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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第4章
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第63話

■2015/09/05 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第63話




 甲殻ムシ駆除作戦が終了してから約1か月半後、俺たちはシルヴェストル辺境伯領へ転居してきた。


ここは、アドルファ王国と深淵の森を挟んで真南に500マイルほど離れた所に在る隣国、アロイジウス王国の最北端に位置する街で、カールの新たな赴任地である。


俺は以前と同様にマンスリーアパートを3ヶ月間契約で借りたが、別にここに住む訳ではなく、税金などの関係から居住地を明確にしておく必要性があっただけである。


とは言え、非常時のために簡易転移門を設置したりするので、利便性と安全性を重視してハンターギルドや衛兵の詰所に近い場所を選んだ。


だが、複数の候補地の中から最終的に絞り込む事になったのは、俺の予想外の条件だった。


 シルヴェストル辺境伯領は、トカゲ肉が美味い国として有名らしい。


トカゲ肉は地球でも食った事があるが、鶏肉よりも弾力があり味が濃厚で、闘鶏肉に良く似た食感と味だった。


ここで取れるのは大トビトカゲで、全長約12フィート、翼が前進翼みたいな形状に大型化した正しくドラゴンといった姿形の生物らしい。


大トビトカゲは昆虫類を主食としているが、雑食なので木の実も食べるし、飢餓状態になると動物や人間も襲って捕食する事がある。


この辺りの土地だけで群生している大トビトカゲは、寿命が短い代わりに急速に成長するそうだが、その餌となる昆虫類や節足動物なども、甲殻ムシを見慣れた今となっては正しく虫らしい姿形をしているそうだ。



 シグブリット辺境伯領は、結局一時閉鎖となってしまった。


蟲神の使徒である巨人型生物や甲殻ムシどもが暴れまわった事よりも、それを駆除するために神が遣わした浄化の炎である火の玉が爆発した事が原因の1つではある。


城壁都市内は、倒壊している建物が4割以上を占めており、その他にも取り壊す必要がある建物が2割近くに登り、補修の必要のない状態の建物はたったの2割ほどしか残っていなかった。


城壁都市の外側もジルヴェスター辺境伯領の時とは異なり、深淵の森だけでなく、シグブリット辺境伯領の生命線でもある周囲の森林地帯が、城壁都市を中心にして凡そ7マイル奥まで浄化の炎によって燃え盛っている。


浄化の炎が無駄な事をするハズがないので、刈り残したムシどもが新たな巣を作っていたのか、ランク7ハンターのミスター・ジョンドゥーが新たな嫌がらせ材料として更にムシなどを持ち込んでいたのかもしれない。


 ミスター・ジョンドゥーが死亡した翌朝、未だ森林地帯が炎を上げているせいで異常に暑い中、俺たちハンターはギルドから現在の状況と今後の予定について説明を受けた。


それによると、辛うじて4割近くの家屋が居住可能なので、ジルヴェスター辺境伯領みたいに周囲の自然が回復するまでの限定期間だけ他の街への避難を行い、一時的に規模を縮小する予定であった。


だが、翌日の日没頃に大雨が降り始めると共に、龍神の像を祀った祭壇が存在するという情報が市民の中へ一気に広がっていった。


これが決定打となり、真夜中しかも土砂降りの中なのに、在留予定だった市民までもが我先にと大慌てで他の街へと転出する準備を始める事態となってしまった。


それまでは、住む場所がなくなった市民だけが粛々と他の街へ移動する準備を行っていたのだが、避難民の群れといった感じで大量のヒトが道路に溢れている。


 一晩中大雨が振ったお陰で空気中を漂っていた粉塵も綺麗に洗い流され、翌々日には雲ひとつ無い晴天に恵まれた。


俺の借りているマンスリーアパートの屋上から、俺たちはそんな十数万人ものヒトの行列を眺めている。


このアパートも補修は必要だが未だ十分に居住可能なのにも関わらず、俺とヘレナを除き、住民どころかオーナーまでもが既にこの街には居ない。


ヒルダを太陽の元で遊ばせるのには丁度良い場所なので、今はここでBBQをしながら談笑している。


「なあ、ヴィクトリア。今回の件でシグブリット辺境伯の評判は地に落ちるよな?

それに、このままだと兵士とその家族しか居なくなるが、そうなった場合にこの街はどうなるんだ?」


「外国人であるソードには分かり難いかもしれませんが、この国でのシグブリット辺境伯の評価は高いと思いますよ。2柱の僭神に関わって滅亡しなかったどころか、一般市民から犠牲者をださなかったのは奇跡といえますからね。

 市民が殆ど居なくなってしまうので、街は一時的に閉鎖に成るかもしれません。

しかし、恐らく数日以内には王都から専門家が派遣されてきて、龍神の像を撤去したり、植樹などを行って森林地帯の復興を行うハズです。十数年もすればこの街も元通りに復興出来ると思いますよ。」


「最新の情報だと、国王がシグブリット辺境伯領の復興を約束したそうだよ。」


「カール、それはホントか?」


「うん。つい先程、辺境伯からハンターギルドにも復興支援の要請があったんだ。」


「そうか。そういえば、ヴィクトリア。僭神に関わったら滅亡するのか?」


僭神とは、知的生命体が力を得て神のごとく振舞うようになったモノを指す呼称だが、基本的に人類が勝手にそう呼んでいるだけであり、そいつは別に自分が神様だと名乗っている訳ではない。


僭神にとって人類とは、恐らく人類にとってのノミやダニくらいの存在でしか無いハズである。


「使徒が出てきたら、少なくとも一般市民の大半が死傷するのが普通ですね。

アドルファ王国の南西の隣国でも、2年前に八ツ首の蛇神を崇拝する狂信者のせいで使徒が出現したため、深淵の森に隣接する都市が壊滅状態になり、9割以上の市民が死傷しました。」


「それに、来月から僕が赴任するアロイジウス王国の北東の隣国も、十数年前に僭神に関わったせいで1国丸ごと焦土と化して滅亡しているんだよ。」


「カール。それも浄化の炎で燃やされたのか?」


「どうやら違うみたいだけど、詳しいことは分からないんだ。何せ約2百万人もの人口が居たはずなのに、1人も生存者が居ないからね。」


「マジかよ。転移は出来なかったのか?」


「浄化の炎で燃やされているなら使用出来るハズだけど、その国が炎上している時は転移門も『転移』の魔法も一切使用出来なかったみたいだよ。」


「そういった訳で、碧翠大陸のど真ん中に位置している深淵の森は現在、アドルファ王国、アンブロシウス王国、アロイジウス王国など5ヶ国に囲まれていますけど、数十年前までは7ヶ国に囲まれていました。」


「そう言われると確かに、市民に犠牲者が出なかったのは奇跡なのかもしれないな。」


「僭神対策専門の研究者たちによると、今回の件に僭神自体は関わっていない事が、市民が生き残れた最大の原因だそうです。

それでも、使徒が完全に神の道具として機能していれば、半数程度の市民に被害は出ていた可能性が高いみたいです。

ミスター・ジョンドゥーが何らかの手段で使徒を操ろうとした事と、研究者が生体兵器で使徒を操ろうとした事で、命令系統が混在したために使徒が誤作動を起こしたのが功を奏したのではないか、と言っていました。」


「ヴィクトリア。その専門家たちは大丈夫なのか?」


怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。というニーチェの名言は正しいと俺は思っている。


外人部隊時代に俺が戦ってきた左翼ゲリラの大半も、最初は左翼ゲリラから国民を救うために立ち上がった救国の英雄たちだった。


それがいつの間にか敵と同じ存在に成り果てているのが現実である。


「ミイラ取りがミイラになる、という意味でしたら勿論危険です。

しかし、研究しなければ対策も見つけられませんし、今のところは見張りが付いていますので大丈夫だと思います。」


「そうか。それにしても龍神の像をどうやって撤去するつもりなんだ?魔法は撥じかれるし、ハルバートを叩き込んでも傷ひとつ付けられない様なシロモノだぞ。」


「そのための専門家だと思います。それに幾ら硬くとも極小単位で削る事は可能なハズです。」


「水晶を手で擦り続けて整形するみたいな方法か?ご苦労なことだな。」


「もしかすると、床材ごと龍神の像を抉り出すかもしれないね。」


「そうだな。あの遺跡が壊れても構わないならありうるな。」


森林地帯が回復するまで十数年ほど要するらしいので一般市民は殆ど居なくなるが、その間も駐留軍と諸行軍、それとその家族は残って復興作業に勤しむ事になっている。



 ハンターギルドを始め各種ギルドも駐在員を残して、この街の支部を今月末で縮小もしくは一旦閉鎖する事になった。


ヴィクトリアはジルヴェスター辺境伯領から、シグブリット辺境伯領に異動してきて6ヶ月も経たぬ内にまたしても異動する事になる。


とは言え、元々今月末で彼女も2年間の産休に入る予定だったので、実質上関係ない。


カールを含めた複数のギルド職員が他の国へ異動する事になったのだが、ヘルミーネがカールに付いて行くと言い出した。


この大陸では基本的に同じ国内なら誰にでも移動の自由は認められているし、ランク4以上のハンターなら他国へも自由に移住できる。


しかし、ヘルミーネは未だランク3ハンターなので、本来なら単独では他国への自由な移動は出来ないし、正当な理由がなければ許可も下りない。


但し、ランク5以上のユニットリーダーに同行する場合や、妊婦が番いの転勤に動向する場合、そして未成年者が親について行く場合は正当な理由として許されている。


ヘルミーネが転居する以上は実の娘であるヒルダもついていく事になるので、予想通りヘレナとヘルガが付いていくと言い出した。


ヘレナを心配してヴィクトリアもついて行くし、ヘルガの教え子たちも当然ついて行くので、結局は俺とヘレナ、ヴィクトリアとレナート、ヘルミーネとヒルダ、ヘルガとヴィクトルとヴェラの9名がカールの転勤に付いていく事になった。


 ハンターギルドは先ず、ギルドビルの残骸の中から書類や資料などを出来る限りサルベージしてから王都のギルドへ移動させ、その後にギルド職員たちが異動する事になっている。


カールの異動予定日までの3週間ほど、俺は2つの事をして忙しい日々を過ごす事になった。


1つ目は、ガキの頃から修行してきた武術をレベルアップ時にも安定して使えるようにするため、体術系の『秘伝』を2つ購入して修得に勤しんだ。


これらの『秘伝』を何とか武術に応用するいとぐちを見つける事は出来たが、他の一族が数百年をかけて研鑽してきた秘伝を2つも応用するのだから、簡単に出来そうに見えても当然ながら数多の試行錯誤が必要となる。


例えるなら、パイプオルガンの欠損を修復するのに、電子ピアノとシンセサイザーの電子部品を使う様なモノなので、直ぐに出来る様になるなどととは考えていない。


それに、そもそも全く同じことを行ったとしてもコツを知っているか否かだけで、同じ成果が出ない場合だって存在する。


例えば一卵性双生児が同じ腹筋運動を行ったとしても、腹筋が割れる者と、腹筋が割れない者に別れる場合がある。


これは、腹筋を綺麗に割りたい者は腹を常に凹ませながら腹筋運動をする必要があるのに対して、腹筋を只管頑丈にしたい者は逆に凹ませずに腹筋運動をする必要があるのだが一概に何方が優れている訳ではないし、武術の秘伝もこういった事の積み重ねでしかない。


 また、武術への『秘伝』の応用を円滑に進めるために、今後は城壁を登るための鉤爪の形状がハルバートと異なるヴォウジェをメインウェポンとして使う事にする。


最近は使い捨てにする事が多かったので比較的安価なハルバートをメインウェポンとして使用してきたが、その前までは円形状の鍔の存在を気に入ってポール・アックスを使用していた。


しかし、穂先の重心の問題でポール・アックスや普通のハルバートは、俺の修めた槍術としては使い難い。


刀槍での斬撃において最も重要なのは、「切っ先の速さ」と「正確さ」である。


銃撃時に豆粒程度の重さしか無い弾丸が人間の頭蓋骨を砕く事が出来るのは、高速で打ち込まれるからであるが、斬撃の威力も同様である。


棒切れで殴りつける訳ではないので、斬撃は正確に刃筋が立っている必要があるし、動かない案山子を斬る訳ではないから、動いている標的に正確に命中させなければならない。


そういった意味だと俺にとってはショヴスリが最も使い易いのだが、この大陸ではハルバート系統や槍鎌系統ではない武器は非常に高価な上に入手が難しいので、ハルバート系統の中では比較的使い易いヴォウジェを選んだ。


薙鎌術としてはロンコーネや両鎌槍や片鎌槍でも良いのだが、俺にとっては槍術や薙刀術に比べると戦い易い訳でもないし、この大陸では薙鎌術を使うのは女性陣が主流だとレナートからそれとなく指摘された事もあって薙鎌術は封印する事になった。


 2つ目は、浄化の炎で焼き払われた森林地帯の土を表層1インチほど掻っ払ってきて、『倉庫』の魔法の中に毎日格納していった。


俺の『倉庫』の魔法は1マイル四方の空間だが、未だ大陸間輸送船しか存在しないので、先ずは浄化された腐葉土を床一面に敷き詰めてから、樹木や草花などを移殖する予定である。


たった1インチほどの厚さの土であっても、焼き払われた森林地帯は700平方マイル以上の広大な面積なので、最終的に『倉庫』の魔法の中を3フィート程度の厚さの腐葉土を敷き詰めた所で諦めた。


 腐葉土を格納している時に、ついでに『倉庫』の魔法を検証していて、新たに判明した謎仕様もあった。


この『倉庫』の魔法は、人間だろうが大陸間輸送船だろうが1個としてカウントされるが、装着している鎧兜や武器は人間の付属品と見做されるのに、ポンチョなどは羽織りかたによって別カウントされる場合があるし、2人の人間を紐で固定しても必ず2個とカウントされる、という事は分かっていた。


だが、大地や河川などを格納しようとした場合、デフォルトだと『倉庫』の魔法で作った空間一杯の容量で1個とカウントするのに、詳細に範囲指定すれば何故か一部だけを削り取る事が可能になる。


空間切断攻撃の様にこれを用いる事が出来るのではないかと思ったが、『倉庫』の魔法は発動から実行まで十秒間ほど要する上に、この範囲指定する際には別途更に数秒間ほど時間が掛かるので、実験した際の危険生物には尽く逃げられてしまった。


そこで俺は、巨大な生物が相手なら当てるくらい出来るかもと一瞬考ええた。


しかし、この世界の生物はアジア像くらいの大きさを境目にして動く速さが劇的に変わるので、これより小さい場合は地球の生物と大差ないスピードだが、これより大きい場合は巨大化するほど高速化して行く。


特に全長約300フィートを超える怪物などは音速以上でスタートダッシュする事すら可能らしく、相手が大きくなるほど攻撃は当たり難くなるので、空間切断攻撃は結局封印する事になった。



 カールの準備が整った翌日、俺とカールだけで転移門を潜って、シルヴェストル辺境伯領へ移動して行くことになった。


アンブロシウス王国からアロイジウス王国まで馬車や騎馬で行くとなると3ヶ月間以上を要するし、妊婦がオリジナルの転移門を使用すると堕胎や奇形児が生まれる危険性が高くなるらしいので、他の者たちは俺の『倉庫』の魔法に入った状態のままである。



 転居の翌朝、シルヴェストル辺境伯領のハンターギルドでホームタウンの変更手続きを終えると早速、俺とレナートは大トビトカゲを狩りに出かけた。


大トビトカゲの群生地近くで、ヴィクトルとヴェラを連れて歩いてるヘルガに出食わしたが、どうやら同じ考えだったらしい。


5人で一緒に十数分間ほど暫く進むと、下等竜などよりも余程ドラゴンらしいシルエットをした全長約12フィートほどの大トビトカゲが、全長5フィートもある大クモや、体長約8インチほどの大アリの群れを食している光景が眼に入ってきた。


本物のドラゴンのくせに下等竜が飛ぶ姿など見たことがないし、辛うじてワイバーンが飛ぶところを1度だけ見た事がる程度なので、そこら中を飛び回っている大トビトカゲの方が余計にドラゴンらしく見えてしまう。


「おぉ!凄いな、これは。」


「これだけ居れば楽勝だな。」


俺が『探査』の魔法で周囲を見回しながら感嘆の声を上げている横で、レナートが『収納』の魔法に格納していた通常サイズのボーラを取り出し、『強化』の魔法を発動して振り回し始めた。


「分かってるだろうけど、大トビトカゲは乱獲禁止だからね。」


「ヘルガ。それは何故ですか?目の前だけでも数千匹以上はいますよ。」


これだけ繁殖していれば、ある程度まとめて駆除するのが普通なので、ヴィクトルがヘルガに尋ねる気持ちは俺にも分かる。


「ここの大トビトカゲは、元々大量のムシを駆除するために、他の地域から人間が持ってきた外来種だからね。養殖に近いから簡単に全滅しちまうのさ。」


「ヘルガ。もしも大トビトカゲを全滅させたらどうなるんですか?」


「過去に何度か全滅させちまった事があるらしいけど、その度にムシが城壁都市を覆い尽くしたみたいだよ。」


「ヘルガ。では逆に大トビトカゲを全く間引きしなかったらどうなるんですか?」


「それも1度あったみたいだけど、餌となるムシや木の実が無くなり過ぎて、数万匹の大トビトカゲが城壁都市を囲って人間を襲ったそうだよ。結局は殆どが餓死したみたいだけどね。」


「養殖みたいなモノは、やはり間引きが必要なんだね。」


ヘルガの言葉にヴェラが素直に納得している。


「そうさね。大トビトカゲが多い時には大トビトカゲを狩っていいけど、ムシが多い時にはムシを狩って調整を図る必要があるんだよ。」


「調整が必要なのは分かったけど、何方の方が多いのか判らない時はどうすれば良いのかな?」


「そんな時には、両方狩っちまえば良いのさ。」


「え?それで良いの?」


「なるほど、分かりました。ヘルガ。」


ヘルガの落ちにヴェラが納得出来ないといった顔をしているのは、いつもの事である。


ヴィクトルやヴェラに教えているヘルガの教育方針が気になったのか、レナートがボーラを振り回しながら尋ねてきた。


「なぁ、ソード。あれは放っといて良いのか?」


「レナート。反面教師って言うだろ?戒めとなる失敗の前例は遠くに求めずとも身近にあるって事さ。」


「ヘルガの言葉に疑問を抱いているヴェラはそれで良いけど、ヴィクトルは完全に納得しているぞ。」


「ヴィクトルは、押して駄目な時は体当りしてみろ、というヘルガのファミリーだからな。

三つ子の魂百までって言うだろ?子供は親の言葉を聞いて育つのではなく、親の真似をして育つものだ。

ヴェラを見れば分かる通り、慣れ親しんだ理屈と違うことを大人になってから突然言われた所で納得する事はない。」


「同じ事を見て、同じ事を聞いて、同じ事を話しているつもりでも同じ様に受け取らない相手もいる、という事か。

確かにな、ヒトは幼少期を過ごした生活環境によって精神性が全く異なるからな。」


「そうだ。それにヘルガはあの考え方で、全世界に約百人ほどしか存在しないランク6ハンターに到達している以上は、あながち間違っているとも言い切れんしな。」


「なるほどな。お前が関わりたくないと思っていることは良く分かった。」


「そういう事だ。他人の教育方針に深入りすると却ってお互いの精神が乱れる事になるからな。全否定するか全肯定するのでなければ、口出しなどしない方が良いってことさ。」


俺とレナートはヘルガたちの存在を忘れて、大トビトカゲや大クモを狩ることに専念する事にした。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴェラ……ヘレナの父方の又従姉妹。ランク3ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。


ヴィクトル……ヘルミーネの母方の又従姉弟。ランク3ハンター。



【基本魔法紹介】

『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『強化』……亜人の頑丈さとパワーやスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではない。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。



【秘伝魔法紹介】

『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。


『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。



【その他】

シルヴェストル辺境伯領……主人公が転居してきた街。アロイジウス王国の最北端に存在する。


アロイジウス王国……アドルファ王国と深淵の森を挟んで真南に500マイルほど離れた所に在る隣国。


シグブリット辺境伯領……主人公が住んでいた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。


アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。


ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。


アドルファ王国……ジルヴェスター辺境伯領が所属する国。碧翠大陸の中央辺りに存在する。


碧翠大陸……アドルファ王国が存在している大陸。


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