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Ardent Armada  作者: 剣崎 宗二
Chapter 3「首都」
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7話「Law and Justice and Everything Else」

「オーエン、回収はゲームだった時と同じ方法でいいのか?」

「いや、待て。視覚情報をこちらに繋げてくれ」

 パネルを調節していた手を止め、オーエンは前のスクリーンに向き直る。程なくして、タクマから送られてきた視覚情報――今彼の機体『紫狼牙』が何を見ているのか、が映し出される。

 そこにあったのは、ゲーム時代だった頃とは比べ物にならないレベルに精巧な『死体』。肉の切り口も、折れた骨も。全てが隠れずに映し出されていた。並みの人間ならこれを見るだけで気分が悪くなりそうな物だが、オーエンは特にそれに反応を示す様子はない。

 少し考えた後――

「タクマ。死体を切り分けて、半分ほどはゲームだった時と同じように『回収』、もう半分はそのまま『持ち帰って』くれ」

「…分かった。けど、少し量が多いかな」

「ん、持てない様なら『回収』する量を増やしてくれ」


「ん、戦利品回収?」

 後ろからブリッジに入って来たのは、機体をベオウルフ内に収納し終えた千瀬。

「ああ、ゲームだった頃、俺たちは倒した敵を全て『素材』と言う形で回収していた」

「倉庫にあるあの粉みたいな物だよね?」

「ああ、数値化した資源はどうやら、あのように『粉』として扱われるようだな。…アイテム製造を試みたが、あの粉を溶かし合わせる事で、俺たちの使っているアイテムが作られているようなのだ。スタミナ回復の為に使ったカプセルを含めて、な」

 肉を手に入れる前に食料として使用していたカプセルの不味さを思い出して、思わず眉を顰める千瀬。

「もう食べたくはないね…」

「それも合わせて、半分ほどは元の形通りに回収したかった。…俺たちが『回収』コマンドを使って粉にする過程で、失われた部分がないとも限らないしな」

「ん、じゃあ何で全部そのまま回収しないの?」

「我らの機体も補修が必要になる。…『資源』を用いてな。…それに、『資源』があれば新装備の開発を試みる事も不可能ではない。今は余り時間がないにしろ、な」

「成る程ね…」

 その時、再度、通信が入る。

「回収は終わった。残りの部分は持ったし、オーエン、引き上げてくれ」

「了解した」

 通信を切ると、引力ビームがベオウルフの下部から射出され、そのままタクマの機体を引きこんでいく。

「さて、ちょっと処理してくるか。AC、暫しブリッジ代わってくれるか?」

「あいよ」

「え、何すんの?」

 ブリッジの後方から外に出るオーエンに続いて、千瀬もまた――


「――で、オーエン。これはどこに置けばいいんだ?」

 ベオウルフの格納庫に戻ったタクマは、機体の手に持ったドラゴンの頭と片方の翼を、ひらひらと動かす。

「ふーむ。そうだな。…とりあえず、第六区画に運んでくれるか? AC、第六区画の冷房を起動してくれ。設定温度10度」

「はいよ」

「成る程、第六区画を丸ごと冷蔵庫として使うのね」

 ポンっと手を叩いた千瀬に、オーエンが微笑む。

「ベオウルフは、俺たち四人だけで使うには大きかったからな。こう言った空き区画が多かったのは幸いではある」

「でも――保管してどうするの? どうやって使うかはもう分かってるの?」

「それは――」

「首都で聞けばいい。そうだよな? オーエン」

 答えたのは、ドラゴンのパーツの移送を完了し、機体から降りたタクマであった。


「――ああ。その通りだ」

 一つ頷くと、

「さて、二人とも風呂に入ってくるといい。朝起きたばかりで行き成りの運動だ。汗を流すに越した事はない」

『オーエン、お前も一緒に入って来いよ』

 艦内アナウンスに轟いたのは、通信を通してブリッジで会話を聞いていたACの声だ。

『操艦は俺の方で何とかすっからよ、たまにはゆっくりして来い』

 彼なりのオーエンの疲労への配慮なのだろう。千瀬とタクマもまた、頷いたのを見ると、

『…了解した』

 苦笑いしながら、彼もまた、風呂場へ向かった。


「さーて、今の内に直しとくっかな……」

 レーダーは確認した。異様な敵影はない。

 ――先ほどの一戦で、生物系の敵に対する自動迎撃プログラムの必要性は実証された。

 放って置けば、またオーエンは徹夜してでもプログラムを作ると言い出すだろう。

「ま、俺はあいつほどこういうの得意じゃねぇが、やってみるかね」

 パネルに触り、目の前のスクリーン上に、無数の文字が映し出される。

「おうおう複雑に作りやがって…ったく、最小限の、分かる所の改変だけで済ませられるかなぁ」

 頭を掻きながら、ACが目の前の文字の羅列を改変していく。


「なぁオーエン」

 風呂につかり、頭の上にタオルを乗せ。タクマは隣に居た金髪の男の方へと顔を向ける。

「どうした?タクマ」

「さっき言っていた、『若しも相手が友好的ならば』ってのは、どういう意味?」

「――ああ、他のプレイヤーが居たら、の話だったか。…そうだな。先ずは聞こう。タクマ、あんたは何で、人のお金を奪って取ろうと思わないんだ? そっちの方が簡単に一杯、お金が手に入って…ゲームも出来るだろ?」

「それは勿論、他人のお金を取るのが悪い事だから――」

「誰が『他人のお金を取るのは悪い事』と教えてくれたんだ? 学校か? 親か?」

「その両方だね」

「……ふむ、では若しも、お前さんが学校に行かなかったら? 親が居なかったら?」

 オーエンの問いに、考え込むタクマ。

「確かに、悪い事だとは思わなかったかもね」

「学校に行っていても、親の話を聞いていても、何かしらの理由でそれを『信じられない』そう言う人も居る。 では、そういう人が実際に、人のお金を取ったとして、何が起こると思う?」

「警察が来て、そいつを捕まえる」

「そう。その通りだ。警察は拳銃も持っているし、力もそいつより強いから、捕まえられる。 ……だから、そういう悪い人は、警察に捕まりたくて思いとどまる。…思いとどまらずに実際に行動に移した人は、実際に捕まる事になる」

 頷くタクマに、オーエンは軽く体に水を掛けてから、言葉を続ける。

「これは『警察の方が罪を犯した人より強い』と言う前提の上に立っている。実際、偶にテレビで見るだろう? 海外の凶悪犯が、警察と銃撃戦を繰り広げるのを。犯人が力を持っていれば、彼らがその力を振りかざす確率は、一気に上がる」

「力って…まさか」

 何かを悟ったようなタクマの表情。ぱちんと、オーエンが指を鳴らす。

「そうだ。俺たちの力…『アーデント』だ。 さっきも見ただろう?あの巨大な怪物ですら、千瀬の狙撃の前に沈んだ。一般人なら、太刀打ちが出来る可能性はほぼゼロだ」

 その力を犯罪に使われるとなると――

 …軽く、身震いするタクマ。

「…まぁ、俺はそれも個人の自由だと思ってるんだがな? …冗談だ。それを自分の手で行う事はしないよ」

 真剣な表情のタクマに、微笑を浮かべたオーエン。

「それならいいけどね。オーエンなら、本当にやりかねないと思ってるから」

「その必要は、今は無いからな。…っと、随分と長風呂してしまった。そろそろ上がるとしよう」

「あ、じゃあ僕も」

 ざばぁ、と水しぶきを立て、二人は浴場から上がっていく。


 更衣室で、体を拭いていた頃。

「おい、オーエン、タクマ、そろそろ到着するぜ」

 スピーカーから伝わるACの声。


 ――ベオウルフには、お遊びとも言える機能も多く搭載されている。この「艦内スピーカー機能」もその一つ。

 ゲームだった頃、キャラクターは入浴時も普段同様、腕に付けられているデバイスの機能が使えた。故に声を伝える際はデバイス同士の通信機能を使えばよく、わざわざこのようなスピーカーを使用する必要は無かった。それでもこの機能を設置したのは、一言で言えば『雰囲気を出す為』だったのだが…それが今、見事に役に立った感覚だった。本当にお風呂に入る際、腕のデバイスは外すものなのだ。


「了解。直ぐに行こう」

 白いシャツを肌の上に直接羽織り、オーエンはブリッジへと向かう。

 それを見送りながら、タクマは先程のオーエンの話を思い出す。


 ――若しかしたら、自分たちは、他のプレイヤーと…争わなければいけない可能性もあるのだろうか。



「AC、目的地は?」

「ほれ、今出す」

 ブリッジに到着したオーエンの前に映し出されたのは、巨大な城塞都市。然し、その輪郭は何故かぼやけていて…詳細が掴めない。

「もう少し拡大できるか?」

「はいよ」

 ズームの倍率を上げ、画像を大きくしても同じ事だった。まるで靄が掛かっているかのように、町の中の様子は見えない。

「仕方ない……直接降りて調査するしかないな。AC、機体出してくれるか?」

「はいよ」

「オーエン、僕たちはどうするんだ?」

「ACの機体に同乗してくれ」

「えー、狭いじゃん。それぞれの機体で降りる感じじゃダメなの?」

 口を尖らせて抗議する千瀬に、オーエンは苦笑いする。

「機体を一旦下ろしてしまうと搭乗者なしじゃこちらから引き上げが出来ん。いざと言う時任意の場所に機体を空投出来る有利さの方が大きい。理解してくれるか?」

「んー、分かった。オーエンがそう言うならね」


 不服そうにブリッジから出る千瀬。それに続くタクマ。最後に出ようとするACを、オーエンは呼び止めた。

「……場合によっては荒事になる可能性もある。そうなった場合…千瀬とタクマを頼む」

「わーってるよ。……ま、心配すんな。『どんな手を使ってでも』傷一つなく返してやるからよ」


 ACのアーデント…『グレイヴン』が投下された直後、コンソールを弄っていたオーエンは、ある事に気づく。

「…AC…こういう時だけ余計な努力を」

 その表情は不快な物ではなく、寧ろ友に感謝を示す笑み。

「…さて、俺も最悪に備えなければな」

 いざとなれば、街に砲撃してでも、仲間を助け出す。

 親しき者の安全の為ならば、その他を犠牲にする。


 オーエン――三木島・ロイは、そういう人間だったのだ。

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