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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第1章
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第08話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第08話




 カーラの亡骸を馬車に積んだカテリーネたち6人が立ち去った後、俺は北門の観察を再開した。


時間帯による違いもあるとは思うが、護衛らしき騎兵を伴った乗合馬車は入出合わせて6台通ったのに、貨物馬車は1台しか通らなかった。


俺は1時間ほどしたら移動を再開し、城壁都市の外周の道路を歩いて、西門を目指した。


真北へと続いている街道の東側は、俺が彷徨っていたジャングルが何処までも存在している。


しかし、街道の反対の西側は、一面緑なのは変わらないが、一度焼き払われて再生中のジャングルといった感じの森林地帯になっていた。


俺は何度か獣頭人身の生物を撃退しながら、西門に辿り着く。


北門と同じく、ここにも城壁の西門から真直ぐに真西へ向けて、石畳で作られた幅18フィートほどの街道が作られている。


そして、真西へと続いている街道の南側にはまたしても、俺が彷徨っていたのと同じ様なジャングルが何処までも存在している。


此処でも俺は1時間ほど入出頻度を観察してから、南門を目指した。


南門に辿り着くと、ここには城壁の南門から外周の道路までをつなぐ分だけしか街道は存在しなかった。


真南はジャングルなので予想していた通りではある。



 歩数換算で、北門から南門までの外周道路の長さは約22マイルだったので、外周道路の直径は約14マイルとなる。


道路から城壁まで約3マイルほどあるので、城壁都市の直径は約8マイルほどである。


「本当に、とんでもねえ場所に来ちまったなぁ。」


約50平方マイル、つまり約1万3千ヘクタールになるので、日本の大都市に匹敵する面積である。


1ヘクタールあれば、最低限の自給自足生活なら約150人が暮らせる事からすると、最大約200万人が生存可能ではある。


しかし、日本の様に食料の大量輸入を行っていたり、アメリカの様に食料を大量生産してない限り、飢饉や伝染病などに備えて備蓄などが必要であるし、常に避難所生活みたいなギリギリの暮らしをしているとは思えないので、居住しているのは最大でも20万人前後の可能性が高い。



 街道沿いの草むらの中を通って南門に近づいてみると、幅約30フィートの堀があり、石橋が掛けられているのが見えた。


石橋の向こう側に城門があり、その手前には2人の門番が見張っている。


城門から数百ヤードほど離れてから、城壁を乗り越えて忍び込む事にした。


街中への潜入である以上は、橇に載せてある荷物を持ち運んでの行動は難しいので、俺は初期の装備以外を此処に置いて行く事にする。


城壁は高さ9フィートほど、幅6フィートほどで、先程の道路に使われてのと同じ石材が積み重ねられて作られているようだった。


城壁を乗り超えると幅9フィート程の道路に降り立ったが、その先にはもう一つ、高さ9フィートほど、幅6フィートほどの城壁が存在していた。


2つ目の城壁の上には、ところどころに見張りと思わしき人間が歩いているのが見える。


2つ目の城壁も乗り超えると、またしても幅9フィート程の道路に降り立ったが、その先には農村みたいな風景が広がっていた。


俺は取り敢えず、手近な街路樹に登って暫くの間、人々の様子を覗った後、すぐ傍に建っている家の外壁を登り、屋根伝いに移動する事にした。



 俺は今、周囲の様子を観察しながら、西門の方へ屋根伝いに移動している。


これまで見てきた限りでは、ところどころに3階建の建物はあるが、殆どが石造りの2階建である。


中心部の方を窺うと、もう一つ城壁が存在しており、その内側はサグラダ・ファミリアのあるバルセロナの街みたいに綺麗な碁盤の目をしていた。


恐らくあの第3の城壁の内側が、最初に作られた街か、富裕層が住んでいる区画だと思われる。


第3の城壁の外側は、東西南北を貫いて街道と直結している大通りだけが幅約18フィートと広いが、その他の小道は真っ直ぐではないし、幅も5フィートくらいしかない。


小道の石畳は、外周の道路や大通りみたいな立方体の石ではなく、縦横1フィートほど厚さ約1インチの石板を用いている。


日本の郊外みたいに田畑や建物を先に作ってから、その間の空き地を後から道路として整備したように見える。


第3の城壁の内側とあまりにも街並みが異なる事からすると、第3の城壁の外側は計画的に増設した街ではなく、なし崩し的に増えていった居住地である可能性が高い。



 街中を歩いている6割以上の人間が白人種タイプ、3割ほどが黒人種タイプ、残り1割ほどが黄色人種タイプで、獣頭人身の生物は一切いないし、馬以外はペットなどの動物も全く見当たらない。


革製だと思われるズボンを履いている人間もいるが、2/3以上の人間はトーガみたいな服を着て腰帯を締めている。


トーガの下には袴みたいなズボンを履いている男性もかなり居るので、和服を着るのと大差はない気がする。


 2割くらいの人間が服の上から防弾チョッキくらいの面積の鎧の胸当と、戦闘用ヘルメットみたいな兜を装着していた。


大人は男女を問わず全員が剣や槍を携行しており、大人と一緒にいる子供は武器を持っていないが、子供でも独りで歩いている者は小剣を腰帯に挿している。


鎧や兜を着ていない大人は殆どがレベル8だが、鎧や兜を着ている人間はレベル10~レベル80まで様々で、レベルの低いものほど人数が多い。


 西門の辺りを覗ってみると、外側の西門から入ってきた人間が、城壁の間にある道路に並び、順番に東屋みたいな場所へ行って、役人らしき人間に何かを見せるか、何かを渡してから内側の西門を通過しているが見えた。



 次に俺は街の中心部へ向かって進み、住民が留守の家に途中で忍び込んだ。


家主には申し訳ないが、パンやハムやレタスみたいな野菜を無断で拝借し、サンドイッチを作って食べる。


調理した食事を久しぶりに取ることが出来た。


此処に来るまでの道中の食事は、朝夕2度、毎回ヘビやカエルなどの生肉と果物、それとマルチビタミン&ミネラルの錠剤を摂っていた。


 これも無断ではあるが、トーガや剣などだけでなく、硬貨も借用出来たので、着替えて偵察に出掛けることにする。


任地では真っ先に服装を考慮する必要がある。


誰かに少しでも姿を見られたら最後、他所者である事が一目瞭然となってしまうからだ。


ハンドガンだけトーガの懐にしまって、他の荷物は屋根の上に隠しておいた。


 飲食店で食べられているのは、パエリアみたいな米系の料理も存在はするが、大半がパンやパスタみたいな小麦系の料理である。


飲食店の内壁には紙のメニューが貼られていたし、街中では紙のチラシを配っていたので、日本の江戸時代みたいに安価な紙が流通しているようだ。


 古代ローマ並みに上下水道が完備されており、全ての家に浴槽が在る訳ではないが、銭湯が何件か存在しているのを確認した。


どのような原理のモノかは分からないが、浄水施設が何箇所か存在しており、下水処理だけでなく、貯水池の水を処理した上で上水道に流していた。


下水処理された水が堀へ流されているのは確認出来たが、貯水池へ流れ込んでいる用水路の水が何処から来ているのかは分からなかった。


 第3城壁の内側は、全ての道路の幅が約18フィートで統一されており、ガスランプの街路灯も等間隔で配置されているし、路面に線路が敷かれて、馬車みたいな客車をひいたトロッコ列車を人力で走らせている。


また、第3城壁の内側はコンクリートブロックみたいな頑丈な石材を積み重ねた家屋で、透明度は低いものの窓にガラス板が使われていた。


第3の城壁の外側はレンガを積み重ねた家屋で、窓は木の板だけだし、風車がところどころに点在している。



 燃焼機関、電気機器、電子機器などは一切存在しないが、機械式の懐中時計は安価で出回っているし、人力で動かす機械なら紡績機みたいな複雑なモノでも存在する、という事が分かった。


勿論俺には、燃焼機関や電気・電子機器を使い熟すことは出来ても、材料や構造を全く知らないので1から自作する事など不可能である。


銃火器や爆薬についても使い熟してはいるが、銃弾用火薬の作り方は知っていても材料の精製方法など知らないので、手持ちの弾薬が尽きたら補充の目処がない、という事になる。


ガキの頃から槍や刀を扱ってきたので、獣頭人身を含む対人戦に限って云えば、銃弾が尽きても何の心配もないが、銃火器なしで下等竜ドラゴンやワイバーンなどを相手にするのは不可能である。



 数日間かけて、周囲の会話を聞き取り、態度や身振りを観察する事で、俺は現地語での会話や一般的な身振りをマスターした。


この街は、蝶々をバタフライやホウティエと名付ける国では無く、パロパロやクプクプと名付ける琉球、台湾、フィリピン、インドネシア、ニューギニアといった国の感性に近いので、日本人としては非常に分かり易い。


続いて、図書館に潜り込んで現地の文字を学習すると共に、一般常識についても調べることにする。


活版印刷技術は存在していても、大して発達していないのではないかと考えていたので、書籍も少ないと予想していた。


しかし予想に反して、図書館には大量の写本や印刷本が納められており、俺には理解出来ない法則で分類されている上に、見張りはいても司書は存在しない為に、文字学習用の絵本などを見つけるのにも一苦労する事になった。



<続く>

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