エピローグ
お待たせしました、一章エピローグです。
最後の妻の名前と娘の名前を消しました。
ミシェル→妻
ケシャ→娘
次の日の朝。あれだけ降り注いでいた雪はすっかり止み、積もっていた雪が少し残るだけとなっていた。
「さ、さささ寒いぃぃ……」
「あらあら、アレンくん大丈夫〜?はい、ホットミルク飲む〜?」
「は、ははい、い、い頂きます。それとだ、大丈夫じゃな、ないです。昔から寒さには弱いんですよ、ぼぼく」
アレンは今何時もの服装に厚手のコートを羽織っているが、染み入る冷気に耐え切れないのか身体をガタガタと震わせている。
周りを見渡せばアレンだけでなくエユレの店に訪れた人の殆どが昨日よりも厚着をして来ていた。斯く言うエユレや従業員三人も同様に昨日よりも少し厚めの素材の服で身体を包んでいた。
「あ、ラル!」
と其処で、ラルが近くを通る所でアレンがラルを呼び止めた。名前を呼ばれた呼ばれたラルは、パタパタと小走りでアレンの方に近づいて来た。
ラルの格好は朱のニット素材のセーターに黒のサーキュラー。脚には黒のストッキングを穿いていて、落ち着いた雰囲気の中に女の子らしさが滲み出ていた。
エユレの店は普通の店と違って制服というものが無い為、従業員であるラル達は私服を着て仕事をしている。
一年中同じデザインでは無く、季節毎に従業員の服装が変わるというのもこの店のアピールポイントでもある。
しかもこの店の従業員達は皆タイプの違う美少女と美人人妻が居る。人が集まらない理由が無い。
閑話休題。
アレンの目の前まで来たラルは小首をかしげながらアレンに尋ねた。
「どうしたの?アレン君、注文?」
「あ、いやそういう訳じゃないんだ。その、この前はごめん。あんな態度とっちゃって……」
アレンはこの前の夜マリアーナを連れて来た時の事が気にかかっていた。自分の過去を聞かれそうになった所で少し荒々しくラルに対応してしまった。その事に関してラルが気にしているかもしれないとアレンは気にかかっていたのだ。
「この前?……ああ!マリアーナさんを連れて来た夜の事?いいよいいよ、気にしないで。疲れてたんでしょ?」
「それは、まあ……」
「じゃあ仕方が無いよ。私は気にしてないから、ね?」
「……うん、ありがとうラル」
「どういたしましてっ。それじゃあ私仕事に戻るね。何かあったら何時でも呼んで」
「わかった。頑張ってね」
「はーい」
しかし、ラルは全く気にした様子は無くアレンはほっと息を付いた。
(良かった……でも)
アレンはそっと自分の胸の中心に手を当てる。
ラルを誤魔化した事の罪悪感からか、アレンの胸にはチクチクと奇妙な痛みが残っていた。
(皆は……受け入れてくれるのかな……本当の僕を)
そんな事を考えながら、アレンは胸の痛みを押し流そうと湯気が立ち上るホットミルクを一口啜った。
しかし、ホットミルクを飲み終わってもその痛みは暫くの間胸の中心に居座り続けていた。
────────────
それから朝食を食べたアレンは寒空の中を歩き、仕事場まで来ていた。今日の仕事をこなす為だ。
何時もの調子でドアを叩き中に入ると、既にフェイとアリエスが居た。アレンはそのまま二人の真正面の席に座った。
「二人共おはよう」
「おはヨ〜」
「おはよう。今日もいい天気だな」
「これで暖かかったら良かったんだけどね。フェイ、今日の配達は?」
「今日は一つも無いネ。皆今日は寒くて余り外に出てないみたいだヨ」
「ふむ。アレン、どうするのだ?今日はこのまま解散か?」
「いや、今日はもう一つ用事があるんだ」
そう、今日此処に集まったのは何も配達の為だけだけでは無いのだ。
「一体どんな用事なのだ?」
「すぐに判るよ。……ほら、もうすぐだ」
「「??」」
アリエスとフェイが首を傾げていると、突然ドンドンドンッと仕事場のドアが叩かれる。
「はいはい、どちら様かナ〜?──って、うわワ!?」
「アレンさん!!」
「おにいちゃん、おはよう!!」
「どうも、マリアーナさん。おはようリア」
「どうも、じゃないですよ!!一体あれはどういう事ですか!?」
「だから言ったじゃないですか。アフターサービスは明日までですって」
「あんな事されるとは思って無かったですよ!!」
「ち、ちょっと待っテ!アレン、どういう事なノ?」
「さあ?僕は何の事か判らないよ」
「マリアーナ殿も落ち着くのだ。一体何があったと言うのか?」
フェイの質問にアレンは剽軽な態度でおどけて見せた
マリアーナはアリエスに宥められて深呼吸をした。それを暫く繰り返した後、事情を話し始めた。
「今日いきなり家を作り変えられました」
「「……作り変えられた(タ)?」」
「(ホジホジ……)」
いきなり良く解らない事を言われて、フェイとアリエスは呆然としてしまった。そんな中アレンは一人だけ小指で耳をホジッていた。
フェイとアリエスの鸚鵡返しにはいと頷き、事の真相を話し始めた。
「私は朝、リアと朝食を摂っていたんです……」
『いただきます』
『いただきまーす!』
『リア、美味しい?』
『うんっ、ほいひいよ!』
『ふふっ、良かったわ』
ドンドンドン
『すいませーん』
『?はーい』
ガチャ
『どちら様ですか?』
『おはようございます改装屋です。貴女の家を改装しに来ました』
『へ?あの、何かの間違いでは?』
『え?マリアーナさん、ですよね?』
『え、えぇ。そうですが……』
『じゃあ間違ってなんか無いですよ。貴女名義で改装の依頼を受けましたから。それじゃ、失礼しますね』
『え?あの、ちょっと!』
「──という具合で改装屋さんに押し掛けられて見る見る間に家を作り替えられたんです!!」
「はぁ……」
「ふむ、成程な。マリアーナ殿は改装されたのが嫌だったのか?」
「いえ、其処は全く気にしていません。寧ろありがたい事ですしね。ですが!!この事が何の連絡も無しに行われたのが嫌なんです!ねぇ、アレンさん!!」
「何処に僕がそんな事をしたという証拠があるんですか?」
「証拠なんか無くても貴方以外こんな事はしませんよ!!」
「……僕ジャナイデスヨ?」
「棒読みじゃないですか!!」
「アレンはホント嘘つくのが下手だネェ」
「全くだな」
「う、うるさいなー」
悉く全てがバレたアレンは──元々バラすつもりだったが──はぁと溜息を付きながら立ち上がりマリアーナの方に身体を向け、深々と頭を下げた。
「マリアーナさん、今回の【フォアソウト】の不手際。本当に申し訳ありませんでした」
「……え?」
突然の事にマリアーナは動揺したが、それに構わずアレンは言葉を続けた。
「本来であれば怪我人を出さずに終わらせなければならない事象でした。それなのに貴女達二人が傷つく羽目になってしまった。これは僕達の責任です、おまけに貴女の家の代物の破壊までさせてしまいました。今回の改装はその謝礼です、本当に申し訳ありませんでした」
「すいませんでしタ」
「すまなかった」
アレンが言い終わるとそれに合わせて後ろにいたフェイとアリエスも真剣な表情で頭を下げていた。
その光景を暫く呆然と眺めていたマリアーナは、ハッと正気に戻った。
「そ、そんな!頭を上げてください!確かに今日此処を訪れたのはアレンさんに謝って貰う為でしたけど…そんな其処までしなくても──」
「いえ、其処までの事なんです。考えればまだ他にも方法はあった筈です。未熟者の僕の軽率な判断が貴女達を危険に晒させたのです。この謝罪を受け取ってください」
依然としてアレン達は頭を深々と下げていて、マリアーナからは顔が見えなかった。だが、その頭を下げる姿から彼等が本当に心の底から申し訳なく思っている事。そして、それだけ人の事を想い、この仕事に誇りを持っているかが伝わって来た。
マリアーナはアレン達の思いを蔑ろにしてはいけないと思い、手を繋いだままでいるリアと共に一歩小さく前に出た。
「アレンさん達の謝罪とその想い、受け取らせて頂きます」
「はい、ありがとうございます」
マリアーナに礼を告げゆっくりと上げたアレンの顔は、酷く安心仕切ったような顔だった。あんな態度を取りながらも内心は心配だったのだろう。
そんなアレンの姿を見て笑みを零しながらマリアーナは掌をパンッと打ち合わせた。
「さて、これで堅苦しいのは無しにしましょう。アレンさん、改装の件、ありがとうございます。大事に使わせてもらうわね」
「ええ、よろしくお願いします」
「ニャハ、良かったねぇアレン。マリアーナさん、許してくれテ」
「ああ、内心凄く心配だったから良かったよ」
「おにいちゃんあそぼう!」
「いいね、何して遊ぼうか」
「さて、私はお茶を淹れるとするかな」
「アリエスさん、手伝いますよ」
「忝ない」
先程までの真剣な雰囲気は既に霧散し、暖かく楽しげな雰囲気がアレン達の仕事場を包み込んでいた。
アレンはリアの頭を撫でながらリアとマリアーナが心から笑顔になっている事の嬉しさを噛み締めていた。
────────────
「んんっ……」
目を覚ますと真正面から明るい光が身体を照らしていた。
身体の節々が痛み、その中でも側頭部と首の痛みが酷かった。どうやら壁に寄り掛かった体勢で長い間居た為か首を痛めたらしい。
首を回して筋をほぐしながら何故こんな事になっているのかを考えた。
(確か昨日は邸の護衛をしていてそれから……そうだ。あのフードを被った男と闘ってやられたのか……)
彼は漸く昨日起きた出来事について思い出す事が出来た。背をあずけている壁にコツンと軽く後頭部を打つけ、溜息を付いた。
(強かったな、あの男。手も足も出なかった……おまけに護衛は失敗で、報酬は無し、か)
もう一度溜息を付きながら、彼はゆっくりと立ち上がった。
(此処に居たってどうにかなるもんじゃねぇな……取り敢えず帰るか。もう朝だ。ケシャの容態も気になる)
彼は自分の家に帰る為にズキズキと痛む側頭部を手で擦りながらサルナンテ邸を後にした。
────────────
「帰ったぞ」
第二城下町を通って第一城下町北通りにある自宅に彼は帰ってきた。
ドアを開け帰ってきた事を告げると、中から一人の女性が歩み寄ってきた。
「お帰りなさい、あなた」
「ああ、ただいまミシェル。ケシャの容態は?」
「今は一応寝てるわ。相変わらず高熱が引かないけど……」
「そうか……」
出迎えてくれた女性は彼の妻。目の下には隈があり、寝不足なのが一目で判る。
家の中へ歩を進めると、三つあるベッドの内の一つに小さな子供が寝ていた。この子が彼等の娘だ。今は毛布を身体に掛けられ頭には水で濡らした布が乗せられている。
顔は赤くなり、荒い呼吸を繰り返しているのが見て取れる。
「あなた……」
「……すまん。今回の仕事では金が手に入らなかった。もっと稼がないといけないのに、俺が力不足なせいで……っ」
「そんな事無いわ。あなたは良くやってるわよ」
「それでも金が集まらなければ意味が無い!早くしないと……っ」
自分を責め続ける彼にその妻は優しい言葉を投げ掛けた。しかし、実際どれだけ頑張ろうとも金が集まらなければ意味が無い。
娘の辛そうな姿を見せつけられながら何も出来ない自分に怒りを覚え、その姿を必死に見せまいと彼は拳を握り締め、歯を食いしばった。
「あなた、取り敢えず着替えましょう?鎧を着たままじゃ疲れるわ」
「ああ、そうだな……」
妻に言われて自分が鎧を着たままだという事に気づいた彼は、言われるがままに着ていた軽鎧を脱いだ。
するとその時、彼の足元にカチャッと音を立てながら何かが落ちた。視線を其処に向けると、何処か見覚えのある小さな布袋が落ちていた。
「何かしら……?」
彼の妻はそれを拾って訝しげな表情を浮かべた。その反面彼はその袋を驚愕の表情で凝視していた。
「それは……っ」
「あなた、これが何か知ってるの?」
「……その袋を開けて中身を出してみてくれ」
「……ぇ?」
彼に言われた通りに妻は結ばれていた袋口を解き、そこが下向きになるように傾けた。するとチャリンチャリンと音を立てながら、袋の中から金色の硬貨が飛び出して来た。
「え?えぇ!?」
「あいつか……」
彼はあの夜対峙したフードを目深に被った男の事を思い出していた。あの時自分で手にしたのだから間違いない。
「余計な真似を……」
苛立たしげに呟き、あの男を探しに行こうかと考えていると。
「あら?何かしらこれ?」
彼がミシェルに視線を向けると、その手には折り畳まれた一枚の紙が握られていた。
「何て書いてある?」
「えっと…『今回の護衛の仕事、ありがとうございました。このお金はその報酬です』」
「巫山戯やがって……その金は──」
「待って、まだ続きがあるわ。『追伸。くらだらないプライドなんて捨てて頼れるものは何でも良いから頼れ。一人じゃ出来ないことも助けを求めればきっと誰かが助けてくれる。娘さんの快復を心から祈ってるよ』ですって。あなた、どういう関係なの?」
「……わからない」
彼はその追伸の言葉に何も言うことが出来なかった。彼処でただ一回居合わせただけの人間が此処までするのが理解出来なかった。だが。
「一人で抱え込むなって事か……この借りはいつか必ず返すぞ」
「え?」
自分が守ってやらなきゃいけないと思い過ぎていた事に気が付いた彼は、名前も知らない男に感謝し、必ず借りを返すと誓った。
「いや、何でも無い。この金はありがたく使わせてもらおう。これで病気を治す薬が買えるぞ」
「本当に!?」
「ああ、これだけあれば余るくらいだ」
「良かった……本当に……っ」
顔を伏せ、顔を両手で覆った妻に彼は優しく背中を摩った。それから未だ顔が赤く汗を掻いている娘に近づき、そっと頭を撫でる。
「待ってろ。もうすぐ楽になるからな」
それから彼は急いで支度を済ませ、娘の為に走って薬を買いに出て行った。
数日後、彼の娘の熱はすっかり下がり、元気になったその姿に二人の夫婦は涙を流しながら喜びを分かち合った。
時間掛かりましたがこれまでブックマークやこの拙い文章を拝見して下さった皆々様、本当にありがとうございます。
皆さんが見ていることが励みとなり、無事一章を終わらせる事が出来ました。
大袈裟かも知れませんが一応伝えたい事でしたので此処に記しておきます。
次は簡単な人物紹介の後、二章に入りたいと思います。投稿は未定です。
これからもこの作品と山源太郎をよろしくお願いします。




