第5話 こんな…こんな戦闘するなんて私は一言も聞いてないわよぉー…
「凄いじゃないか柊中尉、まさか君の小隊の初陣の獲物がレベル4UMAである宇宙ダイオウイカになるとは私も思っていなかったよ」
柊の小隊が宇宙ダイオウイカを撃墜した事で太田司令も上機嫌のようだ。
「鷹城中佐はもっとシミュレーションでの訓練を積ませるように私に散々話してきていたのだが、これならもう一人前の小隊として6日後に実施する東京湾のUMA掃討作戦では後方支援では無く、主力部隊として作戦に組み込んでも問題無さそうだね」
急な実戦投入の話に柊は少し戸惑った。
「もう第一線に投入するおつもりですか……」
「私はもうしばらく基地周辺の空域に慣れさせたいと考えていたのですが…」
司令は心配する柊を見て逆に驚いたようで…
「君も鷹城中佐と同じ事を言うのだな、しかし僻地の基地では欠員が出ている部隊も多い、それらをカバーするための人員の確保が必要なのだよ」
柊も小規模な基地は自分の基地周辺の防衛に手一杯で、UMAの住み家を叩く掃討作戦は他の基地の増援でも無いと出来ない事は分かっていた。
「この作戦の総指揮を取っている私が見込んだのだから頼まれてくれるね」
既にこちらの意向とは関係無しに話が進んでいるようなので柊は黙って従う事にした。
「そして乗機についてだが、実働部隊として君の小隊も作戦行動に参加するからには訓練機であるリフレク・レーベルのままと言う訳にもいかんだろう、そこで君には元の乗機である『スターダンサー』を、そして赤城と君の訓練生には『セイレーン』で出撃して貰おうと考えている」
『セイレーン』はエメラルドグリーンの機体色が特徴的な機体で、武装はレーザー砲、機関砲の他に主武装として超音波砲を使用している。
これは敵機やUMAなどの対象物に音波を投射して攻撃する兵装でワイングラスに周波数が合った人の声が当たり振動を加え続けるとグラスが割れる原理を応用している。
また巡航時だけでなく、交戦時の操縦及び火器管制も全て自動操縦が可能とオートパイロット機能が非常に優れており、そのため訓練機から乗り換える初心者パイロットが主に搭乗する事になる機体でもある。
「私からは以上だ、詳しい内容はこの資料と後日のミーティングで確認するように」
「はい!では、失礼しました」
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指令室前廊下
「どうだった?」
「ちょっと暗い顔してるけど、この間の件で怒られでもしたの?」
司令室を出ると外で待っていた赤城が声を掛けてきた。
「怒られるどころか逆に褒められたよ、それで今回の活躍を踏まえて次の東京湾UMA掃討作戦に私達も参加させるってさ」
柊は先程司令から言われたことを赤城に伝える。
「え、もう前線で他のチームと一緒に作戦を行うってこと?」
赤城も司令の決断は早すぎると思ったようだ。
「ちょっとやりすぎちゃったかなー」
柊は大きく伸びをして言った。
「でも、こんなに早く元の小隊のみんなと一緒にまた実戦に出られるとは思ってなかったなあ、あ、既にこの前の作戦で花梨ちゃんとは一緒に飛んだんだった」
赤城の心配そうな表情は見えていたが、柊はまた第一線に復帰できる事しか考えていなかった。
「なんだか変な胸騒ぎがするような…」
赤城は小声で呟いた。
「ん?なんか言ったか?」
「え!?えっーと…あ!そうそうそれで東京湾UMA掃討作戦の決行はいつなの?」
赤城はなにか隠しているようであった。
しかし柊は特にそれには追求せずに普通に質問に答えた。
「決行は1週間後だとさ…」
「1週間後か…じゃあしっかり準備しておかないと…」
っと赤城が言うと…
「よいしょ!」
「モミモミ」
「空ちゃん少し太った?」
「きゃーーーちょ、ちょっとや、やめ…」
柊は急に赤城におもいっきり抱きついた。
「ちょ、ちょっと瑠瑚!」
「きゅ、急にどうしたのよー?」
「いやー空ちゃんがどれだけ太ったのかを調べようと思って」
「普通にお腹を触ればわかることでしょーが!」
「わざわざ抱き着かなくても…」
「し、しかもここは廊下よ!」
「もし他の人にでも見られたら…」
「と、とりあえずやるなら中で…」
そういうと柊は赤城から手を放した。
柊が顔色を確かめようと赤城の顔を見た。
すると彼女の顔色は真っ赤な赤に染まっており少し嬉しそうな表情を浮かべていた。
「あれ?空ちゃんもしかしてちょっと気持ちよかった?」
「まあ結構お腹以外もモミモミしたからねー」
「しかもやるなら部屋の中でって…」
「う…」
「うるさーーーーーーい」
「バチーーーーン」
廊下全体に気持ちの良い音が鳴り響いた。
「調子に乗りすぎよ瑠瑚!」
「いってー。ごめんよ悪かったってばー」
「だって空ちゃん少し機嫌が悪いように思えたから励まそうと思って…」
「うまいこと言っちゃって…」
「ただセクハラしたかっただけの癖に…」
「軽く噂になってるわよ…」
「セクハラ大好き柊瑠瑚ってね…」
柊はよく女性に対してスキンシップ名目のセクハラ行為をたびたび行っていた。
そのためナディエージダ内の女性職員の間では噂話がはびこっていた。
「本当に瑠瑚ったら…」
「えっち…なんだから…」
赤城は少し頬を赤らめながら言った。
少し心の中で可愛いと思う柊であった。
「ま、まあとりあえず空ちゃんも機嫌を取り戻したことだし八重咲達のところに行くか…」
「そうね…」
そのまま柊たちは八重咲達のいる訓練用体育館へと向かった。
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1週間後:第1飛行場
「全員揃ったかーーー?」」
今回の東京湾UMA掃討作戦の指揮を担当する上官が全員に聞こえるよう大声を出した。
「…」
「よし集合時刻の午前9時を回ったな…」
「さすがに全員揃って…」
っと言いかけた時上官の声は止まった。
「スタスタスタ」
上官の視線の先には一人の青年がこちらに向かって歩いていた。
青年の容姿はスラッとしたモデル体型であり顔もとても整っている。
いかにも女子が好きそうな男子の見た目と言ったところだ。
「き、貴様…」
「あ…おはよぉございます」
青年はだるそうに挨拶した。
おまけに頭は首を少し曲げる程度でどこからどう見ても上官に対しての態度ではなかった。
そのまま彼が列に入ろうとした時だった。
「ふざけるなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
上官の怒声が飛行場全体に響き渡る。
それに反応し青年は…
「あっ?」
っと上官にガン飛ばす態度を取った。
それにさらに反応した上官は彼の胸倉をつかみそのまま殴りかかろうとした時だった。
「申し訳ございません!」
「うちのバカが迷惑かけました」
急に崎村飛び込んでいったのであった。
「放せ崎村!」
「こいつは集合時刻に遅れた上にこの私に挑発行為を行ってきたのだぞ!」
「遅刻?僕は遅刻なんてしていませんが…?」
「8時59分58秒…集合時刻の2秒前にはちゃんと飛行場には入っていましたが…」
「き、きさま…」
「本気で言ってるのかーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
そういうと上官は彼のことを押し倒し馬乗りになり殴り始めた。
それに対抗し彼も上官をはねのけ胸倉をつかんだ。
鋭い目つきで上官をにらみつけ殴りかかろうとしたその時!
「バァン」
青年は吹っ飛んだ。
「頭を冷やせばかやろーーーーーー」
崎村が少年に渾身の一撃を拳でぶつけた。
「ドッサァー」
青年は吹っ飛んだあと地面に体を叩きつけられた。
「今は任務前…」
「これ以上の時間のロスは任務に影響を及ぼすかと…」
「任務終了後彼には何かしらの処罰を与えますので今回の一件どうかお許しください!!」
崎村は上官の目の前で土下座をした。
しっかりと地面に額を擦りつけて…
崎村が土下座をするという衝撃的な場面にその場の誰もが息をのんでいた。
「……」
「まあ今回は崎村…お前の顔に免じて許してやろう…」
「おいクソガキ!」
「てめえこの任務が終わった後は覚えとけよ!」
倒れた青年に対し上官は罵声を浴びせた。
それに反応してか青年は体を起こして立ち上がった。
また何かしでかすのではないかと崎村は身を構えた。
その場の誰もがこの後喧嘩になることを予想し緊迫状態になっていた。
しかし彼の行動はそうではなかった。
「クソガキではないですよ…」
「僕にもちゃんと親からもらった名前があります…」
「翼雷 懐 (よくらい かい)…ちゃんと覚えておいてください…」
「「「「「!!!!!!!!!!」」」」」
「よ、翼雷 懐 だと…」
「あれが噂の…」
「え!?嘘だろ?」
「「「「「ざわざわざわ」」」」」」
周りが騒めきだした。
「ツンツンツン」
「何瑠湖?」
「いやさあー皆翼雷翼雷って言ってるけどさ…」
「あいつって有名人かなにかか?」
柊は赤城に翼雷について聞いていた。
「翼雷 懐…」
「歳は19歳…UMA対策チーム所属」
「ナディエージダ次期エースパイロット候補の一人よ」
「つまり期待の新人ってことよ」
「次期エースパイロット候補だぁー!?」
「あの青二才がか?」
(でも上官への当たりが強いことや崎村さんが土下座する理由がこれでなんとなくわかった気がする…)
「これからはちゃんと名前で呼んでくださいよ…」
そういうと翼雷はスタスタと他のメンバーたちがいる列の方へと歩いていった。
そのすぐ後ろから崎村がせっせっとついていき頭に思いっきりゲンコツを入れた。
(痛そうだ…)
柊の心の声であった…
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翼雷の遅刻騒動から3分後
今回の任務参加者の名簿に一通り目を通し終わった上官が口を開いた。
「ではよく聞けー」
「これより東京湾UMA掃討作戦を開始する!」
「…と言っても第2部隊に関しては先遣隊としてすでに各ポイントへ向かっているのだがな…」
「まあ細かいことは気にするな」
「ではまずは簡単に作戦内容を確認するぞ!」
「初めに本作戦の目的についてだ」
「1か月ほど前に東京湾内にて多数のゲートの反応が確認された」
「その時UMA対策チームも出動したのだがUMAの圧倒的数の前に討伐しきれずに多くのUMAを野放しにした状態になってしまった」
「そのUMAたちの駆除が今回の作戦の主な目的だ」
「では次に部隊についてだ」
「UMAは主に3つのポイントに集中して生息していることが判明した」
「そこで今回は4つの部隊に分かれてもらいそれぞれのポイントにて任務を遂行してもらう」
「では4部隊についてひとつずつ確認していくぞ!」
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第1部隊:今回の作戦における主力部隊。
主な活動はUMAの生息数が最も多い川崎港付近のポイントを担当(主なメンバー:崎村、翼雷)
第2部隊:今回の作戦における先遣隊。
主な活動は先遣隊として現地の情報を本部へ伝えたり、他部隊のサポートを担当(主なメンバー:弓削)
第3部隊:今回の作戦における第1後発隊。
主な活動は千葉港のいなげの浜付近のポイントのUMA駆除を担当(主なメンバー:柊、青海)
第4部隊:今回の作戦における第2後発隊。
主な活動は五井南海岸付近のポイントのUMA駆除を担当(主なメンバー:赤城、八重咲)
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「これが4部隊の主な役割だ」
「しっかりと頭に叩き込んでおけ」
「では作戦内容の確認は以上だ!」
「それでは30分後第1部隊が出動になるのですぐに準備に取り掛かれ」
「第3、4部隊の者たちもすぐに出発できるよう準備の方をしっかりと整えておくように!」
そう言い終えると上官は少し疲れた顔つきで飛行場を後にした。
恐らく翼雷との予定外のやり取りで少し疲れたのだろう。
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第1部隊出発後…
「ふんふーん♪♪♪」
「ずいぶん作戦前なのに呑気なことですね…柊中尉…」
「ん?おぉー空ちゃんかー」
「それと八重咲も!」
柊が鼻歌交じりで一機の戦闘機の外装をタオルで磨いているところに赤城と八重咲がやってきた。
「おはようございます柊中尉!!」
「私は中尉とは違う部隊ですが今まで中尉に教えていただいたことをフル活用し無事任務完遂を目指して頑張ります!」
「おう頼もしいな是非とも頑張ってくれよ期待してるぞ」
そういって柊は八重咲の肩を優しく叩いた。
その時の赤城のは少し不機嫌な顔つきをしていた。
「しっかし本当あなたこの飛行機のこと気に入ってるのね…」
「もしかしてこの鉄の鳥があなたの彼氏なのかしらね?」
赤城は少し早口気味で話した。
すると柊は…
「この飛行機…鉄の鳥…」
「はあー…あのね…何度言ったらわかるのよ!!」
「確かに私はこの子のことを愛してるし彼氏にしたいとも思っている!」
((したいと思ってるんだ…))
赤城と八重咲二人の心の声であった。
「だからこそ…この子を愛してるからこそ私は空ちゃんにもきちんとした名前でこの子のことを呼んで欲しいと思っているの!」
「今まで数100回と言ってきたはずだよ…」
「さあ空ちゃんこの子を名前で呼んであげて!!!」
「…突っかかった私がバカだったわよ…」
「スターダンサーでしょ?」
赤城が呆れ口調でそういった。
すると八重咲が目をギラギラさせながらこう話した。
「えー!!これがあのスターダンサーなんですか!!」
「カ、カッコいいーーーー!!!」
「お!八重咲スターダンサーのこと好きなのか?」
「はい!戦闘機の中では実は私一番好きなんですよ…」
「実物を見たことがなかったので見れて今とても嬉しいです!!」
「あの黄色のフォルム…そして敵を撃墜する際のあの優雅な動き…」
「何もかもが最高ですー!!」
「おおおおぉぉぉぉ!!!!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないかーー」
柊は満面の笑みを浮かべていた。
八重咲も柊ほどではないが微笑む程度の笑みを浮かべていた。
そんな八重咲の耳元に赤城が忍びよる。
「八重咲少尉そういった上官の機嫌を取るような発言はあまりしすぎるものがどうかと…(ボソッ)」
赤城は冷たい声で八重咲の耳元に囁いた。
「あ、え、ええっと…すいません…」
八重咲は赤城の冷たい声に萎縮してしまった。
八重咲は人に好かれやすい性格の半面やはり性格が合わない人間もいるため人によっては好き嫌いがとても激しい。
赤城はその合わない人間の一人である。
八重咲も赤城から疎まれていることには気づいているのだが人間関係を壊したくないが為に気づかないふりをしている。
「…」
「?」
「どしたんだ八重咲?」
「…!あ、い、いえなんでもありません」
そういうと八重咲はニコッと微笑んだ。
「そうか…そうだといいけど…」
柊はチラッと赤城の方に視線を移したが赤城は目線を下に落としたままだった。
「ピンポーン」
「第3部隊出動予定時間の10分前になりました」
「第3部隊の方々はすぐに出発の準備をしてください」
「おぉ…もうそんな時間か…じゃあ空ちゃん、八重咲またあとでな」
「はい!柊中尉どうかお気を付けて」
そういい残すと八重咲はスタスタと走り去った。
「…空ちゃん」
「どうしたの?」
「あまり八重咲をいじめてやるなよ」
「別にいじめてなんかないわよ…」
「あのなー…まあ優しくしてやってくれよ」
「今後あの子とは同じチームでやっていくわけだしさ…」
「そんなこと言われなくてもわかってるわよ…」
「じゃあ私はそろそろ行くわ…」
「スタスタスタ」
「…」
これからすぐに柊率いる第3部隊は出発したのであった。
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第3部隊担当ポイントいなげ浜付近
「各機準備は良い?」
「既に他の区域ではUMAとの戦闘が始まっている」
「私たちも気合いを入れていくわよ!」
柊は同じ第3部隊となった青海以下3名に指示を出す。
赤城、八重咲は第4部隊に配属されたため、別空域で行動している。
第3部隊に命じられたのは作戦海域内にいるレベル3以下のUMAの排除であった。
「今回は空母と巡洋艦からの支援射撃もあるから巻き込まれ無い様にね」
第3部隊が指定された作戦空域に到達すると、10隻以上の護衛艦の中に一際大きな空母があるのが見えた。
「あれが空母『マリア』なんですね」
「まるで甲板の滑走路が海岸線みたい」
青海が驚くのも無理も無いなと柊は思った。
大型空母『マリア』は全長400mと現在ナディエジータが保有している空母の中では2番目に大きい空母である。
内部に[テレポーテーションステーション]というシステムが導入されており、水、食料、武器弾薬から戦闘機に至るまでの物質を地上の基地からそのまま空母内に転送する事が可能である。
ちなみにこの[テレポーテーションステーション]だが今ではほとんどの空母に導入されているのだが初めてこのシステムを取り入れたのはこのマリアである。
「作戦前の配置図を見た時にも思ったけど、ちょっと空母が突出し過ぎな感じもするわね」
いきなり縄張りを荒らされた事に怒っているのか、それとも混乱しているのか海上ではUMAの大群が右往左往していた。
「私が先行するから」
柊はUMAの群れに自ら飛び込むとレーザー砲と小型ミサイルで次々と獲物を仕留めていく。
実戦経験の浅い隊員達もセイレーンのATモードのおかげで戦果を挙げる事が出来ているようだ。
順調に作戦は進んでいるようだが、柊は先ほどから遠くに黒い積乱雲が見えるのが気になっていた。
赤城達のいる方角である。
「空母マリア管制塔より、第3部隊へ、第4部隊の作戦空域にゲートが出現し、内部からノーミルが出現しました」
「こちら第3部隊柊、了解しました」
「至急向かいます」
やはり遠くに見えた不穏な雲はゲート出現の前触れだったようだ。
柊は通信を切り、一人呟いた。
「まさか、こんな時に……」
柊の顔色はさっきまでのUMAと戦闘していた時のイキイキとした表情とは打って変わり血の気が抜けて青白くなっていた。
しかし柊の顔色が変わるのも無理はないだろう。
ゲートから押し寄せてくるもの…それはUMA以外にも実は存在する。
もう一つの人類の脅威それこそが[ノーミル](未確認飛行物体)である。
ゲートの向こうからやってくる何から何まで正体不明の謎の飛行物体である。
見た目は鳥の様な物から現在地球上に存在する戦闘機に酷似したものまで様々である。
基本はUMAと同じく地上への襲撃を行っているのだが決定的に違う点としてノーミルにはそれぞれ高い知能があるということである。
しかしノーミルの内部には生命体の存在は確認できていない。
だがその代わりにノーミルの中心部分には四角く頑丈な謎の物体がありそれがノーミルの核なのではないかと言われている。
恐らくこの核は人工知能のような役割を果たしていると考えられている。
ちなみにこのデータは最近判明したことである。
今まで不時着したノーミルはすべて自爆するようになにかしらの仕掛けが施されていたため詳しく調べることができなかったのだが少し前に一機だけ自爆システムが作動せずに原型を留めているノーミルが発見されたことからその機体を解析し現在学者たちは詳しいことを調査中とのことだ。
ノーミルには知能があることからノーミルとの戦闘の際はUMAとの戦闘時以上の判断力、知能、技術を求められる。
つまり本格的なドックファイトを強いられるということだ。
UMAの戦闘の様にごり押しでは勝てない…
そのため柊は八重咲や他の訓練生たちのことが心配でたまらなかった。
また赤城についても柊はどこか嫌なビジョンが浮かんでいた。
「もし大量にノーミルが沸いていたら…」
「いくら空ちゃんだって…」
「早くいかなきゃ…」
「もう誰も失いたくないんだ…」
このポイントのUMAはほぼ狩りつくしていたため柊は自分がいなくても大丈夫だと判断した。
そして無線機を取り青海に連絡を入れた。
「こちら柊」
「先に第4部隊のいる五井南海岸の方に向かいます」
「他の隊員たちへの託けを頼みます」
「え?柊中尉?ちょ、ちょっとまtt……」
「ザーザーザー」
青海との無線を強引に切った。
「スターダンサー…」
「今から少しお前に無理をさせちまうが許しておくれよ…」
「私は一人では何もできない弱い人間だ…」
「だからあの時お母さんを助けることができなかった」
「でも今は違う!」
「今は心強い仲間がいる!」
「そしてなんといっても私には最高のパートナーであるお前が傍にいてくれる」
「スターダンサー…私に大切な人を救う力をくれーーーー」
そしてスターダンサーは流星の如く加速を始めた…
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ほぼ同時刻:五井南海岸
「ビュンビュン」
「…」
「赤城中尉現在無数のノーミルが確認できました」
「先ほど全部隊に救援要請を出しましたがどの部隊もまだ戦闘中のようで到着時間は未定とのことです…」
「了解…」
(こんな…こんな戦闘するなんて私は一言も聞いてないわよぉー…)
(…どうせ来るなら一番強い第1部隊の方に来なさいよ…)
赤城は心の中で一人愚痴を漏らした。
(この部隊には新人隊員たちが最も多い…)
(それゆえノーミルとの戦闘が未経験の物は数知れず…)
(はあぁー…とりあえず私が先陣を切らないと…)
(よし!)
赤城は背筋をいつも以上にピンと伸ばし大きく深呼吸をした。
そして無線機を取った。
「こちら赤城」
「現時点で出現しているノーミルのlevelを教えてください」
「了解」
ノーミルには様々な種類がある。
分類はUMAと同様にlevelごとで表されるがノーミルの場合は他と差別化を図るべくそれぞれのlevelにロシア語で鳥の名前が付けられている。
ちなみになぜ鳥の名前から取ったのかというとナディエージダの大元帥が大の鳥好きであることから来ていると噂されている。
「こちら○○○」
「現時点で確認が取れたのはlevel1 ヴァラビエーイ(雀)、level2 ゴールゥピ(鳩)の2種類のみです」
(level1、level2のみか…)
level1 ヴァラビエーイ
武装は主武装の機関砲のみ。
機体の大きさは普通の戦闘機の半分ほど。
そのため機体がかなり軽量で普通の戦闘機に比べて素早い動きが可能である。
ただしヴァラビエーイ自体はそこまで強くないため新人隊員たちでも勝てる見込みは大いにある。
だがもし相手が10機以上来た場合は操縦に慣れている者たちでも苦戦するほどの強さである。
level2 ゴールゥピ
ヴァラビエーイほどではないもののこちらの機体も素早い動きを得意とする。
大きさは普通の戦闘機とほぼ同じぐらいであり、機体が丸っこいのが一番の特徴である。
主武装は機関砲、ただしヴァラビエーイのものよりも威力はかなり上である。
副武装はボムであるがボムに関しては地上への攻撃が目的として作られているためドックファイトの際にはあまり関係がない。
弱点として挙げられるのが弾や爆弾の威力は高い分連射力が遅いためスキができやすいことと機体自体が脆いこと。
機体の脆さに関してはこちらの弾が少しかすっただけでも墜落することがあるほどである。
そのためゴールゥピの対策法としてパイロットたちは背後から攻撃するのが一番安全な撃墜方法である。
level2に関しても訓練生たちに勝てる見込みは大いにある。
(しかし本当に多いわね…)
(かなり増えたように見えるけど…200機?)
(いや下手すれば300機以上いるようにも見えるわ…)
(こんなの数の暴力じゃない…)
(でもそんなこと言ってられない…)
(他の部隊が来てくれるまでなんとか持ちこたえなくちゃ…)
(幸いまだlevel3以上は出現していないし…)
ゲートは一向に閉じることはなくノーミルが次々と出現していた。
(これ以上数が増えればいくら応援が来たとしても対処が難しくなる…)
(やるんだ…皆を守るんだ!)
「了解したわ」
「ではこれよりノーミルとの戦闘を開始します」
「level1とlevel2は集団での戦闘を得意とするノーミルなのでできる限りノーミルを分散させるようにすることを心掛けてください」
「新人隊員たちは私たちのカバーをお願い」
「先に言っておくけどこれは本気の命を懸けた戦いになる」
「そのため私たちも戦うことに精一杯であなたたち(新人隊員)のすべてを守ることができるわけではないわ」
「でもそれは私たちもしてきたこと」
「自分の身を守れないものが人の身など守ることなど不可能」
「でも私は一人でも多く生き残ってほしい…」
「だから精一杯自分たちのできることを尽くしてほしい…」
前方に見えていた小さな点が一つずつはっきりと見えてきた。
「…」
「もうあんまりゆっくり話してられないわね…」
「とりあえず私からの最後の指示よ」
「よく聞きなさい!!」
「死ぬな!!!」
「以上では全員戦闘準備に入って」
「「「「「「イエス、マム」」」」」」
こうして戦いの火蓋が切られた。
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「ビューーーー」
第4部隊のリーダーである赤城は率先しノーミルの元へと向かっていった。
彼女は柊ほど突出して操縦が優れているわけではない。
人よりも少し操縦がうまいというだけである。
しかし彼女はパイロットとして柊と同様に上官たちからは一目置かれている。
なぜ彼女は上官たちから一目置かれる存在なのか?
その秘密は彼女の搭乗する機体の数にあった。
ナディエージダでは従来よりも技術が進み少し癖の強い機体などが多く開発されている。
そのためそれぞれの機体について覚えることは山のように多く一人のパイロットがナディエージダにいる間に扱いこなせる機体は大抵の者が1機~3機ほどだという。
しかし彼女は違う。
彼女の扱うことができる機体の数は10機!
しかもどの機体で出撃しても必ずなにかしらの戦果を挙げて帰ってくるという超人である。
故に皆は彼女のことを二つ名でこう呼んだ。
[千手の撫子] (せんじゅのナデシコ)
(この距離なら相手からの反撃を食らわずに何とか攻撃ができるわね)
(あとは…)
赤城の搭乗しているセイレーンの最も大きな特徴はなんといっても翼につけられた大きな超音波砲だろう。
この超音波砲は今現在のような敵機が集団でいる場合はかなりの活躍が期待できる武装の一つである。
ただし正確な周波数を割り出さなければ敵機には傷一つ付けることができない。
だが周波数は機体のコンピューターで自動的に計算されるためそこについては特に心配することはなさそうだ。
「ピコピコピコピコ」
「ピコーン」
「計算終了…昔はこの周波数を自力で計算しなくちゃ音波砲は撃てなかったみたいだけど今は楽々と打てるようになったわね」
「これが文明の利器ってやつなのかしらね」
翼の大きなスピーカーがクルクルと回りだした。
「チャージ完了…それじゃあ飛ばすわよーーーーーーーーーーーーーーー」
「食らいなさい爆音の歌姫!セイレーンの超音波砲を!!」
発射されると辺りにはどこか耳障りな音がおかしくなりそうなほどの爆音で響いた。
その瞬間前方にいた20機ほどのノーミルが次々と墜落していった。
「す、すごい…あれがセイレーンの力…」
遠くから赤城の戦闘を見守る八重咲は思わず感心して一人で呟いた。
他の者も同様にセイレーンの奏でる超音波砲に目を奪われていた。
「ピリッ…ピリッ…」
「あ!ゲートからまた何か出てきた」
「でもさっきまでとはまた違う形をしてる機体だなー…」
「なんだか翼に大きなスピーカーがついてて私たちの乗っている機体に似てるような…」
八重咲はゲートから出てくる機体を不思議そうに見ていた。
「…」
「以前よりもかなり威力が上がってるわね…」
「ただし打てる回数は前よりも少ないようだけど…」
(でももしかしたらこの戦い勝てるんじゃないかしら?)
(この部隊の大半はセイレーンであることを考えるとこの大量のノーミルの軍団にも勝てる見込みはある!)
赤城は完全に勝利を確信し優越感に浸っていた。
それは赤城以外のメンバーも同じ気持ちであった。
そうして五井南海岸では爆音が鳴り響いていた。
「ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「「「「「ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」」」」
300機以上もいたノーミルの数も残り150機ほどにまで減少していた。
その時柊が現場に着いた。
「こちら柊」
「第4部隊の方誰か応答お願いします」
「ザーザー…」
「あーあーこちら八重咲」
「おぉ八重咲無事だったか!」
「は、はいなんとかセイレーンのおかげで今のところ犠牲者はいません」
「セイレーンか…私もそういえば昔一度だけ乗ったことがあったっけな?」
「でもやっぱり私はセイレーンのような音波砲よりもミサイルやレーザー砲のようなダイナミックで迫力のあるような武装の方が好きだったなぁ」
(まあキャラ的にそうですよね…)
八重咲は心の中で呟いた。
「そういえば柊中尉」
「ん?どした?」
「私ノーミルについては少し勉強不足であまりわからないことが多いので教えてほしいことがあるのですが…」
「向こうも私が応援に行かなくても大丈夫そうだしいいぞなんでも質問してこい」
「ありがとうございます…」
「では質問させてもらいますね」
「今ゲートの付近にいるセイレーンのようなあの機体もノーミルなんですか?」
柊はゲートの方へと視線を移した。
その瞬間柊の目つきが変わった。
「まずい!?」
「え?どうしました柊中…」
っとこの瞬間であった。
「ホォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「ホォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「「「ホォーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」」
どこか奇妙でどこか不安を煽られるような音が辺りに響く。
セイレーンの音とは明らかに違っていた。
「なんだこの音は!?」
「き、気持ち悪い…」
「んーーーーー…この梟の鳴き声のような音はもしや…サヴァー(level4)?」
赤城はこの音の正体に勘づいていた。
だからこそ赤城はこの音がただの耳障りな音というだけではないことは知っていた。
もしノーミルとのドッグファイト中にこの音が聞こえてきたらパイロットたちは皆こう思うだろう…
我々の負けだと…
「!?なんだ操縦が急に…うわーーーお、落ちるーーーーーーーーー」
このサヴァーの超音波砲にはコンピューターなどの機械を麻痺させるという特性がある。
つまり自動操縦機能のあるセイレーンに取ってはこの上ない天敵である。
「なにこれ?さっきまでちゃんと操縦出来ていたのに…」
「とりあえず態勢を立て直さなくっちゃ!!」
「うーーーーーーーーーん」
「よし!何とか立て直せた!」
だが自動操縦機能が麻痺したとしてもそのまま墜落していくわけではない。
このように手動で機体を動かすことは可能である。
だが…
「!?ノ、ノーミル!!…」
「そ、そんな…やめてよ…やめてーーーーーーーーーーーー」
「ドーン」
このように立て直すことだけに集中しすぎるとノーミルの餌食となってしまう。
そのため新人隊員たちにとっては自動制御機能が麻痺するということは死そのものっと言っても過言ではないだろう。
「ドーーーン」
「ドーーーーン」
「ドーーーーーン」
「…う、ううぅぅ…」
「さっきまでこっちの方が有利だったのに…」
「助けに行かなきゃ!!」
「待て八重咲!!」
「柊中尉!?」
「お前はここにいろ」
「え?で、でも」
「いいからここにいろ!!!」
「え!?あ、はい…」
八重咲は今まで聞いたことがなかった柊の怒声を聞きとても怯えていた。
そして柊はそのまま赤城たちの戦う戦闘ポイントへと向かっていった。
「くそーこれ以上犠牲者が出ないでくれー!!!」
柊の周りからの印象は活発的でうぬぼれ すぐに調子に乗るなどとどちらかと言うと悪い印象ばかり持たれている。
そんな柊だが実は彼女にはもう一つ悪い噂がある。
[柊が切れると誰も手を付けられない…]
昔野間がスターダンサーの機体に自分のサインをふざけて書いた時に柊がブチ切れ彼に全治3ヵ月のケガを負わせたという話は東京支部内ではかなり有名な話だ。
その時の柊はまるで猛獣の様に暴れまわり誰も彼女を止めることができなかったという。
それ以来野間はスターダンサーの整備をひどく拒むようになったという…
しかし今の彼女はその時の比ではないほど怒りをあらわにしていた。
息は荒く、目は吊り上がり、操縦桿を握る強さもさっきまでとは桁違いな強さであった。
[柊が切れると誰も手を付けられない…]
これより五井南海岸では激戦が繰り広げられようとしていた。