表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
62/78

第62話

■2015/08/30 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第62話




 ギルドビル前に居たランク5以上のハンターたちは重装騎兵隊の置いて行った騎馬に跨がって、3匹の巨人がど突き合いをしている場所へ向かった。


「あれだけのボーラが巻き付いていたのに一体どうやっ、?!」


レナートのセリフの途中で轟音が響き渡った。


砲兵が戦線後方から支援射撃したかのような砲撃が、3匹の巨人周辺に数十発ほど降ってきている。


天地がひっくり返ったような爆音が断続的に轟き、肌を焼くような熱風が瓦礫や粉塵を伴って吹き荒れる。


「迫撃砲だ!止まれ!!」


「なんじゃこりゃあ?!」


「これも神の浄化の炎なのか?」


 砲撃に巻き込まれないように馬首をめぐらしながら、上空を見上げると放物線を描いて飛んでくる砲弾の軌跡など何処にも無く、高高度から垂直降下しながら30mm機関砲を掃射している攻撃機の曳光弾みたいに、雲を突き抜けて火の玉が高速で幾つも降ってくるのが見えた。


「火山弾か?いや、ここにしか降ってないって事は、まさか流星雨か?」


周囲を見回してみても火の玉は巨人どもの周辺にしか降って来てはいないが、巨人どもが動き回るせいで、爆撃にあっているかの様に街中のそこら中で粉塵が舞い上がっている。


巨人どもの周辺の地面は抉れて多数の穴が開いているし、多少離れた場所にある住宅も爆風によって半壊しており、街路樹は圧し折れた上に熱風によって燃え出しているものまである。


「見ろ!巨人の腕が千切れてるぞ!」


 そんな声が聞こえてきたので『探査』の魔法を望遠モードにして、青色の巨人の腕の断面付近を見てみると爆切した様な傷になっている事が分かった。


流石は神の御業だけのことはあり、火の玉は青色の巨人が張り巡らしている偏向シールドを貫通しているし、威力やスピードが減衰していない。


「巨人の足を止めろ!この砲撃で仕留められるぞ!」


レナートの掛け声を合図にして、ハンターたちが巨人に向かって爆撃の中を突っ込んでいった。


巨人には物理攻撃の威力を減衰する固有領域フィールドが存在する上に、100ポンドもの重量がある金属製のボーラを投擲するので、俺やヘルガでも12フィート以内、ランク5ハンターたちなら10フィート以内に近寄らないと巨人に命中させられない。


巨人とすれ違い様に投げつけようとするが、支援要請した座標が間違っていた砲撃を浴びているかのような状況なので、舞い上がる粉塵によってロクに前が見えず、突撃時もしくは離脱時に瓦礫に脚をとられて馬がひっくり返ってしまう者が続出する。


但し、ありがたい事に火の玉が人間に直撃しても、真夏の香港でクーラーの室外機の排気を浴びた程度の不快な熱風としか感じない。


しかし、馬や建物は容赦なく爆破されているので、その破片が直撃しただけでも人間は大怪我を負うことになる。


一般市民が既に地下遺跡を利用した避難所へ退避済みなのがせめてもの救いで、こんな状況で避難誘導していたら大半が死傷していたはずだ。


 常時発動させていた『探査』の魔法の聴覚モードによって、レーダーの様に周囲の動体を感知した限りでは、俺を中心として直径1マイルの範囲内に動いているムシがいなくなった。


その途端に、今まで闇雲に走り回っていた巨人どもが立ち止まり、またしてもど突き合いを始めた。


どうやら、巨人どもは火の玉で負った怪我を治すために手近のムシを食おうとして追いかけまわして様である。


当然、格好の的でしか無いので、火の玉が大口径弾を撃ち込んだかのように巨人の身体に大穴を開けていく。


 巨人の身体がバラバラになった頃、一際大きな火の玉がゆっくりと降ってくるのが見えた。


「総員退避!街の外へ逃げろ!!」


誰かが大声で退却の指示を出したのと同時に、撤退の合図である3発の『光球』の魔法が打ち上がった。


大怪我を負っていたハンターなど一部の者は簡易転移門を取り出して起動準備を行っている。恐らく他の街に用意してあるセーフハウスに転移するつもりだろう。


俺たちも他の兵士やハンターと一緒に、粉塵でろくに視界の無い中を最寄りの城門があると思っている方向へ向かって整然と騎馬で駆けて行く。


最悪逃げるだけなら『転移』の魔法で何とかなるので、喚き立てて狼狽する様な恥ずかしい姿を周囲に見せる事は出来ない。


 俺たちが城門へ辿り着く前に、火の玉は巨人の肉片が散らばっていた辺りで爆発し、盛大にキノコ雲を上げながら炎上している。


やはり今回も爆風で吹き飛ばされはしたが、火に直接巻かれる人間は居なかった。


とは言え、全力で石礫を投げつけられたかのように建物などの破片が高速で飛んでくるし、燃え盛っている街路樹なども降ってくる。


この状況で兜をつけていないハンターたちが何名か、頭部に破片の直撃を受けて吹き飛ばされているのが見えた。



 爆風で舞い上がった瓦礫などが一通り落下したあと、俺たちはドジを踏んだ奴らを回収しながら城門付近へ連れて行く。


すでに城門の外側にはムシ対策の為の野戦陣地が築かれていたので、野戦病院に詰めている治癒魔法使いに彼らを任せた。


『探査』の魔法を使って見渡した限りでは、城門の周囲にムシは1匹も居ない様である。


「総員、速やかに整列しろ!残りのムシどもを始末する。」


駐留軍の下士官が大声を上げながら残存兵力の再編を行っている横を通って、俺たちも再度街中へ向かった。


 巨人と火の玉が盛大にダンスパレードを行ったお陰で、市街地の4割ほどが見通しの良い場所に変わってしまっている。


特に、最期の火の玉が落ちた爆心地から直径100ヤードほどに至っては正しく更地といった感じで、巨人の細胞の欠片も残さない様な徹底したクレーター状態である。


爆心地から直径約2マイル以内の建物も残さず破壊され、薙ぎ倒されている。


その外側も、まるで砂場に作ったお城が中途半端に壊れた様な感じで、瓦礫の廃嘘に変わり果てていた。


しかも、2階部分が消失して1階部分だけが取り残された建物や、逆に1階の1部分だけが崩れて斜めに傾いている建物などが、妙に生々しい爪痕となっている。



分厚い岩盤がなければ恐らく地下遺跡にまで被害が及んでおり、下手をすればこの都市が丸ごと沈下していたかもしれない。


『探査』の魔法を望遠モードにすると未だ数十匹のムシが街中を動き回っているのが分かった。


「ムシを捕まえるのが一番少なかった奴が酒を奢るってのでどうだ?」


「面白い。その勝負乗ったよ!」


「早い者勝ちだ!」


レナートが賭けを告げるとヘルガがそれに応じ、他のハンターたちも別々の方向へ向かって、瓦礫だらけの場所なのを物ともせずに一斉に馬を全力疾走させた。


俺も賭けに負ける気は無いが、それよりも俺の借りているマンスリーアパートの付近に1匹のムシがうろついている事の方が気になる。


途中のムシを無視してアパートに向かって馬で駆け寄って行くと、1匹のムシが飼い犬みたいに鎖に繋がれているかの様に一箇所に留まっているのが見えてきた。


その周辺に十数名の人間が息を潜めて隠れている気配が伝わってくる。


「逃げ遅れた市民でもいるのか?」


訝しげに思いながらも、俺は馬を降りて街路樹に繋ぐとハルバートを担いでムシを始末するために近寄っていく。


 後で知った事だが、巨人どもが暴れまわった際に死刑囚たちを収監している牢獄が壊れた、というか踏みにじられたらしい。


その際に、研究所での実験体や治癒魔法の治験体として生涯を終える筈だった死刑囚たちが逃亡した。


大半の脱走犯は巨人と火の玉のダンスに巻き込まれて死んだが、一部の死刑囚は要領よく逃げる事が出来た。


研究所での実験体は、研究発表後には実験体処理施設で融解されるか圧潰されるかして一瞬で楽に死ねるので、スタンピードから逃亡した貴族や兵士である事が多い。


逆に治癒魔法の治験体は、一応寿命までは生き残ることが出来るらしいが生きたまま解剖されては治癒されることを死ぬまで繰り返されるので、殺人や人身売買などを犯した重犯罪者が大半を占める。


そして、上手く逃亡した死刑囚たちの中には俺が以前叩きのめした誘拐犯たちがいたらしい。


 俺がムシをハルバートで真っ二つにすると、物陰からぞろぞろと奇妙な風体をした怪我人たちが、礼を述べながら這い出てきた。


「ありがとう、助かったよ。」


「気にするな。俺が勝手にやった事だ。お前らを助けるためじゃない。」


俺はムシの死骸を『収納』の魔法で格納したあと、ハルバートを雑巾で拭いながら、周囲の男どもを観察する。


 こいつらは、頭髪が今どきの暴走族でもやらないような複数色のメッシュになっており、酷いやつだと黒髪、栗毛、金髪、赤毛、白髪の5色メッシュにしている。


更に、こいつらの顔はアンシンメトリーというか、縦に割った2人の人間をくっつけたかのようで、左側が縦長の顔で右側が横長の顔をしているなど顔の輪郭が左右で異なるし、肌の色も継ぎ接ぎだらけのパッチワークみたいに白色、黄色、褐色の肌が混在していた。


最初はマスクでもかぶっているのかと思ったが、表情筋の動きや発汗の様子などからすると、どうやら素顔みたいである。


基本的に俺は、口論したり喧嘩したりするなど一度でも争った事のある人間や標的の顔は絶対に忘れない。


特にここまで異常な容姿の人間であれば、下手をすれば悪夢にすら出てきそうなくらいなので、忘れるとも思えない。


しかし、こいつらに見覚えがある気がしてならない。


 フラフラと足元の覚束ない様子で怪しい男どもの中の1人が俺に近づいてきて、握手でも求めるかのように片手を差し出してきた。


そして、周囲の男ども全員を漠然と見ている内に、一番手前にいるこいつの動作を観察した事があるのを思い出した。



 俺はジルヴェスター辺境伯領のハンターギルドで、ハンター登録した日の事を思い出す。


ギルドからの帰り道に、組織犯罪者に特有の臭いを放つ怪しい男たちが小さめの絨毯を抱えながら緊張した面持ちで俺の横を通り過ぎて行ったのが気になったので尾行してみた。


人通りの少ない道路を二人の護衛たちを連れて歩いてる貴族の女の子に、怪しい男たちが慎重に近付いて行くのが見える。


護衛の一人は、怪しい男が足下に転がした金貨に気を取られた隙を突かれ、違いざまに怪しい男に頭髪を引っ張られて一気に頚椎を圧し折られてしまった。


「お嬢様、私の後ろにさがって下さい!」


もう一人の護衛は、その怪しい男から子供を庇おうとして、背後から忍び寄った別の怪しい男に腎臓をナイフで一突きされたあと頚椎を捻じり折られた。


子供は悲鳴を上げる前に素速くガムテープみたいなモノで口を塞がれた後、薬品を嗅がされて意識を失ってしまう。


怪しい男は気絶した子供を手慣れた様子で絨毯に包むと、担いで連れ去ってしまった。


 俺は、左翼ゲリラによって人間爆弾にされた子供と一緒に戦友がバラバラになる光景を外人部隊時代に何度も目の当たりにしてきたせいで、無意識の内に子供を避けるようになってしまっている。


しかし、別に子供が嫌いになった訳ではない。


それどころか、俺は子供を犯罪に利用する奴の存在自体を許せなくなっているので、この場で誘拐犯どもを皆殺しにしてやろうかと思ったくらいである。


だが、他にも捕まっている子供がいる可能性と、ステータスの称号に殺人とか犯罪者などと表示された際の面倒臭さを考慮して、先ずはアジトまで尾行する事にした。


 怪しい男たちは予め尾行されるのが分かっていたかの様に、バックアップメンバーによる支援を受けながら巧妙に逃走して行く。


しかし、左翼ゲリラとの戦いでこういった奴らの尾行に慣れている俺は、難なく怪しい男たちを尾行し続ける。


数時間後、北門の近くに存在するアジトを突き止める事が出来た。


 見張りが交代して暫くした頃に俺は駆除を開始し、数十人ほどの怪しい男たちを片っ端から奇襲して気絶させた後に顎を外し、肩、肘、手首、膝、足首を素速く捻じり折っていく。


1時間もかからない内に、気配からして残る大人は2名となり、複数の子供が囚われているのも分かった。


「ウルセエ!糞ガキども、泣くんじゃねぇ!」


地下室にある牢屋に近寄って行くと、見張り番らしき男が檻を剣の鞘で殴りながら喚いている姿が見えた。


ここから見る限り、牢屋に入れられているのは、三歳くらいの幼児から十歳くらいまでの十人ほどの子供ばかりである。


喚いている男に一気に駆け寄ると、俺は渾身の力を込めて脇腹に蹴りをぶち込んでやった。


こいつの子供に対する態度にムカついていたとはいえ、足から伝わってくる感触からすると鎧が拉げた筈なので、殺してしまったかもしれない。


俺は今までに左翼ゲリラや麻薬組織の人間を何百人も殺してきたから、コイツが死んだところで何も感じないが、子供の目の前で人殺しを行った事は後悔した。


だが、思った以上に頑丈な鎧だったらしく、俺に蹴り倒された男は声にならない悲鳴を上げながらゴソゴソと動いている。


「何だ、テメエは?!」


もう一人の見張り番がサーベルを突き付けながら誰何してきたが、そんな事をする暇があるなら抜き打ちで俺に切りかかってくるべきであった。


俺は相手の虚をついて一瞬で近寄り、サーベルを持っている腕の関節を極めながら投げを打ち、頭から床に叩きつける。


こいつも、かぶっている戦闘用ヘルメットみたいな兜が想像以上に頑丈だったみたいで死んではいなかった。


俺は呻いている男どもを気絶させた後、他の奴らと同様に顎を外して肩、肘、手首、膝、足首を捻じり折っておく。


「今から檻を開けるから、大きい子は小さい子を連れて逃げるんだぞ、良いな?」


「う、うん。」


俺は檻の前に立つとそう告げ、4人の年長者が頷くのを見てから南京錠みたいな鍵をサーベルで壊す。


しかし、3人の幼児が泣いたまま動こうとしないので、他の子供たちも逃げるに逃げられない様子となっている。


檻の中に入って近付いて行く俺の顔を見た幼児たちが更に大きな声で泣き出したので、俺は仕方なくバラクラバ帽を外した。


俺の素顔を見た幼児たちの泣き声が小さくなる。


自慢じゃないが俺は子供ウケする顔をしているらしく、赤子や幼児から怖がられた事は一度もない。


幼児たちの前に胡座をかいて座った俺は、懐から金平糖の入った紙袋を取り出すと袋の口を開いて幼児たちに差し出した。


これは誘拐犯を尾行している最中に買い物客の振りをして買っただけの小道具だが、意外なところで役に立ったようだ。


「好きな色は何かな?オジさんは青色が好きなんだ。」


そう言って俺は青色の金平糖を一粒頬張ってボリボリとかじる。


「好きな色を食べてごらん?甘いよ。」


更に俺はもう一粒青色の金平糖を口に入れた。


幼児たちが泣くのを忘れて、俺の口と金平糖の入った紙袋を見比べている。


紙袋を更に幼児たちの前に出すと、金平糖を摘もうとして小さな手を恐る恐るゆっくりと伸ばそうとする姿が見えた。


幼児たちが金平糖を口に含むまで、俺は紙袋を持つ腕だけは微妙だにせず、もう片手で金平糖を食べ続ける。


「あまい。」「おいしい〜。」


「そうか。好きなだけ持って行って良いぞ。」


小さな手では数個しか金平糖を掴めないだろうが、それでも幼児たちは両手一杯握り締めるとやっと笑顔を見せてくれた。


幼児たちの頭を撫でて落ち着いたのを確かめてからバラクバ帽をかぶり直すと、残りの金平糖を年長の子供たちに渡す。


「皆んなで仲良く食べるんだぞ。」


「うん。」


「じゃあ、外に置いてある馬車に乗せるけど、御者が出来る子は居るか?」


「僕がやるよ。」


「ここは北門の近くだが、警備兵の詰所は何処か分かるか?」


「城門が見える場所なら大丈夫。」


「そうか、頼むぞ。」


子供たちを抱え上げて馬車に乗せるとお礼を言われた。


「オジさん、ありがとう。」


「気をつけて行くんだぞ。」


「うん。バイバイ。」


 馬車が走り去るのを確かめると、俺は誘拐犯どものアジトへ戻り、金目のモノを漁り始めた。


まるで泥棒みたいだが、この世界では犯罪者の所有物は捕縛した者に所有権が移り、本来の持ち主は買い戻すのが法令となっている。


そうでもしなければ、兵士は危険生物から街を守るので手一杯なので、誰も犯罪者を捕まえようとはしなくなってしまう。


この法令のお陰で賞金首ハンターが成り立っているが、早い者勝ちなので実際には大したお宝は無い事が多いと、図書館の書籍には記載されている。


しかし、ここの地下倉庫には凄まじい量の金銀財宝が山積みとなっていた。


宝石や貴金属に興味はないし、換金率や盗難防止策などの面倒が多いので放置しておく。


武器や防具は欲しいが、大半が金ピカで何かド派手なモノが多いので、比較的地味目の槍や剣などを数点ほど頂いておいた。


ズラーっと掛けられていた変装用だと思われる衣服の中から、サイズや好みの合う新品のモノを数点だけ貰う。


銀貨や銅貨は嵩張るのでこれも放置し、地球でも客船が購入出来そうなくらいの量がある金貨だけは全て懸賞金代わりに頂戴する。


俺が鹵獲品を馬車に積み込んでいる最中、歩哨だった男がミノムシみたいに蠢きながら俺を睨みつけていた。



 こいつはあの時、貴族の子供を絨毯に包んでいた奴じゃねえか!


俺はそれを思い出すと即座に右手に持っていた雑巾を手放し、サーベルを抜刀して怪しい男が目の前に差し出した腕を斬り飛ばした。


サーベルを振って血糊を払っただけで直ぐに納刀し、左手に持っていたハルバートを両手で構える。


俺が斬り飛ばした腕が地面に落ちると同時に「チャリン」という釘が床に落ちた様な音がした。


腕を切り飛ばされた男が喚くのを無視して、音がした方に視線を向けると、見知った武器に良く似た形状のモノが転がっているのが分かった。


 一流の殺し屋は自然死を偽装出来るし、二流の殺し屋でも事故死を偽装出来るので、明らかに殺人事件だと分かる様な殺し方をするのは三流以下の殺し屋か、見せしめのための示威行為だけだそうである。


俺が修めた武術にも幾つか対暗殺者専用の技能が存在するが、これらは俺たちの一族が表舞台から追われる原因となった江戸時代の暗闘で、監察官の刺客どもが使っていたワザへの対策らしい。


例えば、紙よりも薄くて指の影に隠れるくらい小さな刀を用いて心臓付近の血管だけ切断し内出血で死に至らしめるワザがあるが、表皮の傷口が小さ過ぎて検死解剖でもしなければ自然死にしか見えないそうである。


外人部隊時代に殺し屋を偶然撮影したという映像を見せられた事があったが、恐らく似た系統のワザなのに、解説を聞かなかったら目を凝らして視ていても、軽く背中にポンと触れただけとしか思えないほど巧みなモノだった。



そして今、地面に転がっているのも多少形状は異なるが、明らかに同じ系統の武器である。


 誘拐犯風情が正面からランク6ハンターと戦って勝てるはずがないので、ムシを囮に使って一般市民の振りをしながら奇襲したのは、こいつらなりに知恵を絞ったつもりだろう。


確かに、対人戦の経験が全くないヘルガなら騙されて刺されていただろうし、治癒魔法使いもこういった外傷の見当たらない傷は治し難いと言っていたから、有効であったかもしれない。


しかし、こいつら程度の偽装では俺を騙すことは出来なかった。


 それにしても、何でこいつらに俺を突き止める事が出来たんだ?あ、ステータスを読み取れば名前なんか分かるじゃないか。それに下等竜殺しは全世界で10人くらいしかいないと、ヘレナが言ってたしな。そう言えば、歩哨が俺を睨んでいたからあの時に読取っていたのかもしれない。バラクラバ帽なんて無意味だった訳だ。それに、もしかしたら捕まえ損ねたバックアップメンバーでも居たのかもしれないな。


3分間も経たぬ間に物言わぬ躯と化す数十人の男どもを斬り伏せながら、俺はそんな事を考えていた。


「ソード!何やってんだ?」


俺が死体を検分していると、騎馬で近寄ってきたレナートが声を掛けてきた。


「脱走犯どもに襲われてな。悪いが衛兵を呼んできてくれるか?」


「おう、ちょっと待ってろ。」


十数分後にレナートが連れてきた衛兵が脱走犯どもの死体を回収したあと、俺も衛兵に同行して城門の外側にある野戦陣地に戻る。


死刑囚には何らかの仕掛けがしてあるらしく、首実検するまでもなく、金属探知機みたいな輪っかを近づけただけで正体が割れた。


「こいつらは、昨年ジルヴェスター辺境伯領で発見された誘拐犯どもだ。」


「何で、この街にいるんだ?」


俺が尋ねると諸侯軍の審査官が簡単に教えてくれた。


「シグブリット辺境伯領から攫われた子供の人数が一番多かったのと、ジルヴェスター辺境伯領よりも治癒技術が劣っているからこの街のほうが刑罰に向いていると判断されたらしい。」


「なるほどな。俺は何か手続きする必要があるのか?」


「ああ。脱走した重罪犯の捕獲もしくは抹殺は、人数に応じた懸賞金が支払われるんだが、ご覧の通り今は無理だから、この書類だけ記入してくれ。

懸賞金は遅くても今年度末日までには支払われるが、今の段階では何時になるか分からん。」


「了解した。」


律儀に待っていてくれたレナートと合流し、ムシの駆除を再開するために街へ戻ろうとした。


「悪いな、レナート。さて、続きと行くか。」


「何処へ行くんだ?ムシならもう1匹も居ないぞ。」


「俺は未だ1匹しか捕まえていないぞ。」


「安心しろ。殆どの奴の戦果は1匹らしい。」


「ところで何処で飲むんだ?ギルドの酒保も、いつもの酒場バルも跡形も無いぞ。」


「そうなんだよな、それを忘れていた。面倒だからバックレるか。」


「そうだな。今日は騒ぐ気分じゃないし、帰るか。」


俺たちはヘルガを探しだすと『倉庫』の魔法の中の家に帰宅した。


例によって、カールは徹夜作業だろうから特に声は掛けなかった。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴェラ……ヘレナの父方の又従姉妹。ランク3ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。


ヴィクトル……ヘルミーネの母方の又従姉弟。ランク3ハンター。



【基本魔法紹介】

『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『光球』……太陽の明るさだけを再現したもの。光だけで熱はなく、手元を離れると10秒程で霧散する。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。



【秘伝魔法紹介】

『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。


『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。


アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。


ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ