剣聖 然るに転生
こちらも短編1話です。
世界最強の剣士のお爺さんのお話です。
野ざらしの岩肌に霞が水滴を作る。
冷たい凩が黄土色の岩に霜の白線を引く。
昼夜の温度差で風化した岩は、荒れた様相を隠さず、その険しい威容を臆面もなく晒している。
苔むした表面が、崩れる寸前で保ち、パラパラと小粒が溢れていく。
直角よりも傾斜のかかった峰の天辺に、どこから運んだのやら木造建築が存在する。
小さな一軒家などではなく、調度品のように整えられた一級の道場である。
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意気軒昂
道場より響く音を表現するならば、これ以上に相応しい言葉はないだろう。
ともすれば、怒号にも聞こえる程の掛け声が響く。
鋼がぶつかり合う剣戟の音
床を擦る運足の高音
踏み込みが床を叩く低音
言い知れぬ気に包まれ、緊張した空気をそれらの音が割いて響き渡る。
「ォォオオオアッ!!」
「ぅラア!!」
「せやァっ!!」
一際目立つ───耳立つ声が、道場を震わす。
その踏み込みの音たるや、震脚の如く。
大鼓を叩いたかのような重低音が鳴りを轟かせる。
「ヌルいわぁッ!!」
一喝で、地響きの如き重低音すらかき消される。
音量そのものはそれほど大きくはない。
にも関わらず、男の一括は、まるで落雷のように大気を震わした。
3人の男を同時に相手取り
刃の付いた刀剣を竹刀にて
流水を潜らせるように滑刃
息を吸うように受け流し、
息を吐くように叩き伏せた。
見れば誰もが痛感した事だろう。
“次元が違う”という言葉の意味を
“隔絶した領域”という不条理さを
「踏み込みが甘い!振り下ろしが遅い!刃の軌道にブレがある!!込もっているのは殺意だけか!何もかもが不十分!!素振り1000回でもやっとれィ!!!」
先ほどまで響いていた打ち合いの音は静まり、皆が男の声に頷かされていた。
乾いた白髪を後ろ結びに、特に眉間に多いシワは男の年齢を窺わせる。
初老の男は、ジュウロウ・オゥグンベルグ。
剣士として世界最強の称号を与えられた剣聖
人を
獣を
魔物を
悪魔を
竜を
あらゆる敵を斬り伏せ、その手に握った刀一つで人生を歩んできた。
シラサリの魔王や、ハッペンウルグの武王、カインセハルの魔剣士らとの激闘。
ウーシャンの武技道の制覇に加え、オルドリンの闘技会を連覇するなど、“|生きた伝説《リヴィングレコード”とまで呼ばれ、世界中から「戦いの場に出ないでくれ」と懇願された程である。
奥底の燻りにままならぬ思いを抱えながら、秘境に建てられた道場で弟子の育成に専念している。
────あわよくば、剣気に溢れる者が門戸を開くのを待ち望みながら…………
名前からお気づきの方もいらっしゃると思います。
そうです元日本人です。
現代人とは限りませんがね