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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第4章
73/78

第73話

■2015/08/30 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第73話




 翌日は、俺とジェーンも僭神の眷属探しに参加したが、群れで行動するハズのミュルミドネスが単独行動している場面にしか遭遇できず、本来の討伐目標である蜘蛛神の眷属どころか、あれだけ大量に居たアラクランノイドも全く見かけなかった。


実を言えばジェーンは未だこの案件を受注していないので、続ける必要はないのだが、俺たちと一緒に狩りをしていた。


 ジェーンは相棒の仇討ちを確実に実施出来るほどの力を得るためにランク7へ昇格しようとしていただけで、ランク7へ昇格する事自体を目的にしていた訳ではない。


そのため、相棒の仇がもうこの世にいない事を知った今、彼女はランク7へ昇格する気も失せたみたいだった。


この世界に来て20年間情熱的に行ってきた稀人マレビト探しも、彼女にとってはライフワークという訳ではなかったみたいで、あくまでも相棒と一緒に行っていたからこその楽しみだった様である。


それでも彼女がランク7目前にまで鍛え上げられたのは、地球よりも陸地面積が遥かに広いこの惑星の各地に住んでいるマレビトから話しを聞くためだけに、一般人からすれば悪夢でしかない魔獣や危険生物を力ずくで退けてきたからだといえる。


衛生兵でもなかったジェーンが軍医並みの治癒魔法能力を楽々と使い熟せるのは、かなりの危険を冒し、ヒトには言えぬ犠牲を払ってきたからだろうと思う。


継続とは力であり、そして限りない欲望こそが人間最大の起爆剤のハズだから、彼女には是非別の目的を見つけて欲しいところである。


 そんな腑抜け状態のジェーンを俺やヘルガが放っておける訳もなく、レナートを交えて相談した結果、彼女をうちに居候させる事した。


レナートは以前から俺とのレベル差が開いていく事を気にしていたみたいで、丁度良い機会だからジェーンにレベリング時の護衛を依頼したいと言ってきたのである。


現在の身体能力は、ジェーンがレベル246、俺が162、レナートが88なので、もはやジェーンとレナートの体力差はプロレスラーと赤ん坊くらいにかけ離れており、挙上重量などは文字通り桁違いとなっていた。


ランク5ハンターがレベルアップするのが難しい最大の理由は、ランク5の生物が群れで居る時にはそうでもないが、少数で居る時にはランク6以上の生物が捕食に現れる場合が多い事である。


もう直ぐヴィクトリアとの間に待望の赤ん坊が生まれるのでレナートも無理は出来ないが、ランク5の生物が群れていようと、ランク6以上の生物が捕食に現れようと、ジェーンがいれば彼はランク5の生物を1匹ずつ相手にする事が可能となるという目論見らしい。


俺やヘルガでも似たような事は出来るが、複数のランク6以上の生物が現れた場合には、手一杯になる事は避けられない。


俺は別にレベルアップしたい訳ではなく、珍しい生物を見たいだけなので、レナートが戦うというのなら全て任せても構わないのだが、彼に死なれては困るから今まで率先して対処していただけである。


俺は遊覧狩猟が出来るし、レナートは安心してレベリングが出来るし、ジェーンは憂さ晴らしが出来るしで、何もかもが丸く収まる。大団円って事だ。



 ジェーンとは別で参加しているランク7目前のランク6ハンター、トーマスにもギルドで紹介されて顔を会わせたが、彼は何か目的があってレベルアップを目指している訳ではなく、レベルアップのためだけに活動していると言っていた。


そして彼の率いるメンバーというか、弟子たちも同様の考えらしく、全員未だランク4でしかないのに僭神の眷属が行動しているランク5の領域へトーマスと一緒に来ている。


 精細さに欠けるとはいえジェーンの動きは素早く、僭神の眷属探しの途中で俺たちが出くわすランク5の危険生物の群れは数匹を残して彼女が尽く瞬殺していく。


そして、レナートが残りの数匹を仕留めて少しずつレベルアップしている。


そんな俺たちから数百ヤード離れた場所で丁度今、トーマスたちも狩猟を始めた。


 トーマスたちの戦い方は、途中までは兵士たちの集団戦闘の基本に則っているのだが、そこからは動物が子供に狩りの仕方を教えるかのようである。


彼らは先ず、全員で横1列に並んで間断無い魔法攻撃を仕掛けながら獲物に近づいて行き、接近したら槍で適当に痛めつけ、最後は半殺し状態のランク5の危険生物を相手にしてランク4ハンターが1人でトドメを刺すというモノだった。


他人の教育方針に口を挟むとろくな事にはならないので直接言ったりはしないが、彼らのやり方は貴族が子弟に行うレベリングそのものなので、恐らくレベルの上がり易さに対して、戦闘力は上がり難い。


実際、トーマスの弟子たちはレベルだけならランク5ハンターのヴィクトリアと同程度なのに、戦闘技術はランク3ハンターのヴィクトルよりも拙い様に見える。


 因みにギルドでのトーマスの評判は、嫌われてはいるが憎まれてはいないといった感じで微妙だった。


別にトーマスが悪さを働くという訳では無く、自分と弟子のレベルアップしか眼中に無いせいで、真面目な顔をしながらヒトの話しを全く聞かず、傍迷惑な行為を遠慮会釈無く行ない続けるからだ。


なお、全ハンターの9割以上がランク3以下なのに、弟子を全員ランク4に育てたトーマスの実績は高く評価されている。


また、自分に実害が無ければ、遠目からだとコメディアンにしか見えないない事もあって、逆にハンターの中にはトーマスの熱烈なファンもいるらしい。


その気持ちは俺にも良く分かる。


トーマスたちの単調で無意味な動きを見ていると思わず笑ってしまい、何故かチャールズ・チャップリンのシネマ、モダンタイムスを思い出してしまった。



 そして、俺たちは夕刻近くになった頃、以前見つけた縦穴付近にまで来ていたことに気付いた。


縦穴の上には、3辺の長さが1フィートほどの石材を積み重ねて作った小さな砦が築かれており、俺たちが発見した遺跡方面とは逆方向の地下通路の調査を行うための準備を行っている様である。


ランク6ハンターの俺やヘルガは、崩れて埋まっている場所でも『泥沼』の魔法で一気にトンネルを形成する事が出来たが、ランク3程度の実力しか無い兵士たちにそんな事が出来るハズもないので、少しずつ掘り進めているのだろう。


砦の2階部分にある弓狭間から周りを見張っている兵士たちが以前ここへ来る時に同行した奴だと思いだした俺は、数歩のダッシュと壁蹴りで、高さ約16フィートほどにある弓狭間の上部へ一気に飛び上がって声を掛ける。


「よお。どんな状況だ?」


「ソード!驚かせないで下さいよ。

先ほどの報告ですと、地下通路の埋まっている部分を30フィートほど掘削したようですが、所々で水が吹き出すなど崩れ易いみたいなので、貫通するまで暫くかかりそうです。」


俺の声に驚いた兵士たちは一瞬だけ槍を構えようとしたが、相手が誰なのかが分かるとホッとした様子で槍を立てて、問いかけに答えた。


「そうか。俺は土木系の魔法も使えるから、必要なら依頼を出してくれれば、何時でも手伝いに来るからな。」


「ありがとうございます。隊長殿にお伝えしておきます。」


珍しいものを見せてもらえるなら俺は無償でも構わないのだが、下手にそんな事を言ったら便利に使い倒されてしまう。



 その後、兵士たちに別れを告げると俺たちはもう少しだけ先へ進むことにした。


俺たちは基本的に日帰りする事にしているが、『転移』の魔法か『倉庫』の魔法で帰宅するだけなので、無理すれば日没まで活動する事が出来る。


帰路での狩猟も収入源なので、基本的には駆け足で帰る事にしているが。


だが、一般的なハンターたちは日帰りなど不可能な場合が多いので、魔法で地面に穴を開けて少人数用塹壕を作り、その中で食事や睡眠を交代でとる事になる。


また、森林地帯では夜間専門に狩猟を行うハンターもいるが、基本的に深淵の森で行う者は滅多に居ない。


夜間になると危険生物たちの活動が活発になり、森の外縁部までランク6の生物が出てくるからである。


そのため、夜間はじっと息を潜める事になるのだが、トーマスたちも野宿するらしく、日没寸前には穴を掘り始めた。



 俺たちはその後も、以前アラクランノイドやグールなどが進んでいった足跡を辿っていたが、日が沈んで辺りが真っ暗になったので帰宅する事にした。


俺が『倉庫』の魔法を発動し始めた時に、またしてもヴェラが何かを発見したらしい。


「あ、また木像みたいなのが沢山いるよ。」


「アラクランノイドどもかい?」


真っ暗となっている東の方角を『探査』の魔法を使って凝視しているヴェラにヘルガが尋ねる。


「うーん。何か違うみたい。」


「どう違うんだい?」


俺たちには全く見えない距離にあるので、こちらから奇襲するのか逃げるのかを決めるためにはヴェラの情報が重要である。


「ひょろ長くて、胸と腹にも顔があって、羽が生えてて、トーテムポールみたいな感じ。」


「その顔はアラクランノイドと似てるのかい?」


「うん。全く同じ。」


「まさか、あいつらには合体能力でもあるのか?」


ヴェラの説明に対して、レナートが質問というよりも独り言を呟く。


単に肩車しているだけなら一目瞭然なので、ヴェラもこんな事を言ったりはしないだろう。


「ソード、3体で合体だって。スーパーロボットみたいだな。」


「ああ、そうだな。」


今まで元気のなかったジェーンが急に嬉々とし始めたのには俺も苦笑するしかなかった。


「ヴェラ、そいつらのレベルは分かるか?」


「ステータスが読めないから、レベルは多分私よりも上。」


群体生物ではなく、合体する生物というのは見てみたいので、俺は戦闘可能かどうかをヴェラに確認していく。


「じゃあ、何匹いるか分かるか?」


「えっと、視界には7匹しか居ないけど、後ろにまだいるかは分かんない。」


俺とジェーンの2人がいれば、ランク6程度までの危険生物なら7匹くらい何とかなりそうなので、逃げるのではなく奇襲することにした。


「そうか。ありがとう、ヴェラ。

ジェーン、俺があいつらに一当して戦力調査をするからバックアップを頼む。」


「単に間近で見学したいだけのくせに。」


「何か言ったか?ジェーン。」


「バックアップは私に任せな。」


「では、パーティータイムとするか!」


 俺とジェーンは『飛翔』の魔法を使って、トーテムポールから十ヤードほどの距離まで一気に近づくと、そこからは縮地を用いて距離を詰めながら魔法攻撃を仕掛け、接近したら槍で斬り掛かった。


俺とジェーンが使用している『飛翔』の魔法は別系統の『秘伝』だが、参考元となった生物が同じであるために殆ど同じ現象を起こすので、同じ行動をする際には都合が良い。


『飛翔』の魔法で接近中に読み取ったステータスによると、やつらはこの状態でも名称がアラクランノイドのままだが、以前はレベル59だったのが今ではレベル140にまで跳ね上がっていた。


それに、俺がたった今切り倒したアラクランノイドは、側面にも顔が存在する事から3匹だけで合体したのではなく、顔の数からすると最低でも7匹で合体した事になる。


俺が4匹めのアラクランノイドを仕留めた時には、3匹を始末し終えたジェーンが『収納』の魔法で死体を格納しているところだった。


 アラクランノイドの死体は、群体や合体ではなく、完全に融合している様にしか見えない。


地球のチョウチンアンコウも融合合体する生物だった記憶があるが、アラクランノイドの融合は異質である。


身体能力や甲殻の強度などが高くなっているのは分かるが、以前の数倍の数の魔法を同時に放ってきた事や胸部や腹部の顔に脳ミソが残っていた事から、アラクランノイドは融合した個体の脳ミソを魔法発動体として使用し、移動砲台になっていた様に思われる。


俺が、アラクランノイドの死体を検分していると、後ろで眺めていたジェーンが声を掛けてくる。


「これが、ソードたちが遭遇した正体不明の僭神の眷属ってヤツなのか?」


「ああ、そうらしい。前回見た時と形状が全く違うが、顔や名称は同じだからな。」


「僭神の眷属は、別の名称でも同じ様な発音になる事が多いから、翻訳されたステータスに頼らずに、ステータスに表示されている象形文字を1文字ずつ正確に比較する必要あるんだ。」


俺の答えに対して、ジェーンが先人の知恵を教えてくれた。


丁度そこへ、駆けつけた他の4人も合流する。


「そうなのか。だが、こいつらに限って言えば、ステータス上の名称は前回と一字一句違わない。」


「じゃあ、こいつらはやっぱり合体したり、変形するタイプなのかもしれないな。」


「他にも合体する生物がいるのか?」


「こいつらのとはちょっと違うが、百足の化け物が合体や分離したのを見た事がある。他は群体しか見たこと無いな。」


「なるほど。やっぱり、こいつらは珍しいんだな。」


 俺たちは、その場で十分間ほど待機して後続のアラクランノイドが現れない事を確認した後、皆を『倉庫』の魔法に格納してから俺独りだけでギルドの中庭へ転移した。


ギルドに到着してから俺は皆を『倉庫』の魔法から連れ出し、狩ってきた獲物の買い取りとアラクランノイドについての報告を行ったのだが、やはり僭神の眷属の新形態が見つかった事でギルドは大騒ぎとなってしまった。


駐留軍や諸侯軍の士官だけでなく、辺境伯自らが事情聴取を行う事になり、長引きそうな予感がしたので、実際に仕留めた俺とジェーンだけを残して他の皆は我が家へ先に帰宅させる許可をギルドマスターに貰っておいた。


案の定、結局俺たちは日付が変る直前まで辺境伯に拘束される事になった。


一応豪華な食事も用意されたが、俺たちが食べている最中も士官たちがひっきりなしに質問してくるせいで、折角の高級料理を美味しく感じないのが残念で仕方無い。


俺たちが何故その場所へ行こうと考えたのかとか、俺たちが普段は何を基準にして獲物を決めているのかなど、諸侯軍の士官たちはアラクランノイドと遭遇する為のロジックを求めている様である。


どうやら本日は1匹もアラクランノイドなどが見つかっていないらしく、かなり焦っている様だった。


なお、駐留軍は虎の子の大型ゴーレム部隊を派遣して、以前俺たちが遭遇した翌日から10日間もずっとシネマのエイリア○に出てきたクイーンみたいな使徒の行方を追っているらしい。


俺たちがこの街へ転居して来てから間もないせいで、行動パターンがギルドに知れ渡っていない事も、事情聴取が長引く事になった一因みたいである。



 トーテムポールみたいな生物の発見から7日間ほど過ぎたが、その後は駐留軍や諸侯軍だけでなく、俺たちハンターも僭神の眷属とは一切遭遇していない。


トーマスたちも僭神の使徒に全く遭遇出来ない事から、ついに昨日、ホームタウンに帰って行った。


 今日は5勤1休の休暇に当たる日なので、俺たちはカールも含めた全員で早朝からアパートの屋上で寛いでいた。


俺たちがアパートの屋上にある菜園で果実や野菜を収穫している横では、麦わら帽子をかぶったヒルダと妖精が、匍匐前進するカールと追い駆けっ子をしながら日光浴を楽しんでいる。


この屋上菜園は以前の住人たちが放置していったモノだが、色々な種類の実がたわわになっているし、高さ6フィートほどの矢狭間みたいな形状の柵があるのでヒルダが落ちる心配も少ない。


仮にヒルダが落ちたとしても、俺には自重と同程度までの重さの物体を引き寄せる事が出来る『落下』の魔法と、空を翔ぶ事が出来る『飛翔』の魔法があるので、助ける事は可能だ。


 屋上から見下ろすと、普段は公園などで出店している屋台が今日は何故かメインストリートに並んでいる。


特に神輿などの姿も見えないので祭事ではないハズだが、何かあるのだろうか?


昨日は大雨が降っていたので、俺たちは仕事が終わってからは『倉庫』の魔法の中にある自宅にいたから広報などがあったとしても聞いていない。


 俺たちが採れたてのスイカみたいな果物を切り分けて味見をしていると、微かな振動とともに何か大きな生物が城壁都市へ向かってくる足音が聞こえて来た。


暫くすると城門を通過した巨人が、地響きを立てながら結構な速足で歩いてくる姿形が俺たちの目に入ってくる。


先導している足元の馬車の屋根部分が、巨人の脹脛の半ば位までしか届いていない。


メインストリートの両端に並んでいる野次馬から大歓声が上がった。


「ソード!見ろよ、スーパーロボットだ!」


興奮したジェーンがそう叫びながら腕を掴んで柵まで引っ張って行くが、引きずられながら俺も感嘆の声上げる。


「おいおい、マジかよ?!」


それは全高凡そ60フィート、メタリックホワイトの全身鎧で覆われた巨人型をしており、バケツを被った様な頭部、安全バーみたいな牽引具がある胸部、魔法陣が大量に彫刻されているせいで黒色に見える腹部など、遠目からだとカトゥーンのエルガイ○に非常に良く似ているゴーレムである。


ビデオゲームやカトゥーンの影響で、俺には巨人の動きは鈍いという先入観があったが、縮尺を考えるとゴーレムたちの一糸乱れぬ歩みは、人間の行軍と同じテンポみたいだ。


 そう言えば、この街を南北に縦断するメインストリートは、通常の街の4倍以上も広い、というか元の道路に面していた家屋を全て取り壊して整地したモノらしい。


多分、このゴーレムの軍団を歩かせる為に作ったモノだと思われる。


そのせいで俺たちの住むアパートは、玄関側が幅18フィートの道路に面しているのに庭側は幅85フィートものメインストリートに面しており、室内が丸見えだったので、入居後直ぐに業者に依頼して金属製のラティスで塀を作らせる必要があった事を思い出した。


 そしてこのゴーレム2体が引っ張っている太い鎖の先には、首と胴体が泣き別れしているが、シネマのエイリア○に出てきたクイーンもどきの死体が台車に載せられていた。


クイーンもどきは、体長約33フィートで、細長いカブトガニを被っているみたいな頭部に、口にはアリと同じ様な大顎があり、阿修羅像みたいに左右3対の腕が計6本と、干乾びて痩せ細ったティラノサウルスみたいな真っ黒色の身体をしている。


こいつは以前、シネマのメガ・スパイダ○に出てきた巨大なクモと同じくらいの大きさのアラクネを引きずっていたのと同タイプの僭神の使徒である。


クイーンもどきは死んでいるので、俺にもステータスを読み取る事が出来るが、レベルはnullとなっており、ケーファーノイドという名称しか分からなかった。


だが、ケーファーノイドというのは、シグブリット辺境伯領で戦ったあの緑色の巨人型生物、デミ・ケーファーノイド・タイプ1どもと同じ様な名前であるから無関係という事はないだろう。


 ヒルダがジェーンと一緒になって、屋上の柵に齧り付き状態でゴーレムを眺めている光景を笑いながらカールが説明を始める。


「あれは兵士たちが百人がかりで魔力を送り込んで動かしているゴーレムで、白騎士っていう名前なんだよ。

僭神の使徒対策の為に、この国が作り上げた切り札らしい。

スペック上はランク7相当の性能があるハズだけど、兵士を百人導入しても稼働可能時間は最大で30分間にも満たないらしいから、事実上駐留軍の百人隊3個が交代しながら1体を動かすのがやっとみたいだよ。

白騎士には百人長が乗り込んで、加速系の魔法を使いながら操縦してるから、見ての通りかなり機敏に動けるらしい。


但し、あの白騎士1体だけでも動甲冑の百数十体分以上の製造費用や維持費を要するから、費用対効果コストパフォーマンスが悪過ぎて9体で建造を取り止めたんだってさ。

ランク7の怪物なんて普通は深淵の森の中から出て来ないから、滅多に顕現しない使徒を倒す為だけに大量に常備しておくのは、予算的に難しいからね。

確か、今回の件にはこの街に配備されてる6体中3体の白騎士が出撃したハズだから、残りの1体は大破したか、人前に出せないくらいに破損しているかもしれないね。」


この街の建物も他の街と同じく、領主館や消防署などの一部を除いて、基本的に高さ30フィートまでの2階建てとなっているので、アパートの屋上にいる俺たちの目の前を通り過ぎるゴーレムの腹部が目線の位置にある。


ゴーレムの表面には多数の切創やかなり深い亀裂などがあるが、全ての損傷の奥の方までメタリックホワイトをしているので、俺の知らない金属製なのかもしれない。


ゴーレムの背面上部には、懸架装置の間に戦車の出入りハッチみたいな丸い扉があるのが見えるし、腰部の牽引具に引っ掛けられている鎖が50フィートほど後方の台車に繋がっている。


興奮したヒルダが、言葉にならない感情を表すために意味不明のダンスを踊っているのが超可愛い。



 クイーンもどきを載せた台車が、俺たちのアパートの真ん前に差し掛かった瞬間に異音を発して突然止まる。


台車を引っ張っていたゴーレムが、タタラを踏んだ後に振り返った。


メインストリートの端に群がっている野次馬たちも何事が起こったのかと訝しんでいる。


俺たちのアパートの真ん前で屋台を開いていた何者かがメインストリートの両端から、モーニングスターみたいな鉄球を打ち込んで右側の後輪と左側の前輪を破壊したせいで、台車が動かなくなった様だった。


暫くすると野次馬の中から、十数人ほどの怪しい集団が顔を隠すこと無く堂々と道路中央部へ歩み出て、何かの魔法を発動するために魔力を放ち始める。


すると数秒後、台車の周辺の道路に眩しい光を伴って複数の魔法陣が浮かび上がった。


駆け付けてきた10人の兵士が怪しい集団を取り押さえようとしたが、野次馬の中からの奇襲を受けて、次々と斬り伏せられて行く。



 車輪が壊されて台車が止まった瞬間、即座に俺は『倉庫』の魔法を発動しようとしたが、何かに阻害されているみたいで魔力が霧散する。


「ジェーン、ヘルガ、レナート!空間操作系統の魔法が無効化されている!ヒルダたちを中心に円陣を組むぞ!」


俺はそう大声を出して主戦力の3人だけでなく、全員を見渡して注意を呼びかけた。


直ぐ様、ヘレナがヒルダを抱きかかえてヘルミーネの基へ駆け寄り、ヴィクトリアもそこへ集まる。


カール、ヴィクトル、ヴェラの3人で、内側の障壁を張り、俺と主戦力の3人で外側の障壁を張った。


カールが簡易転移門を起動しようとしたが、やはり駄目だったみたいである。


 巻き込まれた、とは言えないかもしれない。


何しろ狂信者どもはワザと俺たちの目の前でショーを始めたのだから、知らない内に渦中に放り込まれたと表現すべきだろう。


ジェーンは他の国でだが過去4度も僭神の使徒討伐を成功させているし、俺たちもこの街に来てから相当数の僭神の眷属を始末しているので、僭神を崇めている狂信者に怨まれている可能性は十分にあった。


 何れの理由しても俺がムカつく事に変わりは無い。


特に、空間操作系統の魔法が無効化されているせいで、ヒルダと妊婦たちを『転移』の魔法で逃がす事も『倉庫』の魔法で匿う事も出来ないどころか、『収納』の魔法で格納してあるジェーンの動甲冑を取り出せないのも腹立たしい。


そして、踊りだすほど楽しげだったヒルダを泣かせた事が、何よりも俺の怒りを心頭に達しさせていた。


狂信者どもの企みなど、何が何でも俺が必ず邪魔してやる。


モーニングスターを所持している狂信者を逃さないために、俺は『必殺』の魔法を使ってマーカーを付けておいた。


これはロックオンと異なり、標的の位置くらいしか分からないが、標的が死なない限りは存在を教えてくれる便利な魔法である。


 取り敢えず、俺たちはヒルダたちの周囲に『氷湖』の魔法で厳重に障壁を張ったが、小さくて頑丈だと確保出来る空気まで少なくなるし、多くの空気を確保すると大きくて脆くなるので、結果として小さくて頑丈だが空気穴を開けたせいで完全にガードする事は出来ない。


そう言えば、前回僭神の眷属と遭遇した際にも、複数同時に転移門を起動する事は出来なかったが、1個ずつなら起動可能だった。


もしかしたら今も同じ状況かもしれないが、これだけの兵士や野次馬が集まっていると簡易転移門を所持している者や転移系の魔法が使える者も沢山いるハズなので、全員を昏倒させるか皆殺しにでもしなければ、転移門が1個ずつなら起動するかどうかを確認する事すら不可能である。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ギルド登録名が、ソード。ステータス上の名前と地球での愛称は、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ケイ……主人公の嫁。本名は、惣田恵子。


ミユ……主人公の姪っ子。本名は、香田美幸。


ジェーン……主人公の友人。本名はリサ・タイラー。ギルド登録名が、タイラ・リサ。ステータス上の名前と地球での愛称は、カラミティ・ジェーン。ランク6ハンター。



ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴェラ……ヘレナの父方の又従姉妹。ランク3ハンター。



ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。



ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。


ヴィクトル……ヘルミーネの母方の又従姉弟。ランク3ハンター。



【基本魔法紹介】

『氷湖』……物体が湖の氷に閉じ込められている光景を再現したもの。対象を凍らせる訳ではなく、指定位置周辺の動きを止める。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『強化』……亜人の頑丈さとパワーやスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではない。


『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。



【秘伝魔法紹介】

『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。


『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。


『飛翔』……グリフォンの飛翔を再現したもの。実際には空中に浮遊している訳ではなく、『落下』の魔法と似た様なモノで目標座標に向かって自身が落下しているだけである。


『落下』……物体が落下する様子を再現したもの。対象は垂直落下に限らず任意の方向へ落下する。距離や質量や速度は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『加速』……吸血鬼のスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではなく、雷撃系統の魔法を用いて脳の処理能力や神経の伝達能力を増加させているだけである。


『必殺』……標的の体温や脳波を追尾して攻撃を誘導する中等竜の爪撃を再現したもの。ロックオン可能な標的の数は個人の力量に比例する。マーカーを付けるだけなら無限に可能だが、マーカーの識別は出来ない。



【その他】

シルヴェストル辺境伯領……主人公が転居してきた街。アロイジウス王国の最北端に存在する。


アロイジウス王国……アドルファ王国と深淵の森を挟んで真南に500マイルほど離れた所に在る隣国。


シグブリット辺境伯領……主人公が住んでいた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。


アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。


ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。


アドルファ王国……ジルヴェスター辺境伯領が所属する国。碧翠大陸の中央辺りに存在する。

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