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新 発 売

作者: 笑夜


ある暑い夏の、とある日の部活終わり。


何となくチャリンコを走らせて家路を走る俺。


いつもと同じ日常だ。


いつもと同じく、何となく喉が乾いて、

通学路の途中にある自販機にチャリンコを停めた。


ポケットからは120円。


ホントなら150円でペットボトルに行きたい所だけど、節約の為に迷わず缶のコーラのボタンを押した。


部活では炭酸飲料は禁止されているが、暑い夏に飲む炭酸は止められないのだよ。


ガシャ…ゴッ…ド……


自転車に股がったまま手を伸ばして缶を掴み、少しよろけながら顔を上げる。


視界に入ったサンプルケース。


良く見かける、誰もがご存知な、炭酸飲料・お茶・ミネラルウォーター・コーヒー……、


に混ざって、見慣れない二種類の缶。






『最高DAKARA』『最低DAKARA』




……何これ……



何となくコーラのタブを開けながら気に留めた。


そう、ただ何となく。


ネーミング少しパクってるんじゃないの?つか、かなりパクってるよね、これ。


新手のスポーツ飲料か……?


およそ缶コーヒーと同じサイズのスチール缶か?


このサイズのスポーツ飲料ってあったかな?


あくまでただなんとなく、コーラを飲みながらの無意識な思考だった。





片方。


『最高DAKARA』は真っ赤なパッケージに、天使の羽の様なイラストが……


片方。


『最低DAKARA』は真っ黒なパッケージに、これも天使の羽のようなイラストが……、逆向きに。


一見すると缶コーヒー。


ただサンプルからは《コーヒー》等の表記は伺えない。


!!!!!!!!


なんとなく見ていたから気付かなかった。


130円……高いじゃないか。

少しだけ……



するとそこへ一組のバカップル登場。


邪魔になるかと、少し自転車を自販機から離し、飲み干した空き缶をゴミ箱へ投げ入れた。


その時──


「あ、これだよね。言ってたやつ」


「おぉ、これこれ。あったじゃん」


という二人の会話。


「おれこっちぃ〜」


「あたしこっち〜」


そう言いながら迷いなく、

男は『最高DAKARA』を……


女は『最低DAKARA』を選び、

僕の前を通り過ぎて行った。


見るに女はシャカシャカと缶を執拗に振りながら……





いや、別に何となく気に留めただけなんだからそれまでの話。


僕はコーラを飲み干したばかりで喉の乾きもなく、僅かな後ろ髪を引かれつつ、家路についた。


が、その日の夜だ。


夕食を済ませ、何となくテレビを見ていると、


CMだ。


はっきり言って忘れていたのに、タイミングが良いやら悪いやら。


よく知ってるが名前は浮かばない男性イケメンタレントが、川辺に膝までつかり『最高DAKARA』を飲み干し、


「サァイコー!」


何かのお茶のCMで見たことあるようなシーンを熱演。


次に見たことのない女性が数名……何かの新手のユニットみたいな。

が、『最低DAKARA』をみんな揃って飲み干し、


「最低だよねぇ〜」


と満面の笑みで言った。最低なのに。


そして最後に皆で、


「皆も最高、皆も最低、DA・KA・RAっ、新発売!」


終わった。


……何ですか?


全く、新発売という情報しか得られなかった。



……明日買おう…かな。





翌日、部活終わり。


喉の乾きを押さえつつ、昨日の自販機に直行した。


妙な好奇心に駆られながらも、期待は裏切られる事は承知している。


大抵、

「なぁんだ。まぁ……普通じゃないの?」的な感想に落ち着くものだ。


ポケットからは130円。


コインを入れながら心の中では、


「まずは『最高DAKARA』でしょ」と僅かに意識しつつワクワクしていた。


そしてボタンに手を伸ばした瞬間……


《売り切れ》


予想していた失望感は、違う失望感へ誘われた。


恐る恐るチラリと横の『最低DAKARA』を……


《売り切れ》


「さ、最低だよねぇ〜……」


押さえきれない欲望が僕をかきたてる。


「もう飲みてえんだよ!口がその気分になってるよ」


その足で近くのコンビニへ入り、奥にある飲料販売のケースへ直行。


『最高DAKARA』『最高DAKARA』


ない。


良く見ると、プライスカードはかかっているが、きれいに空洞の道を作っている。


売り切れっ!?


近くのスーパーへ電撃直行。


売り切れっ!!


スーパーの自販機。


売り切れ……


しかも

「あったか〜い」の列にもサンプルが……


「あ、あったか〜いもあんの……?!」





CMの雰囲気から察して、スポーツ飲料か健康ドリンクと踏んでいた俺。


口の予定が変わった。


いやいや、コーヒーと安易に考えた方が無難か?


お茶かもわからん。でもあのCMの爽やかさから連想すると……


まてよ、裏をかいてポタージュ系?


思考の迷路にはまっていたその時、


サラリーマン風の男が、額に汗を流しながらグビグビと『最高DAKARA』を一気飲みしながら俺の横を通り過ぎて行った。


……ポタージュ系は消去だ。


コーヒーも何だか雰囲気が違うぞ、こりゃ。


取り敢えず男が来た方角へと走る。


そして見つけた一つ目の自販機。


あっ!!


『最高DAKARA』……見つけたよ。フフ。


焦らせやがって、たかが缶飲料如きの分際がっ!


おもむろに自転車を停め、ポケットから130円。


まぁまぁ……、どっちだっていいんだから、取り敢えずはね。


隣の『最低DAKARA』は売り切れている。


コインをスマートに入れる。


……チャリン……


……10円……落ちて来た。


……チャリン……!


10円!おい……!


チャリン……


ギザジュー!!!!


さっき入ったじゃん!





頼むよ。小銭ないんだからさ。


チャリン……、かっ!!!


いやいや、落ち着け、落ち着け。

札で行こう。釣りを貰えば済む事じゃあないか。


冷静さを失いながらも、『最高DAKARA』を目の前に、ポケットをまさぐる手は落ち着きを無くしている。


ウィィィィン……、……ウィィィィン……!


出て来たよー。釣り銭切れだよー。


くっっ、どうしよう。


幸いにも隣にもう一つ自販機がある。


『最高DAKARA』も『最低DAKARA』も売っていない今の俺には価値の無い自販機が……


背に腹は変えられない。何か別の物を買って札をくずそう。


僕は隣の自販機にやむなく札を入れた。


どうでも良いが少し迷ってコーラのボタンを押そうとしたその時……


『ラムネ(風味)』と書いた飲料が視界に入った。


ラムネ……風味?風味とは何だ。ラムネの味がしたらラムネではないのか?


ただのラムネとどう違うんだ?


迷った挙げ句、ここに来て更なる興味の対処を発見した俺は『ラムネ(風味)』のボタンを押した。





ガトッ……ゴガッ…ゴ



素早く『ラムネ(風味)』を取り出し、釣り銭口に手をやる。


チャリン……チャリン……チャリン……チャリン……


……


「ゼンブ ヒャクエン ト ジュウエン デ デテクルンジャナイヨ……」


その瞬間!


どこから現れたのか、一人の老人が隣の自販機に金を入れようとしているじゃあないかっ。


くっ、ま、まさかな。


100、110、120……


130円目を投下。


老人は曲がった腰を伸ばし、

『最高DAKARA』のボタンを押した。



ガタッ…ゴトト…ン



【売り切れ】






じぃぃぃぃぃぃさんっ!!!


やってくれたじゃん。


俺はバラバラに崩れた小銭と、一瞬の気の迷いで買った『ラムネ(風味)』を持ってその場に立ちつくしていた。


「疲れた。真っ白な灰になっちまった」


たかが缶飲料。


何をムキになってたんだ。

トボトボと負け犬の遠吠え……いや、負け犬の胸の呟きをしながら帰路につく。


ポケットでは、沢山の小銭がチャリチャリと寂しげな音で、太ももに当たっていた。


「さっき買った『ラムネ(風味)』で気を紛らそう」


そう思いながら通った一軒の駄菓子屋の店先。


目を疑った……


小さな冷ケース。

飾り程度に並んだ何本かの飲み物に紛れて、『最低DAKARA』


あの真っ黒なパッケージが目に飛込んできた。





最低だけど、最高だ……。


「す、すみません。この最高の最低のこれ……欲しいんですけど」


天にも登る気持ちで冷ケースのドアを開け、冷たく冷えた『最低DAKARA』を手に取った。


「はいはい、130円ね」


老婆が奥から現れ、あっけなく会計を済ます。


念願―─


やっと手に入れた『最低DAKARA』


まだ『最高DAKARA』を手に入れるという指命はあるが、とりあえず手にした真っ黒な缶。


「何て美しいんだ。」


ドキドキしながらタブを起こそうとした時、





昨日初めてこれに出会い、カップルが買って行った時の事を思い出した。


そういえば、女がシャカシャカとやってたな……


パッケージには不思議な事に、商品名と天使の羽のような絵しか記載がない。


少し気味が悪いながらも、好奇心は抑えられない。


女が買ったのは確かに『最低DAKARA』だった。

僕もとりあえずは真似をして振ってみる事にした。


シャカシャカ…シャカシャカ……

シャカシャカ…シャカシャ


あっ!!!………ポチャ……


振りすぎた。


『最低DAKARA』は手から滑り、目の前を流れていたドブ川に吸い込まれていった。

「さ、最低ダカラ……」


全てがどうでもよくなった。

全てが嫌になった。

もう探し回る気力さえなかった。


トプトプと消えゆく真っ黒な缶は、ドブの色と重なりすぐに見えなくなった。


『ラムネ(風味)』を一気飲みし、空き缶をドブ川へなげすてた。


「ラムネ風味だから、ラムネじゃないか……」






「帰ろう……」


夕飯の待つ家に辿りついた時には『ラムネ(風味)』なラムネの炭酸で腹は張り、足取りは極端に重くなっていた。


「おかえりっ」


陽気な母親の声が妙にムカつく。


「ご飯すぐだからお茶出しといてっ」


食いたくもないが、母親からの声に冷蔵庫を開けると、


そこには……


『最高DAKARA』と、『最低DAKARA』が、


二本きれいに並んで立っていた。






【完】




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― 新着の感想 ―
[一言] 味が気になる!あと、あのおじいさん最高!自分もやられたことがありますよ!
[一言] 拝読させていただきました。 話の展開、テンポ共に良い作品でした。 ラストについて私的には、こういう脱力系ものもありだと思います。
[一言] 公大先生の言う通り、オチでどかーんとすげえのを持ってくるというのも手だけど、よっぽどすげえオチがない限りは、この「結局何やったんや」的なオチが最良だと思います。オレもこういうのたまに書いて読…
2008/10/28 14:00 ごはんライス
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