第3話 失われた八重咲の記憶とナディエージタの誕生秘話
「東京タワーオペレーション、リフレク・レーベル、柊中尉、こちらの誘導に従い機体の移動をお願いします」
東京タワーの管制室から誘導の連絡が入る。
「了解、誘導頼みます」
柊が応答の連絡を入れる。
「ところで赤城達はまだ来ていないのか」
八重咲が機体をハンガーに移動している間に赤城達の状況についてオペレーターに尋ねる。
予定では赤城中尉と訓練生2人は柊達とは別ルートを通り東京タワーに到着する事になっていた。
「予定していたルート上で護衛機がエニーヤの群れを発見し、赤城中尉は迂回ルートを取られました」
「こちらへの到着にはもう40分程かかるかと思います」
「そうか、ありがとう」
・・・・・
東京タワー ターミナルビル展望室
ひとまず機体は整備員に任せ、3人は赤城達が到着するまで展望室で待つことにした。
「ここもすっかり変わったんですね、まさか滑走路が出来るなんて私が子供の時は考えられませんでしたよ」
八重咲が窓の外に広がる滑走路を見ながら呟く。
「実は私、テレビとかでしか東京タワーを見た事なかったんですよね…」
「私が来た時にはもうタワー横に空港があるみたいな感じだったし」
八重咲は少し悲しげな表情を見せていた。
「でも正直少し今の方が小さいだけで実際の東京タワーとはさほど変わりないけどね」
「しかも本物は小汚かったし(ボソッ)」」
「まあ確かにそうですよね…」
(少し励まそうと冗談っぽく言ったつもりがこりゃ全然励ましにになってなさそうだ…)
「…」
「…」
「…」
その後少しの間沈黙が続いた。
「…」
「…」
「…」
(このまま空ちゃんたちが来るまで黙っててもいいがやっぱり空ちゃんたちが来た時には明るくにぎやかに迎えてあげたいしこのままの雰囲気を保つのは得策ではないな…)
っと思い柊は無難に二人にこのような質問を投げかけた。
「そういえば二人って何歳なの?」
実は柊は二人の上官にも関わらず二人のことについてはよく知らない。
確かに鷹城中佐からは彼女らの年齢や出身地などの個人情報が書かれた資料はもらっていたのであるがどうも忙しい日が続いたため目を通すことができていなかった。
「えっと私は今年で17になります」
八重咲が答えた。
「私はその一つ上です」
八重咲に続くように青海も口を開いた。
「17と18かー」
「若いねー。じゃあ二人は襲撃前の日本の印象は少し私たちに比べたら薄いんじゃない?」
「はい。私の襲撃前の日本の印象としては家族と田んぼぐらいしか印象に残っていませんし」
「田んぼ?」
「はい。私は元々東京の生まれではなく宮城県の山奥の方で生まれました」
「そこで6歳のころまでいました」
「しかしある日突然空に巨大な穴が開き穴の中から見たことないような生物たちが沢山出てきました」
「これが私の最も印象に残っている襲撃前の日本の話です」
(襲撃前で一番印象に残っていることが襲撃のことについてなんて…)
(まあ私も襲撃前のことで印象に残った思い出なんてろくなものがないけどね)
「やっぱり宮城の方にもゲートが開いてたのか」
「そういや八重咲、お前はその襲撃の時どうしてたんだ?」
「…」
この質問をした途端八重咲は口を開かなくなり表情も激変した。
(あ…!さすがにこの質問はまずかったか)
(確かに世界崩壊した日のことなんか誰も思い出したくないよね)
(私も思い出しただけで反吐が出るもんな…)
すぐさま違う話題に変えようとした時八重咲の固く閉ざされていた口が開いた。
「何も…何も覚えていないんです」
「「え?」」
驚きのあまり青海と声が被ってしまった。
「私は…空に穴が開いてUMAが出てきたところまでしか記憶がないんですよ」
「家族や友人がどうなったかや私の住んでいた村がどうなったのかとか私は何も思い出せないんですよ」
「八重咲…」
(襲撃時のショックで記憶が混乱してしまい軽い記憶障害を起こしてしまうとは聞いたことがあるがまさか彼女がその一人だったとは…)
「あんなすごいことがあったのに何も覚えていないなんて自分で自分が怖くって…」
八重咲はものすごい青ざめた表情をしていた。
目も涙目になっておりいつ大粒の涙が零れてもおかしくないほどであった。
「…」
「あーこの話はやめやめ」
「ごめんな嫌なこと思い出させちゃって」
「いえいえとんでもないです中尉」
「…」
「…」
「…」
そして場の雰囲気は再び沈黙へと戻っていくのであった。
何か明るい話題はないかと柊は頭の中をグルグルとかき回してみたが一向にいい話題が思いつかない。
(くっそーこんな時空ちゃんならきっともっと明るくて楽しい雰囲気になっていただろうに)
(それなのに私ときたら人とそんなに話すことがなかったがために部下にトラウマを思い出させてしまい空気を一気に悪くしてしまうし…)
(上官失格だ…)
っと心の中で嘆いているとこんな発言が聞こえてきた。
「ひ、柊中尉」
「そ、そういえばナディエージダっていつから活動していたのですか?」
八重咲がブルブル震えながら私に質問をしてきた。
恐らく自分が場を悪くしてしまったことを察してその償いをしたのだろう。
(後輩に気を使わせてしまうなんて…)
「すまない八重咲」
「え?」
「あ、い、いやなんでもない」
八重咲への謝罪が心の中で言ったつもりが言葉に出てしまった。
「ゴホン、で、ではナディエージダがいつからあったのかという話だがまずはひとつ昔話をさせてもらおうかな」
「昔話ですか?」
「あーそうだ。私も昔聞いた話だ」
「タイトルはそうだなー?「希望の始まり」とでも名付けるか」
「それでははじまりはじまりー」
ーーーーーーーーーー
話は今から10年前に遡る。
ロシアのある所に軍人Aと宇宙飛行士Bがいました。
二人は幼馴染でたいそう仲が良かったそうです。
二人は昔から自分たちの故郷にある決まった酒場で酒を飲みながら他愛のない話をして朝まで飲み明かすのが大好きでした。
それは二人がそれぞれの仕事に就いてからも変わらず同じ日に休みを取っては二人で色んな話を語り合ったという。
しかしそんな日はそう長くは続かなかった。
あの日ロシアでも日本と同じようにゲートが開きUMAたちからの襲撃が受けました。
そしてその日を境に二人は会うことができなくなってしまいました。
でも2年後のある日少し地下での生活が落ち着いてきたときにAは地下に籠りっぱなしでは体に毒であると考え気分転換も兼ねて地上に出ることにしました。
外に出てみると街は荒れ果てており空には見たことない大きな怪鳥が空を優雅に飛んでいました。
Aはこの光景を見て人類はもうそう長くはないことを悟りました。
怪鳥が居なくなるのを待ち怪鳥が消えた瞬間Aは街の方へと走っていきました。
Aは人類が滅ぶ前に一目見ておきたいと場所がありました。
それはBとの思い出がある酒場でした。
Aは何の迷いもなく酒場の方へと行きました。
しかし酒場に着いたはいいもののやはり酒場も今まで自分が通ってきた街と同じく倒壊していました。
たまたま落ちていた酒場の看板を見てAはふと今まで忘れていたBとの思い出のことを思い出しました。
幼少期のころよく二人で遊んだこと。
学生時代同じ女の子を好きになってしまいその子を巡って何度も喧嘩をしたこと。
酒場で朝まで飲み明かしたこと。
Bのことを思えば思うほどAの涙の数は増えていった。
そしてAは涙が果てるほど泣いたあと地下に戻ろうとしたところで奇妙な生物の鳴き声が聞こえた。
Aは急いで上を向いた。
しかしもう遅かった。
Aはお腹を怪鳥にがっしりと鷲掴みされていた。
Aはもうだめだと思い脳裏にこんなことがよぎりました。
(もうこんな腐った世界にこれ以上生きていても意味はないんだ)
(最後に忘れていたBとの思い出を思い出せただけでもう俺は満足だ)
(もう思い残すことはない…)
そしてAはゆっくりと目を閉じました。
お腹を掴まれていた痛みが少しずつ和らいでいく…
(ああ。痛みが消えてきた)
(もう俺は死んだのか…)
そこでAは自分が死んだことがわかりました。
「そして死んだあとすぐにBの声が聞こえてきました。
「おい。A起きろ」
「おい!冗談はやめろ。早く起きろ」
Bの声に反応してAはすぐに瞼を開きました。
すると目の前にはBとさっき自分の真上にいた怪鳥が横たわっている姿がありました
「え?Bも死んでたのか?」
「あれさっき俺を食べようとした鳥もいるぞ…」
「は?なに寝ぼけてんだA」
「俺もお前も死んでなんかいねーよ」
「ちゃんと生きてらー」
そういうとBはAの何度も頬っぺたを抓りました。
「痛い痛い。なにすんだ!」
「痛いだろ。ここは天国なんかじゃねー現実という地獄だ。」
「え?現実?ちょっと待てよ。じゃあ俺は生きてるってことか?」
「ああそうだ」
「お前はあの俺の知っているBなのかい?」
「ああエレーナを愛し合い取り合った仲だろ?」
「まさかそれも忘れてるっていうのか?」
「俺はしっかり覚えてるぞ」
「確か中学に入った時だったか?」
「そん時にお前から食らった顔パンはよーく覚えてるぞ」
Bは少しにやつきながらそう答えた。
Aはその瞬間泣き崩れて立てなくなってしまった。
Bも同様に目からはポタポタと大粒の涙が零れていました。
二人は思い出の場所で感動の再開を果たしたのでした。
「また俺がお前をここ(酒場で)待たしちまったな」
「いや俺も今来たところだ」
二人はいつものように酒場で会った時に交わすような会話をしていた。
そして少し落ち着いたところでBはAにこんなことを話した。
「さっきあのうんこたれな鳥を殺れたのはこいつのおかげだ」
Bはそういう地面に置いていた少し大きめの銃を見せつけてきた。
「これは俺の作ったRDBガン、獲物が大きければ大きい程よく効くんだ」
「す、すごいこんなものを地下で作れるなんて…」
「いや。まだまだ改良する点はたくさんあるんだ」
「今日は新しく改良したこのこいつを試すためためにちょっくらいつもの酒場まで散歩に来てたらたまたまおめーが捕まってたって話だ」
「でも今回おめーのおかげでまたひとつ改善箇所が増えた」
「あんがとな」
「ああ」
そしてそのあとBは唐突にこんなことをAに尋ねました。
「なあA。お前この世界のことどう思うんだ?」
Aはもちろんこんな世界は嫌であった。
「こ、こんなバカげた世界嫌に決まってるじゃないか」
「フッまあそうだろうな」
「なあA。俺たちでこのクソッたれな世界に希望を与えてみないか?」
「希望?」
AはBの言っている言葉の意味がよくわからなかった。
「希望を与えるんだよ」
「そう俺たちで協力してロシア軍なんか屁でもねえくらい強くて人類の大いなる希望となる軍隊:ナディエージダ:を作ろうぜ!」
「ナディエージダ…」
AはそのBの提案は明らかに無謀である。
こんな世界を変えることなんて絶対できないと考えていた。
しかしAの発した言葉をその考えとは逆であった。
「Bならできるはずだ」
「いや…俺たちならこのクソったれな世界を変えられる!絶対に!」
Bはにやりと笑いこう言った。
「それでこそAだ」
「よしじゃあ交渉成立だお前も今日からナディエージダの一員だ」
こうして二人は互いに握手をしあった。
そしてこの日、2027年7月1日世界協同宇宙ステーションナディエージダが誕生したのであった…
ーーーーーーーーー
「っとまあこれがざっとしたナディエージダの始まりの話だ」
(話しすぎて喉が渇いたな…)
「へー今でこそこんなに大きな組織だけど最初は二人からのスタートだったんですね」
「いやでも正確に言えば10人からのスタートなんだけどな」
「え?」
「実はBがAに提案する前からもうすでに活動も開始していたんだよ」
「でもBがAの入った7月1日は区切りがいいし覚えやすいからこの日をナディエージダの設立日にしようと提案したらしいんだ」
「そうだったんですか」
「でもやっぱり10人からでもこんな大きな組織にするなんてすごい話ですよ」
「まあね」
「へー…」
「…」
「…」
そしてまた無言が始まる…
(はあー…話のネタが尽きた…)
外の景色を見るがまだまだ滑走路上での目立った動きは特に見られない。
赤城たちが来る気配は一切なさそうであった。
(もう少しの間話を繋げなければ…)
「え、えっとなんか二人は私に質問とかないのか?」
「ほら!ナディエージダのこと以外でもいいぞ」
「例えば私のことについてとか?」
「…」
「…」
(無視ですか…)
(一体何の罰ゲームなんだ?)
(普通先に着いた方はご褒美ってもんがあるだろうに…)
っと心の中で愚痴をこぼしていると…
「はい」
青海が手を挙げた。
「おおぅ青海質問か?」
「私のことについてなら体重以外ならなんでも答えてやるぞー」
「あ…!いえ柊中尉に対しての質問じゃなくて地下都市についての質問なのですが…」
自分に対しての質問だと勘違いし張り切った自分がバカみたいなようで恥ずかしいと柊は思った。
「実は私昔からずっと気になっていたんです」
「地下都市って襲撃前にはもう今の形でできていて東京のほとんどの区では皆襲撃した次の日にはもうすでに地下都市への生活の移行が完全に完了いましたよね?」
「でもそれって少し変じゃないですか?」
「まずなんで地下都市がもうすでにあるんですか?」
「そして生活の移行に関してもあの手際の良さ」
「どう考えてもおかしいと思いませんか?」
「こんなのまるで…まるでゲートが開くことが最初からわかってたみたいじゃないですか」
「柊中尉も私と同じく東京出身と聞きます」
「柊中尉はこれについてどう思いますか?」
(地下都市の質問か)
(でも地下都市に関しては確かに不明な点が多すぎる)
(元々核戦争時のシェルターとして世界各国で作られていたというがその時の世界の政治状況からはどう考えても戦争の起こる雰囲気ではなかったはずだ)
(しかもUMA襲撃時の自衛隊たちの対応はまるで前々からこの襲撃が起きるとわかっていたかのようなふるまいを見せたという)
(それもどこの国も日本と全く同じような状況だったと聞く)
(確かにこの話は青海や八重咲と話し合ってもいい気がするが正直この話題が明るい方向にいくとは到底思えない)
(また沈黙の場を作ってしまうんじゃないだろうか…)
(いいや絶対作ってしまうに決まっている)
(この話はスルーした方がよさそうだな)
そう考え柊は二人にこう話した。
「…え、えーとなぁ青海」
「実はというとだな私は地下への移行時は気を失っていてよくその時の状況についてはわからなかったんだ」
「だからこの質問は私に答えることはできないんだ。ごめんな」
この発言は別に嘘をついているわけではなかった。
柊は本当に母親をUMAに殺された後の少しの記憶がないのであった。
「えっ!柊中尉も八重咲少尉と同じ記憶障害が起こったんですか?」
「いや記憶障害とまではいかないがまあ目の前でUMAに母親を殺された心のショックとUMAを目の前にしたときの恐怖感、その二つが合わさり私の心が現実逃避してしまったといったところだろう…」
「まあ確かに私もそんな状態に陥ったら恐らく心が壊れてしまうと思いますよ」
「中尉は精神力が強いんですね」
「いやそんなことないさ…」
っと過去のことを話していると八重咲がこんなことを聞いてきた。
「中尉、私も質問いいですか?」
「いいよ」
「ご気分を悪くさせたらすいませんが中尉はUMAを目の前にしたときの恐怖と先ほどおっしゃりましたがということは中尉はUMAの目の前で意識を失ってしまったということですよね?」
「ではどうやってその時の状況を切り抜けたのですか?」
「た、確かに気になります」
(まあここは私も聞かれるだろうとは思っていたが…)
「はは、そうなんだよねどうやってその時私はUMAから切り抜けたかだよね」
「簡潔に言うと私はその時気絶していたからよく覚えてないんだよね」
「やっぱりそうですよね…」
「でもね、その時どう切り抜けたかはわからないけどなんで私は助かったのかはわかってるんだ」
「え?何故ですか?」
「そうだねー私はその時とある人に助けられたんだ」
「彼は私をナディエージダに引き込んだ人であり私に生きる希望をを与えてくれた人なんだ」
「一体誰なんですかその人は?」
「あなたたちも覚えていた方が良い」
「彼の名は…」
っと柊がその人物のことについて言いかけたときであった。
「柊中尉、お久しぶりです」
一人の女性の声が聞こえてきた。
三人がその声の主に視線を向けると髪をハーフアップでまとめた少女が近づいてきた。
「あ、カリンちゃんじゃないか」
柊が驚きの声をあげると…
「お、お疲れ様です」
八重咲は突然現れた第三者に驚いたようで、直ぐに挙手の敬礼をしたが…
「八重咲少尉、制帽を被ってない時に挙手の敬礼は……」
と青海から注意されてしまった。
「し、失礼致しました」
「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ、あなた方がレーベルに乗っていた訓練生ですね」
「私は帰りの護衛を任されました」
「UMA対策チーム所属、弓削少尉です」
弓削 花梨、柊と赤城の元同僚であり、一緒にUMAの対処を行った事もある。
「久しぶりね、みんな元気にしてる?」
まだチームを離れてから半年も経っていないのだが、柊は懐かしさが込み上げてきた。
「ええ、一気に二人も抜けたのでクルーやバックアップ要員を決めるのが大変でしたが、小隊長や他の皆も元気にやってますよ」
「っとそんな話をしに来たのではないのでした」
花梨は改まると…
「ところで帰りのついでにあのヴァルラウンとハリツキエイの群れ、先に仕留めていても構いませんよね?」
「実際に動いているUMAを見られたのだから、次は対UMA戦も見せてあげた方がよろしいのではないでしょうか?」
やや突然な花梨の提案だったが、柊は「ああ、やっぱり」と言う表情を浮かべた。
「シミュレーションでの撃墜数はあまり良くありませんでしたが、がんばります!」
八重咲が緊張気味だが意欲的な態度を見せる。
しかし、それとは対称的に柊の表情は曇ったままだった。
「いや、それは容認できないね、たしかに太田司令からは『作戦中にUMAが作戦行動の障害となる場合にUMAの種類を問わず、これを排除しても構わない』と言われたけれども、今回の訓練飛行の目的は実機の操作に慣れさせる事が最優先だし、不用意にUMAの生息圏に手を出すが危険だと言うことはあなたも分かっているでしょう?」
花梨が一瞬残念な顔を浮かべたように柊には思えたが、更に言葉を続ける。
「なのでこちらから先にUMAに仕掛けると言うことはしません」
「分かりました」
「では機体の整備状況を確認してきますのでこれで」
っと言い残すと通路の角に消えていった。
「あ、あのー弓削少尉なんかとても残念な顔つきをしているように見えたのですが…」
青海が私に囁き声で聞いてくる。
「まあね。彼女は他の人に比べてUMAへの憎しみが多いんだよ」
「憎しみが多いいいますと?」
「襲撃の日彼女が家族といっしょに地下都市への避難をしている時に一体のUMAが現れたの」
「そして彼女の目の前ですべて壊したの」
「彼女はなんとか生き延びることができたんだけどその時彼女たちを襲撃したUMAはそのままどこかへ消えてしまったのよ」
「その日から彼女はUMAを恨むようになったの」
「そうだったんですか」
「まあでも今現在生きている人たちのほとんどはUMAに恨みがあるだろうけどね」
「確かにそうですよね…」
「もしUMAが来なければ私たちは地下に生活を追いやられることもなかったしこんな悲しみに溢れた世界も生まれなかったんですもんね」
青海は少し声のトーンを落として話していた。
私は少し不気味に感じ彼女から目をそらしてしまった。
ーーーーーーーーーーーー
数十分後…
かりんとの話を終えたあとぼんやりと窓の外の景色を眺めていると赤城達の機体が着陸するとの連絡が入ってきた。
滑走路に隣接されている格納庫の入り口で到着を待つ事にする。
「予定では私達よりも早く到着するはずだったのに…」
「オペレーターにさっき確認した所、想定していた迂回ルートを更に大回りしなければならなかったみたいですね」
「偵察任務ではよくある事ですよ」
八重咲がかなり心配そうな顔をしていたので、青海はそれほどの事でもないと励ますように言った。
「あれが赤城達の機体かな?」
柊が双眼鏡を構えた先には3つの機影があり、こちらに近づいて来る所だった。
それらの機体は着陸後、誘導路を通って格納庫に向かって来た。
遠くから見た感じでは特に損傷は見受けられなかったが、近づいて見てみると機体のあちらこちらに羽毛がこびりついている。
「こっちは予定通り沿岸側のルートを通って来てたんだけど、途中で大型UMAの反応が出たから一度来たルートを引き返したのもあって、それで遅れちゃったかな」
到着した赤城が状況の説明をすると…
「ちょっとこちらは様子を見に行ったつもりでも、彼らUMAにとっては縄張りを脅かされたと同じという事なんだろうね」
赤城は航路図に×印を付けた。
大型UMAの反応が確認された地点である。
「16時からこの東京タワーの定期パトロールがあるから、出発はその後?」
東京タワーのみならず、UMA防除対策でその基地に所属するUMA対策チームが定期的な巡回という名の駆除
を行っていた。
「ともかく帰りはこっちが通ってきたルートをまた戻るという事で」
柊は出来るだけ安全なルートを取りたかった。
「よしそれじゃあ私はこれで」
そう言い残すと赤城は展望室をあとにした。
柊は少し不安な表情を浮かべしまったが自分が不安な表情をしてしまうと部下たちが怖がってしまうと思い上官らしく胸を張り誇らしげな態度を取った。
そして上官らしく「じゃあ皆しっかり準備の方をしておいてね。」っと訓練生たちに指示をした。
「はい!」
私の指示に対して訓練生たちは元気に返事を返してくれた」
「一人を除いては…
「…」
その一人とは八重咲のことである。
(そういえばあの子、空ちゃんが来て帰りについての説明をしているときからずっとあんな調子だったな)
(目を開けながら寝ているというよりは魂が抜けている感じで正直ちょっと不気味だったな…)
(展望室で話していた時とは大違いだ…)
「八重咲。八重咲。やーえーざーきー」
「はっ!」
3回呼びかけてやっと気を取り戻したようだ。
「す、すみません。」
「え、えっとそ、そのなんか頭が急にぼーっとしてきてえ、えーとそのー…すいませんでした」
「八重咲。赤城中尉が帰りの経路のことについて話している時からずっとこんな調子だったよね」
「最初は真剣に聞いてるもんだと思っていたんだけどまさかぼーっとしていただけだったなんて…」
「すいませんでした」
八重咲は何度も柊に頭を下げてきた。
すると隣から青海が私にこんなことを話してきた。
「あ、あの柊中尉」
「実は八重咲少尉はこういう風に話の最中にぼっーとしてしまうことがよくあるんですよ」
「私も何度か赤城中尉の話の途中で注意をしたのですが…」
「私の注意不足です」
「申し訳ございませんでした」
八重咲に引き続き青海も頭を下げてきた。
二人とも何度も何度も頭を下げてくる。
柊はこういうのにはすごく弱いため上官としては許してはいけないものだとはわかっていたが人間的な感情が出てきてしまい二人にこう言ってしまった。
「んー、あーもうわかったわかったよ」
「でも今後おんなじようなことがないようにね」
「はい気を付けます。本当にすみませんでした」
(本当に私ってこういうのに弱いなー)
(今後私も上官になるんだからこういうことがないようにしなくちゃ)
(じゃないと空ちゃんに私がこっ酷く叱られるし…)
そんなことを考えながら柊は管制室へと歩いていった。
ーーーーーーーーー
30分後
赤城たちがついてから30分ほどで出発の指示が出た。
「弓削、セイレーン、発進します」
まず護衛の3機が空に上がる。
先行して航路の確保を行う役割である。
「八重咲、 リフレク・レーベル、発進します」
続けて八重咲、赤城と訓練機組が続き、4機でV字隊列を組んだ。
空では雲が何か渦巻いているような形を取り始め、夕暮れ前を迎えようとしていた。