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異世界で正しく生きるには  作者: 春に狂う
ここを拠点とする!
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戦うのは怖いです嫌いです!

VSゴブリン戦スタート!

緑色の肌、長く伸びた耳、尖った牙に歪な肉体。

お伽話に出てくる悪い妖精の様な見た目をした化け物。


「…ゴブリン」


知っている。その存在を、その名前を僕は知っている。

いや、恐らく知らない人は居ないだろう。それほどまでに有名な存在だ。

殊更に異形という訳ではなく、又、群を抜いて危険という訳でもないが、僕の知る限りその生態は、こと僕のような子どもにとって、最悪とも言える。



ゴブリン

ヨーロッパ……この世界ではどの辺りに位置するのか分からないけれど、僕が知る限りは上記の地方の“伝承”……昔話などで語られる妖精の一種だ。

醜悪な外見、邪悪な性格であるとされ、ありがちな悪役として伝えられる。


子どもを拐うとされ、拐った後のことは、地方によって異なるが、“兵隊として育てる”、“食糧とする”などが一般的だ。


鉱山に巣を作る…とも本に書いてあったけれど、この辺にもしかしたらあったりするのだろうか、鉱山…



そのゴブリンがいる。幸い、僕には気づいていないみたいだけれど、(ここ)にはバティ達がいる筈だ。

“子どもを拐う”なんて伝承を知っている以上、3人を見つけるまではこの林から離れる事は出来ない。


身を潜め、ゴブリンの周りを観察する…


右の方から回って行けば見つからずに通れそうだ。

死角に入れるよう屈み込み、ゆっくりと進む…

物語ではこういう時に枝を踏んだりしてその音で見つかってしまう事がある。きっと往々にして起こり得る事なんだろう。

足元に注意し、音を立てないように…ゆっくりと……


息が荒くなっている。

心臓の鼓動は警報のようだ。


じんわりと滲む手汗にも気付かず、僕は歩を進める。


「はっ…はっ………わぷっ」


何かが頭にへばり付く、足元にばかり気が向いて、頭上が疎かになっていた…一体何に……


-カサリ

と、聴こえるはずもない擬音を鳴らし、僕の体を這った虫…

4本足に特徴的なフォルムの胴体、ワサワサと動く顎に本能的嫌悪感を催すその虫…クモだ。


「わっわわっ、うわぁっ!」


反射的に、クモを払おうとした所為か、バランスを崩し転んでしまう。咄嗟の事で、つい叫んでしまった…


「ギギッ?ギャッギャ!ギャア!」


慌てて口を噤む。物音を立てないよう息を殺す…

足元を這う何かの感触がするけれど、必死で我慢し、やり過ごす。


「……ギギッ…?」


さっきよりも早く、心臓が鳴っている。

早鐘を打つかのような鼓動は、その音で見つかるのではないかと思ってしまう。


「ギ…」


-やり過ごせた。


そう安心した瞬間だった


「きゃっ!」


「わぁっ!」


「うにゅっ!」


-ドサリ、と

バティ、マリウス、ファロルが落ちてきた。

それもゴブリンを挟んだ僕と反対の方に…

当然、目の前に落ちてきたエモノに、ゴブリンが気付かない筈もなく…


「ギャギギッ、ギィ…」


ニタリと、怖気の走る笑みを浮かべヒタヒタと3人へと近づく。

3人は腰が抜けたのか、怯えた様子で震えている。


「ッぁァアアアア!!」


無我夢中だった。

気づけば僕は走り出していて、棍棒を握りしめ大声で叫びながら目の前のゴブリンへと振りかぶっていた。


「ゲギャッ!?」


「わぁああああ!!」


戦法なんてない。

勝ち目があるかなんて分からない。

ただ滅茶苦茶に棍棒を振り回し、目の前の敵を、3人から引き剥がそうとしていた。


「ギッ!?」


不意に、ゴブリンが躓いた。

木の根に引っかかったようだ。

好機とばかりに大振りを狙うが、済んでのところで躱される。


「ギィッ!」


バランスの崩れた僕めがけて、ゴブリンがその鋭い爪を振り下ろしてくる。


棍棒を盾に防ぐ。


ガリガリと、木を削る音を立てるが、棍棒の硬さが勝ったのか、ゴブリンの爪は棍棒に突き立ったまま、固定された。


体重を掛け、棍棒を傾かせ、ゴブリンを押し潰そうとする。

けれどこれも、自ら爪を折ったゴブリンが後ろへと飛び退る事で不発に終わる。


位置関係が逆転したようで、今は僕の背後に3人がいて、ゴブリンは先ほどまで僕がいた茂みの前にいる。


「ぁアっ!!」


横腹へ叩き込むように棍棒を薙ぎ、仰け反ったゴブリンへ二撃、三撃目を叩き込む。


「ッう!やあっ!」


「ギッ!ギギャッ、ゲッ!」


掠めるばかりで、未だ有効打が一撃もない。

焦りばかりが募っていく…


「ギャイッ!?」


けれどそれは相手も同じなのか、先ほどと同じ場所で同じ木の根に躓き、倒れこむ。

数巡の躊躇いもなく、素早く急所目掛けて振り下ろす


「ギッギギィ!」


ゴブリンが素手だった為か、素人の僕が振り下ろした棍棒でも受け止めきれず、ようやくゴブリンの頭に棍棒が当たった。

グシャリと、命が1つ散ったにしては間抜けな音と共に、気味の悪い色を辺りに撒き散らし、地面へと倒れ込んだ。


本当は何秒かだったかもしれない、1分と経っていないだろう。

けれど、そんな短い時間の出来事とは思えないほど疲弊していた。


「はっ…はっ…はっ…」


バクバクと、頭に響く鼓動を落ち着かせながら、荒い呼吸を繰り返す。

頭が真っ白になっている。

現状の把握が出来ない。ただぼーっと、目の前を眺めている。眼前の惨状を見るともせずに視ている。


「…お兄さん…?」


「えっ、にいちゃん?」


「本当だ!お兄ちゃんだ!」


「はは…探しに…きたよ…」


ああ、うん…本当は叱ろうと思ってたのになぁ…そんな気力もないや



手が震えている。


ゴブリンの頭を潰した感触が

命を1つ散らせた感触が


それが、この手に焼き付いている。

ヤケに間抜けな音と一緒に、潰れた瞬間のゴブリンの顔と一緒に焼き付いている。


撒き散らされた気味悪い色のように、僕の手にビッシリと。


それを誤魔化そうと、3人を抱き締める。

震える身体を隠すように、力一杯…



今は何も考えず、ただこうしていたかった…

「そういえば何処から落ちてきたの?」


「木の上ー!」


「登ってたー!」


「3人でふわーってしたのー!」


どうやら能力を使って木に登っていたらしい…


「あー、うんそう…けど危ないから、もうしたらダメだよ?」


「えー!」


「わかったー!」


「うん!」


「バティ?」


「はーい、ごめんなさい…」

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