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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第4章
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第68話

■2015/09/05 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第68話




 俺とレナート、ヘルガとヴィクトルとヴェラの5人は、先日ミュルミドネスどもと出会った地点から十数マイルほど東方へ離れている場所に来ていた。


この深淵の森は、ああいった異形の存在がいなければ、大トビトカゲや大きな昆虫類が入れ食い状態で狩れるので、浅い領域だと他のハンターたちと競合してしまう。


その為、奥の領域へと進んでいたのだが、更に奥まで行ってみようとレナートが言い出す。


「なあ、この街のハンターは俺たちを除くとランク4までしかいないよな。序でにランク5とランク6の境界くらいまで森の奥へ行ってみようぜ。どんな状態になってるか気になるだろ?」


「調査専門のハンターが、ランク4とランク5の境界までは定期的に巡回しているらしいけどね。」


「どんな生物が居るのか見てみたいしな。一度行ってみよう。」


ヘルガが小ネタみたいな情報を出したが、俺が賛成したために全員で奥へ向かう事になった。


この時、俺たちだけでなく、教導役のヘルガまでもがランク3ハンターであるヴィクトルとヴェラの実力を考慮するのを完全にど忘れてしていたらしい。


しかも、後から聞いた所によるとヴィクトルとヴェラは無謀である事を分かっていて黙っていたそうである。


前衛と後衛にはランク6ハンターである俺とヘルガがいるので、ランク7以上の怪物や大量の魔獣が出てこない限り、ランク5の領域で苦戦することはないだろう、との目論見であったみたいである。



 大トビトカゲの姿を全く見かけ無くなってから更に暫く奥へ進んだ所で、ヴェラが地面にフタの開いたマンホールみたいな直径4フィートほどの縦穴が在るのを見つけた。


全員で近付いてみると穴の周囲には掘り出した土の山など全く無いのに、結構深そうである。


縦穴の中に『光球』の魔法を放り込んでから覗き込んでみると、一番底には舗装されたトンネルみたいなモノの存在が確認できた。


この周囲には2フィート以上の大きさの真新しい足跡が沢山あるので、巨大な生物が獲物を追いかけて全力疾走したか、戦闘した影響で崩れたのかも知れない。


ここは未だランク5の領域なので、足跡の主が下等竜などのランク7の危険生物である可能性よりも、ティラノサウルスなどのランク5の危険生物だった可能性の方が高いハズだ。


「ムシやミミズなんかは唾液で土壁を硬化させるから巣穴じゃないよな。

シグブリット辺境伯領の地下通路に似ているから、もしかして遺跡じゃないのか?」


レナートがそう呟きながら如何にも俺に、見てこい、とばかりに視線を向けてきた。


 イザとなったら『転移』の魔法で逃げる事が出来る俺が斥候として行く事に異論はないので、『浮遊』の魔法を使いながら深さが50フィートほどの縦穴を降りてみる。


トンネルの壁はコンクリートみたいモノで作られており、厚さは約4フィートほどだったが、内部は直径18フィートくらいの滑らかな土管みたいな円柱型のトンネルで、足元は幅9フィートほどの平らな足場が石材で組まれている。


所々に俺の知らない文字で標識らしきモノが彫ってあるし、等間隔で補強されているので、巣穴である可能性は低い。


これで線路が敷いてあったら地下鉄用のトンネルにそっくりなので、レナートの予想通り、恐らくは遺跡へ通じる通路であろう。


内部は真っ暗闇なので、俺は暗視モードや赤外線モードで『探査』の魔法を発動しながら、百ヤードほど東と西に進んで、内部の安全を確認した後、念のため『突撃』の魔法をトンネルの東と西の奥の方へ放って空気を撹拌しておく。


 他の皆を呼び込むために、俺は『飛翔』の魔法を使って地上に戻った。


こういう時は兵士などが使う『無線』の魔法があると便利だとは思うが、無い物強請りをしても仕方がない。


「縦穴の底周辺には小さなムシくらいしか生き物は居ないな。奥の方にはムシすら一切居ないので酸素がない可能性が高い。」


「それなら任せろ。酸素を送り込むだけなら何とかなる。」


俺の報告を聞いたレナートが安請け合いをした。


レナートの『秘伝』は大規模な火災旋風みたいな現象を起こすモノだが、消火が自然任せだったり、焼却範囲を広げる事は出来ても狭める事は全く出来なかったり、酸素を根刮ぎ奪い取ったりなど、兎に角傍迷惑なのが多い。


俺は、『氷湖』の魔法で自分たちの周囲の空気をドーム状に固めて無色透明な障壁を作り、酸欠にならないように内部に空気を確保しておく。


それを確認してからレナートが『旋風』の魔法を発動すると、太い樹木の枝葉が千切れ飛びそうなくらいの突風が周囲に巻き起こり、船の汽笛みたいな音が縦穴から響き渡る。


レナートが着火してない状態の魔法で酸素を操ってトンネル内部へ送り込む際に、周囲の空気も巻き込まれて移動し、逆にトンネル内部の空気が押し出されて、笛の様に鳴っているのだろう。


普通ならこれだけ大きな音が鳴り響けば、周囲の危険生物が大挙して集まって来る筈だが、小さな動物すら近寄って来ない。


この縦穴が出来る原因となった大きな足跡の主は、もしかすると下等竜、最悪の場合は僭神の使徒である可能性すら出てきた。


数分間ほど経過した頃にレナートが、コンサートの指揮者のように格好つけながら魔法を止めた。


温度分布を映像として視る事が出来る赤外線モードに『探査』の魔法を切り替えて周りを探ってみても、俺たちの周囲数十ヤードの範囲内にはやはりムシなどの小さな生物しか居なかった。



 レナートが魔法を止めても、周囲に酸素が少ないという状況は変わらないので、俺たちは息を止めたままで縦穴を降りていく。


トンネル内部は特に気圧が変化している訳ではない様なので、試しに俺が呼吸してみても、目眩や吐き気や痙攣といった症状も出ていないことから、酸素不足でも酸素過多でもないようである。


「空気を吸っても大丈夫みたいだぞ。」


「失礼だな、お前らは!俺がそんなミスをする訳無いだろ?」


数十秒ほど経ってから俺がヘルガたちに安全宣言をすると、レナートが勝ち誇ったかのような顔をして反論してきた。


「何を偉そうに言ってるんだい!

シグブリット辺境伯領の深淵の森が浄化の炎で燃え始めた時、アンタが使った『旋風』の魔法のせいで部隊全員が酸欠で倒れそうになったのを忘れたのかい?」


「あ、あの時だって俺が周囲から酸素を奪ったお陰で、焼死を免れただろ?」


俺の知らなかったレナートの失敗をヘルガが暴いた事で、レナートの態度が自信なさげなものに急変した。


「へえ、そうだったかね?まあ、良いさね。」


「そ、そうだ!今はトンネルの東に進むのか、西に進むのかを決めるほうが重要だろ?」


そんな光景をヴィクトルが興味深そうに眺めている横で、ヴェラはクスクスと笑っている。


「コントは終わりか?

俺の音響による聴覚モードでの『探査』の魔法だと、西方は約3百ヤードくらいの所で反響が止まるから、壁があるか埋まっているハズだ。反対側の東方は、1マイル程度まではトンネルが続いているのが分かる。」


「取り敢えず、近場から見ていこうかね?」


 俺が情報を提供するとヘルガが西方に向かうことを宣言して進み始めた。


俺は『収納』の魔法に格納しておいた松明を取り出して火を灯し、ヴェラに渡しておく。


これが消えたりしたら、酸素が少なくなった事が分かるはずだ。


 案の定、トンネルの西側は崩れて埋まっていた。


俺たちの中で『探査』の魔法での透過映像の解像度が最も高いヴェラによると埋まっている先にもトンネルが続いているそうである。


埋まっている場所に『泥沼』の魔法で穴を開けて先へ進みたい気もするが、それはトンネルの東側の調査が済んでからでも構わないだろう。


俺たちは、ヘルガが先頭を進んでいるのにも関わらず、珍しく元来た道を戻り、東側へ向かう事にした。


 縦穴から2マイルほど東側へ進んだ所で、ヴェラが口に入れようとした丸い飴玉を幾つか落とした事で、トンネルが降り坂となっている事が分かった。


更に4マイルほど歩いた場所は、レンガ状の石材を積み重ねてからコンクリートで塗り固められて塞がれていた。


ヴェラによるとこの先にもトンネルが続いているらしいし、今更引き返すのも面倒なので、掘り進むことにする。


俺が『泥沼』の魔法で穴を開けて、石材が流れ出た箇所に『氷湖』の魔法で一時的なトンネルを作りながら進んでいく。


石材を約十フィートほど穿った頃に漸く穴が貫通し、残り数ヤードくらいのトンネルが見えた。



 トンネルの先にあったのは、円柱状の空間が広がっている光景だった。


全員で『光球』の魔法を照明弾代わりにそこら中に打ち上げてみる。


「おお、これは凄いな!」


俺が感嘆している横では他の者達も頷いていた。


空間の中心には、マヤ遺跡のチチェン・イッツァみたいな四角錐の上部が四角柱になっている建物が、天井を支えるかのように建てられている。


但し、1段あたりの高さがヘルガの身長と同じくらいの階段が、各面の中央部に数十階層ほどもあるので大きさは全く違う。


天井までの高さは約230フィートほどだろうか。


しかも、壁面全てに螺細のような装飾が施してあるらしく、『光球』の魔法の明かりを受けて遺跡全体が虹色の光沢を放っており、要塞というよりは神殿である可能性が高い。


だが、この世界の神社は敷地や階段の出入り口に必ず、インドのトラナみたいな鳥居が存在しているハズなので、これが神殿だった場合は古代文明時代の神社ではなく、僭神を祀ったモノという事になる。


先ほどのトンネルが埋められていた場所は、ここを封印する為のモノであったのかもしれない。


俺たちは鳥居が存在した形跡がないことを確認しながら、遺跡の表面の階段を登って行く。


 最上層にある入口から内部に入ってみるとチチェン・イッツァとは全く異なり、シグブリット辺境伯領の湖底にあったピラミッドと似た様な石組みになっていた。


通路や下り階段は高さ7フィートほど、幅約3フィートしかないので、槍を『収納』の魔法で格納して一列になって進んで行く。


内部の階段の途中には幾つかの部屋があるが、各部屋には一面壁画が彫ってあり、獣頭人身の像や石棺みたいな物が床に固定されている。


「部屋の内部は、シグブリット辺境伯領の湖底にあった遺跡と全く同じだな。」


俺の言葉を聞いたヘルガとレナートの顔が途端に険しくなる。


ヒルダを遺跡探検に連れてきてやりたいが、ここは駄目そうだ。


 最下層だと思われる突き当りの部屋の中央には、やはり東洋の龍みたいな大きな像が祀られた祭壇があった。


ここまで階段を移動した距離から考えると高さは230フィートどころでは無いので、恐らく地下空間の地表に出ていた遺跡よりも地中に埋まっている部分の方が大きいハズである。



「これも、シグブリット辺境伯領の湖底にあった遺跡のと全く同じ像だ!」


龍神と思われる像の口には、複数のヒトらしき小さな像が牙で刺し貫かれていて、明らかに食い千切られている様にしか見えないし、祭壇の周りに描かれている彫刻も、この龍神みたいモノが沢山の動物を襲っている様子である。


トグロを巻いている龍神像の胴体の直径は約1フィートほど、体長は凡そ15フィートくらい、2本の角と2本の髭、そして4本の脚があり、首周りに鬣はあるが背中に生えているのは毛ではなくトゲの様である。


3.5インチほどの人間の像との比率からすると、実物の大きさは恐らく全長300フィート以上に達する巨体ではないかと思われる。


「こんなのがあの国にも在ったって言うのかい?」


俺が告げた内容にヘルガが驚きの声を上げたが、他の者たちは声も出ない様子だ。


「ああ。その通りだ。」


こういった擬神というか僭神の像を崇める狂信者どもは、一度の儀式で百人近い生贄を捧げるらしいのだが、儀式を行った場合には同じ系統の像が存在する他の地域にも同程度の被害が及ぶ事から、これらは生贄の像と呼ばれており、この大陸では最優先の廃棄対象となっている。


しかも、ここの祭壇の周囲には百体近い人間の骸骨が散らばっており、儀式を行った事が窺い知れる。


この世界にはアンデッドやグールはいるが、スケルトンはいないらしいので、これらの骨が動き出すことはないハズだ。


ラピスラズリの原石から削りだされたかのように、この龍神像は全身が鱗の1枚に至るまで美しいラピスラズリ模様をしているのだが、触ったり叩いたりした感触では金属製らしい。


全身が目を見張るような明るい青色をしており、頭部と胴体に暗色の斑点が散在するところなどからするとこの龍神像の模様は、皮膚に触れただけで10人の成人男性を殺す事が出来ると言われているコバルトヤドクガエルの体表にも似ている気がする。


 シグブリット辺境伯領の時には、レベル114だった俺では台座から綺麗に切り離して持ち帰ろうとしても傷付ける事さえ出来なかったが、レベル161になった今なら破壊する事くらいは可能かもしれない。


「破壊できるか試してみるから、障壁を張ってくれ。」


「先にやらしてくれないかい?」


俺が魔法を発動しようとしたところで、ヘルガが声を掛けてきた。


「それは構わんが、『秘伝』もロクに使えない状態なのに大丈夫か?」


「バカにするんじゃないよ。うちの『秘伝』はね、筋力だけを瞬間的にパワーアップさせるだけじゃないんだ。身体が完治してなくても魔法なら問題ないんだよ。」


俺の疑問にヘルガが大見得を切ったが、今まで一度もそんな事を聞いた事がないので、ヘルガと同じ『秘伝』を継承しているヴィクトルに尋ねてみる。


「ヴィクトル、今のは本当か?」


「はい。『強化』の魔法とは別系統ですが所詮は魔法ですので、筋力だろうが魔力だろうが瞬間的にパワーアップさせる事は可能です。

但し、ヘルガは僕が教えを請うまで、魔力をパワーアップ出来る事を忘れていた様ですし、ヘルミーネも得意ではないと言っていました。」


「そんな細かいことはどうでも良いじゃないか!」


ヴィクトルがいつも通りにスラスラと丁寧に答えると、ヘルガが慌て出した。


ヘルミーネは酔っ払う度に、自身の『秘伝』の適正の低さを愚痴っているから参考にはならないが、魔力のブーストがどういったモノなのかには興味がある。


出来れば基本魔法を放ってくれると参考にし易いんだがな。


「まあ良い。好きにやってくれ。」


 そう言った後に俺は、防壁代わりに『氷湖』の魔法で自分たちの周囲の空気を紡錘形のドーム状に固めて無色透明な障壁を作った。


それを見届けたヘルガは、魔法を発動する。


その途端に部屋の内部の魔素がごっそりとヘルガの中へ吸い込まれて消えたのが俺にも分かった。


限定された空間だからこそ魔素の流れを認識出来たが、開けた場所では分からなかったハズである。


俺の修得している『秘伝』は全て、体内の魔力というか体力を使って発動するが、レナートの『旋風』だけでなく、ヘルガの『剛力』も外部から魔素を取り込んで発動していた。


あれを真似れば、俺の魔法の威力も底上げできるかもしれない。


 ヘルガが放ったのは基本魔法の一つである『突撃』だったが、威力が俺のとは段違いに強かった。


メタリックブルーに輝いている龍神像自体は全くの無傷だが、土台の祭壇の方が砕け散ったために、龍神像も吹き飛ばされて壁面にぶつかったあと、反対側の壁際まで転がって行ってしまった。


龍神像が壁面にぶつかった衝撃で、深度3くらいの地震があったかの様に遺跡全体が振動し、天井からは細かい石片が振り落ちてきている。


「崩れそうだ!像を回収して遺跡の外へ出よう。」


俺がそう言うと、ヘルガが龍神像を『収納』の魔法に格納し、全員で駆け出す。



 俺たちが無事に外へ辿り着いた後も遺跡は不気味に振動し続けているが、崩れることはなかった。


「それで、これはどうするんだい?」


「ここで叩き壊そう。出来なかったら、ギルドにでも持ち込むか?」


「そうだね。引き摺っていけば狂信者に間違えられる事もないだろうからね。」


ヘルガが『収納』の魔法から龍神像を取り出して投げかけてきた質問に、俺がそう答えるとあっさりと賛同を得られた。


「あの遺跡が揺れるほどの衝撃を与えても壊れないんだから、物理的な攻撃での破壊は無理なんじゃないのか?」


「次は俺のショータイムだな!」


レナートの疑問は、俺にとっては分かり切っていたことなので、今まで実戦で一切使用する機会がなかった魔法をぶっ放す口実に利用させてもらう。


「でも、この密度の物質にソードの『気化』の魔法をぶつけたら、半径百ヤード以上は消し飛びそうだけどね。」


「ソードは昇華すると言っているけど、実際には分解しているからな。」


「ほんの少し水銀を含んでいただけの甲殻スズメバチを数匹ほど分解しただけで、クレーターが出来ていたからね。」


俺が何の魔法を使うかも言っていない内に、レナートとヘルガが勝手な推測を始めた。


「待て待て!『気化』の魔法を金属質のモノに使ったりはしない。

それよりも、未だ『製粉』や『楽器』や『天秤』といったクールな魔法が残っている。」


「それは何が出来るんだ?」


「『製粉』の魔法は凍結粉砕、『楽器』の魔法は振動粉砕、『天秤』の魔法は圧潰だな。」


レナートの問いかけに俺は誇らしく答えた。


「良くもまあそれだけ、狩猟では一切使えない『秘伝』を購入したもんだね。」


「しかも、本来は商業系ギルドが使う魔法なのに、攻撃魔法に転用しちまうとはな。」


俺の思いとは全く異なり、ヘルガとレナートからは批判が相次いだし、ヴィクトルとヴェラまで呆れた顔をしている。


「うるせえな!観客は黙って見てろ!」


俺は龍神像に近寄って包み込むように両手を触れると、『製粉』の魔法を発動し、最大威力で叩き込んでやった。


「おっ!罅が入ったぞ!」


レナートが驚きの声を上げているが、龍神像の角みたいに細い部分に少し罅が入っただけだった。


「もう一発行くぞ!」


俺は、先ほどヘルガが行った瞬間的なブーストを真似するために、カトゥーンのドラゴンボー○に出てきた元気○をイメージして、周囲から魔素を強制的に掻き集めてみた。


そして、そのまま『製粉』の魔法を発動し、魔力を込め続ける。


ヤバい!前腕が意に沿わずに振動を始めたし、手首から先の身体が薄っすらと発光し出した。


「ホーリーシット!」


そう叫ぶと同時に、俺は溜め込んだ魔力を放り投げる様に『製粉』の魔法を像に叩きつける。


龍神像は、水風船が破裂したかのように飛び散り、メタリックブルーの水銀みたいな液状となって地面に広がった。


しかも、気付くと俺の吐く息が真っ白になっている。


「寒い!ソード、アンタは一体何をやったんだい?」


ヘルガの声を聞いて周囲を見回してみると、龍神像の残骸である液体金属の池を中心にして冷気が漂っており、広範囲に霜が降りていた。


俺たちの鎧や兜の表面も、朝露に濡れたかのように水滴が滴っている。


どうやら、標的が砕け散った際に冷気を周囲にバラ撒いたらしい。


「ソードの魔法は、ホントに傍迷惑なのが多いよな!」


「それは、レナートにだけは言われたくないセリフだ!」


レナートが大げさに呆れたといった感じのジェスチャーをしながら笑っているので、俺は反論してみたが、自分でも少しだけそう感じたことに腹がたった。


「これはどうするんだい?」


「何だ、これ?」「なっ?!」


ヘルガがロンコーネで指しながら尋ねた途端、メタリックブルーの液体金属が剣山のような状態に変化した。


ヘルガがロンコーネを引っ込めると元の水溜りの様な状態に戻る。


この大陸では一般的に、家紋などのユニークな形をした強力な磁石を槍の穂先の根本に取り付けることで、誰の物なのかを識別できる様にしているのだが、液体金属はロンコーネの穂先に飾ってある磁石に反応して引き寄せられている。


「これは、どうやら磁性流体のようだな。」


「液体磁石って事かい?」


「多分な。」


俺とヘルガが会話している横では、ヴェラが自分の両鎌槍を液体金属に近づけたり遠ざけたりして遊んでいるのをヴィクトルが諌めている。


「面白ーい。ヴィクトル、見て見て!トゲトゲになったり動いたりするよ!」


「ヴェラ、近づけ過ぎです。引っ付いたら引き剥がせませんよ。」


「大丈夫大丈夫!分かってるって!」


15歳で成人となるこの世界だが、やはり歳相応にこういった子供っぽいところは残っているみたいだ。


「それで、これはどうするんだい?」


「穴を掘って周囲を焼き固めて、石棺みたいなのを作ろうか。そこに入れてギルドへ持っていけば良いだろう?」


ヘルガが改めて尋ねてきたが、面倒になった俺はそう答えた。


「そうだね。じゃあ、見せ場のなかったレナートにもショーを披露して貰おうじゃないか!」


「え?俺がやるのか?

良し、任せとけ!」


ヘルガに突然話しを振られたレナートは、既に帰る気でいたみたいなので一瞬驚いたようだが、直ぐ様作業に取り掛かった。


戦闘時はクールだが平常時は面白い奴であるとの評判通りにレナートは、コンサートの指揮者のようなパフォーマンスをしている。


レナートは、『泥沼』の魔法で地面を液状化し、『氷湖』の魔法で穴を石棺状に成形して、『炭化』の魔法で焼き固めるという作業をあっという間に終わらせた。


「仕上げは任せる。」


そう声を掛けてきたレナートの足元には、陶器で作られた棺桶が埋まっている墓穴が掘ってあり、その横には陶器製のフタが置いてある様に見える。


「ヴェラ。その墓穴まで龍神像の死体をエスコートしてやりな!」


「はーい。」


ヘルガの指示を聞いたヴェラは先程までの遊びの延長として、両鎌槍を近づけながらメタリックブルーの液体金属を深さ10フィートくらいの墓穴へと上手に誘導していく。


細かく飛散したモノは分からないが、目に見える範囲内の液体金属を全て石棺に落とし入れる事が出来たので、フタをしてからヘルガが『収納』の魔法で格納する。


「さて、帰るか。」


「そうだね。くたびれ損だったけど、龍神像を始末出来たから良しとするさね。」


皆に声をかけたレナートに、ヘルガがそう答えた。


「ねえねえ、ヘルガ!

生贄の像は半径1マイルくらいまでの範囲しか影響がないって教えて貰った記憶があるんだけど、残骸を街へ持って行っても大丈夫なのかな?

発見した私達は仕方ないけど、他のヒトに影響があったら嫌だな。」


「そう言えば、そうですね。この状態になっても機能を停止していない場合、ここで発動したなら街への影響はありませんけど、街中やギルド周辺で発動したら深刻な影響がありますね。」


ヴェラが俺の知らない知識を披露してヘルガに質問し、ヴィクトルも追従する。


「影響範囲が半径1マイルくらいまでってのは何処で聞いたんだい?」


一族クランの学び舎だよ。」「僕も一緒に教わりました。」


ヘルガもこの情報は知らなかった様で、逆にヴェラやヴィクトルに尋ね返していた。


「レナートはこの事を知っていたか?」


「いや、初耳だ!」


俺がレナートに確認してみたがやはり知らないらしい。


「ヴィクトル、それは誰が言っていたんだい?」


「アルベリク博士です。」


「ヘルガ、そいつはどういう奴なんだ?」


「ヒルダの祖父で私の幼馴染だよ。有名な考古学の研究者でもあるから、彼が言ったんなら間違いはないだろうね。」


レナートの問いかけにヘルガが断言するように答えた。


「じゃあ、石棺はここに埋めておこう。どうせギルドに事情聴取されるんだから、その際に説明すれば良いだろ?」


「そうだな。」


俺の提案をレナートが了承し、ヘルガが『収納』の魔法で格納しておいた石棺を取り出し、先ほどまで埋まっていた墓穴に戻す。


「下手したら今日中にもう一度ここへ来る羽目になるかもしれないね。」


「それは面倒だな。俺はここから地上へ転移する事は出来るが、地下へは転移では来れないからな。」


ギルドと辺境伯の判断次第では今日中に調査が開始される場合もありえるのでヘルガの懸念も理解出来る。


それに、俺の『転移』の魔法は目的地の座標設定に天体と視地平との間の角度を用いるため、太陽や星座の見えない場所へは転移できない。


「簡易転移門を置いていくか、天井をぶち抜いて地上に一旦出た方が良いかもしれないな。」


「ギルドは位置関係を知りたがるだろうから縦穴を開けようじゃないか。それが難しい場合は転移門を置いていこうかね。」


レナートが代替え案を出したので、ヘルガが選択した。


「了解だ。一番手っ取り早いのは『泥沼』の魔法を使って地上まで穴を穿つ事か。」


「問題は岩盤が存在した場合だな。」


俺がトンネルを指差しながら手順を確認すると、レナートが問題点を指摘した。


「それなら何とかなるぞ。俺は『爆破』の魔法も使えるからな。」


「ホントに、狩猟では役に立たない『秘伝』ばかり購入してるね。」


俺が対策方法を提示したのに、またしてもヘルガから批判されたし、ヴィクトルとヴェラが呆れた顔をしている。


「うるせえな!さっさと終わらせるぞ!」


「はいはい、じゃあ今度はヘルガに任せるよ。」


「あいよ。」


 やる事自体は簡単である。


トンネルの天井に向かってヘルガが『泥沼』の魔法を放つと、溶岩になっている訳ではないが融解した泥が流れ落ちてくる。


魔法が届かなくなって来たら、両手を横に広げたときと同じくらいの直径になっている縦穴の中を、ヘルガは手足を突っ張って登り、また『泥沼』の魔法を放つ。


その際には『氷湖』の魔法で自分の身体に障壁を張っておかないと泥まみれになる。


岩盤に突き当たったら、俺が『飛翔』の魔法で縦穴を上昇して『爆破』の魔法で爆切する。


岩盤を突破したら、ヘルガはまた『泥沼』の魔法を放つ。



 数時間ほど要したが、全員が土埃まみれになりながら、無事に地上に出ることが出来た。


ここなら座標は分かるので、転移で行き来する事が可能である。


「ヘルガ、直接俺の船に帰るか?」


「悪いがそうしてくれるかい?流石に疲れたよ。」


俺の提案をヘルガが即座に受け入れた。


想定していたよりも遥かに深い場所だったので、魔力の使い過ぎで珍しくヘルガが疲労困憊しているらしい。


ヘルガとヴィクトルとヴェラの3人だけを、俺の『倉庫』の魔法の中に格納してある大陸間輸送船上の自宅に転移させる


「あれ?俺は?」


「次はお前がギルドでショーを披露する番だろ?」


すっかり帰宅する気でいたレナートが間抜けな声で質問してきたので、俺は彼の肩に手を置きながらそう声を掛けると同時に『転移』の魔法を発動してギルドの中庭へ移動した。


これからギルド職員に状況の説明をしなければならない。


「え?俺がやるのか?」


「任せたぞ!」


 結局、俺たちはこのあと数時間に及ぶ事情聴取を受けたものの、ギルドの実地調査は翌日の早朝から行う事になった。


龍神像を破壊済みである事が決定打になり、深夜のジャングルを行軍しなければならないほどの危急ではないと判断されたらしい。


日付が変わる前に帰宅出来たが、既にヒルダ達は眠っていたので、俺はレナートと軽く酒と肴を食ってから眠る事にした。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴェラ……ヘレナの父方の又従姉妹。ランク3ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。


ヴィクトル……ヘルミーネの母方の又従姉弟。ランク3ハンター。



【基本魔法紹介】

『突撃』……カノン砲での砲撃の着弾を再現したもの。対象を吹き飛ばす。威力は個人の力量に比例し、火の玉を投擲後に対象との接触で無音発動するが、手元を離れると10秒程で霧散する。


『泥沼』……底なし沼を再現したもの。対象は地面や床に限らず、指定位置周辺を融解する。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『氷湖』……物体が湖の氷に閉じ込められている光景を再現したもの。対象を凍らせる訳ではなく、指定位置周辺の動きを止める。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『強化』……亜人の頑丈さとパワーやスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではない。


『光球』……太陽の明るさだけを再現したもの。光だけで熱はなく、手元を離れると10秒程で霧散する。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。



【秘伝魔法紹介】

『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。


『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。


『爆破』……建物解体用の時限爆弾を再現したもの。モンロー効果により穿孔を穿つ事や爆切が可能。 威力は個人の力量に比例し、任意の方向や時間で発動出来るが、手元を離れると10秒程で霧散する。


『浮遊』……羽根が空中を舞う様子を再現したもの。高所から落ちた時に落下速度を抑える。減速出来る質量や速度は個人の力量に比例し、接触が無くなると10秒程で霧散する。


『楽器』……様々な種類の楽器の音を再現するもので、人間楽器では出せないような周波数や振動数で音色を変化させる。秘伝と裏ワザにより実質的には超音波振動攻撃が可能。裏技は接触している対象にしか発動出来ない。



『製粉』……製粉機が小麦を粉砕する様子を再現したもの。『凍結』を応用した極低温で物質を脆くしてから『衝撃』を応用した高速振動で壊して粉砕する。粉砕出来る質量は個人の力量に比例し、接触している対象に発動する。


『気化』……水の蒸発を再現したもの。対象は液体に限らず、指定位置周辺の物質を昇華する。

距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『天秤』……天秤にかける重しを再現したもの。目的物と同体積の空間に基準物の重さを与える事で、天秤にかける重しを擬似的に作り出す。秘伝と裏ワザにより実質的には重力攻撃が可能。威力は個人の力量に比例し、接触している対象に発動する。


『飛翔』……グリフォンの飛翔を再現したもの。実際には空中に浮遊している訳ではなく、『落下』の魔法と似た様なモノで目標座標に向かって自身が落下しているだけである。



【その他】

シルヴェストル辺境伯領……主人公が転居してきた街。アロイジウス王国の最北端に存在する。


アロイジウス王国……アドルファ王国と深淵の森を挟んで真南に500マイルほど離れた所に在る隣国。


シグブリット辺境伯領……主人公が住んでいた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。


アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。


ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。


アドルファ王国……ジルヴェスター辺境伯領が所属する国。碧翠大陸の中央辺りに存在する。

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