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第六章 「ザ・ワン」 3

 第六章 「ザ・ワン」 3

 

 

「一番、二番が接敵。敵影六。三番、四番の前方に重武装の敵影五」

 それから間を置いて、ほぼ同時にアルザードが接敵を伝える。

 一番、二番はレオスとテス、三番、四番はグリフレットとサフィールの位置付けだ。

 アルザードが《フレイムゴート》と戦った状況よりも、ギルバートは北寄りに位置している。東側への援護に向かわず、偵察機を早いタイミングで発見、撃破したためだ。

「六番は僕に追従、西へ向かいます」

 ギルバートは六番機を引き連れてそのまま真っ直ぐ西へと移動を始めた。

 そのまま重武装の五機の敵を三番、四番の味方と挟み撃ちするように動き、攻撃を始める。奇襲の形にできたこともあり、敵二機を素早く撃破した。

「六番機はこのままここで三番、四番と共に攻撃でお願いします」

 ギルバートは敵の数が減ったのを見て、更に西へと移動を開始した。

 一番機、二番機の援護に向かうつもりのようだ。《フレイムゴート》役の敵機は残っているものの、数自体は三対三の状況に持ち込めた。

 ギルバートが西側で一番機と二番機と交戦する六機の敵部隊を横から攻撃し、劣勢を立て直す。

 そこの敵の数が三機まで減ったところで敵全体に撤退を始めさせる。ギルバートは深追いはせず、撤退し始めた三機のうち一機を味方と連携して仕留め、シミュレーションは勝利条件達成での終了となった。

「どうしてあのような判断を?」

 格納庫前の第二休憩室に場所を移し、アルザードはギルバートに問う。

「防衛戦、とのことでしたので味方の損耗を極力抑えようと考えた結果です」

「だとしたら最初の砲撃部隊の援護に行かなかったのは何故だ?」

「囮だと考えたためです」

 アルザードの疑問に、ギルバートが答える。

「実戦を想定すると、魔動機兵の積載重量、つまり携行弾薬には限界がありますし、砲撃を行う部隊は拠点防衛には向いていても進軍や強襲には向いていないと思うのです。遠距離砲撃を行うための武器も弾薬も重量が嵩みますから、砲撃部隊だけであの場所を突破するとは思えません」

「なるほど、それで別働隊を警戒して北上したのか」

 アルザードの言葉にギルバートは頷いた。

「砲撃はどちらかと言えば支援や援護に向いていますから、それを利用する別の部隊がいるはずだと思ったんです」

 西側に敵の数が集中したことで、砲撃部隊は援護や支援が目的ではなく、そう思わせて意識や敵を引き付ける囮だと確信したようだ。

「中央付近から南下してきていた軽量機は囮が効いているか確認するためのものだと推測します。あわよくばそのまま防衛ラインを突破しようとしていた、というところかなと」

 偵察機役を早期に撃破したことで、ギルバートの立ち位置は重武装の敵部隊の背後に回り込みやすいものとなっていた。

「しかし驚いたな……完全に同じというわけではないが、あれは先日俺が戦った《フレイムゴート》の戦術だ」

 敵も味方も戦闘能力を完全に再現したわけではない。似たような状況にしただけで、攻略難易度は大幅に下がっていると言って良い。

 だが、ギルバートはこの状況に対して素早くかつ的確な判断が下せていたように思える。

「当時はどのように対処したのですか?」

「最初に接触した砲撃部隊の対処のため、東の援護に向かった。撃破後、バディを組んでいたギルジア……六番機が偵察機を発見、挟み撃ちにした。その後は三番、四番の援護に向かって《フレイムゴート》と戦った」

 アルザードは手短に説明する。

 ギルバートに比べてレオスの指揮が劣っているという話ではない。

 レオスも砲撃部隊が囮である可能性は当然考慮していただろう。ギルバートが言ったように、砲撃部隊の援護を受けて進攻してくる部隊を想定して、迎撃を優先したのだ。

「今回はたまたまだと思います。僕が敵ならこうするだろう、って読みが当たっただけではないかと」

 ギルバートは謙遜していたが、アルザードにはたまたまであっても《フレイムゴート》に近しい戦術を考えうる能力があるとしか思えなかった。

 戦闘のログを見る限り、ギルバート自身の技量に目立ったところはない。特筆して秀でているとは言い難い。無難にまとまっていて、基本に忠実、良く言えば堅実といった印象だ。一人で場を引っくり返すような能力があるとは言えない。

 もしかすると、指揮官や司令官には向いているかもしれない。

 ただ、アルザードが指導したとして彼自身の技量を向上させられるかはあまり自信がなかったが。


 それから二日後、アルザードはエクターに呼び出され格納庫に来ていた。

「早速君の仕事だ」

 相変わらずあまり寝ていないようだったが、エクターの口元には笑みが浮かんでおり、瞳も輝いているように見える。

 目の前にあるのは、魔動機兵の胴体部のフレームだ。各種データ採取のためであろう端末に繋がっているコードやケーブルは接続されているものの装甲や余計な部品も取り付けられておらず、操縦席と動力部だけが組み付けられただけのものが鎮座していた。

 だが、その動力部と思しき部分は通常の魔動機兵に用いるものよりも一回り以上大きい。三つの筒状のパーツが無理矢理突き立てられたような外観をしている。

「これは……?」

「新型に搭載予定の動力システムの試作品さ」

 アルザードが問うと、エクターは待ってましたと言わんばかりに説明を始めた。

「君の魔力が既存の機器では計測不能だというのは事前に知っていたからね。いきなり完成品に乗せられるわけがないだろう?」

 エクターは笑いながら言った。

 この新型の魔動機兵の能力は高ければ高いほど良い。しかし、ただ理論を突き詰めて高性能を目指せばいいという話でもない。この計画には、破格の性能を持った新型魔動機兵と、その性能を十二分に発揮できる騎手が必要不可欠だ。それはつまるところ、計り知れない魔力適正を持つ騎手が全力で振り回せる機体が必要ということでもある。

 エクターは自らの理論の実証も兼ねて、新型に使うことを想定した新しい動力システムの試作品を用意していたのだ。

 そして、それを搭載したこの実験装置でアルザードに動力システムを稼動させることで、すり合わせるべき問題点、改善点、改良の余地というものを見極めようと言うのだ。

「急ごしらえではあるけれどね、上手く行くようならこれをシェイプアップしたものを、そうでなければ今回のデータを基に設計を見直すことになる」

 エクターの目が動力システムの試作品に向けられる。

「とにかく君は思い切り魔力を込めてくれればいい。僕の考えたアレがどれだけ持つのか、どれほどのエネルギーを出力できるのか、どんな反応を示すのか、それらを確認する」

 胴体部フレームの隣には出力された魔力を流すことで発光するよう術式が施された大型の結晶灯が置かれている。結晶灯が光を放つことでエネルギーを発散させると同時に、その光の強さでエネルギー量も推し測れる。

 アルザードは頷いて、操縦席へと乗り込んだ。

 胴体フレームに《アルフ・セル》をそのまま使っているらしく、操縦席はアルザードにとっては慣れ親しんだものだ。必要なもの以外が付けられていないため、ハッチはおろかスクリーンすらついていない。

 それもそのはず、スクリーンも本来プリズマドライブから動力を得て機能しているものだ。今回の実験においてはシミュレータープログラムさえも余計なエネルギー消費先なのだろう。

「勝手が違ってやり辛いかもしれないが、始めてくれ!」

 エクターの声が聞こえた。

 理屈の上では莫大なエネルギー出力が得られるはずだが、実際にどんな反応が起こるかは未知数だ。エクターは自分の理論のみでしか設計できておらず、アルザードは精確なデータを提出できない。

 アルザードは大きく深呼吸をしてからヒルトに手を触れた。

 目を閉じ、《フレイムゴート》や《ブレードウルフ》と対峙した時のことを思い返す。本気で動かそうとすれば自壊してしまう《アルフ・セル》を壊さないように、機体が敵と戦ってくれるギリギリを見極めるような力の絞り方ではない。仲間が危機に陥った時の、思い切り力を込めた時の感覚を呼び覚ます。

 自壊することも厭わずに機体を突撃させた時の感覚、それさえも抑えていたものだ。先日のシミュレーターの時のような、徐々に勢いを増して行くような力の込め方はしない。自分に出来る限りのトップスピードで最大に持っていく。そして、アルザード自身が限界だと思うまで全力を込める。

 腹の底から絶叫するかのような、最大音量の声を吐き出すような、それを両手からヒルトを経て動力炉に送り込むように。

 鈴が鳴っているような、高く澄んだ音が響き渡り始めた。それは少しずつ大きさと高さを増して行く。

 一拍置いて、結晶灯が光を放ち始める。その輝きは強さを増し続け、格納庫内を眩く照らし出す。

「炉心エネルギー量が規定値を超過、炉心内エーテル濃度急落!」

「一番充填!」

 外から聞こえてくる作業員とエクターの声にも、アルザードは意識の集中を崩さない。エクターの指示があるまでは、アルザードは動力システムに魔力を送り続けなければならない。

 液体がぶちまけられたような音が聞こえた直後、バチン、と音がした。

「二番も開放!」

 エクターの指示の後、同じ音がした。

 もはや格納庫の中は光で満たされ、裸眼では何も見えない程になっていた。広い格納庫内に並べられた機材によって生じるはずの影さえ分からなくなるほど、強烈な白が満ちていた。

「三番も入れるんだ!」

 三度目の指示が飛び、また何かが弾けたような音がした。

「先生、このままでは!」

「構わない、最後まで続けるんだ!」

 ヴィヴィアンの声を遮るようにエクターが叫んだ。

 目をきつく閉じているはずなのに、視界は白く染まっている。

 全力疾走をしながら叫び声をあげ続けているかのようだ。全身を流れるありとあらゆるものを全て手のひらからヒルトに送り込んでいるようにさえ感じられる。

 鈴のような高く澄んだ動力の音が次第に荒々しさを含んだものになっていく。

 そして、ひときわ大きく、高く澄んだ破裂音が格納庫に響き渡った。

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