配達屋の仲間達
アレンがゲールを吹っ飛ばした次の日。
「ご馳走様でした」
アレンは今日は寝坊せずに起きて朝食を摂っていた。
「ふふっ、お粗末さまでした。アレンくん、今日からまた仕事?」
「はい。昨日は大きな依頼を終えて久しぶりに休みが取れただけなので」
「そうだったの。じゃあ今日からまた頑張ってね」
「はいっ。エユレさんも無理せず頑張ってください」
「ふふっ、了解〜」
「あぁ、それとエユレさん。これを」
そう言ってアレンが渡したのは、透き通る様な蒼色の宝石が埋め込まれた4つの首飾りだった。
「これは何かしら〜?」
「御守りです。昨日みたいな事がまた起こらないとは限らないので。僕もずっと近くに入れる訳ではないので。ラル達にも渡して置いてください」
「こんな高そうなもの受け取れないわよ〜」
「いつものお礼ですよ。それにこれ、僕の手作りですから。受け取ってください」
「でも〜……」
しかし、いつもに増して真剣な表情をしたアレンを見て、エユレは断るに断れなくなってしまい、その首飾りを受け取った。
「……わかったわ〜。それじゃあ、ありがたく貰っておくわね〜」
「はい、ありがとうございます。毎日着けてもらえると、プレゼントした側としても嬉しいです」
「分かったわ〜。ラル達にもそう伝えておくわね〜」
「お願いします。それじゃあ行ってきます」
「はぁい、行ってらっしゃ〜い」
そうしてアレンは仕事をしに、店を出た。
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「さてと、それじゃあ行きますか」
そう言ってアレンは町の大通りを闊歩していく。
辺りはいつも通り騒がしく、活気に満ち溢れていた。
そんな中で何処からかチラホラと、ひそひそ話が聞こえる。
「【力よ】」
アレンはこの喧騒とした中で町の人々の話を聞く為、魔法を行使した。
この世界は魔法というものが存在する。誰もが微量ながらも魔力を有しており、何かしらの魔法を使うことが出来る。
魔法には属性が有り、無、火、水、風、土、雷、光、闇の属性魔法と、時空、精霊の古大魔法がある。
この世界の魔法には、階級というものが存在しない。何故なら、この世界の魔法の強さは全て使用者の想像力と込める魔力によって左右されるからだ。
これら二つは正しく表裏一体。どちらかが欠けてしまえば、魔法は発動しない。
その為、より強力な魔法はイメージがしづらい為、使える者は少ない。
使える魔法はその数が多い程優秀だと言われている。
一つならワン、二つはダブル、三つはトリプル、四つはクアトロ、五つはヒュンフ、六つはゼクス、そして七つの属性魔法全てを使う事が出来るのがズィーベンと言う。
ズィーベンになれた者は、宮廷魔術師として将来を約束される。
因みに古大魔法の精霊魔法はそれぞれ属性を持つ精霊と契約し、精霊に魔力を提供する事によって魔法を行使する。
因みに精霊王と契約出来た時には、全ての属性をより強力に使うことが出来るようになるらしい。
その他にも複合魔法といったものがあるが、閑話休題。
暫くの間耳を澄ませていると、目的の会話が耳に入ってきた。
『ねえ、知ってる?あそこの有名な奴隷店の経営者、死んだらしいわよ?』
『あ、知ってる。魔掲示板にも載ってたわね。結構有名な店よね?持病かなにかじゃないかって話らしいけど』
『そうそう。でもあそこの奴隷店、違法なやり方で奴隷を集めてたみたいよ』
『そうなの?でもそれって違法だったよね?』
『そう、バレたら死刑だからね。まあでも晒し者にはならないから、それはそれで良かったんじゃない?』
『そう考えるとそうかもね』
アレンは魔法を解除して、いつの間にかたどり着いていた南大通りの噴水の前で立ち止まる。
噴水の方に顔を向けると、其処には大きな水晶が置いてあり、何やら情報が記載されていた。
これは魔水晶と言って、魔力を通す事で映像や写真を撮ったりなど、様々な用途に使える。
例えばこの魔水晶はこの国の様々な情報が映し出されるようになっている。
先程の話も此処の情報だったようで、魔水晶の上部になにやら書かれていた。
《マグナ奴隷店経営者、マグナ=フェルマー子爵が死亡した。傷跡らしきものは無く、何らかの持病持ちであったのではないかとされている。
尚、マグナ=フェルマー子爵の営んでいた奴隷店は違法手段で奴隷を入手していたらしく、憲兵団は違法手段で連れて行かれた人々の捜索と身柄の保護を急いでいる》
「どうやら上手くいったようだね」
アレンは軽い笑みを作りそう言ってから、再び目的の場所に向かって歩き始めた。
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暫くして着いた場所は、裏通りにひっそりと建っている小さな建物だった。
アレンは其処に近づき、変わったリズムで、ノックを数回する。
すると中からノックが数回返され、アレンがさっきと違うリズムで再び扉を叩く。
すると少し置いて、カチャリと小さく金属のぶつかり合う音が聞こえ、鍵が開けられたことが分かった。
少し錆び付いたドアノブを回し引くと、キィと木製の扉が悲鳴を上げながら開いた。
「おはよう、アレン」
「やぁ、また寝坊でもしたのかナ?」
「ははっ、これでも定刻に来たつもりなんだけどね」
そう言ってから、手持ちの時計に目を向けると丁度9時、定刻だったのだった。
「こういう時は女の子より早く来なきゃだゾ、アレン」
「そういうものなの?」
「そういうものだヨ」
中に入ると其処にはブラウンのロングヘアの女の子と、黒髪ショートカットの猫の様な耳の生えた少女が座っていた。
アレンは空いている席に腰を降ろした。
「ほい、どーゾ」
「あぁ、ありがとうフェイ」
アレンは出されたお茶をひと口飲み、一息つく。
今お茶を出してくれた彼女の名前はフェイ。
親しみやすさを感じる少し鼻にかかった声、黒髪黒瞳の肩よりも少し高い位置で真っ直ぐに切り揃えられた、ショートカットの黒猫族だ。
小柄ながらも醸し出される謎の魅力は、どこか惹かれるものがある。
胸は小さいようだが、本人はあまり気にしていないらしい。
情報屋をやっているのだが、色々あって、今は専属の情報屋として、一緒に仕事をやってもらってる。
「それじゃあ今日迄調べた情報を報告しようか。先ずはアリエス、よろしく」
「了解した。先ずは聞き込みからだ。先日の仕事の結果だが、無論私達がやったなどという話は全くと言っていいほど出ていなかった。依頼人とも接触を図ったが、無事に娘が帰ってきた事に喜んでいるようだったぞ」
彼女はアリエス。
男勝りな声に、緩くウェーブの掛かったブラウンの髪に同色の瞳。身長はそこそこ高く、アレンよりも少し低いくらいだ。
しかし、目を惹くのはたわわに実った二つの双丘。
そしてその有り余る美貌は、多くの男達を魅了するだろう。
「他には何かあるか」
「いや、私が得た情報はこれだけだ」
「そうか、ありがとう。フェイは何かある?」
「そうだねェ、特にこれといった情報は得られなかったヨ。アリエスが言ったとおり、マグナ=フェルマーをアタシらが殺したっていうのも知られてなかったみだいだシ、他の情報屋も何も掴めてないみたいだったヨ」
「そうか、それは良かった。それじゃあ報告はこれで終わり。いつも通り配達の仕事を始めよう。フェイ、今日【物品配達屋】の仕事は何がある?」
「今日は手紙が一二通とちょっとした荷物が四つ、それと大きなのが二つだヨ」ね
「よし、じゃあ手分けして終わらせよう。午前中迄に終わるように皆頑張ろう」
彼等には表と裏の顔がある。
表は普通の配達屋。
けれど裏では人の想いを届ける配達屋。
そう。昨日アレン達はマグナ=フェルマーを殺すという依頼者の想いの配達を行ったのだ。
彼等はどんなものであったとしても依頼されれば配達を必ず行う。
手紙であっても。
食べ物であっても。
金であっても
高級品であっても。
生き物であっても。
それが目に見えない想いであったとしても。
そうして彼等は今日もどこかで仕事をこなしていく。
誰かに想いやものを届けたい人の為に。