第61話
■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。
第61話
◇
俺たちはギルド前の道路に着地すると直ぐにギルドビルに駆け込んでいく。
「ソード!こっちへ来てくれないか!」
受付横のブースで諸侯軍の士官と打ち合わせをしているカールが、真っ青な顔で俺を呼びつけた。
「どうしたんだ、カール?ヘルミーネに浮気がバレたのか?」
「青色の巨人がムシを食ったと聞いた研究者が、捕獲していたムシを砕いて緑色の巨人の死体に流し込んだら、緑色の巨人が復活したらしいんだ。
しかも慌てた研究者は寄生生物の試作体を使って制御を試みたんだけど、結局逃げられてしまったそうだよ。」
俺が誂うのを無視してカールが最新情報を告げた。
「おいおい、マジかよ!ロリコンどもの次はネクロフィリアだと?!紳士の社交場みたいになって来たな。」
「6フィートのムシを追いかける17フィートの巨人の姿は、確かに子供を追い掛ける不審者に見えるな!」
「何を呑気な事を仰ってるんですか、百人長殿!ソードもアホな事を言ってるような余裕なんかないんだよ!」
立ち上がって怒鳴り声を上げるカールの横から、顔色の悪いヘルガとレナートが近寄ってくる姿が見える。
「紫色の巨人は四つん這いになって私たちを追いかけたからね、あいつはきっとズーフィリアだったんじゃないのかい?!」
「上手いこと言うじゃないか、ヘルガ。この分だと未だ見ぬ巨人どももみんな紳士である可能性が高いな。」
「ヘルガもレナートも巫山戯てる場合じゃないよ!」
「落ち着けよ、カール。」
「百人長殿、その寄生生物の特徴を聞いても良いか?」
「ああ。第二次駆除作戦の時の寄生生物をベースにして、人間を襲わない因子を組み込んだだけの試作体らしいが、何せ作った張本人が真っ先に殺されているからな。前のと同じだと思っておいて間違いはないだろう。」
「珍しい客を迎えるのも偶になら悪くはないが、こうも頻繁に来られると嫌になるよなぁ。」
「それで、その寄生生物も回収の必要があるのか?」
「出来ればそうして欲しっ?!少し待ってくれ。」
諸侯軍の士官が話しの途中で顔を顰めて黙ってしまったが、恐らく無線の魔法で連絡を受けているのだろう。
「2匹の青色の巨人が緑色の巨人に襲いかかり、殴り合いをしながら街中を駆けまわっているそうだ。
早急に何とかして亜竜対策用の転移門か、炎上している深淵の森へ誘導したい。
諸侯軍として正式に協力を要請する!」
「了解しました。直ぐに手配します。」
士官が最新情報とともに告げた依頼をカールが受諾し駆け出していった。
「おいおい、ロリコンだけでなく、ホモだったのかよ。」
「こりゃあ、俺たちもケツが危ないかもな。」
「そう言えば、緑色の巨人が液体爆薬とか偏向シールドを使っているところは見たことが無かったねえ。」
「確かにそうだな。紫色の巨人は電撃が特徴で、青色の巨人は飛翔が特徴だったが、何方も液体爆薬と偏向シールドは標準装備していたが。」
「それなら多少情報がある。
偏向シールドは未確認だが、緑色の巨人も液体爆薬を吐き出すし、緑色の巨人に近寄ると青色の巨人は巧く飛べなくなるみたいだ。
それに、紫色の巨人の切断された腕に比べると緑色の巨人の方が甲殻が3倍近くも分厚いそうだ。」
俺たちの会話に参加してきた士官によって新たな情報と謎が判明した。
「感覚を乱しているのか、気流を乱しているのか分からんが、俺たちにも一撃離脱戦法は使えない可能性が高いな。」
「それに、他の巨人よりも伊達にマッシブじゃないって事か。」
そんな情報整理を暫くしていると、ギルドビル内に集っているハンターたちへ、ギルドの幹部職員から状況説明と協力要請があった。
とは言え、緊急時なのでいつも通り、ギルドビル内に居るのはランク3以上のハンターだけで、ランク2以下のハンターたちはギルドビルの周辺に屯しているし、ランク4以上のハンターの3分の1以上が標的2から未だ戻っていない。
「街の中へムシが数百匹ほど入り込んだ後、それを追って2匹の青色の巨人が城壁を飛び越えて侵入してきた。
これを迎撃するために、寄生生物を宿した緑色の巨人が出撃したが、暴走して制御下を離れた。
但し、緑色の巨人は現在も2匹の青色の巨人と交戦している。
そこで、諸君らにも協力を要請する。
ランク6ハンターとランク5ハンターは、予定通りに巨人を亜竜対策用の転移門へと追い込んで欲しい。
ランク4以下のハンターには、ムシの駆除を任せる。
詳細については、それぞれの現場責任者となるギルド職員に尋ねて欲しい。
ここまでの概要について何か不明点があれば質問してくれ。」
数が多少違うが巨人の侵入については予め想定済みだし、ムシの駆除は7日間も行って来たので、誰からも質問はなかった。
「では、現場責任者となるギルド職員の指示に従って、作戦を開始して欲しい。以上。」
説明が終了するとハンターや職員が慌ただしく動き始めた。
◇
ヘルガが念の為に治癒魔法使いに治療されるのをボンヤリと見ながら、俺はミスター・ジョンドゥーの死亡を確認した時の事を思い出していた。
ミスター・ジョンドゥーの本当の名前はレナートで、年齢は279となっている。
コイツが死亡したことで、格下の俺たちでもステータスを読取ることが出来るようになった。
「巫山戯んな!何だ、その名前は?!―――」
レナートがミスター・ジョンドゥーのステータスを読取った直後、渋柿を食った時みたいな顔をしながらが同名であることを毒づいていたが、俺は年齢の方に驚いていた。
ミスター・ジョンドゥーの外見は20歳前後にしか見えない。
「年寄りの死体を見るのは初めてかい?」
俺の顔を見て心配してくれたらしいヘルガが声を掛けてきた。
「ああ。レベル100を越えると若返ると聞いたことはあるし、実際ヘルガも俺と同じ年齢くらいにしか見えないから知ってはいたが、ここまでガキっぽい老人だとは思わなかった。」
「どうやら自覚してないみたいだけど、アンタの外見も22~23歳くらいにしか見えないよ。
それと、レベル100を越えると若返るんじゃなくて、最高の状態に最適化されるんだよ。
私のファミリーは28歳前後が最高のパフォーマンスを発揮できるから、仮に22歳のヘルミーネが今直ぐレベル100を超えたら、童顔になるんじゃなくて一気に老け顔になっちまうのさ。」
「ん?ヴィクトリアにも以前言われたが俺も歳相応には見えないのか?」
「この最適化には自覚症状がないから仕方ないよ。」
「なるほどな。」
「それに、レベル100を越えると寿命を迎えるまで老ける事も無いそうだし、寿命もレベル100毎に倍に増えるらしいからね。
その代わりある日突然寿命でポックリと逝っちまうみたいだけどさ。
レベル365のこいつが老衰でくたばるのは未だ200年も先だったハズだよ。」
「寿命が延びる事は知らなかったが、それはかなりキツイな。」
テロメアの短縮による細胞の老化がなくなるのか?
「私もアンタも多分、自分の子供の方が先に老けて寿命を迎える事になるからね。」
ここは平均寿命が60歳の世界であり、そして強いもののほうが生き残り易い世界でもある。
「自分が最盛期の状態のままなのに、番いや子供が老いて死んでいくのを見続けるのはかなり苦しいんじゃないのか?!」
「ヒトは無敵や不死身になろうとするけどさ、それに近い存在になってみて初めて、分かっていた筈の辛い現実を受け入れるのが許せなくなるんだよ。」
兵士やハンターではない人間の平均がレベル8でしかないのに、ミスター・ジョンドゥーがレベル365に成る迄にどれだけの生き物を殺してきたのか想像もつかない。
地球でも、ヒトを殺しすぎた人間はある日突然、英雄という名の怪物に変わるそうだ。
ましてやこの世界では、生物を殺すことで本当に体質から性質まで徐々に変質していくレベルアップという現象が存在する。
才能だけではレベル200の壁を突破する事は不可能らしいので、ミスター・ジョンドゥーも当初は明確な目的を持って相応の苦労はしてきたのだろうが、長い時を生きる内にそれが変質してしまい、ああなってしまったのかもしれない。
その後も俺たちは、巨人が起き上がるまで2人でそんなやり切れない会話を続けた。
◇
ヘルガの治療が一応終わり、俺たちも出撃しようとしてホールを歩いていたら地震みたいな揺れを感じた。
立ち止まって耳をすましていると何かが崩れ落ちる音が徐々に大きくなっていき、ついにはギルドビルの壁をぶち破って3匹の巨人がなだれ込んできた。
全長約17フィートの巨人がど突き合いをしている様は、特撮ヒーローものを見ているかのようである。
もしかしたらムシを食って治癒したのかもしれないが、どうやら今のところは攻撃力よりも防御力のほうが優っているようで巨人どもは多少甲殻が凹んだりはするが、何れも大した負傷をするようには見えない。
しかし、度肝を抜かれて固まっている周囲の人間たちはそういう訳にはいかない。
巨人が腕や脚を一振りする度にハンターたちがボーリングのピンの様に吹き飛び、壁に叩き付けられて赤いシミと化しているし、巨人の吐き出した液体爆薬で木っ端微塵にされたり、爆風で吹き飛ばされた什器などの残骸の下敷きになっている。
そこへ更に、ギルドビルがガラガラと壊れる音が響き始め、崩れ落ちた破片や瓦礫が雨のように降り注ぎ、ハンターや職員も悲鳴を上げ、混乱一歩手前の状況に陥った。
「ここはマズい。崩れる前に脱出しろ!」
周囲の負傷者を担ぎ出しながらギルドビル前の道路に退避すると、街中を重装騎兵隊が進んでくるのが見えた。
この大陸では交通網が整備されている事もあって、平時だと街中での騎乗は王族や貴族にも許されていない。
地球の先進国では戦死者よりも交通事故で殺される者の方が多いのだから、本当に人命が貴重な世界では妥当なルールであるといえる。
例えば、20世紀中に戦争で死亡したアメリカ国民の数は40万人にも満たないが、同時期に交通事故で失った国民の数は400万人を超える。
「馬を降りて並べ!」
とは言え、崩壊しかかっている瓦礫だらけのギルドビルの中に向けて騎乗突撃する訳にも行かないので、重装騎兵隊は指揮官の命令で一斉に馬を下りた。
「第一目標、手前の巨人の右膝裏!!」
「貴様ら!相手がホモ野郎だからって油断するんじゃねぇぞ!」
重装騎兵隊が盾と槍を構え6列の16列にファランクスを組んでいる最中に下士官が兵士たちを煽っていく。
「突撃!!!」
指揮官の合図で、下士官を先頭にして重装騎兵隊は徒歩で刺突攻撃を仕掛けていった。
重装騎兵隊の1列目の攻撃で足元をすくわれてひっくり返って床に掌をついた青色の巨人に対して、緑色の巨人が液体爆薬を浴びせる。
液体爆薬によって指先を吹き飛ばされた青色の巨人が、ギルドビルであった廃墟から転がり出て、道路でハンターと交戦していたムシを捕まえて食った途端、負傷箇所が瞬く間に治癒した。
「目標変更!巨人に食われる前に最優先でムシを撃滅する。見つけ次第全てぶち殺して回収しろ!」
重装騎兵隊の指揮官が、優先的に巨人の回復手段を排除する事を命令している。
このムシどもに悪意がある訳ではないが、排斥されるのはいつだって道理があっての事ではなく、人間の都合によるのだから仕方が無い。
「ムシの始末は兵士に任せて、俺たちは巨人どもをフルコースで接待してやるぞ!」
レナートの煽りを受けて、ランク5ハンターたちが金属製のボーラを取り出す。
それぞれのチームごとに連携して巨人の脚に向かって駆け寄り、特定の場所を狙って次々とボーラを投擲していった。
そして巨人が倒れると隙かさず、今度は巨人の腕をボーラで厳重に拘束する。
「ヒィヒィ言って音を上げるまで引きずり回してやる!」
「お嬢ちゃん、転移門まで散歩でもしようぜ!」
ハンターたちは、蜘蛛の糸に絡め取られた昆虫みたいに藻掻いている巨人にロープを括りつけると、重装騎兵隊の置いて行った騎馬に跨がって亜竜対策用の転移門まで引きずって行こうとする。
「呆気無かったな。もっと手子摺るかと思っていたのに。」
「痴話喧嘩に夢中になっている所を泥棒に襲われたって感じだったな。」
若いランク4ハンターたちが兜を脱いで穂先に鞘を付け始めたのを見て、ヘルガが注意している。
「未だ終わった訳じゃないからね。気を抜くんじゃないっよ!」
彼らはランク6ハンターに叱られた事で気を引き締めなおして、残りのムシどもを探すために走り出した。
その直後、数百ヤード先で何かが壊れる音が響いたので、そちらを見てみるとまたしても3匹の巨人がど突き合いをしている光景が目に入ってきた。
<続く>
【人物紹介】
ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。
ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。
ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。
レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。
ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。
ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。
ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。
カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。
【その他】
シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。




