第07話
■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。
第07話
◇
突然ジャングルが途切れた。
石畳で作られた幅9フィートほどの道路が、北西の方から、弧を描きながら、南東の方へつながっているのが見える。
石畳の上には苔や草が生えているため、道路は緑色をしているし、轍の跡は全くないので、少なくともこの辺りの道路はあまり使われていない。
道路を挟んだ森の反対側はレンガ敷きになっているが、大半がボロボロに朽ちており、約3マイルほど先に見える城壁みたいな所まで、多年草が生い茂っている。
恐らく城壁の周囲から、ジャングルを人工的に無くして、そのあいだを緩衝地帯にしていると思われる。
道路から凡そ100ヤードほどの森の中が、比較的低くて細い樹木ばかりになっていたのも、伐採しているからかもしれない。
大きな城の存在は確認出来ないが、薄っすらと煙が上がっているのが見えるので、何者かが住んでいる城壁都市と言っても間違いはあるまい。
問題は住んでいるのが、先程まで大量に見かけた獣頭人身の生物たちなのか、人間なのかだが、人間だとしても軍隊や盗賊などであったら交渉の余地など無い。
そもそも俺みたいな人間が他にも、この地に居るのかどうかも分からない。
最悪の場合は、獣頭人身の生物と共存する事も考える必要がある。
少なくとも、獣頭人身の生物は服や鎧を身につけ、武器を使っていた事から猿やチンパンジーよりも知能が高いはずである。
◇
この城壁都市の中心を基準にすると、俺がジャングルから出てきたのは、北東になる。
北西の方へ向かって道路を歩きながら、周囲の偵察を行った。
樹木の根によって引っ繰り返された石や、割れている石を何個か発見した。
どうやら石畳ではなくて、3辺の長さが3フィートほどの立方体だったらしい。
しかもこの立方体の石は、切り出したモノではなく、レンガみたいに焼き固めたモノか、コンクリートで成型したモノのように見える。
目視できる城壁都市の大きさからして、この道路を作るのは、ピラミッド建造などと大差ない大工事だったのではないかと思われる。
城壁都市の北門と思われる場所から、真直ぐに真北へ向けて、石畳で作られた幅18フィートほどの街道が作られているのを確認した。
◇
北門の様子を覗おうとしていたら、後ろの方から遠くで馬の嘶く声と何かが倒れる音がした。
すぐさま俺は、街道沿いの森の中を真北へ向かって100ヤードほど走り、音の発生源から約320ヤード離れた場所まで近づいた。
ステータスを読み取れる最大距離は320ヤードくらいだったので、ここから双眼鏡で覗く事にする。
人間の男性と女性だと思われる生物各1体が、獣頭人身の生物4匹と争っているのが見えた。
手前に居る女性みたいな生物は、構えているのが弓ではなく剣だが、シネマのヘラクレ○に出てきた女戦士みたいな格好をしている。
奥に居る男性みたいな生物も、構えているのが剣ではなく槍だが、此方は首から下が殆どヘラクレ○そっくりの格好と体格である。
但し、実際にはベージュ系の衣服の上から、焦茶色系の鎧の胸当や草摺を着用しているだけなので、シネマみたいに素肌を晒している訳ではないし、スカートを着けている訳でもない。
馬車を牽いていた馬みたいな生物は、足が折れているらしく、起き上がれず、足掻いている。
御者席では人間の女性だと思われる生物が、胸を槍で刺されて馬車に縫い付けられており、動かない。
俺があと2歩進んだ所で彼らのステータスが見えるようになり、獣頭人身の生物が、ジャングルの中で数十体ほど殺した事のあるオークである事が分かった。
【名前】
ガストン
【年齢】
35
【レベル】
31
【称号】
(空白)
【加護】
(空白)
【名前】
カテリーネ
【年齢】
17
【レベル】
24
【称号】
(空白)
【加護】
(空白)
【名前】
カーラ
【年齢】
35
【レベル】
null
【称号】
null
【加護】
null
人間みたいな生物の存在を確認出来たのは嬉しいが、今はそんな事どうでも良い。
カテリーネという女性が、剣でオークに斬り付けた後、飛び退りながら左手で投げつけた、ゴルフボール大の火の玉がぶつかった瞬間に、オークは火達磨になり、転げ回った。
ガストンという男性が、槍を振り回してオークを牽制した後に、右手で投げつけた、ゴルフボール大の火の玉がぶつかった瞬間に、オークは爆風で千切れ飛んだ。
「マジで、ビデオゲームかよ!」
またしても俺は、同じセリフを吐く光景を目撃する事になった。
カテリーネの方は、モロトフ・カクテルを投げつけたのと同じ結果だったし、ガストンの方はグレネードを投擲したのと同じ結果だった。
俺には超能力と魔法の違いは良く分からないが、意図的に自然現象を起こした超能力ではなく、何となく不自然な現象を起こした魔法のような気がする。
2人はオークどもにとどめを刺した後、カーラに駆け寄って掌を翳していたが、やがて項垂れて泣き始めた。
暫くしてから、カテリーネが北門へ向かって走って行き、ガストンは馬みたいな生物に近寄って、骨折している足に掌を翳し出した。
カテリーネが4人の援軍を連れて来た頃に、馬みたいな生物が自力で立ち上がった。
「ビンゴだ!」
やはり、あの掌を翳したのは治療魔法だったようだ。
軍医ほどの治療は無理かもしれないが、衛生兵程度の治療なら何とか出来る事が分かった。
◇
あの魔法は才能のある奴にしか使えないのか、それとも誰にでも使えるのか、俺には未だ分からない。
しかし、仮に誰にでも使える場合でも、あの2人は魔法を使う際にビデオゲームみたいな詠唱など行っていなかったので、感覚的なものである可能性が高いという事になる。
行動だけなら、例えそれがどんなモノでも俺には完璧に真似ることが出来るが、感覚がメインになると真似るのは難しい。
匂いの嗅ぎ分けや利き酒、そして一流の腹話術芸人の真似は結局俺には出来なかった。
感覚的なもので俺に唯一再現出来たのは、エコーロケーションだけだが、これは似たような理屈の夜間戦闘の技が俺の教え込まれた武術にあった事と、失明した幼馴染とブラインドサッカーで遊んでいた経験があったからといえる。
何にしても詠唱なしでも魔法が使えるのは現実的である。
1秒以上同じ場所に留まったりしたら格好の的になるだけだし、マガジンを替える時間すら惜しい場合の有る命がけの戦場で、魔法攻撃を行使する為だけに立ち止まり長々と集中して詠唱するなどナンセンスでしかない。
少人数編成の部隊に前衛と後衛の差など殆どある筈がないから、もしもそんな詠唱が必要ならば、砲兵みたいに戦線後方からの支援射撃に徹するしかなくなる。
◇
他の人間のステータスも俺と同じ様に5項目だった事から、自身のステータスだけが5項目見えて、他の生物のは2項目しか見えない、という可能性は無くなった。
しかし、他にも5項目見える生物が存在する可能性もあるし、ステータスという能力には未だ良く分からない部分が多い。
【名称】についても、生物の分類みたいに翻訳されているが、他の生物から見た俺のステータスが、どの様に認識されているのか気になる。
獣頭人身の生物と意思の疎通が出来れば、もう少し絞り込めるかも知れない。
<続く>