第09話
■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。
第09話
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文字の学習も終わり、俺は漸く一般常識に関する知識が書かれた書物を読むことが出来るようになった。
但し、あくまでも俺の言語理解力で解読した意訳でしかない。
先ず最初に目に飛び込んできたのは、分厚い図鑑の表紙に描かれた巨大な輪の絵で、シネマのスタ○ゲイトに出てきた星間移動装置に良く似ていた。
これは世界各地に点在する『転移門』という遺跡らしく、その輪はどこか別の場所にあるもう一つの輪と空間を超えて繋がっている物体との事なので、星間移動まで出来るかどうかは分からないが、星間移動装置と殆ど同じようなモノである可能性が高い。
発掘された転移門は全て各国が管理しており、転移先の国と条約を結んだ後、一般的な移動手段として運用されている。
1度に移動できるのは、最大で裸体の成人男性6名まで、武装した成人男性だとせいぜい4名迄でしかない上に、1度使用する毎に十数分間のクールダウンが必要なので、脅威の侵入よりも様々なモノの流通が重視されたためらしい。
高い通行税を取る事で警備などの維持費を賄っている様子は、高速道路を思わせる。
稀にだが、転移元を出発した人数よりも少ない人数しか転移先に現れない事や、逆に転移元を出発した人数よりも多い人数が転移先に現れる事などもある。
そして増えた場合の人間だが全員、最初は何処の大陸公用語でもない言語を話す事と、未知の知識を有している事から『稀人』と呼ばれる様になったと記載されている。
但し、数十年に1度、人間が1人増えたり減ったりしたところで全く脅威とは見做されていない様で、雪解け時に凍死体を発見したという新聞記事みたいに小さく扱われていた。
そういえば、ジャングルで最初に目を覚ました時にほんの少し顔を出して埋まっていた大きな石の塊に手を触れた記憶がある。
あれは確か、大きな弧を描いている石の一部で加工したみたいに全体が滑らかだなと思った気がする。
どうやら俺は何故かは分からないが、地中に埋まっている転移門からこの世界に吐出された可能性が高い。
未知との遭遇はしたいが、未知のモノに殺されたい訳じゃないので、いつまでも浮かれていては命にかかわる。
思考を切り替えて、シネマのスタ○ゲイトみたいに他の天体へ派遣されて現地の調査を命令されている部隊に配属になったと自分に言い聞かせた。
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何も知らないせいで、アホ面下げて爆心地に向かう羽目になる、という様な愚かな行為は避けたいので、どのような情報でも収集しておく必要がある。
それに、見知らぬ人間からこの星の名前は何ですかとか、1日は何時間ですかなどと尋ねられたら、答えるよりも先に訝しむのが普通なので、最低限の事は予め調べておかねばならない。
常識については長かったので要点を掻い摘んでまとめると・・・・・・
▲▲▲惑星▲▲▲
この惑星の名前は 『ガイア』。
地動説どころか、第1惑星から第8惑星までの星の大きさや軌道を明らかにしている程度には天文学が発達している。
第1惑星が、ヘルメス。
第2惑星が、アフロディテ。
第3惑星が、ガイア。
第4惑星が、アレス。
第5惑星が、ゼウスで、位置が地球のアステロイド・ベルト辺りになり、木星ほど大きくない。
第6惑星が、クロノスで、位置が地球の木星辺りになり、土星ほど大きくない。
第7惑星が、ウラノスで、位置が地球の土星辺りになり、天王星よりも大きい。
これ以上遠い太陽系内の惑星は見つかっていない。
そして第8惑星が、アンチクトンで、地球では反地球と呼ばれていた存在であり、太陽を挟んでガイアのちょうど反対側に位置する。
▲▲▲時の単位▲▲▲
地球の西洋でも東洋でも共通して十二進記数法が用いられていたが、ガイアでも同じである。
1年間は、太陽が春分から春分まで一巡りする時間で、372日間。
1ヶ月間は、一年間を12等分した時間で、31日間。
1時間は、日の出から日の入までを12等分した時間で、1/24日間。
1分間は、1時間を60分割した時間で、1/60時間。
1秒間は、1分間を60分割した時間で、1/60分間。
ガイアの直径は分からないが、地球と同じである筈がないので、セシウム原子時計で測った場合、『ガイアと地球とでは1秒間の長さが異なる』という事になる。
閏年も勿論存在するが十数年に一度年末に調整しているらしい。
一週間は、地球では天球上を移動する太陽、月、火星、水星、木星、金星、土星の7つの天体が由来とされていたが、ガイアでも同様で7つの天体が由来である。
但し、火曜日をヘルメスの日、水曜日をアフロディテの日、と呼ぶと判り難いので、ヘルメスの日は火曜日、アフロディテの日は水曜日、と脳内で意訳する事になる。
▲▲▲暦▲▲▲
当然の事だが、ガイアに西暦という元号は存在しない。
西暦とは、イエス・キリストの誕生年を起点とした元号の事であるからだ。
地球では、多くの国で西暦が使われてはいても、日本では平成や皇紀などを使っていたりするなど、実際には国によって常用する元号が異なっていた。
しかしガイアでは、過去に存在した大統一帝国である碧翠皇国が制定した 『碧翠暦』 という元号を今でも惑星全土で用いているので、何処へ行っても共通の暦である。
同じく元日も冬至の日を惑星全土で共通して使用している。
今年は『碧翠暦2675年』になるが、紀元前だけではなく、歴史が隔絶した先史文明を含めると人類の歴史は遥かに長い。
先史文明については、存在した明確な物的証拠も大量に残っているらしい。
▲▲▲王国▲▲▲
碧翠皇国は、現在俺がいる大陸にあったので、この大陸の名前も『碧翠大陸』という。
俺がいるのは碧翠大陸の中央に在る『アドルファ王国』といい、人口約200万人、常備軍約4万人を擁する。
この街は、アドルファ王国の最南東に位置する『ジルヴェスター辺境伯領』であり、人口約10万人、駐留軍約2千人、諸侯軍約5千人の都市である。
他の国については、地図が見つからないので位置関係も良く分からないし、同じ場所だと思われる西方の隣国の名称だけでも3個ほど記述があり、どの国が今現在も残っているのか分からない。
▲▲▲宗教観▲▲▲
絵空事ではなく、神々や精霊などが実在する世界であるらしい。
神々や精霊などは託宣による助言をされるだけで基本的には手出しはしないが、試練を乗り越えた人間に祝福を与えたり、神罰で国を消滅させる事もある。
神々や精霊などと交信する事が出来る能力を持つ者達が多数存在しており、『神官』や『巫女』が祭祀を行う聖域として『神社』が存在する。
神々への深い信仰は当然あるが、神々や精霊などの声を聞くことも出来ない人間が教えを説く事や、目に見えない神々を勝手に形にした神像を作る事は禁忌とされている世界なので、宗教や教会といったモノは存在しない。
<階位>
祭主は、宗教における教皇にあたる位階。以下同様で、
大宮司は、枢機卿。
宮司は、大司教。
禰宜は、司教。
宮掌は、司祭。
出仕は、助祭。
巫女は、宗教における修道女にあたり、位階はない。
<職制>
甲種神官や甲種巫女は、神楽や祈禱を行う事で神託を伺い、ある程度の問い掛けなら神々や精霊などから直接回答を得られる能力を持つ。
この能力を有する者は、国によって強制的に出家させられるので、一般人には存在しない。
乙種神官や乙種巫女は、伝染病などの『大量の死傷者が発生する大事件』について、神々や精霊などからお告げを得られる能力を持つ。
同系統の能力を有する者は、一般人にも少数ながら存在する。
丙種神官や丙種巫女は、人的被害の有無に関わらず、地震、落雷、火災、大嵐などといった『自然現象の発生』について、神々や精霊などからお告げを得られる能力を持つ。
同系統の能力を有する者は、一般人にも多数存在する。
▲▲▲サイズ▲▲▲
当然の事だが、ガイアにメートルという単位は存在しない。
メートルという単位は地球の子午線弧長の長さを基準としているから、直径が地球と同じ長さの惑星でなければ、もしもメートルという単位が存在したとしても同じ長さにはならない。
グラムという単位もメートルを基にした質量が基準となっているので、同様に存在しない。
白人種みたいな体格の人間が多い事と、小麦が主食である事から予想していた通り、「ヤード・ポンド法」が単位となっている。
親指の幅が1インチ。
足の大きさが1フィートで、12インチ。
肘から中指の先までの長さの2倍が1ヤードで、3フィート。
2歩分の長さの千倍が1マイルで、1760ヤード。
小麦7千粒の重さが1ポンド。
1/16ポンドが1オンス。
▲▲▲通貨▲▲▲
通貨についても予想通り、金本位制であり、硬貨のみで紙幣は存在しない。
印刷技術が大して発達していないので偽造対策が出来ないという理由もあるが、国の興亡が頻繁であるために信用出来ないという事が、紙幣が存在しない最大の理由である。
俺が最後に見たニュースだと地球での相場は確か、金1g約50ドル、銀1g約70セント、銅100g約75セントで、1オンス金貨は約1千7百ドルだった。
ガイアでは地球ほど発掘技術や精製技術が発達していないせいなのか、金が約5.85倍、銀が約4.18倍、銅が約3.9倍ほど高価になっている。
ガイアでも地球と同じく、金貨はオンスで表示されており、刻印や形状は各国で異なるが、碧翠皇国が取り決めた慣例に従って、純度90%の同一重量に統一された硬貨が、惑星全土で流通している。
1オンス金貨は、約1万ドル、大金貨と呼ばれている。
1/10オンス金貨は、約1千ドル、小金貨と呼ばれている。
1オンス銀貨は、約100ドル、大銀貨と呼ばれている。
1/10オンス銀貨は10ドル、小銀貨と呼ばれている。
1オンス銅貨は、約1ドル、銅貨と呼ばれている。
▲▲▲物価▲▲▲
物価については、パンや野菜は数十セント程度と安価だが、逆に卵1個が約60ドルするなど動物性蛋白質はかなり高価である。
一般市民の平均的な支出額は、月間約6百ドルくらいだが、スラムでも家族4人が最低限の生活を送るのに年間約1千3百ドルは必要らしい。
殆どの家は庭で野菜を栽培しているが、養鶏どころか馬以外の家畜がいる家を一切見かけてないので、動物から人間に伝染する病気が存在する等の理由で、街中で畜産を行えないのかもしれない。
<続く>