表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/60

アウトサイドエピソード 三獣士 「双炎の猛将」 3

 アウトサイドエピソード 三獣士 「双炎の猛将」 3

 

 

 咄嗟に、バフメドは機体を下がらせようとした。

 空中で突撃銃を投げ捨てた《アルフ・セル》が、大型のアサルトソードを両手で掴む。空中で上半身を捻り、振り被りながら着地した《アルフ・セル》の脚部装甲の一部が砕け散るのが見えた。それだけではない。着地姿勢になっていないのにも関わらず、その《アルフ・セル》は水平にアサルトソードを振り回した。

 回避は間に合ったが、左手に抱えていた火炎放射器を砕かれ、バフメドの背後を守っていた《バルジス》の背中にアサルトソードが叩き込まれる。

 更に一歩踏み込んで、アサルトソードが振るわれる。

 その姿はまさに《バーサーカー》と呼ぶに相応しかった。

 一体あの《アルフ・セル》の全身にはどれだけの負荷がかかっているのか。バフメドの目からも、関節が火花を散らし、動く度に装甲片が散っているのが見えた。

 後退しながらキャノン砲を撃つ。

 《バーサーカー》は肉厚のアサルトソードを目の前に突き立てて盾にしていた。アサルトソードが砕けたところへ、火炎放射器を向ける。

「ぬぐ……!」

 背面に弾丸が突き刺さった。《アルフ・セル》のいずれかの援護射撃だろうか。左側の燃料タンクが爆発し、左肩が吹き飛んだ。

 それでも、右手の火炎放射器はまだ使える。その銃口を《バーサーカー》に向ける。

 先ほどアサルトソードを背に受け、倒れていた《バルジス》が起き上がろうとしていた。だが、あろうことか《バーサーカー》はその《バルジス》の腕を掴み、強引に引き起こし、それをバフメド目掛けて投げ飛ばした。《バーサーカー》の右腕が千切れ、《バルジス》が宙を舞う。

 片手で重量型でもある《バルジス》を投げるなど、一体どれだけの出力があれば出来るというのか。

「馬鹿な!」

 部下を盾にされ、火炎放射を躊躇した。

 《バルジス》は目の前の地面に叩き付けられ、四肢があらぬ方向に曲がり、動かなくなった。右肩のキャノン砲を向ければ、《バーサーカー》は近くに落ちていた盾を投げつけてきていた。砲撃は投げられた盾に命中し、その方向を変えて吹き飛んでいく。その向こうで《バーサーカー》が立ち上がり、踏み込んでくるのが見えた。

 砲撃の硬直で一瞬動きが遅れてしまう。投げ飛ばされた《バルジス》の脇腹を踏み潰して、《バーサーカー》が飛び掛ってくる。

 残っている左手で、殴り掛かってきた。後退が間一髪で間に合い、《バーサーカー》の拳は右肩のキャノン砲を殴り付け歪ませるに留まった。

 《バーサーカー》の左膝が砕けた。倒れそうになった機体を、手首から先の無い左腕で支える。

 気付けば、部下の《バルジス》は一機も残っていなかった。《バーサーカー》に意識を取られている間に、他の《アルフ・セル》たちに仕留められていたようだ。

「く……撤退する!」

 全く気付けなかった。いや、《バーサーカー》の存在感と迫力に呑まれ、それ以外が見えなくなっていた。しかし、他に意識を向けていたら《バーサーカー》の攻撃から逃れられただろうか。自壊すら厭わぬなりふり構わぬ戦い方、鬼気迫るその荒々しさと、その中に感じられる確かな殺気に、恐怖さえ覚える。

 あれほど陣形を維持しろと言っていたバフメド自身でさえ、その余裕を失っていたのだ。否、自分の立ち位置を維持していたらやられていた。暴れ出した《バーサーカー》の攻撃性は通常の魔動機兵で防げるものではない。あれは正面から受け止めて良いものではなかった。

 いつの間にか、汗にまみれていた。

 増援として到着した二番隊の三機が撤退のための支援射撃を始める。それに紛れるようにして、バフメドは撤退行動に移る。

 《バーサーカー》を守るように《アルフ・セル》が割って入り、射撃戦に応じる。

 ほぼ無傷の《アルフ・セル》はいるものの、もう一機は片足に被弾しており、《バーサーカー》は見るからに戦える状態にはない。追撃はされないだろう。

 とはいえ、バフメドの機体も戦闘続行は困難だ。まともに使える武装がない今の状況で他の防衛部隊と遭遇すれば勝ち目はなく、単機で撤退するには《バルジカス・デュアルファイア》の足は遅い。支援可能な味方がいなければ撤退すらままならない。

「単機でこうも掻き回すか……」

 忌々しげに、バフメドは呟いた。

 そもそも、自らの行動で魔動機兵を損壊させるなど、並の人間に出来ることではない。

 バフメドもアンジアの中では魔力適性の高い方ではあるが、全力を込めて機体を動かしたところで普段の出力から五パーセントでも向上すれば良い方だ。一定以上の魔力適性があれば、ほぼ全ての者が同等程度の出力を発揮して動かせる。それ以上に魔力を込めたところで魔術回路に流せる魔力量には限界があり、多少の出力増加は見込めても劇的な変化は望めない。

 魔動機兵とは、そういう風に作られているもののはずだ。

 太さと強度が決まっている溝へ、一度に流せる水の量が決まっているのと同じだ。洪水のように、大量の水を一度に流せば川も決壊する。

 だが、だからと言って、現行の魔動機兵の魔術式の限界値以上に魔力を流せる人間がいるなどという話は三ヵ国連合でも聞いたことがない。《バーサーカー》の操縦者は一体どれほどの魔力適性を持っているというのか。

「まるで爆薬だな……」

 バフメドのような部隊連携を駆使して戦う者からすれば、厄介極まりない存在だ。

 想定した作戦、戦況を見ての指揮を、その突出した能力を持って強引に打ち壊してくる。

 正面からの撃ち合いであれば、今回の戦闘もそう簡単には撃ち負けるとは思っていなかった。

 しかし、結果はどうだ。

 暴れ始めた《バーサーカー》を止められたとは言えず、《バーサーカー》が動きを止めたのは自身の行動で機体が破損してしまったからでしかない。

 その爆発力自体は大したものだ。敵部隊もそれを上手く利用し、フォローし合えなくなった《バルジス》を的確に仕留めている。

 だが、それも自爆戦法のようなものであるのも事実。

 一度暴れ出してしまえば、《バーサーカー》は戦闘不能に陥るか、戦闘に支障をきたす損傷を自身で負うことになる。その瞬間だけは凄まじい戦闘力を発揮できても、後が続かないのは大きなデメリットだ。

 魔動機兵も無限にあるわけではないだろう。こんな状況に立たされているアルフレイン王国にとっても、《バーサーカー》が戦闘の度に自壊すれば響いてくるに違いない。

 とはいえ、もしも狙って《バーサーカー》をバフメドの一番隊にぶつけてきたのだとすれば、《守護獅子》にしてやられたと言うほかないだろう。

 バフメドの戦術は、被害を最小限に抑えつつ敵を倒すというセオリーに則った連携をする相手には効果的な面があるが、被害を度外視した《バーサーカー》のような相手には脆い。爆発力を持って陣形の突破を図る敵に対し、即効性のある決定打に欠けるバフメドの装備とは相性が悪いのだ。

 今まで、《バーサーカー》ほどの爆発力を持った魔動機兵はおらず、バフメドが撤退させられたのも燃焼材切れなど、相手の粘り勝ちというものばかりであった。

 ここまで手酷く《バルジカス・デュアルファイア》を破壊されたのはこの戦術を取り始めて以来かもしれない。専用に改造を施した特注品であるから、修理には相応に時間がかかるだろう。

「次に奴とぶつかったらどうするか、考えておかねばなるまい……」

 機体だけでなく、部下も多くを失った。

 だが、これで終わりではない。

 バフメドはまだ生きていて、戦争も終わったわけではないのだ。

 同じ敗北をしないためにはどうするべきか、考えをめぐらせながらバフメドは機体を走らせるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ