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レジスタンス-それはありふれた絶望だった-  作者: アンリ
第一章 孤独を愛したはずの男について -オオノ-
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4.目をそむける

 俺の薫陶、もとい洗礼のおかげか。


 それ以来ナルセは馬鹿げたことを言うこともなくなった。仕事にも着実に慣れていった。


 肉体労働に無縁そうな細い体がよたよたと死体を運ぶ様は滑稽だが、しばらくすれば平然と血や肉に触れるようになるだろうし、腰も据わってくるはずだ。そのことに俺は深く満足し、またわずかばかりの自己嫌悪を覚えた。


 ただ、夜はよく眠れないようで、目覚めはいつも悪く、目の下のくまは日々濃くなっていくありさまだった。食欲も衰えていき、残したものは同じ部屋に住むベンじいという強欲な老人がすべてかっさらっていった。たびたび注意や忠告をしてみたものの、この部屋の人間は誰一人として俺の思うような行動をとらない。


 ある日、また室内の壁が塗り替えられた。アルファ系の研究者はこういう心理的な実験を面白半分で実行する。仕事を終えて戻るとマスタードのような黄色がおぞましい紫色に塗り替えられていた。扉には鍵もあるし、普段は相部屋とはいえ他人から干渉されることなく静かに過ごせるのだが、その実、俺達にはプライバシーなどというものは一切ないのだと如実に知らしめてくる。


 その夜、むかつくほどにつやめく壁の色と塗り立てのペンキ特有のきつい匂いに、俺は寝苦しさを感じて目を覚ましてしまった。するとちょうど視線の先、ナルセがベッドに正座をしているのが見えた。天井近く、この部屋唯一の小窓から差し込む月光が、細いナルセの体を闇の中白く浮かび上がらせていた。


 背中を丸め、膝の上につくった拳をじっと見つめ、この時のナルセは人形にでもなったかのようだった。ただその横顔はひどく険しく、長い前髪の奥、明らかに何かを考え悩んでいる目つきになっていた。


 孤独を愛している、そう初対面で豪語したナルセ。


 だが孤独を纏いながらも、放つ雰囲気には甘美さも恋情も何も見えなかった。


 俺は目を閉じ、今度こそ朝まで目が覚めないようにと祈りながら再度眠りについた。

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