殺そうとしないで!僕は死にませんから!
➖プロローグ➖
どこか牧歌的なアラームが鳴り響く。
朝が来たようだ、今日も僕は身体を弄られるのだろう。
_____おはようございます、マスター。
健康状態をチェックさせて頂きます。
流暢に話しかけて来たのは僕に当てがわれた監視役、AIのようなものだ、当の本人(?)本機(?)が否定しているので、違うとは思うのだが、学のない僕からすれば本で知ったソレとの差異は見つからない。
_____終了しました。健康状態、『良好』と判断。本日も、良い日をお過ごしください。
ああ、でも…AIというのが感情を理解した機械だと言うのなら、こんな事を言ってくるのだし、当人の言の通り、そういったモノではないのだろう。
ここ-僕がいる施設は“外”とは違うようで、僕らを観察する大人たちより、同じ服を着せられた僕たちのような子供の方が多い。
本で見た“外”の世界は逆に、沢山の子ども達をそれよりも沢山の大人達が幸せそうに世話をしているらしい。
ここに集められた子ども達は皆、世間一般の常識では、信じられないようなナニカを持っているらしく、例えばそれは、怒ったり泣いたりした時に電気や火が出たり、何にもない空を掴んだり踏んだり出来たり、どんなに痛い思いをしてもちょっと時間が経てば元どおりに治ったりだ。
僕の場合は、大人の人たちが言う、“不死”であるらしく、今日もきっと痛い思いをするのだろう。
「108番、ちゃんと睡眠は取れたかな?」
いつも唐突に、大人から声をかけられる。
白々しい、僕がどれだけ眠らなくても、食べなくても、息をしなくても、少し経てばすぐに健康になるって、そんな調査書を出したのはお前らのクセに。
「よろしい、睨むだけの元気はあるようだ。まだ壊れてくれるなよ、お前は貴重なサンプルなのだから」
大人が声をかけてきたときは、大抵、睨んでおけばすぐに離れていく。
ここに来て、暫くしてから学んだことだ。
“108番”ソレが僕の名前、ここに連れてこられた時、お父さんとお母さんが言っていた名前とは違うって事しか覚えていない。
連れてこられてそんなに時間が経ってない子たちは名前を覚えているけれど、大人はお構い無しに、僕たちを、付けた数字で呼んでくる。
「108番、その椅子に座りなさい」
今日は何をされるのだろう、昨日は何をされたんだっけ、思い出すのは嫌だから止めておこう。
指示された通り、部屋の中央に設置された椅子に座る。
「それでは検証を開始する、今回するのは…そうだね、君が肉体を失った状態からでも、再生出来るか否か…だ」
今日の担当は大人の中でも一番嫌いな大人みたいだ。
実験なんて言ってはいるけれど、何の為にするのか分からないような、痛めつけるだけの実験ばかりしてくる。
特に、傷が治る子たちへの行動は酷く、小さい子たちにも手を挙げるから、僕や他の子が、庇っ───て─────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────瞬間、視界が白く染まる。
途轍もない痛みが体中を駆け巡った。
身体の至る所が、ボコボコと音を立てて弾けているような気がする。
身体中の全てを焼けた鉄で切り刻まれているような気がする。
そんな痛み。
僕は叫んでいるつもりだけれど、喉が焼けたのか耳が焼けたのか、声が聞こえない。
少しずつ、身体の痛みがなくなっていく。
痛みだけじゃなく、色んな感覚もだけど。
ただ、頭の中で、優しい声が微かに聞こえる。
泣いているような悲しい声で、僕に囁くように…
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と、そう聞こえた気がした。