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異世界で正しく生きるには  作者: 春に狂う
ここを拠点とする!
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心機一転 機会は危機に急転直下 その2

 ゾワッと、そんな寒気で産毛が震える感触を背筋に感じた。

 はて、少年からの“師匠(せんせい)”呼びが自らのカンに触ったのだろうか、それとも何らかの策にでも嵌ったのか…



「ふふふ、ダメですよ少年。おねーさんはこれでも優秀な魔術師なのデスよ〜?そうぽんぽんと弟子を取る訳にもいきませんので」



 そんな筈もない。

 多くの経験を積んできた。

 権謀術数の貴族のやり取りも、陰鬱とした魔術師の小競り合いも、そのどれも少年のような幼い子どもが生き抜ける場所ではなかった。


 そんな場所を生き抜いた自分が、目の前にいる凡庸とした幼子に出し抜かれる訳がないという自負。

 事実、身寄りのない奴隷という立場から、人氏族有数の名家デュークリオンから性を賜るなど、例え彼女と同じ才を持ち得たとしても、少年には無理であっただろう。



「それは残念ですね…ですがそうなると困りましたね」



 だが、恐らく彼女も、少年の境遇において彼と同じ経験を積むことは出来ないだろう。

 少年は無力なりに(カード)の切り方を知っている。



「ルイーナさんを村に泊める口実が足りないんですよね」



 彼女の荷物の量から、資材の補充や研究・記録を行う為の拠点を、どこかに置く必要がある事は分かっていた。

 この近辺に、生命氏族のお偉いさんである彼女を気前よく迎え入れる集落がないことも…



「なので、代わりと言ってはなんですが、僕ら村の子どもたちに文字を教えて頂く事は出来ますか?」



 生命氏族の統治から離れた者たちが集って出来た集落に端を発するこの近辺の村々は、その経歴から、生命氏族の管理下に置かれていない土地であることは容易に想像できる。

 管理下に置かれていないということは、当該地域における細かな情報を知り得ないという事であり、少年が持つアドバンテージはここにあった。


 言外に“ここ以外に泊まれる場所はない”ことを仄めかせば、彼女には村に泊まる為の協力者が必要になる。

 その協力の対価を示せば、利害関係を結ぶことが出来ると考え、断られる可能性を低くする為、直前に拒否しやすい提案をしていたのだ。



「僕らに文字を教えていれば村長たちに敵意がないことを示す機会にもなりますし、村に滞在する口実としても十分だと思いますが、どうでしょうか?」


「む……少ね───」



拗ねたような口調で返そうとする彼女の言葉は、しかし途中で途切れる事となった。

丁度、彼女の位置から見て平原の方角、そちらへと意識を傾けている。



「ゴブリンだー!ゴブリンの群れが来たぞー!!」



一拍遅れて、見張り役の男衆たちが危険を報せ出す。



「ッ!」



まだだ。

平原からやって来たのならば村に着くまで時間がある。その間にあの子達を避難させるのはそう難しい事じゃない。



「“リーディア!みんなを小屋の中に集めて!!”」


「わわっ、突然声を上げてどうしたんですか?少年」


「耳の良い子に他の子の避難指示を出しただけです。

ところで、ルイーナさんが使える魔術の中に、盾や壁のように扱える魔術はありますか?あれば子どもたちのいる小屋を守って欲しいのですが…」


「私が戦った方が良いと思うのデスけど、そうしない訳は?」


「…客人ですし、この辺の人たちに嫌われてる立場の人に村を守ってくれーなんて、道理が引っ込んじゃいますよ」


「なのに村の子たちを守るために力は貸せ、と?」


「僕が頼まなくてもどうせ守るとは思いますけど、一応頼んだんですよ」


「おやぁ少年?なぜ私がそうすると?」


「だってルイーナさん、子ども好きでしょう?」



彼女は笑っている。

僕も少しだけニヤケそうになる。

これは、彼女にとって又とない機会だからなのだろう。

村に襲い来る危機を、自らの手で追い払う事ができる。

村に恩を売るだけの、そんな機会が丁度よくやって来たのだから…



「ふふ、いいデスよ。少年や他の子を守るためにも、私はゴブリンの群れを殲滅して見せましょう。30程度の数であれば、このルイーナさんには造作もないのデスよ〜」


「そ、そうですか…」



手慣れている…のだろう。

単純に、彼女の力量が高いとか、魔術というものの危険性とか、そういう話ではない。

あの異形と、命を奪うという行為に彼女は何ら抵抗を覚えていない。

そして、やはり(・・・)、先ほど平原の方角を見ていたのは、ゴブリンの群れの襲来を察知したからなのだ。

そして村に来るまでの所作と、ルイーナさんから聞いた話から類推するに、彼女の持つ仮面は、魔道具だと思われる。



「では、少年」


「あ、ハイなんでしょう?」


「村の人たちを一箇所に集めてもらえますか?そちらの方が守りやすいですし、被害も出にくいので」


「……参考までに聞きたいんですけど、ルイーナさんの魔術って破壊規模はどのくらいなんですか?」


「ふふっ、“傾国級”って言ったらどうします?」



全力で走り出す。


村の人たちを手当たり次第に中央へと集めさせ、ものの数分で全員の集合を完了させた。

ゴブリンの群れは、先頭の数匹は罠に掛かったものの、やはり知能が高いのか、警戒して少しずつ罠を避けながら村へと近づいている。



「村の人たちの“避難”は終わりました!あとは頼みますルイーナさん!!」


「オッケーで〜す少年。さーて、お姉さんイイトコ見せちゃいますよ〜♪」

ゴブリンの群れVSルイーナさんの戦闘(殲滅)は次話にて。

ゴブリン×30の危険度は銅級ハンター10人と同じくらいと思って下さい。

ルイーナさんは金級の下から中くらいの実力なので割と余裕です。


名前だけ登場したリーディアはテレパシーの超能力者です。

番号で呼ばれるのが嫌で主人公に名前を付けてもらった子です。年長組の1人でもあります。

詳細な設定は後々…

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