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最凶に育てられた最強は配達業を営みます。(魔王の息子は革命家 改編作)  作者: 山源太郎
第一章 白銀髪の少女の想い
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最も信頼出来る相手

 その後、無事に邸を脱出してアリエスと合流したアレンは第二城下町を出て仕事場に戻って来ていた。

 ドアをいつも通りのリズムでノックし、扉が開く。


「帰って来たネ」

「うん、ただいま」

「うむ、戻ったぞ」

「あ!おにいちゃんおかえり!」

「おお、リア。ただいま、大丈夫だった?」

「うん!フェイおねーちゃんがリアをぎゅっとして、ぴょんぴょんとんでここまできたの!すっごく楽しかったよ!」

「そっか、良かったな。フェイ、手間掛けさせて悪かったね」

「別に気にしなくていいヨ。これも仕事の一部だしネ」


 リアの言っていることは、多分フェイが抱き抱えて屋根の上を飛んで移動した事だろう。

 アレンはリアの事でフェイにお礼を言ったが、彼女にとっては大した事は無かったようだ。


「それじゃあ──本題に入ろうか」


 先に伝えておかないといけない事を伝え終え、本題に入る為に空気を切り替えると、二人はすぐに真剣な顔つきに戻りコクリと肯いた。

 リアだけは一人だけ首を傾げていた。


「配達は今夜。サルナンテの邸に忍び込みマリアーナさんをリアに届ける。マリアーナさんが居るのは書斎にある地下室だ」

「確証はあるノ?」

「ほぼ間違い無い。少なくとも一階には其処以外にマリアーナさんが居そうな場所は無かった」

「二階も同じくだな。全ての部屋を調べたがリアの母親らしき人は居なかったぞ」

「ふム…それなら其処で間違い無さそうだネ。それで、侵入方法は?」


「今夜サルナンテは他貴族と会う約束があるから邸には居ない。その代わりにサルナンテが雇った邸の護衛が居る。だから今回はアリエスが侵入する時に開けた二階の窓からの侵入を試みる」

「彼処の窓は閉めてないから問題無く浸入出来る」

「それと今回はマリアーナさんの救出及び配送だ。面倒臭くなる事を避ける為にフェイとアリエスには陽動を頼みたい」

「具体的にハ?」

「フェイは邸の外で、敢えて魔法を使って護衛を引き付けて欲しい。出来る事なら他の邸も巻き込んで三番地区を丸ごと混乱させたらベストだな」

「お安い御用だヨ」

「アリエスは僕と一緒に一緒に邸に侵入して二階で護衛を拘束。その後はフェイと同じく外で陽動だ」

「了解」

「二人が陽動をこなしている間に書斎にある地下室に侵入。マリアーナさんを確保したら、合流して第二城下町を脱出だ」

「リアちゃんはどうするのサ?」

「リアは僕が一番信頼出来る相手に預けておくよ」

「一番信頼出来るとは、嬉しい事を言ってくれるな」


 すこし渋めの男らしさを感じる声に、アリエスとフェイがバッと音がする勢いで入口に顔を向けた。

 其処には一人の長身の男が立っていた。

 この仕事場には、盗っ人や知らない人が入ってこないようにフェイ特製の罠が仕掛けてある。

 アレン達はその罠の仕掛けを知っているのでノックをせずとも、ドアは開けられる。

 ノックをしているのは、念の為だ。

 それに加えて、最も信頼出来る人物達極少数に限りこの罠の解除法を教えている。

 つまり、このドアを開けられる人物は、極少数に限られた最も信頼出来る人物という訳で。


「やあ、待ってたよ」

「ったく、人をこき使いやがって。此処に来るのも一苦労なんだからな!」

「何時もお願いを聞いてるんだから偶には僕のお願いも聞いてくれても良いじゃないですか」

「此方は仕事が忙しいんだよ」

「そーだろうとは思ってたヨ…」

「やはりあなたでしたか…ギルドマスター」


 入口に立っていたのは、この国の冒険者ギルドのギルドマスターのウォルバだった。

 普通であれば呼び出す事、況してや面会する事も、中々出来る筈はない。

 しかしアレンは別だ。それはアレンがウォルバに認められた数少ない内の一人だからだ。

 なので、ウォルバが少し不貞腐れながらアレンに文句を垂れていても、当の本人は全く気にした様子もない。

 これが彼等の何時ものやり取りだ。アレンがこの国に来てからずっと関係を持ち続けている、言わば旧知の仲なのだ。

 だから友人のよしみで便宜を図ってもらったのだ。


「それで、護衛をするのは其処のお嬢ちゃんでいいのか?」

「ああ、名前はリア。僕達が配達を終わらせるまで、よろしく頼むよ」

「おじちゃんだーれ?」

「ん、俺か?俺はこの兄ちゃんの友達だ。兄ちゃんが帰ってくるまで俺が一緒に居てやるからな」

「おにいちゃん、いなくなっちゃうの?」


 リアが瞳を潤ませ今にも泣きそうになりながら、アレンを上目遣いで見ていた。

 アレンはそれを見て、随分懐いてくれたなぁ、と思いながら、しゃがんで微笑みながらリアの頭を撫でた。


「僕は居なくなったりしないよ。これからリアのお母さんを連れて来るから、いいこで待っててね。」

「おかあさんに、あえるの?」

「ああ、逢えるよ。だからリア、僕が居なくても泣かずに待ってられるかな?」

「うん!リア、なかずにまてるよ!」

「よし、いい子だ。それじゃあウォルバさん、改めてよろしくお願いします」

「任せとけ、悪い奴らには指一本触れさせねぇよ」


 これで準備は全て整った。後は実行に移すだけ。

 懐から時計を取り出し、時間を確認する。時刻は丁度六時を過ぎたところだった。


「配達開始は四時間後の午後一〇時!それまで各自身体を休めてくれ。何があるか判らない、万全を期した状態で挑めるようにしておいてくれ!」

「「了解!」」

「んじゃ、そろそろ行くわ」

「はい」


 ウォルバがリアの手を取り、仕事場を出ていく。

 ウォルバがドアを閉めようとすると、リアが声を掛けてきた。


「おにいちゃん!」

「なに?」

「がんばってね!」

「ああ!」


 リアの激励の言葉にアレンが元気に返事を返すと、リアは嬉しそうに笑いながら仕事場を後にした。




 ────────────




 仕事場を後にしたウォルバとリアは手を繋ぎながら路地裏を歩いていた。

 アレン達の仕事場は、それ程入り込んだ場所ではないが、それでも少しは歩く。

 暫く無言で進んでいると、不意にリアがウォルバに声を掛けた。


「ねー、おじちゃん」

「ん?なんだ?」

「おにいちゃんってどんなひとなの?」

「どんな人、か…そうだな。あいつはな、困ってる人は絶対に放っておけない優しい奴でな」

「うん!おにいちゃんはやさしいね!リアにもアメくれたもん!」

「そうか、良かったな」

「うん!」


 リアは本当に嬉しそうに屈託の無い笑顔をウォルバに向けた。

 母親が居なくなって寂しい筈なのだが、こんな笑顔を浮かべられるというのは、それだけ精神的に安定しているという事だろう。

 今度はウォルバが質問をしてみた。


「なあお嬢ちゃん、アレンの事、好きか?」

「おにいちゃんのこと?うん、だいすき!」

「そうか。ならこれからもずっと好きでいてやってくれるか?」

「うん!」


 先程と変わらない満面の笑みを返すリアに、満足そうにウォルバは頷いた。


(あいつも随分落ち着いたようで何よりだな。最初にこの国に来た時とは大違いだ)


 まるで自分の子供を心配するような気持ちになっていると、不意にウォルバは自分達に近付いてくる気配を感じた。


(人数は……五人か。ったく、面倒臭ぇなあ……)


 心の中で舌打ちをしていると、案の定曲がり角から五人の身形の雑なゴロツキ達が現れた。

 その真ん中の男──以後、破落戸(ごろつき)達をAからEに分類、呼称──がニヤニヤしながら前に出る。


「おいおっさん、此処は通行止めだ。通りたきゃ──」

「そうか、通行止めか。それじゃあ仕方ない、別の道から行くとしよう。行こうか、お嬢ちゃん」

「うん、わかった!」

「お、おい、待てよ!」


 ウォルバ達が踵を返して別な道から行こうとすると、少し焦りを浮かべた様子で破落戸Aが声を掛けてくる。

 何だよ…と思いながら破落戸達に顔を向ける。


「なんだ?俺らは先を急いでいるんだが」

「この道に来たからには戻るのもダメだ。ちゃんとその分のものを払ってもらうぜ?」


 もっとまともな理由無かったのかよ……と呆れそうになるのを堪えながら、一応聞いてみる。


「それで?何を払えばいいんだ。金か?服か?」

「くくっ、その娘を寄越しな。そうしたら通してやるよ」

「はあ…だろうと思ったぜ…」


 ウォルバの予想通り、破落戸達はリアを要求してきた。

 勿論、友人から頼まれた護衛のお願いをここで蔑ろにするわけもなし、そして、こんな破落戸達にウォルバが屈する理由も一切無い。

 ウォルバはしゃがんでリアと目線を合わせる。


「ごめんな、お嬢ちゃん。少し待っててくれるか?あいつらを退かさなきゃならねぇんだ」

「そーなの?」

「ああ、だから大人しく待っててくれよ?」

「うん、わかった!」

「ありがとう、お嬢ちゃんはえらいな」

「えへへー」


 ウォルバは一頻りリアの頭を撫でた後、腰を上げ破落戸達に向き直る。


「さて、待たせたな」

「ならさっさと其処の娘を寄越せ!」

「悪いがその要求の返事はノー、だな」

「そうか…なら仕方ねぇな。力づくで奪わせてもらおうじゃねぇか!」

「はあ…ほんと、面倒臭ぇな。けど…」

「おじちゃーん!がんばれー!」


 後ろからこの場の剣呑な雰囲気には似合わない明るく元気な声が聞こえてくる。

 後ろを流し目で見ると、元気いっぱいに拳を突き上げている銀髪の少女が目に入る。

 その姿を見て、思わず苦笑してしまう。


「こりゃ、頑張らねぇわけにはいかねぇな…」


 ウォルバはリアの応援を背に受けながら前を見据え、指を二本立てて、クイクイッと動かし挑発する。


「来いよ、中年のおっさんがてめぇ等にお灸を据えてやるよ」

「舐めやがってぇ!」


 端にいた男、破落戸Eが左腰からナイフを抜き、飛び掛ってくる。

 ウォルバは突き出された腕の側面を右手で軽く叩き逸らした後、そのまま手首を掴み捻り上げる。


「いででででで!!」

「ほらよ」


 関節をキメられ悲鳴を上げた破落戸Eは、あっさりとナイフを落とした。

 捻り上げた腕をそのまま前方に向かって引っ張ると、破落戸Eは転倒しながら仲間の破落戸達の所まで戻った。


「次は?」

「こ、この野郎!」


 つまらなさそうに言うと、今度は真ん中の破落戸Aの隣の破落戸B、Cが突貫してくる。

 しかし、馬鹿の一つ覚えなのか、BとCはEと同じようにナイフを──しかも同時に──突き出してきた。

 ウォルバは今度は突き出された腕を軽く引っ張りながらしゃがむ。

 するとBとCは前方に重心が前にぶれ、バランスを崩す。

 その間にBとCの間を擦り抜けたウォルバは、後ろから手を伸ばして二人の襟首を掴み、思いっきり引っ張った。


「ふんっ」

「うおっ!?」

「なっ!?」


 重心が前に移動していたBとCは、後ろへの力に踏ん張れず、そのまま後ろに倒れ込み地面に後頭部を打ち付けた。


「がっ」

「ぎゃっ」


 勿論、BとCは受け身の取り方など知っている筈も無く、衝撃を全て後頭部で受け止め気を失った。

 パンパンと軽く手を払い、残りの破落戸に視線を向けようとすると。


「死ねやぁあ!!」

「おっと」


 何時の間にか破落戸Aが手にショートソードを持って突貫してきていた。

 AはB、C、Eよりも頭が良いのか、突き出すだけでは無く、薙や切り上げ等を使いながら攻めてくる。

 しかし、ウォルバは危なげも無く最小限の動きで避けていく。


「クソがぁあああ!!」

「疾っ!」


 Aは自分の剣が当たらない事に腹が立ったのか、全力の袈裟斬りを放ってきた。

 ウォルバはそれに対して右肘に向かって回し蹴りを放つ。

 Aの剣が振り降ろされる前にウォルバの脚が肘に直撃し、ゴキッと嫌な音を立てた。


「ぐぎゃあああ!!!?」

「ふぅ…まだやるか?」


 ウォルバは足元でジタバタともがき暴れているAを横目に残っているDとEを睨みつける。

 ひぃっと悲鳴を漏らし、顔を青くしながら首を横に振った。


「おい、動くんじゃねぇ!」


 唐突に後ろから声が聞こえ振り向くと、Aの腕を圧し折る前に気絶させた筈のCが、リアの首元にナイフを当てていた。


「へへ、コイツがどうなってもいいのか?」

「何だお前ら、お嬢ちゃんが欲しかったんじゃなかったのか?」

「うるせぇ!お前をブチのめさなきゃ気がすまねぇんだよ!!」

「お、おじちゃん…」


 ナイフを首に当てられたリアは恐怖に瞳を潤ませ、今にも泣きそうになっていた。

 ウォルバは大丈夫と伝えるように笑いかけ、破落戸Cに視線を向ける。

 ウォルバは何も心配していない。なぜならこの状況は、意図的に(・・・・)作ったものだから。


「おい、お前」

「あ?何だよ、命乞いか?」

「その行動はお前ら五人の総意と受け取っていいのか?」

「おいおい、口に気をつけろよ?立場判ってんのか?」


 Cの言葉を聞き流しながら周りを見渡すと、先程まで青い顔をしていたDやEまでもがニヤニヤしながらウォルバを見ていた。

 ウォルバは溜め息をつき、そうかと小さく呟いて、腕を前に向ける。


「残念だ」


 ウォルバがその言葉を発した瞬間、破落戸五人の足場が一斉に消え失せた(・・・・・)


「「「「「は?」」」」」


 破落戸達の足下には底が見えない真っ暗な穴が出来ていた。

 破落戸達は、悲鳴を上げる暇もなく、いきなり出来たその穴に落ちていった。

 Cは頭を打って足元がおぼつかなかったのか、後ろに回ってではなく、リア横に膝立ちで居たので問題無く落とせた。

 穴を塞ぎ、リアの元に近付くと、先程までの恐怖は無くなり、瞳をキラキラさせていた。


「おじちゃんありがとう!すごかったよ!」

「お嬢ちゃんが応援してくれたから、おじさん張り切っちまったよ。ありがとな」

「えへへー」


 ウォルバがお礼を言うと、リアは嬉しそうにはにかんでいた。


(こんな愛らしい笑顔を浮かべる子が泣いていたらそりゃ放っておけねえわな)


 心の中でアレンがした事に同意しながらウォルバはリアに声を掛ける。


「そろそろ行こうか、お嬢ちゃん」

「うん!」

「よし、行くぞ!」

「うわー!すごーい!」


 ウォルバは変わらぬ笑顔で返事をするリアの腋に手を入れ、軽々と持ち上げて自分の肩に乗せる。所謂(いわゆる)肩車だ。

 ウォルバは長身の為、肩に乗せられると物凄く高く感じる筈なのだが、リアは全く物怖じした様子は無く、(むし)ろ見える景色が変わった事に歓喜している様だった。


「おじちゃん!あれなーに?」

「ん?あれか?あれはな──」


 物珍しいものを見つけてはウォルバの頭を叩き、質問をしてくるリア。

 それに応答すると、リアはへぇー、そーなんだーと言いながら瞳をキラキラさせていた。


(この世の中もまだまだ捨てたもんじゃないな…こんな純粋な子を泣かせるような真似はするなよ?アレン)


 ウォルバは自分が最も信頼し、自分を最も信頼してくれている友人に、心の中で全く心配していない言葉を投げ掛けながら、頭の上で歓声を上げながら騒いでいるリアと冒険者ギルドを目指して歩を進めた。









今回はキリが悪くなりそうだったので短めです。


サブタイトルに〜話、ではなくしっかり題名をつけるようにしました。


次の投稿は一、二日後にはします。

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