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Ardent Armada  作者: 剣崎 宗二
Chapter4「銀光の騎士」
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12話「Night Raid:The Master of Shadows」

『千瀬。各リンクは良好か?』

「うん。タクマのは相変わらず見えないけど…仕方ないか」

 ベオウルフ艦橋。そこに座っていたのは――千瀬。今回の作戦は移動しながらの『攻め』の作戦であることに加え、狭所である可能性が高い事から、今回の『お留守番』は彼女になったのである。


 ――方針が決まった後。ウルフパックの面々は、早速盗賊たちのアジトを割り出す為の作業に入った。

 機体の足を撃たれて逃げ出せず捕縛された盗賊の面々は最初は口を固く閉ざしていたが、家や所有する建物を焼かれた街の人間が包丁を構えて周囲を取り囲むと、まるでそれまでの態度が嘘だったかのように饒舌になった。

 その情報に従って、千瀬と交代したオーエンが念のために『オーバーシアー』を使って偵察すると、位置は真である事の可能性が高いとの結論が得られた。


『仕方ない。知っての通りこっちは極端まで軽量化してるからね』

 ――『圏境』で代用できる以上、オーエン、ACが行っているようなサーモビジョンの装着は無駄になる。

 スピードを最優先とする『紫狼牙』だからこそ、無駄な装備は出来るだけ省きたいのである。

『あまり警戒している様子は無いな』

 そこまで通信を行った所で、外部スピーカーに切り替える。電子通信はゲーム時代の『ギルドチャット』に相当しており、外部の人間であるあの白銀の機体には通らないのだ。

「……タクマ、そっちはどうだ?」

「範囲内には敵は居ないみたいだよ」

「ほほう……探査の術も使えるとは、中々有能な術士じゃな」

 苦笑いする。ウルフパックの面々が運用しているのは魔法ではなく、技術の方だったのだが…この世界の者であろう彼女にそれを公開するのは憚られた。故に、誤解は誤解のままにしておいた方が良かったのだ。

「そう言えば、貴公らの名前を聞いていなかったのう。チーム『ウルフパック』とだけ聞いておるが」

 本来の依頼者がまだ帰ってきていなかったため、形式上だけでも…と言う訳で、彼女はウルフパックの面々と契約を交わした。その際にギルド名を見たのだろう。

「…オーエンだ」

「僕はタクマ。で、一緒に居た女の子は千瀬。そしてあっちのでかいのが――」

「人をゴリラみたいに言うんじゃねぇ。ACだ。よろしく頼むぜ」

「おお、四人ともよろしくお願いする。私は――」

「アレクシア・オル・フェルシウス…で宜しかったかな?」

「その通りじゃ。そう言えば契約書に署名しておったのじゃな。…そう言えば、その千瀬殿は、何処に?」

「彼女は今回は別行動です。心配は要りません」

 代表して答えたタクマの回答に、少し不可思議そうに頭を傾げながらも、頷く。

「……音が止んだな。チャンスだ」

「おっしゃ、行くとするか」

 先に移動を開始するACに、他の三人が続く。

 今回も、出来るだけ実力を見せずに勝利を得る。それが――事前のウルフパック内での取り決めであった。


「あーくそ、何でこんな夜中に見張りしなきゃいけねぇんだ、畜生が」

 松明を掲げながら、洞窟の入り口から、盗賊らしき男が一人這い出る。

「たくもー。今頃、頭は奥でお楽しみだってのによぉ。…んの飛行船と奇妙な機兵を手に入れたからって浮かれやがって……操縦者の女子が綺麗だからって……」

 ぶつぶつと愚痴りながら、彼が顔を上げた瞬間。


 ――巨大な機械な一つ目が、彼を至近距離から睨み付けていた。


「う、うわぁぁぁぁあああああ!?」

 しりもちをつき、肺の空気を全て吐き出すような叫び声を挙げながら、彼は洞窟の奥へと逃げていく。


「……しまった。この可能性を失念していた」

 『Ardent Armada』がゲームだった時代。こう言った遠隔操作のドローン類は、味方のみに見えるようになっており、同時に敵対陣営からは破壊等の干渉もできなかった。

 然し、それが『現実』となってしまった今。そこに存在するドローンは、破壊される可能性もあれば、見えもするのである。特に、ドローン自体よりもサイズが小さい『人間』にとっては、発見はしやすい物である。

 己の失策を反省しながら、オーエンは次の一手に移る。


「――突入、開始だ」




「お、お頭!!ば、ば、ばばばけもんが…!」

「なんじゃ騒がしい」

 振り向いた頭目の男。その前には、鎖に繋がれ、俯く少女が。

 その衣服は――現代的。タクマたちと同じ類の物だ。

「……んなクソ見たいな嘘で俺様の楽しみを邪魔するんじゃねぇ。次やったら叩き潰して機兵用の潤滑油にしてやら」

 そう言った頭目の男から目線を向けられた少女は、ひっ、と距離を離そうとする。だが、両手両足が鎖につながれている今、それは成されない。


「嘘は言ってませんって!!本当に見たんですよ、巨大な目玉が――」

「てめぇ、本気で油になりたいみてぇだな…!」

 キレた頭目の男が振り向いた瞬間。然し爆発音、そして続く騒ぎ、戦闘音が、彼の言葉を遮る。


「どうした!?」

「お頭!侵入者です!」

「誰だ?そして何人だ!?」

「四機…機兵です!」

 その言葉を聴いた瞬間、頭目と呼ばれたその男――ヘイガンの脳裏に、嫌な予感が過ぎる。

 ――まさか、昼の機兵たちか――

「ヤトを起こせ!何の為に雇ってると思ってんだ…さっさと出撃準備をさせろ!! 俺も直ぐに行く!!」

 機兵格納庫へと駆ける彼の脳裏は、『クソが…!』という言葉に埋め尽くされていた。




「然し、あちらは二人だけで大丈夫なのかえ?」

「大丈夫だよ。慣れてるからね、オーエンとACは」

 目の前の小さな光源が照らし出していたのは、白銀の装甲を持つ機体。

 タクマの『紫狼牙』と共に行動していたアレクシアが、ランプでもかざすかのように手を動かすと、光源もまた、その手の動きに追随するように左右に動く。

「へぇ…便利だね、その魔法」

「まぁの。私の得意属性は光だからのう」

 得意げに胸を張るアレクシアに、タクマが微笑む。


 ――オーエンとACで騒動を起こし、その隙に乗じてアレクシアとタクマが潜入し、頭目を討つ。

 それが今回、オーエンが立てた作戦。

 それは上手く進んでいた。――少なくとも、この瞬間までは。


「!」

 とっさにアレクシアの機体を引き寄せると同時に、背後から大太刀を抜き放ち、縦一閃。

 キン、と言う金属音と共に、黒塗りの矢が弾かれ、洞窟の壁に突き刺さる。

「へーぇ、よく気づいたなぁ」

 声が、する。

 だが、アレクシア機がそちらに光源を向けても…何も見えない。

 ズサッ。

 『紫狼牙』がそちらに二歩、踏み出す。

(「捉えた」)


 ――圏境は確かに敵の探査には無類の力を発揮する。が、それは飽くまでも敵が圏境の『範囲内』にいる場合だけだ。こう言った飛び道具を使う相手に対しては、相手の飛び道具が射程内に入るまで、探知する事は不可能である。

 だが、それはタクマがそれに対して、打つ手がないと言う事ではない。圏境内に入った飛び道具の軌道を察知する事ができれば、発射された方向は分かる。後は――


「――一気に詰めるだけ!」

 スラスターを使わずとも、軽量機である『紫狼牙』の走行速度は遅くはない。敵が反応できる前に、一気に距離を詰め、大太刀を斜め上から振り下ろす!


 キン。

「うっは、やるねぇ!こうも早く位置がばれるとは思わなかったぜ!」

 鈍い金属音と、硬い手ごたえ。武器で受け止められたか。そう考えるタクマの目の前で、空気がゆがみ、僅かに機体らしき物の輪郭を映す。

「暗黒魔術じゃと…!?気をつけろ、タクマ…!」

 詳しい説明は受けなかったが、アレクシアの口調から、敵の魔術は相当にヤバイ代物だと言うのは分かる。 


「なら…また怪しい事をされる前に、叩き切る!」

 タクマが両腕に力を込めると、『紫狼牙』の腕もまたそれに呼応し、じり、じりと刃を推し進める。

「おっと、力比べは趣味じゃないんでね」

 交差した両腕で、下に刃を流すように、全力で振り下ろす敵。流された大太刀の刃が地に突き刺さった僅かな隙に、後退し、距離を離す。

 闇に紛れ込まれ、再度敵を見失うタクマ。

「どういうからくりかは知らないが、一定距離以内にいないと俺を探知できないみたいだな?」

 敵の声に、密かに奥歯を噛みしめる。

「じゃが、貴様も闇の術を過信しすぎているようじゃの。のんびりしすぎじゃ――照らし出せ、光のエフェリア!」

 アレクシア機が、光の球体を空中に投げる。

 一瞬の間。直後、球体が炸裂し、周囲の空間を光で満たす。

 光に照らし出され、敵機を包む闇の衣が、まるで溶けるように剥がれていく。

「ずっと動かなかったのはこれの詠唱準備って事か…やるねぇ」

 己の隠蔽が剥がされても、男の声に焦りはない。それが、アレクシアには僅かな不安を抱かせた。

(「一対二…しかもこの状況で…?」)


 見えている状態ならば、圏境に頼るまでもない。疾駆し、低姿勢から機体の足を薙ごうとする紫狼牙に対し、敵機は跳躍し、まるで張り付くかのように洞窟の天井に留まる。そのまま右腕を翳すと、発射された無数の黒塗りの矢がまるで雨のように降り注ぐ。

 大太刀で直撃コースにある矢を弾きながら、逆の腕を翳し、小型ガトリングガンで反撃する。

「おっと、奇妙な武器だな。魔力が感じられねぇ…何の魔術師だ?」

「……!」

 壁の方へと飛び移った敵の疑問には答えず、そのまま大太刀で突きを放つ。

「へっ、こういうのはどうよ?」

 その瞬間。敵は驚くべき行動に出た。

 ――わざと回避せずに、むしろ機体の操縦席部分を、切っ先の軌道上に乗せて来たのだ。

「!?」

 とっさに剣を止めるタクマ。


「――だろうと思ってたよ」

 強烈な蹴撃。完全に不意を衝かれ、紫狼牙が壁に叩き付けられる。

「タクマ!」

 アレクシア機が前に出る。盾を構えたまま、槍を突き出す。

「私は覚悟はできてるのでのう…同じ手は効かんぞ」

「嬢ちゃんは……正々堂々と戦いすぎだ。黒影よ!」

 槍が敵機を貫いたその瞬間。貫かれた敵機が、黒い影に変わる。

「ブラックドールの魔術……!卑怯者が……!」

「卑怯だってなんだっていいんだよ。勝てなきゃ死ぬだけだ。――影よ縛れ!」

 黒い影が、アレクシア機の動きを止める。

 背後に回りこんだ敵機の右腕から突き出した刃が、一直線にアレクシア機の操縦席を背後から狙う!

「――っ!!」

 死を覚悟し、目を瞑るアレクシア。


----------------------------------

「――お兄ちゃん、助けて……!」

 有沙が男にナイフを突きつけられた時。その兄たる少年はその前で、竹刀を持って立っていた。

 震え上がる体。竹刀を構えながらも、動けなかった。

 普段習っていた武術は、何の為の物か。目の前の男の構えるナイフ一つに、怯えたと言うのか。

 ――大人は、それを『仕方ない』と言うだろう。たった10歳の少年に、ナイフを持った男に立ち向かう勇気は、なくても当たり前だと。

 だが、現実は残酷である。そうタイミングよく、その場にヒーローが降り立つ筈もない。故に。故に――


 ――顔に布を掛けられたまま、有沙と言う少女は、運ばれていった。

----------------------------------


「…ぁぁぁぁあああああ!」

 タクマが全身の力を注ぎ込む。『紫狼牙』はそれを反応し、同じような動きで――手に持った大太刀を、全力で投擲する。

 風を切って飛来する大太刀は、然し余りにも『分かりやすい』。それを軽く横に避けると、大太刀は壁に深く突き刺さる。

 小太刀を構えて駆ける紫狼牙。

「――そこを狙ってたんだな、これが」

 まるで待っていたかのように、敵機はタクマの方に向き直る。アレクシアを狙ったのは、『誘う為』だったとでも言うのか。

 左のブレードはフェイント。機体の顔に突き出されたそれをタクマが回避した瞬間。右のブレードが猛烈な勢いで振り下ろされ、持っていた小太刀を弾き飛ばす。

「焦りは隙を作る。武器を失ったてめぇが、どうするかな?」

 返事は向けられたガトリング砲。

「おっと。影の帳――ッ!」

 だが、吐き出された弾丸は闇に阻まれ、届かない。威力が足りないのだろう。闇に半分ほど食い込んだ所で止まっている。

「これで――ワンキルってな…!」

 更に素手で突進する紫狼牙の首筋に向けて、刃を突き出す敵機。

「タクマ――ッ!」

 それを助けんと、アレクシアが叫ぶ。だが、影に縛られた機体は――動かない。


 ――キン。


「…………………………は?」

 驚愕したのは、敵機に乗っている男のほうだった。

 全力を以って、必勝を確信して繰り出した一突きが、まるで鉄柱にプラスチックのフォークを突き立てた時のようにあっけなく……弾かれたのだ。

「んなあほな…!その速度で重装甲な筈が…!」

 予想外の事態による混乱。そしてそれによって作り出された、僅かな隙。

 その一瞬の間に、両手を伸ばして敵機の腕を掴み引き上げるように、紫狼牙は敵の腕に両手両足を以って絡み付いていた。

「何をするつもりだ?その機体じゃ出力が足りないだろ。武器がないとどうにもならん」

「例え武器がなくとも……お前の好きにはさせない!」


 ――その為に。心を鍛えた。

 ――如何なる時でも諦めず、勝機を見つけるために。

 ――二度と、目の前に手を伸ばせず、大切な物が零れていくのを見る事にならないように。


 紫狼牙の全身のスラスターが、一斉に唸りを上げる。

 左半身のそれは『推進』を。

 右半身のそれは『後退』を。

 左右で反対の方向へのスラスター噴射は、それ即ち『回転』を生み出し――『螺旋』となり。

 紫狼牙を高速に加速させるに足るそのパワーによる『螺旋』は、一瞬にして。


 ――敵機の腕をねじ切り、粉砕した。


「しくじったなこりゃ…」

 後退し、距離を離した敵機。その操者たる男が舌打ちする。

「このヤト様がここまで傷をつけられたのは、ほんっと久しぶりだわ」

「ヤト……『黒影殺刃』ヤト・アルストか!?」

 アレクシアの音色には、ある種の恐れが含まれている。武者震いのような何か。それが、この敵の厄介さを示していた。

 だが、一方、ヤトもまた、打算を行っていた。今の一合の内に、術式の練り上げを完了させたアレクシアは影の縛りを脱し、タクマ機もまた、大太刀に片手を掛けていた。一方彼自身は、機体の片腕を失った上、騙まし討ちとも言える『ネタ』がバレてしまった以上、先ほどよりも不利な状況にあるのは間違いない。

「その機体――覚えておこう。隠せ帳よ!」

 黒い影にずぶりと沈み込むように、ヤトの機体が消えていく。

「まて……!」

 壁から大太刀を引きずり出し、駆け寄るタクマ機。

 だが、余りにも深く大太刀が壁に刺さっていたが故に、駆け出しが遅れ、大太刀の一閃はヤト機の頭上を通り過ぎる。

「く……!」

「……すごいのう、タクマ。あのヤト・アルストを退けるとは」

「……そんなに強いの、あの人?」

「ああ。ほぼ無詠唱に近い闇の術と、卓越したブレードの格闘術で、要人暗殺のプロだった賞金首じゃった。…なんでこんな所にいたのか分からんがのう。…っと、探索を続けようか。私たちの目的は、盗賊たちの頭の探索だったのじゃろう?」

「ああ。その前に一度皆に連絡を入れよう。あのヤトとかいうヤツがあっちを襲ってきたら面倒だからね」

 そう言って、タクマはベオウルフに居る千瀬への通信を開いた。

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