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ライトインフリゲート  作者: ああ
第1章 「人類の希望」
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第4話 柊部隊、初陣

「ブ―ーーーーーン」


東京タワーを出てから大体5分ほどが経っていた。

柊たちは現在ナディエジータの基地があるお台場へと向かっていた。

帰りの操縦士も行きと同じく八重咲である。

柊は前を先導する機体を眺めていた。

すると八重咲はこのような質問をしてきた。


「今日はなんだか雲が多くないですか?」

「確か雲が多い時はゲートが出現する可能性が高いということを本で見たのですが…」

「念のため少し急いだほうがいいのではないのでしょうか?」


質問の内容は空の雲についてのことであった。

柊たちパイロットは雲が現れればゲート出現の警戒をするように聞かされていた。

だから八重咲の言う通り少し速度を上げて早めに本部に帰るべきなのだが実はゲート出現に関する特徴はもう一つある。


「八重咲はさっき本で読んだと言っていたけどナディエジータではゲートについては何も習わなかったの?」


「は、はいそうなんですよ」

「なんか人手が足りないみたいでパイロットに関する知識以外はほとんど自習なんですよ」


(人手が足りないことは知っていたけどまさか訓練生たちの授業もろくに行えないほどだったとは…)

(どうりで最近忙しいはずだ…)


「今はほとんど自習なのか…」

「私の訓練生時代とは大違いだな…」


「そうなんですよ」

「訓練や他にも基地内での簡単な雑務などの仕事が私たちにもありますので自習しておけと言われても全然自習する暇がなくって…」

「でもゲートのことぐらいは覚えておいた方が良いと思ったんですよ」

「今の私たちがこんな大変なのはゲートが出現したせいですし、やはりその元凶については知っておいた方が良いと思いまして…」

「でもやっぱり時間が足りなくてほとんど流し読みなんですけどね…」


「いやこんな忙しい時期で疲れているだろうに本に目を通すなんて中々できるもんじゃないよ」


「あ、ありがとうございます」


「じゃあそんな勉強熱心な八重咲の為に今回は特別にゲートのことについて教えてあげよう」


「あ、はい。ありがとうございます…」


「じゃあまずは八重咲がどのくらいゲートについての知識があるのかを知りたいから知っていることを全部話してくれないかな?」


「わかりました」

「え、えっとが、がんばります」

「じゃあまずはゲートの正式名称から…」

「ゲート。正式名称:プラネティウヌゲート」

「私たちの世界を崩壊させたすべての元凶とされています」

「基本ゲートは大気圏内または上空で出現することが多いのですが極まれに地上に出現する場合もあるとされています」

「なお今のところ地下にゲートが出現したというケースの報告はありません」

「ゲートの大きさはそれぞれ大小異なりますがほとんどのものが大体20m~30mほどの大きさと言われています」

「見た目は黒雲が円状に散らばっており中心が渦巻いているのが最大の特徴です」

「ゲートの出現前の特徴として雲や霧が多く出てくると言われています」

「これが今現在私が知っているゲートについての知識です」


「なるほどねぇ。ゲートについての基本的な知識は捉えられているね」

「でもやっぱり今後パイロットとして活躍していくにはもっと知識があった方がいいな」

「じゃあここから先は私の特別講義ターイム」


「え?、あ!、ありがとうございます」


(なんで一瞬驚いたんだ…)


「じゃあまず今八重咲に一番知っていて欲しいこと、それはゲートの出現条件についてなんだ」


「出現条件ですか?」

「ゲートの出現前には確か大量の雲と霧が発生するんでしたよな?」


「うん。実際のところそうなんだけど実はよく誤解している人も多いんだけどゲートは雲や霧が多いだけじゃ出現することはまずありえないのよ」


「え!?」


驚いたのか八重咲はとても大きな声を出した。

そのため機体が一瞬だけ激しく揺れた。


「おっとと。大丈夫か八重咲?」


「は、はい大丈夫です」

「すみませんでした。お怪我はありませんか」


「何言ってるんだいこんくらいの揺れ戦闘時に比べれば全然大したことないよ」

「じゃあ話を続けるよ」

「ではゲート出現には他になんの条件があるのか」

「それはとある物質がゲートの発生場所付近で多く発生するんだ」


「とある物質ですか…?」


「恐らく八重咲は聞いたことがない物質だと思うよ」

「(ヴァロータ)というんだ。プラネティウヌゲートが発生してから初めて発見された物質なの。


「ヴァロータ?確かに聞いたことないですね…」


「まあ普通に生活してればこんな単語聞かないよね…」

「それじゃあ話を戻すよ」

「ゲートの出現地付近にはヴァロータが大量に発生するの」

「これはパイロットは絶対に覚えておかなくてはいけないことの一つだから必ず覚えておくように」


「ラジャー」


八重咲はかっこよく返事を返してきた。

っとそのすぐ後であった。


「ピーピーピーピー」


機体内に小うるさいメーターの音が鳴り響く。

それと同時に無線通信が入った。


「ザーザーえーこちら弓削です」

「複数のLevel3UMAの反応がありました」

「繰り返します。複数のLevel3UMAの反応がありました」

「護衛機以外は直ちに事前に伝えてあった迂回ルートへ航路を変更してください」


無線の主は弓削であった。

弓削は冷静に指示を出した。


「level3って結構手ごわいUMAなんじゃなんですか?」

「そ、そんなのと対等にやりあえるの私かな?」


「八重咲無線の話聞いてたか?」

「戦うのは私たちの護衛をしてくれる人たちだけだ」

「私たちは戦わないよ」


「ほっ!それは一安心です」

「でもlevel3って結構手ごわいと聞きますよ」

「護衛の人たち大丈夫でしょうか?」


「はははは。あの人たちを舐めちゃいけないよ」

「護衛の人たちは皆UMA対策チームの人たちなんだけどlevel4をとサシで戦って勝利を収めるような連中だぞ」

「level3なんか朝飯前よ」


「すごいあのlevel4を倒しちゃうなんて…」


八重咲は少し大げさに驚いた。

でも驚くのも無理はない。

UMAにはそれぞれlevelがある。


ーーーーーーーーーーーーーーー

LV1-ほぼ無害のUMA

大抵は小型の生き物で習性を理解してればペットや家畜として飼うことも可能

しいて害の部分を言えば、接する人によってはアレルギー源や病原体になることくらい


LV2-危険度の低いUMA

大型の草食動物レベル、以下LV1と同様


LV3-猛獣レベルのUMA、エイリアン、プレデター級もここに入る

大型肉食獣や超大型草食獣並、ペットや家畜化はまず無理


LV4-怪獣レベルのUMA、ウィルス型UMA

ドラゴンのような非実在の怪獣や幻獣と同クラス、

後者はペスト、HIV、SARS級の新たな病気を引き起こす程に強力。


LV5-宇宙空間を彷徨う有機物質や生命体

現れれば人類滅亡クラスのUMA。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


これでlevel4の手強さがわかっていただけただろう。


しかし柊じゃどうもこの弓削の指示に納得がいかなかった。


(迂回ルートを取るのはいくらなんでも危険すぎる)

(ここは旋回してもう一度東京タワーの方へ戻る方が得策だろう)

(迂回ルートを取って一時的にUMAからは逃れられたとしてもこの先にもまだUMAがいる可能性がある)

(しかし旋回後東京タワーに戻った場合はさっき来た道を引き返すだけだからUMAと遭遇する確率は迂回するよりも断然低いだろう)


できるだけ柊は戦闘を避けたかったため弓削にもう一度無線で連絡を入れることにした。


「こちら柊。弓削少尉さすがにこの子たちにUMAとの戦闘はまだ早すぎます」

「ここは旋回して東京タワーへ戻るルートに変更した方が得策ではないでしょうか?」


「ザーザーザーザー」


しかし弓削からの応答はない。


(くそーもう戦闘が始まってるのか…)


しかし後々考えれば恐らくこれは弓削の仕掛けた罠にまんまとハメられたようであった。

弓削は八重咲たちをUMAと戦わせてUMAと戦闘するのに適しているかどうかの適性判断をするのが目的であるのだろう。

しかし弓削と連絡が取れない以上勝手な行動を取るわけにはいかない。

ここは止むを得ず弓削の指示に従うしかなかった。


「柊中尉。う、迂回ルートに入ってよろしいのでしょうか?」


「…仕方ない。迂回ルートに入れ」


「ラ、ラジャー」


そして柊たちを乗せたリフレク・レーベルは迂回ルートへと航路を変更した。


「ピーピーピーピー」


(護衛機3機と訓練機4機…)

(もしUMAと出会ったらどう切り抜ければいいものか…)


「ピーピーピーピー」


「…」

「あ、あのー柊中尉」


「…」


「ピーピーピーピー」


「え、えっとちゅーいーーーーー」


「はッ!ごめんごめんつい考え事をしてた」


「中尉。このピーピーなってるやつってなんなんですか?」


「ん?ああそれか。それはヴァロータを探知できる機械だよ」

「実は今現在使用している戦闘機のほとんどはこの機械を取り付けてあるの」

「このメーターは万能でね」

「なんと情報を近くのナディエジータが管理している支部、管制塔すべてと共有することができるのよ」

「だから例えばお台場を戦闘機が飛んでいるとしましょう」

「ヴァロータの発生数値が一定数の100を上回るとゲートが出現すると言われているの」

「そしてお台場にてヴァロータの発生数値が一定数を超えそうになっていると戦闘機から情報が近くの管制塔へと自動送信されるの」

「情報をキャッチした管制塔はすぐさまヴァロータ発生10キロ圏内に警告を出すの」

「これでゲート出現を事前に知ることができるようになってるってわけよ」

「そしてこの音はまさしくそのヴァロータが一定数を超えてるときに出される警告音なのよ!」


(ビシッ!決まった…)


「…」

「え、えっとじゃあ柊中尉」

「この音が鳴っているということはヴァロータが一定数集まったというわけですよね?」

「ってことはもう間もなくこの付近でゲートが出現するということなんですよね?」


「おお呑み込みが早いなつまりそういうことだ…」

「って…え?」


柊はすぐさまメーターの方へと視線を移した。


「ピーピーピーピー」

(ヴァロータの発生数値が一定を超えました)

(直ちにこの地点から10キロ以上離れてください。)


メーターに文字が浮かんでおり警告が出ていた。


「ま、まずい。八重咲すぐに旋回しろゲートが開くz」


「ドーーーーーーーーーーーーーーン」


「…」


「…」


まさに言葉にできない光景とはこういうもののことを言うのだろう。

柊は悪い夢でも見ているのかのように思えた。

いっそ夢だと思いたかったでもこれは夢ではない。

柊の目の前に広がる景色は大量のUMAが出てくる光景であった。


(あの時、あの時と同じだ)


柊は震えが止まらなかった。

それは八重咲も同様であった。

しかし八重咲の震えは柊の震えとはまた違う。

痙攣を起こしてしまっているようにも見えた。

もう八重咲には操縦する勇気などどこにもなかった。

夕闇の中柊たちはその闇に静かに飲み込まれていった。


(UMAたちが近づいてくる…)


いまだその様子を呆然とただ眺めていた柊たちが我に返ったのは、一本の無線が機内に流れてからのことだった。


「こらっ、瑠湖っ!八重咲っ! 何をしてるのっ!?」

「このままボっーとしてたら撃墜されるわよ!?」


この力強く叱咤する声の主は赤城であった。

この声にハッとして柊思わず辺りを見回す。

公務のときは柊だけでなく、全ての隊員を苗字と階級付けで呼んでいる赤城が、こうして普段のように名前で呼びかけたのは、それだけ柊たちの様子が余程異様で危なっかしく見えていたのだろう。


(かなり後方に居るはずなのによく状況を把握してるな)


その後は、今まで無言だった青海からも無線が入ってきた。


「柊中尉、八重咲少尉、落ち着いてください」

「よくあのUMAたちを見てください?」


冷静に改めてゲートを見ると、そこから現れて宙を漂うUMAは、かつて幼い柊を恐怖に陥れたテレビの光景のものや、あの怪鳥とは全く別物だった。

先程まで私たちを覆いつくしてたように見えたゲートも、よく見たらここから数百メートルくらい離れている。

どうやら大量のUMAや闇の光景は、緊張とトラウマから過去を重ね合わせて出来あがった白昼夢だったらしい。


(いけないな、こんなところで悪い癖が出てしまうとは…)


「す……済まない、赤城中尉に青海少尉、私はどうかしてたな……フォロー感謝するよ」

「さて八重咲も、そろそろ落ち着いて正気に返ろう!」


まだ震えの止まらない八重咲の両肩をポンッ!と軽く叩き、なるべく優しめな口調で話しかけた。

このとき一旦座席のベルトを外し、彼女の耳元に口を近づけたのはここだけの秘密。


「え……はっ、はいっ柊中尉」


次々にゲートから飛び出して上空を飛ぶ、鋭い歯を持つ細長い胴体をした数十匹ほどの魚群。

あれはバラクーダの群れであった。

バラクーダは体長1メートルから1、5メートルくらい。

全長20メートル近いリフレクレーベルを前にしては、個体では戦闘にすらならない問題外の相手だが、あれだけの集団が時速100キロ以上の猛スピードで迫ってくるなら話は別である。

かといって真正面から対峙して、弾丸・弾薬を無駄使いするのも馬鹿らしいと思った柊はこう指示を出した。


「全機、上空に退避っ!」


柊は迷わず判断を下すと、八重咲はその命令に従い「むーーーんんんーーー!?」と必要以上に気合を入れて操縦桿を引いた。

全ての訓練機と護衛機が退避した直後、柊たちの機体のほぼ真下をバラクーダの群れが通過していく。


(まさに間一髪の状況だったな…)

(仮にあの集団に飲み込まれたところでこの機体の装甲や防弾ガラスのコクピットにはヒビ一つ入らないだろうが、万が一エンジンにでも吸い込んだら墜落の可能性は充分にあった)


「バードストライクですね~!」

「あっ、でも魚だからこの場合フィッシュストライクですかね?」


「……」


いつの間にか八重咲も、こんなことを言うくらい落ち着きを取り戻していた。


(八重咲…正直そのジョーク全然面白くないぞ…)


「柊中尉。バラクーダをやり過ごしたってことは、もう危機は去ったということですか?」


「まさか、あの魚が集団で必死に逃げるのは、それを狙うUMAがいるって事だよ」


「ええっーーー、あれよりもっと怖いのが出るんですかーーーー!」


「八重咲少尉……」


私は八重咲の暢気さに半ば呆れながらも説明してみる。


「あのねバラクーダなんて、宙域と地球上空を飛べること以外は、殆ど地球の魚と変わらないLevel1の雑魚UMAなんだから」

「まあ、あれの天敵といえば、ヴァルラウンやアルゲンダヴィスのような鳥類系のUMAに、あとは海洋生物系のUMAかな」


「海洋生物系ですか?」

「それはどんな生き物がいるんですか?」


「う~ん、まずは大型の魚類とかサメ系や小型のクジラのようなUMAかな」

「そういうのは滅多にこんな上空には現れないけど、特に注意するのはラスイートっていう

30メートル近くあるウチュウイタチザメだね」

「それに寄生してるファスイートも目立たないけど5メートルくらいはあるし…」

「でも一番厄介なのはなんと言ってもアレかな」


柊は今の状況を踏まえて、最も出現の可能性が有り得そうな、しかし最も遭いたくないあるUMAの存在を思い浮かべた。

これだけ多くの魚の群れでも一度で全て食べ付くしてしまいかねない巨大モンスター。

柊は今からそれが現れたときの作戦を考える。


(セイレーンに乗ってた花梨ちゃんは離れたから、今いるのは訓練機と護衛機のウンディーネを

合わせてもこの6機のみ)


ウンディーネは水を使った画期的な攻撃方法がある機体である。

副武装の高水圧カッターは当機で最も威力の高い武器であるのだが搭載できる水量に限界があり、それが尽きた時は並レベルの戦力に落ちることから主武装にはできないというのが難な機体である。


(訓練生の経験不足は大きなハンデだが、ここはやるしかない)


サイズが狭くなり閉じかかっているゲートからは、いまだバラクーダの群れが続々と出てくるが、その後方は列が乱れて傍目にも異常事態なのが明らかだ。

もはや、あの生き物の出現は間違いないと判断した柊は、全機に無線を入れてそれと戦うことを想定した策をみんなに伝えた。

お台場の本部にもこのことを伝えて、可能ならばと前置きしたうえで増援を要請しておいた。


「柊中尉、我々は本当にそんな怪物相手に勝てるんですかーーー!?」


「ああっ、心配ないよ」

「私は以前スターダンサーで宇宙に出たとき、あれとサシで戦って仕留めたこともあるんだ」

「それに赤城中尉もウンディーネのパイロットの人たちもあのUMAとは対決してるしね、まあ安心しなさい」


「でも、これって旧式のリフレク・レーベルですよね?」


「正直それは言わないでほしかったな……」

「ま……まあ大丈夫だろう、これもスターダンサーの前身に当たる機体なんだし」


訓練生たちを率いた初の戦闘を前にして、水を差されてちょっとへこんだ柊の耳に誰かの無線から「ぷぷぷっ……!?」と吹き出す声が入って来た。


「いや~、面白いな~」

「不謹慎だけど二人のやり取りに思わず笑っちゃった」


この反応は赤城であった。

そして緊張を解すように訓練生たちに向けてこう語りかけた。


「訓練生のみんな」

「柊中尉は隊長になってまだ日は浅いし、危なっかしい ところもあるけど、これでも歴戦の猛者なのよ」

「ここは一つ彼女を信じて賭けてみましょう!」


「「「「はいっ!!!!」」」」


無線を通して、八重咲を始め4人の訓練生の声が重なって聞こえてきた。


(頼りない隊長で済まないが、みんな無事に帰してみせるよ)


ついにゲートを通過した1体のUMAが魚群を飲み込みながら現れた。

全体的に赤みがかった色合いで、有に20メートルから25メートルはありそうな巨体それに見合った、大木のような10本の太く長い脚をクネクネとうねらせバスケットボールを何倍にも拡大したような、おそらく人間サイズを超えている目は明らかに柊たちに強い敵意を向けている。

そのUMAはウチュウダイオウイカだった。

非常に獰猛な性質で、地球の海域、宙域を荒らし回るまさに怪物中の怪物。

何度見てもその迫力には圧倒される。

でも生きて戻るためには絶対倒さなければならない。

意を決した柊は全機に号令をかける。


「全機攻撃開始!」


ついに戦いの幕が切って落とされた。


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訓練飛行終了後:居酒屋イトカワ


訓練飛行が終わったの夕方、太田司令官への報告を終えた私は、ナディエージダの居住区にある馴染みの居酒屋で、気の合う仲間たちと飲んでいた。

八重咲ら訓練生はみんな心身の疲労が激しく、そもそも未成年なのでここに連れて行くのは無理だった。参加メンバーは赤城をを始め、以前は同じクルーだったジョセフ照屋中佐と崎村少佐、あとは医師の南条藍香に、整備長の神津勘七と、その一番弟子を自認する野間巧来の7人だ。

柊たちと南条はカウンター席に、あとの男性陣はテーブル席に着いている。


「なあ柊。お前どうやって、あのウチュウダイオウイカを倒したンダ?」


店に入ってから、さっそく今日の戦果を興味津々で訊いてきたのは崎村少佐であった。

藤の花のような淡い紫色の髪からも分かる通りナディエージダ屈指の変わり者である。

両目が隠れるくらい長く伸ばした髪型の奇抜さも相俟って、かなりインパクトのある風貌である。


(いつも思うけどこれって軍紀違反にならないのかな?)


UMA対策チームの小隊長ということもあってか、この件には強い関心を示している。


「確かにな~、旧型機に乗った新人たちを率いて戦えって言われたら、俺でも躊躇するよ」

「それを成りたての隊長が、一人の死者も怪我人も出さずに帰ってこれたんだからたいしたもんだ」

「どうしたらこんなことが可能なのか俺も知りたいよ!」


少佐の発言に続いたのは、巨漢の黒人だが、よく見ると顔立ちはアジア系のジョセフ照屋中佐。

柊が新人だったとき、教官として基礎的な体力作りから、機体の操作やパイロットとしての

心構えなどを事細かに指導を受けた、謂わば恩師の一人だ。

沖縄生まれの日米ハーフで趣味はジャズ鑑賞。

また語学にも堪能で、日本語、英語を始め数ヶ国語を話すことができる。


「そうですか。じゃあ説明しますね~!」

「作戦そのものは凄くシンプルなんですけど!」


普段なら無闇に戦闘の事を話すことはしないが、かつての上官2人に請われたため柊は仕方なく話した。


「あのとき私が決断した作戦は、徹底したヒット&アウェイー戦法だったんです」

「6機の機体で宇宙ダイオウイカを取り囲み、集中砲火を浴びせて反撃に出たら退避をひたすら

繰り返し、相手が弱ったところを見計らい、ありったけのミサイルを全てぶち込んだんです」

「もっともそこまで追い込むまでには、宇宙ダイオウイカの抵抗も激しく、ムチのようにしなる

足攻撃を必死で避けながら、隙を見てミサイルと砲弾を打ち込まないといけないのですが…」

「最初は若干劣勢だったのですがあることを境に流れが変わったんです」

「流れが変わったのは八重咲少尉が放ったミサイルが宇宙ダイオウイカの目に命中してからなんです」

「たぶん偶然だったでしょうけど、それでも大ファインプレイでした」

「そのとき広範囲に吐き出した大量の墨が機体に掛かって、コクピットの前部が見えなくなったの

には慌てたましたけれど、ウンディーネが放水で洗い流してくれたので助かった」

「結局、宇宙ダイオウイカに止めを刺したのも、ウンディーネの高水圧カッターだったんです」

「これも集中砲火用に機関砲が使えたからなんですけどね」

「ミサイルだけでは心許なかったし…」


「なるほどな、訓練を始めたとき、整備班に頼んでたのはそのことだったのか」


ジョセフ中佐の感心したような声に割り込んだのは野間だった。


「でもその分、こっちは改造に苦労しましたよ」

「いや取り付け自体は難しくないけど、これをたった3日でやれと言うのは無茶もいいところだ!?」


「なんだい野間、私のやり方に文句があるのかい?」

「できればレーザー砲も欲しかったくらいなんだけど!?」


「まあまあ、落ち着けや二人とも」

「なあ巧来、このことでお前もいい勉強になっただろ?ワシも少しだけ手伝ったが、なかなか遣り甲斐があったぞ」


「え…まあ、そうかもしれませんけどね…、柊中尉の無茶な要求はいまに限ったことじゃないし実戦で役に立ったというなら悪い気はしないっすね」


「こちらも済まない、たしかに役に立ったからそこは感謝しているよ」


またもや柊と野間は口論になりかけたがそこを絶妙なタイミングで宥めたのは神津整備長であった。

男性としてはやや小柄でガッシリした体格に、トレードマークの白髪混じりな角刈り頭。

そして面倒見がよく人情味のある人柄で、昔の人気コミックの主人公だった

下町の交番に勤務する警察官によく似ているが、この人は根っからの技術者だからたぶん拳銃なんか握ったことはないだろう。


「赤城くん。あの二人っていつもこんな感じなのかい?」

「ええ、大体こんなもんです」

「喧嘩するほど仲が良いってことですね!」


柊や赤城と一緒に並んで話を聞いていたショートヘアの女性は、ナディエージダの医療班に所属する外科医の南条先生である。

訓練生時代によく怪我をした柊も世話になっていた。

いつもは白衣だけど、黒のパンツスーツに身を包んだ今の姿も颯爽として似合ってるおそらくスカート姿も素敵だろうと周囲からは言われているけれども残念ながらまだ穿いているのを柊は見たことがなかった。

むろん柊にとって鷹城と並ぶ憧れの人だ。


(とりあえずここは誤解を解いておこうか…)


「「ち、違います。そんなんじゃありません!!」」


(って、なんで野間まで重ねて言ってくるんだっ? )

(これじゃあ……)


「「「「「ドッ!! ワハハハハッ!!!?」」」」」


案の定みんなの笑い声が飛んできた。

よく聞くと他の客や店の大将の声も混じっていた。

正直UMAや敵戦闘機と戦ってたときがマシだと思えるくらい恥ずかしいと柊は思った。


「いや~、若いっていいな~、俺も結婚前の事を思い出したよ!」


「やっぱり、息ピッタリでお似合いなんじゃないか。この二人は」


「そ、そうでしょうか…(この人、瑠湖の趣味しらないからな…)」


この日は、こうして一日を終えた。

新部隊の初陣としてはまずまずの結果であった。

あと一月もあれば立派に第一戦で通用する隊に育つだろう。

柊はそんな手応えを掴んでいた。

だがそんな期待が脆くも崩れたのは、それから一週間後のことだった。






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