4.この恋心さえあればよかった
それから、私とあなたの秘密の時間はつづいた。
私はあなたに夢中だったの。
でもそれはあなたも同じだったと思う。何年も孤独な日々を過ごしてきたがゆえにあなたは様々なことに飢えていたし、そんなあなたに懇切丁寧につきあってあげられるのは私しかいなかったから。
ひな鳥のごとく様々なことを吸収していくあなたのことがたまらなく愛しくて、私は自宅に戻ってもあなたのことばかりを考えるようになった。今度はどんな本をあなたに持っていってあげようか、この話はあなたにとって興味深いはず――そんなふうに、いつでもどこでも、あなたは私の片隅に確かに存在していた。パパやママ、サンやシイには感じない、不思議な吸引力をあなたには強く感じた。
同級生とのつきあいは激減したけれど、ちっともかまわなかった。あなたとの時間は、結果的には私の成績向上にもつながったし、パパも私の行動を止めることはしなくなった。でもね、パパは本当は楽をしたかっただけなのよ。あなたの孤独を埋めるためではなく、厄介事から解放されるために、私にあなたのことを任せたの。それに家族一よく喋る私の相手をしなくて済むから、あなたに私を押し付けたのよ。ただ、お互い不埒なことはしないように釘をさされていたけどね。
でも不埒なことなんて、私、一度だってしなかったわ。
されたこともなかった。
ふとした時にあなたに触れたくなることはあったけれど、絶対に触れなかった。
子供はそういうことはしちゃいけないって、物心ついた頃には教え込まれていたから……ううん、違う。それだけじゃない。あなたがそばにいる時間は永遠につづく――そう思い込んでいたのね、きっと。
あなたは大人になってもここにいて、私は大学を卒業したらこの研究室に勤めて――そうしたら未来永劫一緒にいられるって、そう勘違いをしていたのよ。
あなたに抱く甘くてふわふわとした想いは、いつだってこの胸をあたたかくした。この世界は愚かな私達にとっては素晴らしいものとは言い難いけれど、この恋心さえあれば他に何がなくても生きていける――そんなふうにすら思えていたの。
あなたはイチと約束した生きる目的をいつまでも見つけられずにいたし、時折陰鬱になったり、イライラしだすこともあったけれど、あなたが約束を守れなくても、情緒不安定でも、私はちっともかまわなかった。
あなたが誠実であろうが不誠実であろうが、正しかろうが間違っていようが、私はちっともかまわなかったの。
どうでもよかったのよ、そんなこと。
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