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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第4章
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第76話

第76話




 翌朝、ジェーンたちが狩猟や所用に出掛けた後、俺はジルヴェスター辺境伯領へ出向いて所用を済ませて来たのだが、マリーと約束した時間まで未だだいぶ余裕があるので、ハンターギルド跡地に行き、調べ物をする事にした。


中央の天幕に居たカールに場所を尋ねてから、一般公開されている資料が置かれている天幕へ入ると、美人受付嬢のカーラが仕分け作業を行っていた。


大半の資料が他の街や国のハンターギルドから運び込まれたばかりなので、山積み状態である。


 カーラの外見はアルビノみたいに、体毛や皮膚は真白で、瞳孔は毛細血管の透過により赤色をしているのだが、黒い幾何学的な模様があるコロボーマ眼であるせいで、俺にはその眼がカトゥーンのナル○に出てきた写輪○にしか見えない。


彼女は二十歳前後の小娘に間違われるが、実はヴィクトリアの上司で契約関連の総責任者を務めており、階級的にはこの街のハンターギルドのナンバー3でもある。


総責任者なんてのは問題でも発生しなければ暇なので、普段は受付嬢を好んで手伝っているそうだ。


彼女の現在の外見はアルビノだが、本来は金髪、青色の瞳、白人種だったモノが死の淵からの急激なレベルアップでの回復による後遺症で、色が抜け落ちたそうである。


カールによると、カーラはレベル120の元ランク5ハンターで、実年齢は80歳以上らしい。


彼女はギルドマスターの伯母に当たるヒトなので、実質的にはこの街のハンターギルドの元締めだと言っていた。


ここは諦めて他の街のハンターギルドへ行こうとしていた俺に、そのカーラが声をかけて来た。


「ハーイ、ソード。何をお探しですか?」


「やあ、カーラ。蘇生関連の資料が見たいんだが有るかな?」


「はい。お持ちしますので、閲覧席でお待ち下さい。」


「頼む。」


数分後にカーラが持ってきてくれた数冊ほどの書籍を受け取って、俺はそれを片っ端から丸暗記して行く。


先ずは画像として記憶しただけなので内容は未だ分からない。


しかし、途中で緊急の用件が入って書籍を手放す事になっても、記憶から少しづつ読み取る事が出来るので、俺は昔から優先順位の低い案件についてはこうする事が多かった。


その後、カーラが関連情報が記載されている資料を含めて数十冊も持ってきてくれたので、暗記するのが精一杯となり、読み取って検証する時間は無くなってしまう。


全てを暗記した所で、マリーとの待ち合わせ時間の約十分前となったので、カーラに礼を言って書籍を返却した。



 ハンターギルド跡地内で酒保を営業している天幕前に俺が到着した丁度その時、マリーが少し離れた場所から歩きながら声を掛けてきた。


「ヘイ、ソード!相変わらず時間通りだな。」


「よう、マリー。そっちは珍しく時間ギリギリじゃないか。」


マリーは、ブービートラップにはワザと引っ掛かるクセに、下準備には余念が無いので、この習慣のお陰で潜入捜査で失敗した際にも無事逃げ遂せてきたそうだ。


「脱出路の確認は昨日の内に済ませてあるからな。」


「なるほどな。」


俺たちはそのまま2人して酒保へ入り、バーテンダーに衝立の奥にあるビップ席へ案内する様に依頼する。


ヒルダを連れてきた際にも俺は何度か彼にビップ席を都合して貰った事があるし、未だ昼食時には間があるので、すんなりと通してくれた。


俺は女中ウエイトレスにかなりの量の肴を注文したついでに、自分たちで持ち込んだ酒を飲む事を先に告げておく。


その横でマリーが『収納』の魔法から酒瓶を2つも取り出している。


だが、ウエイトレスが未だ注文内容をメモしている最中に、バーテンダーが気を利かせてウイスキーの入ったコップを俺たちに持ってきてくれた。


俺たちは、彼の好意を有り難く受け取ると、早速乾杯してウイスキーを飲み干す。


するとマリーは、蝋で密封された酒瓶の蓋をとって、空いたコップに酒を注いでから『凍結』の魔法で冷やした。


 因みに、この世界にも氷や冷却技術はあるが、基本的にビールや発泡酒などは常温で飲む。


低アルコールな事もあってビールや発泡酒などは酒ではなく、安価で安全な水代わりの炭酸水程度にしか認識されていないからだ。


地球で外人部隊時代に俺が派遣された後進国も、水が高価なせいでこの考え方の国が多かった。


そういった国では、ウイスキーのチェイサーを注文すると当然の様に低アルコールの発泡酒が出てきたが、この世界は別に水が高価な訳では無いのでワザワザ注文すれば水や炭酸水でも出してくれる。


 マリーが持って来た酒は、一つはサトウキビから作った蒸留酒だけあって、ラム酒みたいな味であった。


もう一つの酒は、竜舌蘭から作った訳では無いらしいのに、テキーラにそっくりの味である。


ジェーンと再会するまで俺は、この世界でウイスキーとウォッカとワインくらいしか飲んで無かったので、これらも非常に美味で、そして懐かしく感じた。


俺が好きな味は純米吟醸酒ではあるが、その他の色々な酒が嫌いな訳では無いし、この世界の未知の原材料から作られた酒も珍しくて好奇心をそそる。


 俺の方がこの世界に来てからの経過時間が短いので先に話し終わり、その後、以前ジェーンから聞いたマリーの事を話した。


それを考慮してマリーが話し始める。


「私は、地球からアマデウス王国のシュテファン辺境伯領跡へ転送された後、神社に保護されたんだが、直後から3年間ほどは武装神官として行動していたんだ。」


「直後という事は、銃器を使ってだよな?弾薬が良く保ったな。」


「私たちが最後に襲撃した麻薬組織の見張り番の詰所にあった大量の弾薬が、私と一緒にこの世界へ転送されていたからな。数ヶ月間ほど金色のアサルトライフルをブッ放しても困らなかった。」


「マリーはあれを使っていたのか?」


「私のライフルは壊れていたから、金色のを使うしか無かったんだ。」


「そう言えば口径も違ってたよな。」


「その通りだ。NATO弾なら未だ残ってるぞ。欲しいなら譲ろうか?」


「要らん要らん。」


「それで、私はこの世界の言葉や戦い方を教わる代わりに、僭神の使徒が現れた場所を渡り歩く調査神官の護衛をしてたんだ。」


「もしかして色々な国へ行ったのか?羨ましいな。」


「ああ、全大陸を巡って来た。

その途中でタイラーにも出会った。あの頃のアイツは未だ使徒退治なんて関わって無くて、稀人マレビト探しをしていると言っていたな。」


「それで、マリーはどうして武装神官とやらを辞めたんだ?」


「あれは十年ほど昔、再びアマデウス王国のシュテファン辺境伯領跡を調査した時に、使徒と遭遇戦になって死にかけたのが切っ掛けだ。

昨日も言ったと思うが、地球に居た頃とは異なり、レベル100を超えてからの私は人並みに恐怖心を感じる様になっていたんだ。

 否、地球に居た頃の私には恐怖を感じる遺伝子が無かったから、文字通り恐いモノ知らずだった。そのせいで恐怖心に耐える勇気など全く育んで来なかったから、他の人間以上に恐怖に縛られてしまった。

 結局、病院で目が覚めた時には私も瀕死の重傷を負っていたんだが、私が竦み上がって蹲っている内に、私を除いて仲間は皆殺しとなったらしい。

それで、もう2度と使徒に関わりたく無いから武装神官を辞める事にしたんだ。」


「その気持ちは俺にも分からない事は無い。

恐怖心に耐える訓練を長年してきた俺でも、初めて使徒を見た時は怖気に襲われたからな。

ところで、そのアマデウス王国で作られた僭神関連について教えて貰っても大丈夫か?」


「構わないぞ。

流石に十年間近くも経てば心の傷の庇い方くらい覚えるさ。

 あの国の深淵の森には元々、蟻系統の僭神が存在していたんだが、それを駆除する事を目的として8本足の蜘蛛系統の生物兵器を投入する事にしたらしい。

そのために選ばれた人型のアラクネはドラゴニュートと同じ様な特殊な魔獣で、即死せずに生命の危機に瀕すると少しずつ形態変化してレベルアップするそうだ。

アマデウス王国の研究者どもは、人型のアラクネを格上の生物にけしかけては殺された直後に蘇生させる事を繰り返し、中等竜並みに成長させたらしい。

地球でも聖者の肉体の復活と言うのは、新たな強い神が生まれる流れとしては最もポピュラーな神話の一つだっただろ。

この世界の研究者も同じように考えたんだろうな。」


「死の淵から復活する度に強くなるってのは、カトゥーンのドラゴンボー○に出てくるサイ○人みたいだな。」


「悪いな、ソード。私はカトゥーンを見た事が一度も無いからお前が何を言っているのか分からん。

 それで、ある日突然アラクネが急激にレベルアップした際に制御装置が効かなくなって、大暴れした挙句に脱走されたらしい。

数年後にアラクネが深淵の森に戻ってきた時には、レベル1000を超え、名称も『クモ』と変わっていて、大量のアラクネを引き連れていたみたいだ。

研究者が付けておいた個体識別用のマーカーが無ければ、同一の固体だとは判明しなかったくらいに外見が変わり果てていたそうだ。

その『クモ』は、上半身が牛頭鬼ごずきで下半身が蜘蛛だったらしいから、アラクネというよりも日本の牛鬼ぎゅうきみたいじゃないか?」


「いや、蜘蛛の胴体を持っている牛鬼だと日本の伝承では牛の首だったハズだぞ。

因みに牛鬼は日本各地で形状が違うんだがな。」


「そうなのか?それはまあ良いや。

そして数カ月後、『クモ』がアリ神を食い殺してしまったために、市民たちが神と認め始めた事に危機感を抱いた辺境伯の命令により、駐留軍と諸侯軍が総攻撃した事でクモ神が反撃を行った結果、シュテファン辺境伯領は壊滅した事になっている。」


「辺境伯領だけか?焦土と化したのはアマデウス王国全土じゃないのか?」


「まあ待て、そう慌てるな。

ソード。ここからは非公開情報だ。

先ず1つ目だが、大量のアラクネはクモ神の幼生体ではないか、と研究者は発表したんだが、揉み消されて近似種の使徒や眷属だと公表された。

そして2つ目は、神社が調査した結果、クモ神やアマデウス王国を消し去ったのは浄化の炎ではなく、高等竜のブレス攻撃だった事が分かっている。

これらは近隣諸国の王族の要請で、神社も極秘事項にしたモノだ。」


俺の問い掛けに対して、マリーは表情を改めると突然英語に切り替えてからそう答えた。


「ちょっと待て、マリー。

高等竜なんて、もっと寒い地域に生息してるんじゃないのか?」


図書館などの資料によると高等竜とは、現存している個体のレベルが1030~1280、最小の個体でも全長約300フィートに達しているので、ジャン・レ○出演のシネマに出てくるGODZIL○Aくらいの大きさの身体に巨大な翼が生えているドラゴンである。


初動から音速で動く事の出来る上等竜の上位種である以上は、怪物としか言い様がない。


「この大陸ではそう言われているが、実際には高等竜の生態なんて全く分かっていない。

あくまでもこの大陸だと寒冷地での目撃例が多いと言うだけで、他の大陸だと熱帯雨林や火口で目撃された事もあるんだ。」


ビスマルクの名言に『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。愚者だけが自分の経験から学ぶと信じている。私はむしろ、最初から自分の誤りを避けるため、他人の経験から学ぶのを好む』というモノがある。

だが、一部の人間からだけ学んでいては結局、誤った判断を避ける事は出来ないという事だ。


「そうなのか・・・

やはり俺も他の大陸に行くべきかもしれないな。」


「それに、あの時、何故アマデウス王国に高等竜がいたのかは分からんが、仮に理由が分かった所で、メガトン級の威力があるブレス攻撃を吐息みたいに気軽に放つ怪物なんて対処のしようがない事に変わりは無い。」


中等竜以上のドラゴンは類人猿と同じく、同種の生物であっても別の群れの者を捕まえると陰湿で残虐な暴行を加える習性があるらしい。


ところが、猿以外から進化した他の亜人種に、この様な習性はない。


部族が違うというだけで皆殺しにする民族や、虐めなどを好む人間は、類人猿と同様の残虐性が遺伝子に残っているタイプではないかと考察されているそうだ。


外来種であるドラゴンは先祖がどのような生物か判明していないが、その他にも類人猿と習性が似ている事からすると、アマデウス王国を襲った高等竜は群れを追い出された個体である可能性もある。


「確かに、そうだな。

マリー。じゃあ、話しは変わるが、クモ神の使徒や眷属は自身の子供ばかりで、別種の眷属や準使徒はいないのか?」


「別種の眷属は一切いないが、黒色で4本腕の準使徒が数匹ほど討伐された事がある。

ここ数年間は使徒の目撃例も無かったみたいだから、残存しているかどうかも分からない。」


「そうか、ありがとう。」


「そういや、お前も持っているみたいだが『僭神の使徒を誅せし者』っていう称号は、準使徒を殺した時にしか貰えないんだ。

どんなドラゴンを殺しても称号や加護が貰える事からすると、神々からしたら僭神どころか正規の使徒も害悪じゃないって事だ。」


僭神とは、知的生命体が力を得て神のごとく振舞うようになったモノを指す呼称だが、基本的に人類が勝手にそう呼んでいるだけで、そいつらは別に自分で神様だと名乗っている訳ではない。


僭神にとって人類とは、恐らく人類にとってのノミやダニ以下の認識だろう。


正規の使徒や眷属も、僭神を群れのボスと認めて奉仕しているだけで、神々どころか人類の事も眼中に無い。


だが、人間の成れの果てである準使徒だけは、神々や人類に害意を抱いている。


「ドラゴンは外来種だから排除対象なのか?」


「そうかも知れないな。」


その後も俺は日没直前まで、マリーの過ごした十年あまりの貴重な体験談を色々と聞かせて貰った。



 日没後に『倉庫』の魔法の中の自宅に帰ると、他のメンバーも簡易転移門を使って戻って来たところだった。


この簡易転移門の片割れは、マンスリーアパート跡に立てた天幕の中に置いてある。


メインストリートに面した場所だし、諸侯軍の兵士が夜間も巡回して治安維持に努めているので、不用心というほどの事は無い。


それでも不便な事には変わりないし、他にも様々な不都合が生じている事から、ヘルガが新たに土地を購入し家屋を用意すべく、今日一日掛けて色々と根回しをおこなってきたハズである。


 夕食後、リビングで寛いでいる時にカールが皆へ最新情報を知らせた。


「王国は白騎士ゴーレムの量産を再開する事にしたそうだよ。」

それどころか近隣諸国への輸出まで行われるみたいだね。ーーー」


今までは、あくまでもカタログスペック上だとランク7の生物に対抗可能という事だったが、実際には導入評価でもレベル6の亜竜しか仕留めた事が無かったらしい。


だが、レベル490の使徒を3匹も倒してしまった。


しかも、相討ちではなく、6体投入して2体は継戦可能な状態で残っている。


そして最大の注目点は、ランク5以下の兵士が僅か1千8百人だけで成し遂げた上に、損耗が6%にも満たない事だった。


通常なら駐留軍が全滅しても使徒に重傷を負わせる事すら至難である。


経験者が生き残れた事でノウハウが貯まり、次はもっと生き残り易くなるので更にノウハウが貯まっていく。


他の国にも大型ゴーレムが無い訳では無いが、ここ数十年間ほどの兵器開発の主流が生体兵器だった事もあり、旧世代の技術しか無いせいで、盾役としか考えられて無かったらしい。


後日僭神に成ってしまったとはいえ、僭神を倒せるほどの生体兵器を生み出した事もあるので方針が間違っていた訳では無いだろうが、転換期が来たのも事実だろう。


そんな事をカールが話している内に、ジェーンが急に俯いて黙り込んでしまったので、俺は心配して声をかけてみた。


「ジェーン。どうかしたのか?」


「ソード。ゴーレムの外装はどんなロボットみたいにしたら格好良いと思う?」


ジェーンは、自分専用のゴーレムをオーダーメイドで発注する際の仕様を考え込んでいただけらしい。


どうやら彼女は、あのゴーレムを戦闘で使用する為には3百人分の魔力が必要な事を忘れている様だ。


それとも何か代用する手段でもあるのだろうか。


「デナンゾ○とか?」


黙っているのも何なので、俺はミユの部屋に飾ってあったプラモデルの名前を告げてみた。


あの特徴的な毒ガスマスクみたいな顔付きが、何故か俺の記憶に鮮明に残っている。


「ああ、それも良いな。私もケルベロス・サー○のプロテクトギ○とかの形は好きだからな。」


俺が適当に言っただけなのに、ジェーンはヘレナと相談しながら予算などの検討を本気で始めてしまった。


こうなったら彼女たちに何を言っても無駄なので、俺はカールの話しに耳を傾けてジェーンからは何も聞かなかった事にする。


結局、夜が更けてお喋りがお開きになるまで、ジェーンとヘレナは密談を続けていた。



 実際には『倉庫』の魔法の中にある自宅で暮らすとは言え、マンスリーアパートの跡地にオーナーが建てた天幕では色々と不便なので、俺たちはここを解約して別の空き地を買う事にした。


街中の半分が更地だが、俺の指す空き地とは今回の件で所有者が亡くなったりして売りに出された場所の事である。


厳密に言えばこの街は全て辺境伯の所有物なので、借地権を買っただけなのだが実質的には大差ない。


 先日、俺は『倉庫』の魔法の中にある自宅と同程度の家屋をジルヴェスター辺境伯領へ出向いた際に購入しておいたので、ヘルガが買ったばかりのこの空き地へ『倉庫』の魔法を使って運び込んだ。


中古物件ではあるが、ジルヴェスター辺境伯領の事件で亡くなった下級貴族の住んでいた家屋なので、下水処理設備なども完備されており、自宅と比べても遜色が無い。


そして、この街を引退後の住処に決めたヘルガが、土地代と建物代を全額支払う事になった。


過去の例からして使徒に襲われた街は、その後数十年間は別種の使徒から襲われる事が全く無いらしい。


勿論、同種の使徒が現れる可能性はあるが、ゴーレムで倒せる事は実証済みである。


そのため、神託により事前に脅威の存在が分かるスタンピードとか疫病などの厄災に注意すれば、ここは安全な街と言える事がヘルガの選択理由だった。


 俺の『倉庫』の魔法は、元々は商業系ギルドが大型商品を運搬する為に使うモノなので、商業系ギルドに依頼して他の街から建売の家屋を丸ごと移築させる者は沢山いた。


しかも、運搬料金だけで、同規模の新築物件が購入出来るほどの高額らしい。


こんな事に大金を注ぎ込んだのは貴族やギルドの幹部だけでなく、一族クランの頭首や引退した高ランクハンターも多いみたいである。


貴族街や高級住宅街だけが、あたかも復興済みの町並みとなっているのは、金持ちが住んでいるからまだ分からない事もない。


だが、残骸や天幕だらけの街中に、僅か数十件ほどの綺麗な家屋が所々に建っている光景は何とも言い難い違和感がある。



 各クランの頭首は、クランの子供や妊婦を最優先で保護したが、人数が多いためにクラン本部に収容し切れ無かった者たちを、家屋が無事だったクランの者へも分散して預けた。


十万人以上が居住していた都市で、9万人近くが生き残ったのに、半数の家屋が失われているので仕方ない。


ヘルガの元へも当然の如く依頼が来たので、ヒルダと同年代の子供とその母親を購入したばかりの家へ受け入れる事になった。


来年から、正確には3ヶ月後からはヒルダもクランの学び舎に通う事になっていたので、同級生たちと一緒に過ごすのが多少早くなっただけである。


それに、学び舎に通う前の幼児たちもクランの重鎮によって度々顔を合わせる機会を設けられているが、ヒルダも以前から月に5回くらいのペースで参加していた事もあって特に見知らぬ人間がいるという事もない。


 ヘルガの家は、数日前まで住んでいたマンスリーアパートよりも床面積がかなり広い事から預かった子供も15人に登り、キャッキャッと屈託のない笑い声を常時撒き散らして騒然となっている。


郷に居た頃は実家と隣接していた幼稚園から毎日こんな声が聞こえていたなあ、と俺は懐かしく感じていた。


ジェーンの実家も俺と似た様な環境だったらしいから気にした様子も無い。


だが、この家に居る大人は子供たちの親を含めて殆どがハンターなので、普段から無意識に耳を澄ませている事が多いせいか、沢山の子供たちのかん高い笑い声の合唱攻撃には参ってしまっている。


全く堪えた様子がないのは、俺とジェーンの他に、以前はクランの学び舎で教職に就いていた3人だけで、子供好きのヘレナでさえ2日目には降参していた。


この家屋の外壁には、防音処理が施されているらしいから問題ないが、それが無ければ今頃は近所から苦情が殺到していたかもしれない。


結局、俺とジェーンも休暇には保育士さんの真似事をしている。


 そしてある日ヒルダにお願いされて、子供たちを俺の『倉庫』の魔法の中にある大陸間輸送船に招いて、船内を探検させる事になってしまった。


この大陸間輸送船は、ただでさえ広大な上に隠し通路などもあるし、更に幼児なら何とか入り込める通気口が縦横無尽に走っているので、当然ながら俺も最初は断わった。


「ソード。あのね、皆でお船を探検したいの。」


「危ないからダメ〜。」


「ケイティたちが一緒だから、危なくないよ。」


「いや、だからね・・・」


船に慣れていないケイティたちが居るから危ないんだよ、という俺の言葉は、ヒルダを掩護する幼児たちの声によって掻き消されてしまった。


「「「―――」」」「「「「ーーー」」」」


「わっ、分かった分かった。」


16人もの幼児たちが俺の服を掴んで攀じ登り、ワザワザ俺の顔を目掛けて拙い言葉でのマシンガントークで説得しようとする熱心な姿に心打たれた、訳ではなく、耳元で騒ぐ幼児たちの声に俺は音を上げてしまった。


それに子供たちの母親も、大陸の中央部に在る街で生まれ育ったために河川用の小型船しか見たことが無かったので、大型船には興味津々の様子である。


 船内で迷子が出た場合の事を恐れて、俺は子供たち全員に『必殺』の魔法のマーカーを付ける事にした。


このマーカーは本来、戦闘後に生き残っている敵がいない事を確認する為のモノなので、マーカーが付いている相手が誰なのかを個別には識別出来ない。


そのため、俺は普段これをヒルダとヘレナの2人の安否確認にだけ使用している。


但し、『必殺』の魔法のロックオンは、標的が『探査』の魔法の圏外に逃げると外れてしまうので、直ぐに殺せない対象については圏外でも外れないマーカーを付ける場合が稀にある。


また、このマーカーには俺と対象との距離が狭まると、頭の中で探知機みたいに警報音が鳴る機能があるので、対象の数が増えると鬱陶しい事この上ない。


 結局、船内探検で迷子は出なかったのだが、子供たちが2〜3人単位であちこちを好き勝手に動き回った為に大事になってしまった。


俺たちだけでなく、母親も全員が同行していたのだが、普段のヒルダとカールの隠れんぼと同じ様な状態となり、子供を見失った親が駆けずり回って探し出す事を繰り返したせいで、子供よりも先に親の方がバテてしまったからだ。


これは、母親たちがカールと同じハンターとは言え、殆どがランク2なので持久力が低いし、屋内での探索経験が無いので仕方ないといえる。


子供を追って通気口に無理やり入ろうとして引っ掛かった母親が3人ほどいたので、俺は彼女たちの腰を抱えて引き摺り出す事になったりもした。


通気口に上半身が入るほどスレンダーな女性たちだったから、いくら美人でも俺にとっては特に嬉しくも何とも無い出来事だった。


 それから4ヶ月間以上も、俺たちは珍しい生物を見かける事も僭神の使徒や眷属に煩わされる事もなく、平穏な狩猟生活を続けながら16人の幼児に振り回される事になる。


地球の幼児とは異なり、天井を駆け回ったり、短距離転移したり、空を飛んだり、この幼児たちは覚えたての『秘伝』を平気で使うので、退屈する事はなかった。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ギルド登録名が、ソード。ステータス上の名前と地球での愛称は、シングル・ソード。ランク6ハンター。黒髪、濃褐色の瞳、黄色人種、身長183cm。


ケイ……主人公の嫁。本名は、惣田恵子。黒髪、濃褐色の瞳、黄色人種、身長173cm、F。


ミユ……主人公の姪っ子。本名は、香田美幸。黒髪、濃褐色の瞳、黄色人種、身長168cm、C。


ジェーン……主人公一家の友人。本名はリサ・タイラー。ギルド登録名が、タイラ・リサ。ステータス上の名前と地球での愛称は、カラミティ・ジェーン。ランク6ハンター。金髪、青色の瞳、白人種、身長178cm、G。



ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。黒髪、青色の瞳、黒人種、身長173cm、F。


ヴェラ……ヘレナの父方の又従姉妹。ランク3ハンター。黒髪、青色の瞳、黒人種、身長168cm、C。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。黒髪、青色の瞳、黒人種、身長173cm、F。



ヒラリー……ヘルガの母。元ランク5ハンター。赤毛、緑色の瞳、白人種。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。赤毛、緑色の瞳、白人種、身長194cm、A。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。赤毛、緑色の瞳、白人種、身長192cm、AA。


ヴィクトル……ヘルミーネの母方の又従姉弟。ランク3ハンター。赤毛、緑色の瞳、白人種、身長184cm。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。赤毛、緑色の瞳、白人種、身長104cm。



レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。黒髪、青色の瞳、黒人種、身長184cm。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。黒髪、濃褐色の瞳、黄色人種、身長190cm。


マリー……主人公の元相棒。本名はマリー・ムーア。ギルド登録名が、マリー。ステータス上の名前と地球での愛称は、ブラッディ・マリー。ランク6傭兵。黒髪、濃褐色の瞳、黒人種、身長173cm、B。



【基本魔法紹介】

『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『強化』……亜人の頑丈さとパワーやスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではない。



【秘伝魔法紹介】

『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。


『浮遊』……羽根が空中を舞う様子を再現したもの。高所から落ちた時に落下速度を抑える。減速出来る質量や速度は個人の力量に比例し、接触が無くなると10秒程で霧散する。


『飛翔』……グリフォンの飛翔を再現したもの。実際には空中に浮遊している訳ではなく、目標座標に向かって自身が落下しているだけである。


『加速』……吸血鬼のスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではなく、雷撃系統の魔法を用いて脳の処理能力や神経の伝達能力を増加させているだけである。


『必殺』……標的の体温や脳波を追尾して攻撃を誘導する中等竜の爪撃を再現したもの。ロックオン可能な標的の数は個人の力量に比例する。マーカーを付けるだけなら無限に可能だが、マーカーの識別は出来ない。



【その他】

シルヴェストル辺境伯領……主人公が転居してきた街。アロイジウス王国の最北端に存在する。


アロイジウス王国……アドルファ王国と深淵の森を挟んで真南に500マイルほど離れた所に在る隣国。


シグブリット辺境伯領……主人公が住んでいた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。


アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。


ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。


アドルファ王国……ジルヴェスター辺境伯領が所属する国。碧翠大陸の中央辺りに存在する。

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