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アウトサイドエピソード 三獣士 「双炎の猛将」 1

 アウトサイドエピソード 三獣士 「双炎の猛将」 1

 

 

 専用にカスタマイズされた改良型《バルジカス》のスクリーンパネルにも廃都ベルナリアが見えてきた。

「状況は?」

 風の唸りのような魔動機兵の駆動音を背に、通信機へと厳つい顔をした男は呼びかけた。

「予定通り展開しています。別働隊も間もなくベルナリアに突入します」

 帰ってきた部下からの返事に一人小さく頷く。

 アルフレイン王国の最終防衛線とも言える廃都ベルナリアの防備は堅牢だ。王国を囲う三ヵ国連合による進攻をこれまで幾度と無く退け続けている。

 突如として開かれた戦端と、三方からの電撃的な進軍によりアルフレイン王国はその領土の多くを奪われることになった。

 だが、アルフレイン王国には良質なプリズマ鉱石の鉱脈が多くあり、そして技術力も低いわけではなかった。むしろ、魔動機兵の質は世界全体を見ても高水準にまとまっており、国としての気質からしても軍事組織の練度は高く、敵対する側としては厄介な存在であった。

 だからこそ、仕掛けた側も三ヵ国で連合を組んでいるのだが。

「全く、よくもここまで粘るものだ……」

 眉間に皺を寄せ、バフメド・バルフマンは鼻を鳴らした。

「未だにここを突破出来た部隊がいませんものね」

「ここしか残ってないってーのに良くやるよ」

「だからこそだろうよ」

 部下たちの軽口も言葉自体は呆れ気味なものだが、身をもって手強さを実感しているのもあって侮るような響きは一つもない。どちらかと言えば、手強さにうんざりしていると言うのが正しい。

 いいことだ、とバフメドは口元に笑みを浮かべる。敵を侮って良いことなど一つもない。

 北方のノルキモの連中はアルフレイン王国を時代遅れの蛮族だと言って憚らない。実際にバフメド自身が目にしたわけではないが、ノルキモが侵攻した地域はそれはもう凄惨なことになっていると聞く。

 一体どちらが蛮族なのか。

「よし、陽動部隊のベルナリア突入の後、順次進攻を開始する。お前ら、手筈通りにやれよ!」

「了解!」

 ベルナリアの領域に入る手前で一喝し、部下からの返事を聞きながら機体の歩みを一度止める。

 後ろからついて来ていた砲撃戦装備の《バルジス》二機と《バルジカス》一機が南側へと大きく進路を変えた。

「《ノルス》の調子はどうだ?」

「軽過ぎて耐久が不安ですね」

 バフメドの機体の後ろについた、軽装の魔動機兵に声をかける。

 本来はノルキモの正式採用機体として使われている魔動機兵だが、今回の作戦では偵察役として使うよう指示があった。

「すまんな、貧乏くじを引かせた」

 バフメドとしては慣れない機体を強制するのは避けたかったが、命令では仕方がない。

「いえ、基本は同じですから……しかし、利権絡みですかね、これ」

「だろうな……連中、もう勝った気でいるんだろうよ」

 部下の返答に、バフメドは渋い表情で言った。

 三ヵ国で連合を組んでいるとはいえ、完全に同調できているかと言えばそうでもないのが実情だ。

 アルフレイン王国は大陸全土を見ても強大な国家のうちの一つだ。三国それぞれが単独でまともに争えば勝ち目は無かっただろう。だからこそ三ヵ国で同盟を組んで戦争を仕掛けたのだが、合同部隊での戦闘はほとんど無いと言っていい。三国による波状攻撃や、多方面からの同時侵攻によってアルフレイン王国を追い詰めてきたのだ。

 王都アルフレアの東に位置するベルナリアは、立地的に避けては通れぬ場所にあった。

 ノルキモはアルフレイン王国の北方に位置するとはいえ、真北というわけではなく、どちらかと言えば北東と言うのが正しい。アンジアはアルフレイン王国からは真南であるものの、そのまま北上するには西方にあるユーフシルーネの存在も無視は出来ない。東方のセギマとの連携も考えるなら、ベルナリアを陥落させて東から攻めるべきだという話で纏まったのである。

 アルフレイン王国もそれを察してか、ベルナリアの後方に大規模結界を設置し、必死の抵抗を続けている。

 戦局が覆される可能性は限りなく低い。それは誰の目にも明らかで、だからこそ、三ヵ国それぞれの上にいる者たちは勝った後のことを考え始めている。

 三国合同部隊による一斉攻撃を渋って、各国それぞれが交互に部隊を送り込む形でいるのも、部隊に他国の機体を混じらせようとしているのも、勝利後を見越してのことなのだ。

 アルフレイン王国はそういった思惑によって首の皮一枚で繋がっていると言ってもいい。

「隊長、陽動部隊がベルナリアに侵入したようです」

「よし、我らも行くぞ。二番隊は北よりのラインを、三番隊は指定位置に着き次第、制圧砲撃を開始せよ。一番隊は陣形を維持してついてこい!」

 ヒルトを握り直し、バフメドは《バルジカス・デュアルファイア》を進ませた。

「了解!」

 部下たちも事前の作戦通りに分かれ、半壊した建物の跡が残るベルナリアへと突入していく。

 元は栄えていた都市だったベルナリアの領地内には未だに多くの建物が残っている。ほぼ全て半壊してはいるものの、魔動機兵の進行を阻むのには十分で、遠回りをさせられたり、射撃戦の際に障害物となったりしている。建物を壊しながら進むことも出来なくはないが、外部から攻める側がそれをすれば居場所を知らせるだけだ。

 それに、遮蔽物になるというのは敵にも言えることだ。

 そして、だからこそ《バルジカス・デュアルファイア》の装備する二つの火炎放射器が優位に働く。

 肩に刻んだ山羊の頭を模したマーキングもあって、バフメドとその機体は《フレイムゴート》と呼ばれるようになった。

「こちら三番隊、指定ポイントに到着。砲撃を開始します!」

 やがて、部下からの通信と共に砲撃音が聞こえてきた。

「さて、どう出る……?」

 この砲撃への対応の仕方で敵部隊の力量もある程度は推し量れるだろう。

 バフメドは速度を落とすことも、上げることもせずにそのまま進み続ける。

 砲撃音に銃声が混じり始め、戦闘が始まったのを知る。三番隊の近くにも部隊が展開していたか、砲撃から存在を察知して向かわせたかは分からないが、いずれにせよ砲撃を無視するという選択は取らなかったようだ。

「敵影は二の模様」

「砲撃継続。殲滅が無理なら後退しながら引き付けろ」

 部下に指示を飛ばしつつ、更に前進していく。

 三番隊が戦闘に突入したとなると敵部隊が展開するラインに近付いていることになる。《バルジカス・デュアルファイア》は装備の関係で《バルジカス》よりも足が遅い。順当に進んでいけば三つに分けた部隊の中では一番遅く接敵するだろう。

「な、側面からだと!」

 三番隊からの通信と反応が途切れた。

「三番隊が……! くっ、こっちにも敵が……!」

 一番隊と三番隊の中間辺りを進ませていた《ノルス》からの通信が入る。

 機動力を活かして索敵と牽制、あわよくば単独でベルナリアを超え、結界基部への破壊工作が出来ればと思っていたが、そう簡単にはいかないようだ。

「馬鹿な、後ろからだと……!」

 《ノルス》からの通信もその言葉を最後に途切れた。

「む……」

 バフメドは眉根を寄せる。

 立て続けに味方が撃破された。通信による報告が正しければ、三機編成の三番隊は二機の敵に撃破され、《ノルス》は前後から挟み撃ちに合ったことになる。とはいえ、接触から撃破までが想定以上に早い。

 アルフレイン王国の部隊を侮っていたつもりはないが、撤退の隙すら与えずに短時間で撃破されたとなると相当な練度の部隊だ。

「二番隊接敵……あれは!」

「どうした?」

「《守護獅子》です!」

 部下からの返答に、バフメドは思わず顔を顰めていた。

 《守護獅子》を見つけた、となると相手をしているのはそれが指揮を取る獅子隊と呼ばれる部隊か。極めて優秀な精鋭部隊として良く聞く名前だった。死に物狂いでベルナリアを防衛している部隊としても有名だ。

「隊長、前方に敵影! こちらも接敵します!」

「全機陣形を崩すなよ!」

 二番隊とほぼ同時に、一番隊の前方にも敵影が見えた。

 《バルジカス・デュアルファイア》を中心に、大盾と突撃銃を構えた《バルジス》四機が左右と背後を固める。

「二番隊も深追いは絶対にするな! 牽制と足止めに集中しろ! 合流を許すな!」

 ヒルトを握り直し、バフメドは声を張り上げた。

 ここからが正念場だ。

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