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Ardent Armada  作者: 剣崎 宗二
Chapter 1「異世界への合流」
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Prologue

とある物に触発され、自分が『造りたい』と思っているオンラインゲームを基にしたVRMMO物を書いてみました。

「――タクマ」

 呼び声に、消えかけていた意識が、元に戻る。


「どうしたのだ?疲れているなら、今日は先にログアウトする事をオススメするが」

 隣に目を向ければ、そこに居たのは金髪の男。ショートカットのぼさぼさの髪型にも関わらず、鋭い目元と、眼鏡を押し上げるその仕草が、どことなく知的なイメージを感じさせる。

「ああ、大丈夫だオーエン。どうせ明日休みだからね。それよりも、今回のアップデートの変更点を確認してから布団に入りたい」

「俺はもう布団に入ってるぜ。このままプレイしてるがよ」

 カシュッ、と後ろの自動扉が開き。赤い逆立った髪の男が入ってくる。

 その髪型、そして三白眼が目立つ顔立ちが、どこかチンピラ…とまでは言わなくとも、こう、近づきたくない系の雰囲気をかもし出している。


「AC。タクマにお前のような悪い癖を付けさせるんじゃない。それより、もうアイテムの整理は終了したのか?」

「あったりまえだ。俺をなめんなよオーエン」

 隣の二人が軽口を叩き合うのを聞いて、思わず笑みが浮かんだ。

「どうしたタクマ。にやにやして」

「い、いや、ちょっと今回のアップデートが楽しみだなぁって」

 オーエンと呼ばれた金髪の男の急な矛先転換に、しどろもどろになって何とかごまかす。


「ふむ。…まぁ、これが『Ardent Armada』初の『予告なし』でのアップデートだからな。しかもライブアップデート…サーバーを落とさずに更新をする、となった。何が起こるかは俺にも分からん。色々調べてみたんだが、徹底的な情報封鎖が敷かれていてな…そもそも完全な情報封鎖はマーケティング戦略としては悪手で――」

 ぶつくさと長い説明を並べ始めたせいで、眠気が襲ってきた。

 周りの風景が無機質な見慣れない機械であるのが、更にそれを促進させてくる。

 ――そう。ここは、現実世界ではない。


 ――『Ardent Armada』。没入型MMOゲーム――つまり、完全にゲーム世界の中に入ったかのように体感させてくれるオンラインゲームとしては、第三世代に数えられるらしい。

 現実の動きとゲーム内がシンクロしているのは、視覚と、手のジェスチャーによる操作、そして顔の表情だけ。まだ、第四世代のゲーム…完全に全身の感覚がゲーム内とシンクロする、と言うのには届かない。

 ただ、それでも、他の没入型MMOゲームが殆どファンタジー世界をモチーフしているのに対し、『Ardent Armada』はSF…ロボットや、空中戦艦がお互い打ち合う。そんな世界観を構築している。そのお陰かどうかは知らないけど、多くのユーザーを呼び込んでいる。

 実際、夜2時というこの時間帯でも、まだ1万人以上がログインしている。


「ふわーぁ…お疲れー」

 大あくびしながら、ショートカットにタンクトップの、豊満な体つきをした女の子が、先ほどのACと同じ自動扉から入ってくる。

「やーっと機体の整備が終わったよ…やっぱ砂嵐の中に隠れるとダメージもでかいもんだねぇ」

「まぁ、仕方ない。千瀬の戦法は隠れる事を特に重視するからね」

 苦笑いで返す。

「で、大丈夫なのかね時間は? 俺の記憶が正しければ千瀬、お前さんは明日朝早く祭りの獲物の準備かなんかで出なきゃいけないって言ってた筈だが」

 オーエンの問いに対して、暫しの沈黙。


「やっばぁぁぁぁ!」

 絶叫する千瀬に、頭を押えるオーエン。

「…早くログアウトしたまえ。後はこっちで片付ける」

「すまんオーエン!恩に着るよ!!」

 急いで自室へ走る千瀬。それを苦笑いしながら見送る。猟師と言うリアル職業は、一部の人が思うほど自由ではない。――生活の為に朝早く起き、山の中に入る事もまた、必要なのである。


 ――タクマたちは、今、空中戦艦『ベオウルフ』の中に居る。

 『Ardent Armada』と言うゲームの最大の特徴の一つとして、各ギルド――プレイヤー同士で作る組織では、自分たちで共有する『戦艦』が持てるという物がある。

 それは空を飛ぶ移動手段であると同時に、基地、そして――家でもある。

 それ故にゲームにログインしている間は、殆ど自らのギルドメンバーと同じ建物で暮らしているような物であり、その連帯感もまたこのゲームが人気である秘訣の一つである。

 保有できる戦艦の規模は、そのギルドの総合能力に比例する。一般的に言えば、人数が多く大きなギルド程、巨大な艦を所有する事が出来る。初心者が一人で扱える艦なら、シャトルくらいのサイズの物――そういった感じだ。

 空中戦艦「ベオウルフ」は、それなりに大型の艦であった。内部の個室は、格納庫、研究室等を除いても裕に30を超え、一部は物置、倉庫代わりとして使用されてはいるが殆どは空置されている。

 たった四人のギルドである「ウルフパック」が、これだけの巨大船を持っているのは、一重にタクマ、AC、千瀬の戦闘能力と、オーエンの運用による物である。


「――最初おめぇ、でかすぎて無駄だって言ってたなぁ?」

「理由も考えずにただでかい艦が欲しい、って言ってたなら拒否してたな。でも、タクマはちゃんと考えていた」

 からかうACに、真面目に返すオーエン。

 最初にタクマが、もっと大きい艦が良いと言い出した際、最も反対していたのはオーエンであった。

 だが、タクマが大きな艦が欲しい理由を述べると、一転。全力で協力してくれた。

 ――ある日帰ってきたら、「資産が2.5倍まで増えた。もう少し待っていれば3倍もありえたのだが、流石に全損のリスクは取れない」と言われた時は目玉が飛び出そうになった物だ。

 他の三人が、他のギルドの為の傭兵等をして稼いだ資金を元手に、プレイヤー同士が商品を売買するオークション等で『運用』を行い。装備の強化と資産の増加を行うのが、当時のオーエンの仕事だ。


「それにしても見事だよなぁ……いつの間にかこんな立派な艦を稼いじゃってさ」

 感心したようにタクマが周囲を見渡す。

 がらんとした艦内。ありとあらゆる壁の半透明な外殻の裏に、精密機械が見え隠れする。

 このゲームの作り込みに感心すると共に、これだけの物を自分たちの努力で入手した。そんな達成感のような物が湧き上がってくる。

「……マーケットの傾向、つまり人の好みと、情報さえあればそれ程難しい事でもない。……装備類はまだ未完成だし、もう少し努力する必要もあるか」

「そらぁ、俺らがもうちっと傭兵をしてくりゃいいのか?」

 ふっ、とオーエンが微笑む。

「それもだが、そろそろ資源の収集も開始しなければならない。…マーケットから購入するのも出来るが、どうしても出回っている量が限られているのでな」

「それはやっぱり、『オリジンレシピ』を考えての事か?」


 ――タクマが聞いた『オリジンレシピ』とは、『Ardent Armada』に於いて実装が予告されていたシステムの一つ。

 開発者が用意したレシピに沿って、装備やアイテムを作り出すのではなく、自分たちで一から設計し、アイテムを製造する、実に画期的なシステムであった。

 が、その分、実装は相当に難しかったようで、サービス開始時から予告されていながらも、『バランス調整』『システムのバグ修正』等の理由で繰り返し延期されていた。

 プレイヤーたちが現実世界で集まる『オフラインイベント』で、毎度必ず運営側への質問として上がるトピックの一つでもある。


「ああ、時期的に見ても、そろそろ今回じゃないかとな。…前回のオフラインイベントで既にバグ自体の修正は9割方終わっていたようであるし」

「ってぇと…誰か掘りキャラに転向しなきゃいけねぇかも知れねぇな。…っと、そろそろの様だぜ」

 アップデートの予告時刻までもうすぐ。


「……なぁオーエン。このライブアップデートってのは、簡単に出来るもんなのか?」

 今まで数々のオンラインゲームをやってきたが、サーバーを落とさずにアップデートする等、タクマには聞いた事が無かった。

「そうだな…例えるなら、心臓の鼓動を止めずに、心臓手術をするような物――だろうな。相応のリスクを伴い、一般的には小規模の措置に於いてのみ行われる。だが……運営とて馬鹿ではない。このやり方でやる、そう決めたからには、何か考えがあるのだろうな」

「そっか」

 一抹の不安を覚えながらも、艦橋前方の窓から、黒い夜空を見上げるタクマ。


 ――そして、アップデートの時間はやってきた。


 ――視界が、明滅する。バランスを崩し、床に倒れる。

 これが、ライブアップデートなのか。

 初めての体験だ、等と考えながらも、頭を振って視界を整える。


「オーエン、AC、アップデートは終わったのか?」

 呼びかけてみると、オーエンが機械のテーブルの裏からよろよろと立ち上がる。

「ああ、あまり気分のいいものではないな…」

「まったくだぜ。二日酔いの強化版みてぇな感じだな」

 ACも自分のように頭を押える姿を見て、タクマが苦笑いする。

「さて、アップデートノートで何が実装されたか確認――ん?」

 空を叩いていたオーエンの手が、止まる。


「どうした?」

「コンソールが開かん。バグったか?」

「…ん?」

 タクマもまた、手元で何かを叩くようなジェスチャーをしてみる。然し、何も反応はない。

「アップデートに伴うバグかな。とりあえずリログしてみる」

 強制終了ボタンがある辺りを、カチ、カチと押すジェスチャー。現実世界では今つけているデバイスの電源ボタンに当たる部位だ。

 場合によってはデバイス自体が起動しなくなる可能性があるため、公式にはオススメできないとされている方法だが、コンソールすら出ない以上通常のログアウトが出来ないのだから仕方ない。


「……ん?」

 違和感に、気づく。

 以前ならば、押して直ぐ、意識が現実に引き戻され、起きられるはずだ。

 だが、一分ほどした筈なのに、そのような現象が起きる傾向はない。

「てめぇもか、タクマ」

 眉をしかめたACがタクマの方を見据える。

「……強制終了ができないんだな? AC」

「ああ」

 短く答える。


「さて、俺たちは言い様によっては、このゲームに閉じ込められたと言えるな」

 平坦な音色で、オーエンが事実を述べていた。

 こういう時は、慌てず騒がずのこの長身の男が非常に頼もしく思える。彼が少しでも焦りを見せたのは、それなりに長い付き合いであるタクマですら二度ほどしか見たことがない。

「出る方法はあんのか?」

「まだ情報が足りん。まぁ、そこは俺が調べるとして……とりあえずはついでに、ゲームがどう変わったのかの現状把握だ。AC、格納庫でのユニットステータスのチェックを。各パーツのステータスが変わってるかも知れん。」

「よっしゃ!」

「……タクマ、ACがステータスチェックを終えた後、偵察に出てくれるか? 変化がなければ最も単機での対応に優れるのはお前の『紫狼牙』だ」

「分かった」

 指示を出した直後、オーエンはコンソールを叩く。

「……倉庫内の資源は問題ない、か……」


「いてっ」

 部屋を出ようとした瞬間、ガン、と頭をぶつけてしまうタクマ。

「なーにやってんだタクマ」

 はっはっ、と笑うACの隣で、突如オーエンの顔色が変わる。

「タクマ……今、痛い、と言ったか?」

「ああ……そうだな……っ!?」

 二人共に、ある事に気づいたようだ。


「どうしたんだよ?」

「……AC。これはゲームだ。それが痛みを伴うのはおかしくないか?」

「……そりゃ『ライブアップデート』の効果じゃねぇか?すげぇアップデートじゃねぇか」

 何が可笑しい、と言った感じでACが答える。

 だが、オーエンは、くいっと眼鏡を押し上げる。

「このゲームに使われているハードウェア――俺たちが今頭につけているはずの、こいつだ――のスペックは詳細に分析した事がある。サンプル品を分解した事もな。結果は、飽くまでも第三世代品……第四世代で試されているような、痛覚や触覚に干渉するような機能は、アレにはない」

「お前がそういうんだったら、そうだろうなぁ…ってぇ事は!?!?」

「そう。俺たちが居るここはゲームの中ではない。何かしらの現実世界、と言う事だ。どういう原理かは知らんがな――」

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