昇格試験三日目.1フェイとアリエスの実力
すいません、ちょっと短いです。
それからというものの受験者達は順調にゴブリンの巣である洞窟を発見し、どうすれば一番効率的にゴブリンを狩ることが出来るかを考え、結果洞窟の前で木々を燃やして発生した煙を巣の中に風魔法で送り、出てきた所を叩くという奇襲作戦を決行した。
受験者達が考え出した作戦は功を奏し、ゴブリンが慌てながら出てきた所を受験者達は、全員で袋叩きにしていた。
状況を理解出来ていないゴブリン達は、受験者達にされるがままになり、ゴブリンの巣の殲滅は全く滞り無く終える事が出来た。
無事殲滅する事が出来たのは作戦によるものだけでは無く、受験者達の連携の精度が上がった事も要因だと見受けられる。
個々においての慢心的な態度も見られず、特にルジカ、ヨルベ、ユンファ、アイナの四人に関しては全体の中でも状況判断や連携、戦闘力が他の受験者と比べて長けていると見られる。
まだまだ甘い所はあるが、経験を重ねれば改善され更に伸びることが期待出来る。
「ふぅ……こんな所かな」
と、そこまで書き綴った所でアレンは筆を腰に付けた布袋に仕舞い、持っていた冊子を閉じた。
今アレンが書いているものはハイグラード王国に帰還した後にウォルバに提出する報告書だ。Cランク冒険者に上がれるかどうかの発表は試験が終わった直後では無く、数日後に冒険者ギルドにある掲示板に掲示される。
それは昇格試験の試験官とギルドマスターであるウォルバと報告書を見ながら吟味し、ウォルバによって選ばれた者だけが昇格出来るのだ。
アレンは懐から携帯時計を取り出した。時刻は一〇時になる一〇分前だった。
無事今回の試験目標であるゴブリンの巣の殲滅を果たした受験者達には、今日はしっかりと休息を取ってから森を出発する様に伝えている。
時々受験者達の様子を見るが、行きと比べて別人の様に落ち着いていて、時々周りを見渡したり、さり気無く見回りに行く等、警戒を怠る事もしていない。
だが、受験者の多くはまだまだCランク冒険者に上がれる程の実力は無い。
戦いの技術だけがCランク冒険者に上がれる条件では無いのは本当だ。戦闘の場面以外でもCランク冒険者として必要なものは多々ある。
しかし、その逆もしかりなのだ。例え戦闘以外の面で評価が高くても戦闘力が無い事にはCランク冒険者としては駄目なのだ。
戦闘面とそれ以外の面、両方を求められるのが玄人。Cランク冒険者以上の必須条件なのだ。
「まあこの試験は無事に終わらせられそうだな。そろそろ出発だしフェイとアリエスに連絡を──」
『アレン!!』
突然、連絡しようとしていたアリエスから怒鳴り声の様な声で名前を呼ばれて、アレンは思わず顔を顰めた。
「どうしたんだアリエス?」
「森の奥から何か近付いて来ている!!今フェイが確認しに行っているが急いだ方がいい。不味い事になりそうだ。早く受験者達を──」
「ゴガァァァァァ!!」
アリエスがすべてを言い終わらない内に森の奥から轟音の様な雄叫びが耳朶を叩いた。
その雄叫びを聞いた瞬間、アレンは冒険者へと人格をシフトして一瞬で身体を硬直させている受験者達の前に躍り出た。
「受験者全員に通達!!これから三〇秒で準備を整え森付近から離脱!!決して後ろを振り返らず城下町まで駆けろ!!」
その言葉に受験者達は一瞬呆然としてから思い思いに口を開き始めた。
「し、試験官!先程の咆哮は一体何なんですか!?」
「突然準備を整えて町まで走れって、一体何があったんですか?」
「何かあったなら俺達も此処で戦うべきです!一緒に──」
「黙れ!!」
「「「「「っ!?」」」」」
アレンは未だ足を止め続けて思い思いの言葉を投げ掛けてくる受験者達を一蹴した。
威圧の込められたアレンの怒声に思わず身を強ばらせる受験者達。全員が黙り込んだのを確認してアレンは再び口を開く。
「お前達に発言権と選択肢は無い。つべこべ言わずに早く準備をして離脱しろ」
「だ、だが」
「離脱しろ」
「っ……了解」
アレンの威圧に押されながらもまだ発言しようとする受験者を有無を言わせぬ一言で黙らせる。受験者達は急いで準備を始めた。が、遅かった。
「グゴアァァァァァ!!」
「なっ!?」
「ひっ!?」
「くそっ!」
森の中から聞こえる雄叫びと共に二メートルはある様に見える岩石が、物凄いスピードでアレン達目掛けて飛んで来たのだ。
余りにも非現実的な光景に受験者達が固まる中、アレンは一人前に躍り出て腰溜めに拳を構える。
そして其処に居る受験者達全員がアレンの身体に巨大な岩石がぶつかると思った瞬間。飛来して来ていた岩石が粉々に砕け散り、其処には拳を前に振り切ったアレンだけが残っていた。
その予期せぬ光景と、危機が去ったことによる安堵からか、受験者達は腰を抜かしてヘナァと地面に座り込んだ。
「「「「「………え?」」」」」
「ふぅ……危なかったな」
受験者達が腰を抜かして唖然としている中、巨大な岩石を拳で砕いたアレンは何食わぬ顔をして右手をプラプラと振りながら受験者達の方に体を向けた。
「お前達、怪我は無いか?」
その言葉に全員がコクコクと首を縦に動かした。それを見てよし、と満足そうに頷いたアレンは受験者達に背を向けた。
「もう逃げる暇も無いからそこで待機しておけ。其方には被害は一切出さないから」
「そ、それなら俺達も一緒に──」
「あー、悪いけどはっきり言ってお前達が居ると邪魔だからそのままで居ろ。それに今のお前達じゃ瞬殺だ」
「アレーン、足止めはこれくらいで……って受験者達全員いるじゃン」
邪魔だと言われた事に受験者達が気を落としていると、森の中から駆け足で出て来る二人、フェイとアリエスがアレンの元まで駆け寄ってくる。
「ごめん。避難させるのが遅れた。そんな訳でフェイ、アレ頼む」
「りょーかイ。その代わり今度何か奢ってネ。本当はアレンが始末する予定だったんだかラ」
「判ったよ。今回貰える報酬でな」
「二人とも、来るぞ」
アリエスに声を掛けられた二人は会話を止め、森の方へと意識を向ける。
森の奥から聞こえてくる地鳴りが段々と大きくなっていく。そして森から現れたその咆哮を発していた正体に、アレンは溜息を。受験者達はアレンに邪魔だと言われた時とは別の意味合いの絶句を強いられる事になった。
「グガァァァァァ!!」
「なっ……」
「嘘……」
「オーガ……だと…!?」
森から現れたのは見上げる程の体躯と隆々とした筋肉。頭には尖った角がある熟練者殺しとも呼ばれる鬼の化身、オーガだった。
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「そんな……」
「嘘……だろ?」
オーガを目前にした受験者達は顔面を蒼白にし葉を打ち鳴らす者もいれば、頭が追い付かず唯々その姿を眺める者。甘利の恐怖に失禁する者や、気を飛ばす者も居た。
オーガ。討伐ランクBプラスの危険物質だ。体長は五メートル。肌は赤黒く強靭な筋肉に包まれたその身体はあらゆる刃を弾き、全てを薙ぎ払う。巨体でありながらも俊敏性があり、今まで数多くの高ランク冒険者を葬っている。
その分個体数はそれ程多く無く、滅多に遭遇する事は無いとされている筈だった。
しかし、今アレン達の目の前には希少である筈のオーガが目視出来るだけでも二体居るという明らかに異常な事態だった。
「し、試験官……に、逃げましょう!!こんなの……勝てる訳が無い……!!」
「そうです!!今からでも逃げましょう!!全力で逃げれば……もしかしたら──」
「無理だヨ。あいつらはデカイ上に疾イ。逃げようと振り返ったが最後ペシャンコにされて終わりだヨ」
「そんな……」
声を震わせながらきっと希望を見出そうとしたのだろうがもう遅い。オーガに遭遇すれば基本的に殺すか殺されるかの二択しか発生しないのだ。捕食者から捕食される側になった事を自覚した受験者達は、唯々黙り込むだけだった。
「まあ安心するのだ。貴殿等が心配しても結果は変わらぬ。私達が捕食者だという事はな」
「そんな、幾ら何でもそれは──え?」
アリエスの変わらない態度のまま発せられたその言葉に反論しようとした受験者だったが、眼前に映ったフェイとアリエスが懐から取り出したソレにその受験者以外の者達も、もう何度目かも判らない絶句を強いられる事になった。
フェイとアリエスが懐から取り出したのは、上を目指す冒険者なら誰もが憧れる金色のカードだった。
「嘘……」
「金の……カード……」
「Aランク冒険者……!?」
「そういう事。だからちょっと待ってて。もうすぐ終わるから」
フェイがそう言うと、森側からオーガの咆哮が響いて来た。受験者達は一瞬身体を竦ませるが、すぐにそれは解けた。オーガのその咆哮が何処か苦しそうに感じたからだ。
全員がオーガの方に視線を向けると、何やら身体中を黒い紐のような物が貼り巡っているのが見て取れた。
「あれは……」
「【シャドウバインド】闇魔法の拘束魔法だヨ。流石に大きいから全部縛るのに苦労したヨー」
ニコニコしながらとんでもない事を言うフェイに受験者達は起きている事が異常過ぎて何も反応を返せなくなっていた。
「アリエス、後は頼む」
「了解」
そんな受験者達を放置して発せられたアレンの言葉に反応したアリエスは腰に提げていた剣をゆっくりと抜いた。しかし、其処で受験者達が異様な部分に気が付いた。
「あれ?刃が片方にしか無い」
「本当だ。それに刀身が細い。あんなの見た事が無いぞ」
「あれは東方に代々伝わる武器で、刀って言うんだよ」
「刀?」
「ああ、話によると二種類の金属を使って造られてるらしくて驚く程折れにくくて、それでいて物凄く斬れる。見ていれば判るさ」
アレンが受験者達に其処まで説明した所でアリエスが地面を蹴った。凄まじいスピードで拘束された二体の元まで駆け寄るとそのまま真上に飛び上がった。
そしてオーガの顔の辺りまで飛び上がって、着地した。
「え?」
「なにやってるんだ?」
受験者達の疑問を他所にアリエスは平然とアレン達の元まで戻ってきた。そして自分の腰に挿している鞘に刀身をキンッと納めた瞬間、森の前に居る二体のオーガの首が高々と飛び、切断面から青い血が噴水の様に噴き出した。
その光景を見てアレンはひゅうっと口笛を鳴らした。
「お疲れ様、アリエス。感触はどうだった?」
「雑作も無いな」
普通は弾かれるか力の強い者でも剣を振り切る事は難しいとされているオーガの皮膚、しかも首を綺麗に飛ばし、剰え雑作も無いと言うアリエスにもうアレン達以外は乾いた笑いしか出なかった。
だがこれで危機は去った。誰もがそう思った。それはアレンでさえも例外では無かった。
「よし、これでもう大丈夫だ。早く城下町に──っ!!フェイ!!アリエス!!」
「うわ、何この感ジ。凄い気持ち悪いんだけド」
「これは……」
スイッチを切って笑顔を浮かべていたアレンが、これまでに無いくらいに顔を真剣なものに変え森の方向を睨み付けながら二人に呼び掛ける。
二人も感づいたのか、フェイはナイフを、アリエスは刀を手に掛け何時でも対応出来る様にしていた。
アレン達が睨み付けながら待ち構えていると、それは姿を現した。
「ちょっと、これはヤバイネ」
「何故こんな所にこんなものが居るのだ……」
「はぁ……これは、最悪だな」
オーガよりも巨大な体躯。これでもかと言う位に盛り上がった筋肉に、それを包み込む青黒い肌。そして人の身体に簡単に大穴を開けれそうな鋭い角。
アレン達でさえ息を飲み、手に汗握らせる存在感。
「ウォルバ。この仕事させた事絶対恨むからな……」
「ゴォガァァァァァッ!!」
アレン達の眼前に現れたのは、討伐ランクAプラス。殺戮者と呼ばれるオーガの上位種であるオーガ亜種だった。




