第74話
■2015/08/30 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。
第74話
◇
転移出来ない以上は、最悪の場合には『飛翔』の魔法で飛んで逃げるしかないが、俺の能力ではヘレナとヴェラを抱えるのが限界だし、ジェーンの能力でもヒルダとヴィクトリアとヘルミーネを抱えて翔ぶ事が限界なハズだ。
一旦この場から離れて子供や妊婦たちを『倉庫』の魔法の中に匿ってから、ヘルガ、レナート、カール、ヴィクトルを迎えに来る事になる。
俺がその事を告げると、ヘルガが一瞬苦悩の表情を浮かべたが全員が了承した。
ヘルガは成人したばかりのヴィクトルが犠牲になる事を恐れたのだろうが、俺だって甥っ子みたいな彼をむざむざと殺させたりするつもりは欠片ほどもない。
それにヴィクトルは、居残りを告げられて却って喜んでいる。
一人前扱いされたみたいで、嬉しいのだろう。
逆にヴェラが膨れっ面しているのは、ヴィクトルと同じ年齢なのに子供扱いされたからだと思われる。
◇
屋上の柵から道路上の魔法陣の様子を見張っていたヘルガとレナートが声を荒げる。
「魔法陣から使徒が現れたみたいだよ!」
「ケーファーノイドと同タイプが2匹と、以前遭遇した緑色の巨人型生物と良く似ているのも2匹いるな。」
俺とジェーンも柵に駆け寄って、魔法陣の辺りを見てみた。
ヘレナたちも動こうとしたが、カールとヴィクトルが押し留めている。
緑色の巨人型生物は2匹とも全く同型で、体長は約17フィート、眼が赤く、丸裸で、髪の毛がなく、背中にデカイ刺が2本生えていた。
肌の色を除く基本的な特徴は、以前交戦した紫色の巨人型生物と同じだが、マッシブな体型などは緑色の巨人型生物と同じだ。
「あのインクレディブル・ハル○みたいなヤツらは、準使徒ってヤツだな。」
緑色の巨人型生物を一目見たジェーンがそう言った。
「ジェーン、知っているヤツなのか?」
「使徒の血肉を食った狂信者の成れの果てだ。
劣化版とはいえ、使徒の能力の一部を使えるみたいだ。
もっとも、狂信者が使徒の血肉を口にしても、のた打ち回って死んだ挙句にグールになっちまう事の方が多いから、使徒よりも個体数は少ないらしい。」
俺の問いかけにジェーンがそう説明した。
流石は、他の大陸に出向いてまで使徒討伐を行っていただけの事はある。
道路では兵士たちが野次馬どもを避難誘導しようとしているが、大半の市民は使徒の巨体を見た途端にパニックになっており、右往左往しているだけで指示に全く従っていない。
「狂信者どもは、アラクランノイドみたいな眷属にはならないのか?」
「私もそんなに詳しくはないが、準使徒以外の眷属になった狂信者の話しは聞いた事がないな。」
俺は眷属についてジェーンに尋ねながら、そう言えば未だ魔法陣については何も調べていない事に思い当たった。
少なくとも目の前の道路で光っている魔法陣は、ゴーレムの表面に刻印されているシールド系統のモノや、簡易転移門に彫刻されているモノとは異なる象形文字である事だけは俺にも分かる。
「そうか。
それと、あれは転移の魔法陣なのか?
それにしては簡易転移門とかに彫刻されている魔法陣と全く似て無い様だが。」
「あれは確か、召喚の魔法陣だったハズだ。」
「召喚?」
「ああ。普通は契約した魔獣なんかを空間を超えて呼び出す為のモノだ。但し、知能が低い生物なんかは召喚出来ないハズだ。」
アラクランノイドやグールなどが1匹も呼び出されていないのは、知能の低さのせいらしい。
「なるほどな。ありがとう、ジェーン。」
言われてみれば、ビデオゲームではお馴染みの魔法陣じゃないか。
爆風が吹いてきた直後、慌てたヘルガが俺たちに頼みこんで来る。
「ソード!タイラ・リサ!
ヒルダたちを連れて一旦離脱しておくれ。」
召喚が完了した途端に使徒が襲いかかったために、ゴーレムが応戦を始めたせいで道路では市民が踏み潰されたり、魔法攻撃の余波で吹き飛ばされたりしていた。
「分かった。
ジェーン、真西へ翔ぶぞ!『倉庫』の魔法が発動したら引き返す。」
「了解。」
俺がジェーンに話しかけている最中に、レナートはカールたちと何か簡単な打ち合わせをした様である。
「ソード、俺たちは先にギルドへ行ってるぞ。」
「分かった。ギルドで会おう。」
『氷湖』の魔法が解除されると俺はヘレナとヴェラの腰を抱きかかえ、ジェーンはヒルダを抱いたヘルミーネとヴィクトリアの腰を抱きかかえて、『飛翔』の魔法を発動してゆっくりとアパートから翔び立った。
妊婦に急加速はかなり危険だし、『飛翔』の魔法には実は風防が無いので時速百数十マイル程度の低速飛行でも風圧が幼児には負担となる。
俺たちのアパートは東側がメインストリートに面しているし、徒歩で3分間ほど南下するとハンターギルドがあるので、屋上から飛び降りたヘルガたちが真南へ駆けていく姿が見えた。
◇
俺たちが城壁から1マイルほど離れた辺りで『倉庫』の魔法が発動可能になったので、一旦着地して子供と妊婦を格納すると、俺とジェーンはギルド目指して引き返そうと振り返った。
俺は下手くそな『探査』の魔法の技量を向上させる為に常時、レーダーの様に周囲の動体を感知出来る音響映像を見たり、熱分布映像を見たりしているのだが、振り返った途端に高熱の衝撃波が急速接近してくる映像が見えた。
今まで実戦と訓練時に何度も繰り返してきた通りに、即座に防壁代わりに『氷湖』の魔法で自分とジェーンの周囲の空気を紡錘形のドーム状に固めて無色透明な障壁を作ったお陰で俺たちは無事だったが、周囲の木樹は薙ぎ倒されているし、都市の上空にはキノコ雲みたいな小さな噴煙が幾つも生じているのが見える。
そう言えば以前ヴィクトリアが、使徒が出てきたら少なくとも市民の半数が死傷し、普通は都市が壊滅する、と言った際に俺は大げさだな思ったが、この光景を見ていると誇張じゃない事が分かった。
「ソード。動甲冑を着るから少し待ってくれ!
それと、旧型で良ければ私の動甲冑を貸してやろうか?」
「それはありがたい。だが、サイズは大丈夫なのか?」
「旧型は既製品だから、私たちくらいの体格の違いならアジャスターで何とかなるハズだ。」
「そうか。なら是非貸してくれ。」
ジェーンが俺に渡してくれた動甲冑は、あえて言うとカトゥーンのガンダ○に出てきたビギナギ○に似ており、かなり短いもののフィン・ノズルみたいモノもあるが、濃い青色でシンプルな重装鎧といった形状をしている。
特撮ヒーローみたいに一瞬で動甲冑を装着する事は当然不可能だが、日本の鎧を身に着けるのに比べれば簡単なモノだった。
性能は最新型なのに趣味のオブジェモードを組み込んだせいで、ジェーンの方がよほど装着に手間取っている。
ジェーンから動甲冑を部品の状態で渡された時には、薄い部分でも1インチ以上の厚さがある金属の塊なんか動かせるのか疑問だったが、軽く魔力を流した途端に重さがなくなった。
感触からしてどうやら俺の『浮遊』の魔法と同系統の現象を起こす魔法陣が、全部品の内側に彫刻されているらしい。
しかも、まるで宇宙空間や深海での活動も考慮されているかの様に完全に密封されるが、冷風が内部を循環しているお陰で却って涼しいし、ヘルメット内はまるでシネマのアイアンマ○みたいで、動甲冑の状態や外部の様子を映すウインドウモニターが表示されている。
電子機器が存在しないこの世界で、どういう原理で空間投影しているのか疑問に思ったが、俺の『投影』の魔法の本来の使い方はこれである事に気づいた。
負担軽減機能はあるが出力増幅機能は無いので、パワードスーツみたいに使うには自前の『強化』の魔法を発動する必要があるとはいえ、超軽量の重装鎧だと割り切れば非常に使い易い。
今回の件が一段落したら、俺も直ぐに動甲冑を購入する事に決めた。
ジェーンが装着を終えると、俺たちは即座に『飛翔』の魔法を発動してギルドへ向う。
◇
俺たちが上空から見渡した街の光景は、まるで絨毯爆撃されたかの様で酷いものであった。
既に4割以上の建物が倒壊しており、街路樹や菜園なども炎上しているし、そこら中に人間の死体が転がっている。
シグブリット辺境伯領で浄化の炎が降って来た時には、全市民が避難済みだったので、数名のハンターが亡くなったものの、都市の4割が更地になったのに市民の死傷者はゼロだった。
だが、この街では殆どのハンターが狩猟に出掛けていて不在な時間帯だった事もあって、被害にあっているのは一般市民ばかりのハズである。
そう言えば、シグブリット辺境伯領で緑色や紫色の巨人型の生物が暴れた時にも、市民からは大した被害が発生していない。
ケーファーノイドという名称こそ似ているが、やはり本物の使徒と準使徒では、厄災の規模が桁違いである。
「そろそろ、浄化の炎が降るんじゃないか?」
「それは未だだ。」
俺が問いかけると経験豊富なジェーンが即座に否定した。
「何故だ?」
「精霊は浄化の炎によって人間の死者が出る事を嫌うから、大半の市民が避難するか、生き残りが百人未満にならないと使われない。」
「そうなのか。」
当然ながら俺たちのアパートもギルドビルも跡形も無くなっていたので、俺とジェーンは使徒討伐に目標を変更した。
クイーンもどきが、250ポンド爆弾をバラ撒いているかの様な威力の攻撃魔法を放っている状況下で、瓦礫を掻き分けての人探しなど不可能だし、ヘルガたちが生き残っていれば何れ会えるだろう。
それに仲間を探し出したり救助する為にこそ、敵対勢力の排除が優先である。
◇
俺たちは、5体のゴーレムが使徒と準使徒に翻弄されながら戦っている姿を直ぐに発見した。
廃墟と化している都市の中で、巨体が動き回っているのだから目立つ事この上ない。
ゴーレムが3体も増えているのは、待機していた部隊も出動したからであろう。
カールから聞いた説明とゴーレムの1体が今も参戦していない事から推測すると、2匹の使徒だけが相手なら、仕留める事は出来なくても5体のゴーレムで制する事は不可能ではないハズだ。
そういう事なら、俺たちの相手は準使徒という事になる。
俺たちは、北側の城門近くに布陣してゴーレ厶に魔力を供給している駐留軍に接触し、参戦する旨を伝えて辺境伯に連絡して貰った。
辺境伯は駐留軍や諸侯軍の幹部とともに地下遺跡へ避難しているらしく、無線の魔法が直接通じる場所に居ないために中継するのに梃子摺っているようである。
数十分間ほど要したが、辺境伯とゴーレムの操縦士からの了承を得たので、俺たちは緑色の巨人型生物を目指して空へ翔び立った。
◇
シネマのエイリア○に出てきたクイーンに良く似た外見をしている使徒の動きは、素早いだけでなく予想外にもトリッキーで、ゴーレムに襲い掛かっている様はまるでカトゥーンに出てくる亀の忍者みたいでほぼ無傷のままだった。
準使徒の動きも俺が以前戦った緑色の巨人型生物よりは明らかに俊敏だし、紫色の巨人型生物と同じ様な雷撃も放っているが、ゴーレムの魔法攻撃をエネルギーシールドで撥じき飛ばしてはいるものの完全には防ぎ切れていないみたいで無傷ではない。
「ソード。黒色の使徒に襲われても接近戦には絶対に応じるなよ。
私がこの前、下等竜と戦った時と同じ様に粒子シールドが爆散した際にズタズタに切り裂かれるからな。
その動甲冑のリフレクターシールドを頼りにすると酷い目にあうぞ。」
俺が飛翔しながら戦場を観察していると、隣を飛んでいるジェーンがそうアドバイスをくれた。
ヴィクトリアから聞いた話しだと、リフレクターシールドを使用すると動甲冑の外側だけでなく、内側にも放射線や磁場が発生するらしいので、緊急時でもなければ俺も頼るつもりは無い。
「分かった。だが、俺の遠距離魔法は威力が低いぞ。」
「近寄らせ無いだけで十分だ。
あのゴーレムの性能はかなり高いみたいだから、緑色の準使徒の邪魔さえなければ直ぐにでもカタが着くかもしれない。」
「了解だ、ジェーン。」
「グッドラック!」
俺にそう告げた直後にジェーンは、奥側にいる緑色の巨人型生物へ向かって行った。
◇
俺は手前側にいる準使徒から10ヤードほど離れた場所で着地すると、3個の魔法を発動する。
「さあて、お嬢さん。今度は俺と1曲踊って貰おうか!」
そう話し掛けながら俺は、準使徒の後頭部を狙って最大出力で『突撃』の魔法を3発同時に撃ち込んだ。
俺の攻撃は当然ながら準使徒の固有領域によって減衰された挙句に、エネルギーシールドによって撥じき飛ばされ、全くダメージを与える事は出来なかった。
だが、準使徒の注意を引く事は十分に出来た。
最悪の場合でも俺は、ジェーンがもう1体の準使徒を始末するか、ゴーレムが使徒を制圧するまで、コイツの標的になり続ければ良いだけである。
俺は攻撃魔法を放った直後、防壁代わりに『氷湖』の魔法で自分の周囲の空気を紡錘形のドーム状に固めて無色透明な障壁を作った。
準使徒は振り返って俺を睨み付けると間髪入れずに大音量で咆哮を放つ。
これは以前緑色の巨人型生物と戦った時に経験済みなので、容易に防ぐ事が出来たが、周囲に散らばっている瓦礫が細かく崩れて行くところをみると唯の大声ではなく、超音波攻撃も兼ねているのかもしれない。
俺は動甲冑の背面にある懸架装置に固定しておいた専用のバトルアックスを両腕で構えると、『強化』と『加速』と『必殺』の魔法を最大出力で発動すると同時に『氷湖』の魔法を解除した途端、縮地で準使徒へ急接近して斬り掛かる。
「レッツ、ロッカンロール!」
そう良いながら俺が袈裟斬りに振るったバトルアックスは、容易く準使徒の腕を切り飛ばす。
以前緑色の巨人型生物と戦った時と同様に、除夜の鐘みたいな音を立ててお互いが弾き飛ばされる、とばかり俺は思い込んでいた。
思わず攻撃が通じてしまったが、欠片ほども躊躇はしない。
俺が修得している薙刀術も、元より相手に避けられようが受け止められようが臨機応変に斬り掛かる事くらい出来るので、準使徒が動かなくなるまでそのまま連続攻撃を叩き込む事となった。
準使徒は、なます切り状態となったにも関わらず死んだふりをしていたらしく、呆気になく思いながらトドメを刺そうと近付いた俺に向かって雷撃を放って来た。
俺は咄嗟に動甲冑の前腕部分に備え着けられている小盾で防ごうとしたのだが、それよりも先にリフレクターシールドが勝手に起動して、雷撃を弾き飛ばしてしまう。
気を引き締めて、俺は準使徒の頭部と心臓を真っ向斬り下しで真っ二つにした上で、クビを横一文字斬りで切断した。
準使徒が簡単に死なない事や死んでも容易に復活する事は、俺も十分に思い知らされているので、動甲冑の腰部背面の懸架装置に吊り下げてある焼夷手榴弾を投げ付けて、準使徒を念入りに焼却する。
この焼夷手榴弾は、地球で俺が使用していたモノと威力が全く異なり、準使徒の肉片は凄まじい勢いで消し炭となっていく。
視界の端で突然火の手が上がったため、そちらへ視線を向けるとジェーンの後ろ姿と、その向こう側で燃え盛っている炎が目に入って来た。
◇
現状に認識が追い付かない。
俺は何故、こんな簡単に準使徒を仕留める事が出来たんだ?
以前、青色の巨人型生物と戦った時と俺のレベルに大差はない。
違うのは、体術系の秘伝である『加速』と『必殺』の修得及び、動甲冑の着用くらいである。
先程は興奮していたので無視してしまったが、普段『加速』の魔法を使用すると周囲がスローモーションで見える反面、『強化』の魔法を併用しても泥沼の中を泳いでいるみたいに身体の動きがついてこないもどかしさを感じる。
しかし、この動甲冑を着用した状態だと俺は、カトゥーンのサイボーグが使用していた加速装置みたいに高速で動く事が出来たので、準使徒の動きはまるで止まっている様に見えた。
恐らく、俺が高速で正確に攻撃出来た事が、勝因としか考えられない。
俺は、この街の駐留軍や諸侯軍が使用している動甲冑の購入を検討していたので、機密情報も含めてそのカタログスペックは全て暗記している。
もし彼らと同じ動甲冑を着用していたら、秘伝を使用しても俺はこんな成果など絶対に出せないハズだ。
つまり、ジェーンに借りた動甲冑は、彼らのモノとは比較にならないくらいに高性能だと言う事になる。
俺がそんな事を考えていたら、いつに間にか近寄っていたジェーンが声をかけてきた。
「ソード。良い仕事っぷりだ。」
「この動甲冑のお陰だ。ありがとう、ジェーン。」
俺たちが隣り合って会話している場所からかなり離れているが、5体のゴーレムが連携して2匹の使徒と戦っている光景が見える。
使徒の方が多少劣勢なので、時間はかかるかもしれないが、この分ならゴーレム側の勝利で終わりそうだ。
但し、彼らの魔法攻撃の余波は未だ広範囲に及んでいるので、下手に動く事は難しい。
俺たちは今暫くの間、雑談でもしながら彼らの戦いを見守るしかない。
「それは20年くらい前に中古で買ったヤツなんだが、たぶん私の着ている新型よりも性能は上だからな。」
「ん?じゃあ、何でこれを使わないんだ?」
「固有機能や高出力時の挙動とかが神経質だから、標準出力までじゃないと操縦が途端に難しくなるんだよ。
そいつは30年くらい前に工業系ギルドが総力を上げて、上等竜討伐を目指して作った専用機みたいなんだけど、ランク7やランク6ハンターの誰も使い熟せなかったそうだ。
そのためずっと倉庫に眠ってたのを、私が材料費だけで買い取ったんだよ。
結局私も使い熟す事は出来なかったが、初めて買った動甲冑だから記念に取っておいたんだ。」
「記念品なのに汚して悪かった。後で綺麗に磨いてから返すよ。」
「いや。お前に譲るよ、それ。
魔素過給機が作動してるって事は、少なくとも私よりはお前の方が使い熟してるって事だからな。
それに何と言っても新型の方が格好良いからな、私がそれを使う事は二度と無いだろうし。」
「無料ってのは心苦しいから、ジェーンが買った時の金額を払うよ。」
新型について俺が何もコメントしない事に、ジェーンは多少ムッとしたみたいだが何かを指折り数えている。
「そうか?じゃあ、帰宅したら装備品とか仕様書を渡す際に引き換えにしよう。」
指折り数えるほど、付属品があるのか?
「分かった。
ジェーン。そう言えば、リフレクターシールドが勝手に起動したんだが、放射線や磁場とかの影響は大丈夫なのか?」
「ふふふ、量産型とは違うのだよ、量産型とは!
装甲が剥離した状態だと流石にヤバいみたいだけど、オールグリーンならリフレクターシールドを使い続けても、そいつは全く影響なんかないらしいよ。」
「そうなのか。放射線を防ぐとは凄いな。」
高性能だからこそピーキーな動甲冑と俺の相性が良かった事が原因で、今回の準使徒討伐が成功した様である。
先程から俺は酷い眠気に襲われているが、理由には直ぐに思い当たった。
念のために自分のステータスを見てみたら、やはりレベルが162から194にまで一気に上がっていた。
これは急激なレベルアップに伴って肉体が強化される際に、強制的に眠りに誘うモノのハズだから、あの準使徒は俺よりもレベルが200以上も上だった事になる。
その後、十数分間ほどジェーンと会話を続けた頃になって漸く、最後までしぶとく生き残っていた片方の使徒の頭部がゴーレムの踵によって踏み潰された事で決着が着いた。
5体稼働していたゴーレムも2体が大破して全く動かないし、もう1戦出来そうな状態なのは2体だけで、残りの1体は辛うじて立っているという感じである。
しかも、肩に彫刻されている部隊章からすると、継戦可能なゴーレムはパレードに参加していた2体らしい。
◇
俺たちは、ゴーレムに走り寄ってきた駐留軍と接触する事にした。
ヘルガたちを探すには駐留軍や諸侯軍の協力が不可欠だからである。
だが、その必要は無くなった。
駐留軍の最後尾と並走しているヘルガたちの姿を見つけたからだ。
全員が包帯を巻いているので火傷などの怪我を負っているみたいだが、走れる程度には元気そうである。
俺とジェーンが動甲冑の兜だけを外して待っていると、駆け寄ってきたヘルガが真っ先に声をかけてきた。
「ソード!あんたが無事ってことはヘルミーネたちも無事って事かい?」
「当然だ!ヘルミーネたちにお前らの訃報をどうやって伝えるか考えてたのに無駄になっちまったが、無事で良かった。」
ヘルガやカールよりもレナートの方が明らかに心配そうな顔をしていたが、俺の言葉を聞いて3人とも安堵したみたいだ。
「俺が初めての子供の顔を見る前に死ねるハズないだろ?」
「レナート、それよりもどうやってあの攻撃を凌いだんだ?ギルドビルなんて影も形もないぞ。」
この動甲冑は兜を外すと空気循環が上手く行かなくなり、かなりの勢いで首元から風が吹き出してきて、話し声が効き難いなど結構鬱陶しい。
俺の問いかけにはレナートではなく、カールが答える。
「この街には各ブロックごとに地下退避壕があるんだよ。
以前、大トビトカゲの群れに突然襲われた際にも大半の市民が地下遺跡まで逃げ込むことが出来なかった事から再発防止のために作ったらしいよ。
但し、あくまでも大トビトカゲ対策だから浅いので、魔法攻撃の高熱を防げずにみんな火傷を負ってしまったけどね。」
「そうか。それなら無事な市民も沢山いるかもしれないな。」
「そうだな。しかし、退避壕の出入口が瓦礫で埋まっていて簡単には出られないかもしれん。」
ヴィクトリアの安全を確認したレナートは、市民を心配し始める。
俺たちは諸行軍の士官に救助活動を手伝う事を申し出たのだが、全ての動甲冑部隊を呼び戻しているし、街に残留していた部隊だけでも何とか行えると言ってやんわりと拒否された。
この街はスタンピード時にしかハンターを頼らない傾向が強いし、ド素人の俺たちが出しゃばった挙句に、退避壕ごと崩落させて死者が出たりしても寝覚めが悪くなる。
それに、ヘルガたちも軽度とはいえ負傷しているので、俺たちはカールだけ救助活動に残して撤退する事にした。
カールには申し訳ないが、ギルド職員である以上は彼にはハンターの所在を確認する責任があるので仕方ない。
それに、俺にも未だやらなければならない事が残っている。
俺のアパートの前でモーニングスターを振り回したアホには、『必殺』の魔法でマーカーを付けておいたのだが、標的が死亡した場合には解除されるハズのマーカーが未だ存在しているので、あの狂信者どもも生きているのだろう。
このマーカーが付いている相手が誰なのかは個別に識別出来ないが、俺はヒルダとヘレナとこのアホにしか付けていないので、この街に残っているのは1人だけである。
ヒルダを泣かせた報いを受けさせてやらなければ、俺の気が済まない。
ヘルガたちを『倉庫』の魔法の中の自宅へ帰すと俺はジェーンとともに、駐留軍が設営したばかりの天幕へ入って行き、士官に話しかけた。
「狂信者の生き残りを始末したいんだが、審議官を同行させてくれないか?」
「ソード、奴らが何処にいるのか知っているのか?」
俺は火事場での殺人を疑われないようにするために審議官を連れて行こうとして、顔見知りの百人長1人にだけ喋ったのだが、恐らくこの百人長が無線の魔法で知らせたせいで、ゴーレムの付近に居た百人長が全員、天幕へ駆け込んで来た。
「俺の家の前でモーニングスターを振り回していたアホにマーカーを付けておいたから、こいつの居場所だけは分かるが他は知らない。」
「狂信者が1人という事はないだろうし、仮に現在は単独行動中でも何れは仲間と合流するはずだ。
ソード。懸賞金は規定額を支払うから、審議官ではなく、保安隊を同行させて欲しい。」
「了解した。但し、狂信者が逃げたら俺の手で殺すぞ!」
「それは構わん。
狂信者に逃げられるくらいなら絶対に殺す必要がある。こんな事が繰り返されたら堪らんからな。」
数分ほど待つ事になったが、駐留軍の動甲冑を着用した十人隊が近づいてきた。
街を警護する衛兵隊とは異なり、今まで一度も見た事のない部隊章が彫刻されているので、彼らが保安隊なのであろう。
「じゃあ、行こうか!」
彼らの隊長は兜をつけたまま、挨拶もなく出発を促してきた。
階級章からして彼も百人長みたいである。
「分かった。飛行は可能か?」
こういった顔を見せる事が出来ない部署の人間には関わりたくはないので、俺とジェーンは同意すると直ぐに兜を装着して、先導しながら天幕を出て行く。
「問題ない。」
彼らの答えを聞いた直後に、俺たちは『飛翔』の魔法を発動し、大空へ飛び上がった。
保安隊の半数は俺たちの『飛翔』と同系統の魔法みたいなので高速だが、残りは少しずつ離れていっているので、恐らくは低速だが浮遊も可能なタイプの飛行魔法だろうか。
南門付近に居る数十人の人間の中にマーカーの存在を感じるが、身のこなしからして全員が狂信者の関係者という事は無いハズである。
面倒臭くなってきたので、フードを被って隠れているあのアホにだけ一発ブチかましてさっさと帰ることにしよう。
俺はマーカーの付いている人間の目の前に着地すると、フードを剥いで顔を確認する。
あのアホと同一人物である事を確信すると、俺は即座に『強化』の魔法を発動し、狂信者の顔面を掴んで50フィートくらいの上空へ放り投げてやった。
そのまま落ちてきたら一応は受け止めるつもりだったが、あのアホは器用に空中で姿勢を変えて足から着地したものの、着地の衝撃で両足をグチャグチャに骨折したみたいである。
アホが両足の痛みに耐えかねて泣き喚いた事で、こいつがヒルダを泣かせた事についての俺の気もやっと晴れた。
南門付近に居た人間を囲むように着地した保安隊は、槍を構えると直ぐに警告を発する。
「こちらは駐留軍だ!
全員うつ伏せになって手を頭の上に置け!
指示に従わない者は問答無用で斬殺する!」
恐らく一般市民であろう人々は、俺の姿というか行動に驚いて逃げようとしていたが、駐留軍である事が分かると大人しくうつ伏せの体勢をとっていく。
逆に、あのアホが落ちてきた直後に俺に向かって攻撃しようとしていた奴らは、駐留軍だと分かった瞬間に脱兎のごとく逃げ出した。
だが瞬く間に、狂信者どもは動甲冑を着込んだ保安隊に斬り伏せられていく。
うつ伏せになっている人間の中にも狂信者が残っているかも知れないが、それは俺には分からない。
「後は任せても良いか?」
「協力に感謝する。後日話しを聞くことになるかも知れんが、今日のところは引き上げて貰っても結構だ。」
俺が確認すると、保安隊の隊長はそう答えた。
俺はその場で『倉庫』の魔法を発動し、ジェーンを連れて帰宅する。
◇
ゲストは別だが、俺たちが『倉庫』の魔法で作られた空間に入ると大陸間輸送船の甲板上に出る様に設定してあるので、そこから自宅まで歩いて行く途中でジェーンに話しかけた。
「スマンな、ジェーン。後始末にも付きあわせて。」
「気にするな。狂信者は根刮ぎ退治しなければならない事は、私のほうが良く分かっている。」
「確かにそうだな。」
「この前とは別の純米酒もあるから、今日はそれでも飲むか?」
「嬉しいねぇ。じゃあ、俺は取って置きのワインを船倉から持ってくるから、先に食堂へ行ってくれ。」
「分かった。動甲冑を脱いだら直ぐに向かうよ。」
その後、ワインの樽を担いで玄関に入った俺は、動甲冑姿のジェーンを見て大喜びしていたヒルダから強請られて、動甲冑を着たまま遊んでやることになった。
ヒルダが楽しそうにしている事から皆がご機嫌になったのは良いのだが、俺とジェーンだけは動甲冑を安全運転するためだと言われて、ヒルダが疲れて眠ってしまうまで酒を飲ませて貰えなかった。
しかも、ヒルダが眠った直後には俺の眠気も限界を迎えてしまい、結局1滴も酒を飲む事無く、動甲冑を着たまま食堂で眠ってしまった。
<続く>
【人物紹介】
ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ギルド登録名が、ソード。ステータス上の名前と地球での愛称は、シングル・ソード。ランク6ハンター。
ケイ……主人公の嫁。本名は、惣田恵子。
ミユ……主人公の姪っ子。本名は、香田美幸。
ジェーン……主人公の友人。本名はリサ・タイラー。ギルド登録名が、タイラ・リサ。ステータス上の名前と地球での愛称は、カラミティ・ジェーン。ランク6ハンター。
ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。
ヴェラ……ヘレナの父方の又従姉妹。ランク3ハンター。
ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。
レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。
ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。
ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。
ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。
カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。
ヴィクトル……ヘルミーネの母方の又従姉弟。ランク3ハンター。
【基本魔法紹介】
『氷湖』……物体が湖の氷に閉じ込められている光景を再現したもの。対象を凍らせる訳ではなく、指定位置周辺の動きを止める。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。
『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。
『強化』……亜人の頑丈さとパワーやスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではない。
『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。
【秘伝魔法紹介】
『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。
『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。
『浮遊』……羽根が空中を舞う様子を再現したもの。高所から落ちた時に落下速度を抑える。減速出来る質量や速度は個人の力量に比例し、接触が無くなると10秒程で霧散する。
『投影』……蜃気楼を再現したものだが、秘伝と裏ワザにより実質的には荷電粒子砲。距離や威力は個人の力量に比例するが、数ヤードほどしか直進しない。発動までにタイムラグがある。
『飛翔』……グリフォンの飛翔を再現したもの。実際には空中に浮遊している訳ではなく、『落下』の魔法と似た様なモノで目標座標に向かって自身が落下しているだけである。
『落下』……物体が落下する様子を再現したもの。対象は垂直落下に限らず任意の方向へ落下する。距離や質量や速度は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。
『加速』……吸血鬼のスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではなく、雷撃系統の魔法を用いて脳の処理能力や神経の伝達能力を増加させているだけである。
『必殺』……標的の体温や脳波を追尾して攻撃を誘導する中等竜の爪撃を再現したもの。ロックオン可能な標的の数は個人の力量に比例する。マーカーを付けるだけなら無限に可能だが、マーカーの識別は出来ない。
【その他】
シルヴェストル辺境伯領……主人公が転居してきた街。アロイジウス王国の最北端に存在する。
アロイジウス王国……アドルファ王国と深淵の森を挟んで真南に500マイルほど離れた所に在る隣国。
シグブリット辺境伯領……主人公が住んでいた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。
アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。
ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。
アドルファ王国……ジルヴェスター辺境伯領が所属する国。碧翠大陸の中央辺りに存在する。




