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Ardent Armada  作者: 剣崎 宗二
Chapter 2「アルタン村の戦い」
4/20

3話「Village」

(今回も戦闘なしですが、もう少しお付き合いください。次は戦闘ありとなります)

「お嬢ちゃん、お名前はなんていうの?」

 しゃがみ込み、顔の高さを少女と同じレベルまで下げて、にこやかに千瀬がベッドに座った少女に問いかける。

 『あんたらは子供が恐がるからダメ!』と千瀬によって保健室の外に追いやられたACとオーエンが、苦笑いしながらスクリーンを通して中の様子を観察している。

「なぁオーエン。俺たちぁそんなに子供受けしねぇのか?」

「多分そうだろうな。お前は見た目が悪すぎるし、俺は無愛想すぎる。男子なら兎も角、女の子にはな」

「そんなもんか……」


 外の男二人の会話など露知らず。壁に寄りかかったタクマが見守る中、千瀬は優しく少女の手を握り、その目を覗き込む。

「もう恐い怪獣さんはいないからね」

「……」

 何せ異世界なのだ。言葉が通じない可能性だってある。その可能性を、オーエンは考えていない訳ではなかった。

 だがそれでも、現状を打開するには、先ず少女の千瀬に対する反応を見るしかない。

 スクリーンから目を離さず、固唾を呑んで見守る。


「あたし、リンシー。さっきは助けてくれてありがとう、お姉ちゃん……」

 恥ずかしさと緊張からか、少し震えながらも少女は礼を言う。

「ん、大丈夫よ。……良かった。怪我はもう治ったみたいだね」

 少女の腕や脚をチェックする千瀬を見守りながら、オーエンはほっと一息つく。

 ――少なくともこれで、この世界では完全に自分たちの言葉が通じない、と言う絶望的な可能性は消えた。意思疎通ができないと言うのは、生きていく上で致命的だからだ。情報すら得られないと言う事になってしまう。


「ここは……?」

 周りを見回す少女。彼女にとっては、見慣れない物がいっぱいあるのだろう。

「ここはあたしたちの城よ」

「あたしたち?」

「そ、あたしと、あたしの仲間たち。…もう入ってきていいよ!紹介するから」

 その声を聞いて、保健室のオートドアが開く。


「ったく、追い出しやがってよ……」

「こっちの荒っぽそうなのがAC。安心して、あんな格好だけど殴りはしないから」

 にこやかに毒舌を放つ千瀬に、ACの顔が少し歪む。

「で、あっちの無愛想な眼鏡がオーエン。そして後ろに寄りかかってるお兄ちゃんがタクマ」

 とりあえず、二人とも、軽く手を上げて挨拶する。


「で、リンシーちゃんは、どこから来たのかな?」

 手を握ったまま、優しく千瀬が問いかける。

「アルタン村……」

「さっきの場所から、近いのかな?」

 こくり、と頷く。

 欲しかった情報はこれなんだろ?と言った表情でオーエンを見上げると、満足そうな笑みで返された。

「じゃあ、村まで送っていくから、案内してくれる?」

 こくり。

「ありがとね。んじゃ、ちょっと待っててくれるかな?」


「待ちたまえ」

 保健室の外に出て、格納庫に向かおうとする千瀬をオーエンが制止する。

「どうしたんだよ?」

「お前は今回、機体に乗るべきではない」

「なんでだよ?」

「足の怪我…まだ治っていないのだろう?」


 考えてみれば当然だ。医務室の医療カプセルは1つしかなかった。それをリンシーの検査、治療に回していたが故に、千瀬はまだ怪我を治していないのだ。この状態で機体に乗り、着地の衝撃を受ければ…傷が悪化する可能性がある。

「けど、あたしも行かなきゃならないよ? あの子に送ってやるって言った手前ね」

「それは分かっている。あまり待たせるのが問題なのも分かっている。子供がいなくなれば、親は焦るだろうしな」

「じゃあ――」

「来るな、とは言っていない。機体に乗るな、と言ったのだ。――タクマ、留守番は任せていいな?」

「ああ、安心していってきて」

 微笑を浮かべたまま、タクマが軽く手を振った。


「あーあ、狭いなぁ」

「仕方あるまい。元々複座機等『Ardent Armada』には存在していない」

 できるだけ高度を下げたとは言え、地上に先の『恐竜』たちが居る以上、完全に着陸する事は避けたい。艦内に侵入されたくない為の対処だ。

 ではその場合、どうやって下に降りるか。生身でこの高度から飛び降りれば負傷は免れまい。

 ――それを解決するのが、彼らの機体、アーデントである。

『オーエン、投下を開始するよ』

 目の前のスクリーンから、タクマの声が伝わる。

「しっかりと固定したか?」

 後ろを振り返るオーエンの声に、リンシーを膝に乗せ、しかとベルトを締めた千瀬が静かに頷く。

「――いいだろう。タクマ。投下してくれ」


 ヒュン。

 エレベーターで降下する時のような浮遊感が、全身を襲う。

「なるほど。これがリアル降下の感覚か」

「あんまり気持ちよくはないもんだね」

「ああ。けれど、慣れなければな」

 時間にして二秒程。ズン。と言う重い低音と共に、機体が地面に着地する。

『ま、ジェットコースターみたいなもんだな』

 伝わる通信は、後方に着地したACの機体からの物だった。


「よいしょ」

 開け開かれたコックピットから、リンシーを抱えた千瀬が飛び降りる。足をかばうような着地だが、幸いにも傷は開かなかったようだ。

「村はどっちかな?」

「こっち……」

 リンシーの指差す方に千瀬が歩いていく。その後に続こうとしたオーエンとACは、然し千瀬に制止される。

「行き成り巨大ロボットで村に入り込んだらそれこそ迷惑だろ。降りるか、そこで待機するかしな」

「どうすっよ、オーエン」

 …ふむ。とオーエンは考える。

 不測の事態に備えて最低限一人はアーデントに乗ったままの方が良いだろう。が、負傷している千瀬を一人で行かせるのも問題だ。


「…AC。一緒に行ってきてくれ」

「はいよ」

 コックピットを開き、ポケットに手を入れたまま飛び降り、着地する。

「……それ行儀悪いから直しなさいよ」

「癖だ。しかたねぇだろ」

「…ったく…」

 リンシーの指示に従い森の奥へと進む二人の姿が消えたのを確認し、

「さて、時間は有効に使わなければならんな」

 オーエンはその機体から、無数のボールの様な物を宙に放った。


「…あ、ここだよ…あたしの村、アルタン」

 リンシーの案内に沿い、十分ほど森の中を歩いた後。ACと千瀬の前には、開けたスペースがあった。

 その奥には、二十軒ほどの簡素な建物があり、周囲の畑にそれを手入れしている大人や、遊んでる子供たちが居る。

「……いい村だぜ」

「そだね。あたしは山の中の農村も結構見てきたけど、ここはそれなりに自立できてる」

 千瀬の目線は、畑の中の作物に向いている。

 バランスよく、葉菜と穀物らしき物が育てられている。他の村などとの交流が有るかどうかは分からないが、自給自足程度ならできているのだろう。


「リンシー!」

 中年の女性が、リンシーを見るなり、急いで駆け寄って、彼女に抱きついた。

「おかあさん…!」

「リンシー…ああ、リンシー、どこに行ってたの? 丸一夜戻ってこなかったから、心配したのよ?」

「ちょっと森の中にきのこを取りに行ってて……あのおねえちゃんたちに助けてもらったんだ」

 母親にしっかり抱きつきながらも、目線を二人の方にやると、不自然ながら精一杯の笑顔を作っていたACと、微笑む千瀬が軽く手を振っていた。

「巨大な、こんな口の大きな、手が小さい怪物が襲ってきて…食べられそうになったんだ」

「なんと…!? ああリンシー、無事で本当に良かった……」


 ひとしきりリンシーを抱きしめた後、母親は千瀬に歩みより、深く頭を下げる。

「本当に、皆様ありがとうございます。私は既にあの子の父親を失っております。その上、あの子までいなくなってしまったら――」

「いやぁ、助けるのは当然だよ。この大自然の中、助け合わないと生きていけないからね」

 はは、と軽く笑って恥ずかしさを誤魔化す。


「――リンシー。先ほど怪物と言っておったな?」

 声が聞こえたので振り返れば、そこに居たのは小柄な老人。

「村長……」

 そう、リンシーの母が言ったのを聞いて、ACは軽く老人に頭を下げる。

「旅の者。その怪物の特徴を、この老いぼれに聞かせてはくださらんか」

「んー…絵でも描けりゃ良かったんだが、そっちは得意じゃないからね。とりあえず出来るだけ説明してみるよ」

 そう言って、覚えている限りの怪物の特徴を説明し始める千瀬。幸いにも、リアル世界での彼女の職業は『猟師』。動物の特徴を覚えるのは、得意な方だ。

 千瀬の説明を聞くにつれて、村長の表情が少しずつ険しくなっていくのを、ACは見逃さなかった。

(「ちっ、また厄介ごとになりそうだぜ…」)

 ピッ、と腕のデバイスの通信機能をONにする。未だアーデントに搭乗しているオーエンが、聞こえるように。


 千瀬の話が終わったその後。ゆっくりと閉じていた目を開け、村長が口を開く。

「やはりこっちに来てしまったか……」

「どういう事ですか?」

 不思議に思っているのは、一緒に居た村人たちも同じようだ。

 固唾を呑んで話の続きを待つ。

「この間来た行商人を覚えているな? あの怪物…『甲獣』によって、山の向こうの村が壊滅した話を聞いているのじゃよ。甲獣は寒さに弱い。故に山越えはしてこないと考えておったのじゃが…どうやら甘かったようじゃな」

 村人の間に、どよめきが走る。

「甲獣って…若しかしてあの…」

「そうじゃ。いくつもの街が滅ぼされ、機兵の開発によってやっと、国はそれに対抗する手段を得た…あの化け物たちじゃ」


「じゃあおねえちゃんたちは、すっごい強い事になるね! だってあの鉄の巨人の中に入って、バンバーンって甲獣をやっつけちゃったんだから」

 リンシーの精一杯のアピールに、一斉に千瀬にその場の全員の目線が集まる。

「鉄の巨人……まさか…機兵使い!?」

「え、ええ…っ」

 そもそも機兵がどんなものかすら、彼女には分からない。その様な単語は聞いた事がないのだ。或いはこの世界では、アーデントをそう呼ぶのかもしれないが…

 答えに窮している彼女の前で、村長がしゃがみ込み、頭を地に着けた。

「ちょ…村長さん…!」

「お願いですじゃ、旅の者……このアルタンの村を、救ってくだされ…!」

 地に頭を擦りつけ、懇願する。

「この村には報酬にできるような物は殆どございませぬ。ですが…持っていけるものは全て…持っていって構いませぬ。せめて、この村の人々の命を…救ってくだされ…!」


 ――しばしの、沈黙。

「……分かった」

 ギリッと唇を噛み締め、千瀬は答える。

 その声は、まるで闇に差した一筋の光のようで。村長の顔色が、一気に喜びに変わる。

「良いのか?まだ相手の規模も分からないんだぜ?」

「怖いの?怖いならさっさと艦に戻ってタクマと交代してよ」

 ――歓喜に震えた村長が村人に知らせている間に。千瀬はACと、次の一手について話していた。

「へっ、誰に物を言ってやがる。んな怖がりに見えんのか?」

「ならいいよ。後はどうやって頭でっかちのオーエンを説得するかだけど――」

『その必要は無い』

 オーエンの声が、腕の通信デバイスから伝わる。

「げっ、聞いてた……?」

『ああ。…まぁ、どうこう言うつもりはない。何故ならば、俺も助ける事には同意だからだ』

「へっ?」

 さぞかしこの瞬間、千瀬の表情は間抜けな物になっていたのだろう。

「……あんたはてっきり反対するかと思ったけどね。『利がない』とか言って」

『利ならこの場合、ある』

「…まさか、この村の人間から絞り取れるだけ絞り取ろう、とか言うんじゃないだろうね?あたしは反対――」

『そちらではない』

 ビシッと言葉が遮られる。多少ながらうんざりしているのが、オーエンの口調から聞き取れた。

『人の話は最後まで聞きたまえ。――この場合の利益と言うのは、情報の事だ』

「助ける代わりに村長さんから色々教えてもらうって事?」

『そうだ。先ほどの会話にあったように、彼は行商人から情報を得ている。……つまり最低限でもこの世界の国家の状況や、近隣の大きな街の情報は得られると言う事だ。他の詳しい物については、その「大きな街」で得ればいい』


「……ん、それじゃタクマに連絡して、あたしのアーデント……『アルティア』を投下してもらうね」

『待て千瀬。お前は留守番だ』

「えっ!?」

 デバイスに手を掛けた千瀬の動きがその一言でフリーズする。


『何の為にロボットに乗るなと言ったのか…まだ怪我人なのを忘れたのか。……交渉だからついてくるのを許したが、戦闘活動は許可できない』

「あたしは平気だって!」

『……戦闘中では僅かな差が致命的になる。これがゲームだったのならば問題はない。が――「今の状態」で命を落とせば、そのまま死ぬかも知れないのだぞ?』

 ギリッと唇を噛み締める。オーエンの言う事も分からないではない。死んだらどうなるか、誰にも分からない以上…リスクは負いたくないのは確かだろう。

 だが――


「あの村長さんは、あたしに土下座してた。村の長が、どこの人間かも分からない人に」

 思い出すのは、育ててくれた自身の祖父。厳格で、決して口調すら緩めなかった祖父が、唯一度、土下座をした時。

 それは、狩りに慣れてきた頃。千瀬が自身の油断から、熊に襲われて大怪我をした時の事。

 薄れ行く意識の中、千瀬は見ていた。自分も千瀬を助ける為に脚や腕に軽くはない負傷をしたにも関わらず、祖父はそのままの体で、医師に土下座したのだ。『孫を助けて欲しい』と。

 ――村長の目には、あの時の祖父と同じ光があった。愛する者のため、全てを投げ打つ覚悟が。

「あたしが、その土下座を受けた。……だから、責任を持って、達成させたいんだ」


 ――また、しばしの沈黙。

『……やれやれ』

 折れたのは、オーエンの方であった。

『良いだろう。但し、村の敷地内で高所を探しての狙撃に徹しろ。決して前衛には出るな。……これを守ってもらえなければ参加は許可できない。良いか?』

「ん、おっけー! ありがとねオーエン! じゃ、タクマにアルティア投下してもらうよ!」

 千瀬が通信をベオウルフに居るタクマとの物に切り替えたのを見計らって、そちらに背を向けたまま、ACはオーエンとのプライベート回線を開く。

「……良いのか?」

『敷地内からの狙撃ならば危険も少ない。……こちらも『オーバーシアー』で援護する以上、その場から全く動かなくとも千瀬がトカゲ共に遅れを取る事はあるまい。動かずその場からの狙撃のみに徹するのであれば、足の傷が悪化する事もないだろう』

「そうじゃなくてさ、他に何か他にも目的があるんだろ?」

『……気づいていたか』

「当たり前だ。何年の付き合いだと思ってんだよ。……お前が俺とサシで組みたいって言う時は、大体何か企んでる時じゃねぇか」

『……誤魔化せんか。……まぁ、さっさと戻ってきたまえ。話はそれから行う』

「なんだ、ここで話せないのか? ……ちっ、切りやがった。まぁいいや。 千瀬!先に機体に戻ってるぞー!」

「ん、分かった!あたしもアーデントが到着したら連絡する!」

 千瀬に手を振ると、ACは村を後にした。

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