開拓しましょう!そうしましょう!
108番くんの策謀が開始!
“策謀”と言えるほど腹黒くはないけれど、小難しく考えた計画は大抵子どもの気質の所為で頓挫するのはいつでも同じようです。
目が覚めたあの日から、1ヶ月程が経った。
初めはまだ警戒していた子たちも、少しずつ村の人たちに慣れ始め、今ではある程度話せる様になった。
けれど、話せる様になったからといって、これでハッピーエンドにはならない。他にも問題は山積みだ。
あの施設では食事といったものはなかった。食事=栄養補給という面が強かったのか、被験体でしかない僕たちに使うお金がなかったのかは知らないけれど、ドロドロとしたゲル状の何かが食事代わりに与えられた食べ物だった。
僕個人の話で言えば、餓死がどうとやらの実験でそれさえ与えられていなかったので、食べ物を上手く咀嚼出来なければ何かを飲み込む事も難しくなっていた。
顎や、喉周りの筋肉がキチンと発達しなかったからなのだろう。
最初の1週間はその事を理解してもらう為の説明と、対処を一緒に考えてもらった。
次の1週間で村の住民と交流を図り、その次の1週間は村周囲の状況を説明してもらったりした。
そんなこんなで1ヶ月が経ち、肉を食べられる様になった子も出てきた。
が、どうしようもない問題に直面した。
この村の食糧事情だ。
どうにも付近の村含めこの一帯で野菜や穀類の不作が続いているらしく、その原因が分からないらしいのだ。
1ヶ月かかってようやく知ったのも、村の人たちが僕たちを不安がらせない様にしていたからみたいだ。
なので、通用するかは分からないけれど、もし当てはまるようであれば、本で得た農耕知識が活用出来るのではないかと、畑長と呼ばれるお爺さんに畑へと案内してもらっている。
「…これは、ひどい…ですね…」
素人目にも分かるほど作物の出来は悪く、畑自体はかなりの広さを誇っている分、その不作っぷりが顕著に思える。
「うむ、水に関しては近くの川から引いてあるし、その水量が減っておる訳でもない。かと言って、病が流行った訳でもなければ、虫が湧いた訳でもない。
原因が分からんのじゃよ」
水ではなく、病害虫の影響でもない。
となれば、残される不作の可能性としては2つ
「作物の周期は?」
「今は日落ちの季節じゃからの、奥の畑でキャベツを、その手前でハクサイ、目の前の畑ではイモを育てておる。時期によってキチンと変えておるぞ?」
これで残る可能性は1つだけだ
「なら、土壌……だと思います」
「土?しっかり水はやっておるし、乾いておる訳でもなかろう?」
「土自体の栄養がなくなってきている話じゃないかなと、ここ数年はこんな事なかったんですよね?」
「土の栄養?…うむ、ワシらが若い頃は似たような事もあったが、もっと小さな問題じゃった」
「野菜を育てますよね?その野菜の栄養はどうやって作ってるかっていうと、日の光と水で作り出されるのと、土中から吸収した成分で生成されるのとの2つです」
「…う、うむ…じゃが、そうするとどうしようもないのかの?」
えーと、確かこういう場合は土を深く掘って、底の土と表面の土を入れ替えるって書いてあった筈だ。固有名称も付いていたと思うけれど、そこは忘れた。
「底の土を混ぜ返します。そうすると栄養のある土が表面に出て、栄養のない土は底に沈んでまた栄養を蓄えますから」
「おお!なるほど、そうすると大丈夫な訳じゃな!で、どのくらい掘れば良いのじゃ?」
「そんなに深くなくても大丈夫だったと思いますけど…念のため掘れるだけ掘りましょう」
「あい分かった。男衆総出でやるとしよう」
1つ補足しておくと、子どもたちはみんな、村の人たちに気を許してきているけれど、僕はまだ警戒している。
正確には少しの語弊があるけれど、警戒しているという認識で間違いはない。
村の状況が分かるにつれ、僕たちのような子どもの面倒を見るということの、不可解さが増してくる。それも30人はいることで殊更に、だ。
食糧の備蓄に不安があり、原因は謎の不作。
狩りで賄うにしても、森には凶暴な猪。
だというのに何処から来たのかも分からない謎の子ども達を保護し、手厚く介護までしてくれた。
控えめにいって怪しい。
どんな考えがあって僕たちを養う結論に至ったかが分からないので、有用性をアピールして捨てられないようにしておくのが今は最善だと思う。
これが上手くいけば早々捨てられないだろう評価がされると思いたい。
数日後、比較的実りが良かった作物を収穫し、畑が空いたところで、土の掘り返し作業が行われる事となった。
「上手くいけば不作が治るって事だ!深ければ深いほど良いらしい!オメエらとことん掘れよ!!」
「「「「うぉおおおおお!!!」」」」
そういえば不作で軽い飢饉になっている筈なのに元気のいい人ばかりだ。
狩りで幾らか賄っているとしてもこれだけの元気を残せるものなのだろうか?
…考えても分からない事だろうし、一旦やめておこう。
「手順を説明しまーす!まず畑の半分を掘って、掘り出した土は別の場所に置いていってください!」
用意した手順は以下の通り
1.畑を半分に区切り、まず半分の畑を掘り起こす。
↓
2.ある程度まで掘り出したら水を撒き、耕す。
↓
3.耕した土と掘り出した土をかき混ぜながら土壌表面の土を底に沈めていく。
これを2回繰り返すだけだ。
実際、半分に区切ったり、二回に分けて作業する必要はないのだけれど、“僕が指示”した作業とする事で、より僕らの有用性を主張する形となる。
それに土をかき混ぜる作業は他の子にも出来るし、手伝いをすれば村の人たちにとって僕たちがお荷物じゃないと考えてもらえる筈。
鍬や鋤といった農耕具は村の人たちの分しかなかったから、手伝える子どもは適した能力のある子だけになるけれど、それでも手伝わないのとは明らかに違う。
そんな事を考えている間に、そこそこの深さまで掘り進んでいたらしく、ガウスさんが畑長に話しかけている。
「そろそろ良いんじゃねえか?」
「そうじゃの、では次の手順じゃな」
「次の手順は“子ども”の方でします。その方が手っ取り早いので」
「ん?…ああ!なんでも持ち上げられるアレか!」
「はい。バティとマリウスとファロルの3人が混ぜますので、その間に残りを掘っておいてください」
他の子が起きて、1番ビックリしたのが、言葉が通じること。
あの施設では、いろんな国からいろんな人が連れて来られていたみたいで、言語が違うから会話できない子だっていた。
ただ、それでも身振り手振りで何となく意図は伝わるし、意思疎通に関してはそこそこ出来ていた。
けれど、言葉がよく聞き取れないから他の子の名前が何なのかも分からなかったし、外国語の勉強なんてしようがなかったから、施設ではみんな数字で呼び合っていたのだけれど、僕が、村の人と言葉が通じたように、他の子とも話が通じ、村の人たちも他の子の言葉を聞き取れるのが何より驚いた。
長い子は10年近く、短い子でも3年以上僕らは身を寄せ合っていた。
初めて会話できた時、みんな泣きながら名前を呼び合い、気付けば寝ていた。
僕はあの中で1番歳上だったのに、最初に泣き出してしまった。だから多分、他の子たちも泣いてしまったんだと思う…
兎に角、言葉が通じて、細かい意図を伝えられるようになったのだから、僕らはより協力しあって、この村で地位を確立しなければならない。
生きていくために、自由であるために、子どもだからと侮られないようにしっかりと、小さな子たちを守れる様にならなきゃいけない。
そう考えた最年長組12人で策を編む事にした。それが今回の策の理由だったりする。
「アレをするんなら出来そうだな。んで、アイツらは何処にいんだ?」
「え?後ろで待っててって……あれ!?」
バティ(8歳)、マリウス(6歳)、ファロル(4歳)は、好奇心に自制心が負けたのか、僕の後ろで待機するように言っていたのに、いつの間にかいなくなっていた。
いやちょっとヤバい。あの子たちが転んで泣き喚いたりすれば、周りの物が吹き飛ぶ。そうでなくても近くには決して浅くない川が引かれてあるし、もしそこに落ちたりすれば溺れる可能性だってある。
「すいません、探してくるので掘り出した土は放置して隣を掘っていてください」
「おい待て、お前もまだマトモな体力ついてないだろうが、1人で探せるかよ」
「ガウス、お主、農作業嫌いじゃからと手伝っとらんじゃろ、手伝ってやれい」
「そのつもりだっつの」
「ありがとうございます。お願いします」
子ども達が1番懐いてるのはガウスさんだし、この人が探してくれるならたぶんすぐ見つかるだろう。
あの子達の足で行ける範囲は限られているし、そんなに時間はかからない…筈だ。
子ども達の名前と割り振られた番号に関しては能力の設定と一緒に設定集的なのを出す予定ですので、それまでは予測したりして私に「分かったぞ!こんな能力でこんな名前と番号だな!!」なんてコメントしてみてください()
今回出てきた子達の名前と番号に関してはピンと来た人もいるかもしれませんね。
施設での番号付けは、別に施設に来た順で付けられたとかではなく。キチンと意図した伏線が張られているので悪しからず。
ただ、子ども達の番号が全部1つの出典元という訳ではないので、未だネタバレ予測まではされない筈です。
……流石にこの段階で予測されるとかないですよね?