理が間に合うかは微妙なところだ。相応に被害が出ているなら、まず今回は出撃できまい。

「《バーサーカー》ってのも確か獅子隊にいるんでしたっけ?」

 部下の一人が口を挟んだ。

 獅子隊を率いる《守護獅子》も有名だが、それと同程度に名前の挙がるのが《バーサーカー》と呼ばれる人物だ。

 その戦い方は《バーサーカー》と呼ぶに相応しいと、生き延びた者たちは言う。だが、《バーサーカー》と直接戦って生き延びた者は極端に少なく、獅子隊を含めた激戦を振り返って誇張されたものだと否定する者も多い。

「《バーサーカー》ねぇ……実在するもんなんですかね?」

 何せ、魔動機兵が魔動機兵を投げ飛ばしただの、小剣を振り回すように大剣を振るうだの、魔動機兵というものの常識を疑う話ばかりが飛び出してくるのだ。そんな戦い方をすれば《バーサーカー》自身の機体が持たないのもそうだが、そもそもそれだけの出力が発揮できるような魔力適性を持つ人間がいるのかが疑問だ。

「隊長に勝てる奴なんていませんよ」

 しかし、もしもそんな化け物じみた魔動機兵が存在するというのなら、戦ってみたい。

 戦争などくだらないことだとは思うが、魔動機兵とそれを使った戦いは、正直言って楽しいと感じる。機体の性能の違い、魔力適性の大小、それらに策や技量を合わせてぶつけ合い、勝敗を競う。

 結果的に命を失ったり、奪ってしまったりすることは仕方が無いことだ。だが、だからこそ、充実感があるとも言える。

「ベルナリアが見えてきたな……全員、気を引き締めろ!」

 雨空の中、廃都の姿が見えてくる。ダオグの号令に、部下たちも意識を切り替える。

 獅子隊は良く名前の挙がる部隊だが、後が無いアルフレイン王国の部隊はどこも必死で、手強い。これまでにベルナリアを突破できていないのがその証拠だ。獅子隊ではないからと、気を抜いていられるような相手ではない。

 情勢的にはアルフレイン王国を追い詰めているはずだが、未だに詰め切れずにいる。全戦力ではないにしろ、それぞれ思惑があるだろう三ヵ国が合同で作戦を展開をするのも、そろそろ痺れを切らし始めているということでもあるのだろう。

 セギマとしては今回の作戦でどうにか決着をつけたいところだろう。アンジアとノルスに協力を要請したことで、セギマは足元を見られる可能性もある。まだ王都への攻撃も控えているというのに、前線配備の七割を投入するというのもリスクは小さくない。それだけ今回の作戦を重要視しているということだ。

 あまり戦力を消耗し過ぎると王都への侵攻時にセギマだけ戦力が少なくなってしまい、三国内での発言力を弱めることにも繋がりかねない。かと言って、この状況で足踏みしていても、いずれアルフレイン王国にも限界は来るだろうが三国それぞれの消耗もまた増えてしまう。

 アンジアやノルスも同じようなことは考えているのだろうが、一番最初に協力を求めたところが下に見られるのを懸念して、他国が言い出すのを待っていた部分はあるだろう。

 国家の利益やしがらみ、政治など、つくづく面倒くさいことだ。

 ウルとしてはただ最前線で戦っていられるなら、それだけで良かった。

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