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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
58/78

第58話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第58話




 翌日の早朝、いつも通りに0530時頃に目を覚ますと、俺はヘレナと一緒にストレッチ運動を始める。


暫くするとヒルダが目を覚まし、ベッドの上でタオルケットをめくりながら起き上がってくる。


「うにゅ~。」


「おはよう。ヒルダ。」


「おあよ。うぅ~。」


瞼を手の甲で擦りながら寝ボケているヒルダもホントに可愛いらしい。


直ぐにヘレナがヒルダに駆け寄って、髪の毛を櫛で梳かし始めた。


ヒルダは、ヘルミーネ譲りの真っ白な肌とエメラルドグリーンの瞳に真っ赤な髪をオカッパ頭にしているので、まるでアンティークドールのようである。


 ヘルガのファミリーは10歳頃までは男女を問わず華奢で可愛い顔立ちをしているらしいのだが、12歳前後から急激に身体が成長を始めて年間平均4インチくらいずつ身長が伸びるみたいで、大体15歳頃には身長が6フィートほどになるそうだ。


ヴィクトルも10歳くらいまではヴェラよりも華奢だったと言っていたが、今ではミスター・オリンピアに出れそうな肉体をしているので、そんな面影は露ほどもない。


もう背は伸びなくなったから膝も痛くないとヴィクトルは言っていたが、きっと20歳頃までは少しずつ伸びてヘルガやヘルミーネみたいに身長が6.4フィートくらいになるのだろう。


出来ればヒルダには、ヘルガやヘルミーネみたいなミズ・オリンピアで確実に優勝出来るような身体にはなって欲しくない。


 しかし、成人後はどうであろうと幼い頃は街でも有数の愛くるしさを誇るので、ヘルガのファミリーは子供の頃に誘拐されそうになる事が多いらしい。


ヒルダも昨年、誘拐されたみたいだが運良く翌日にはジルヴェスター辺境伯領で保護されたそうだ。


この事件について詳しく話しを聞いてみると、どうやらジルヴェスター辺境伯領に辿り着いた頃の俺が叩き潰した誘拐組織が、ヒルダを誘拐した犯人だったみたいである。


俺は囚われていた者たちを開放する際に、泣いている幼児たちには覆面を外して素顔を晒し、金平糖をあげて慰めたのだが、ヒルダはその時の事を覚えていたみたいで、ギルドで再会した時に抱きついてきたらしい。


つい最近になってからヒルダに「金平糖、美味しかった。」と言われるまで俺にも思い出せなかったのだから、他の者に何の事だか分かるはずもない。


 情けは人の為ならずというが、ヒルダと知り合いになれたお陰で、子供を忌避する俺の症状が緩和してきた。


郷に居た頃は、年下の子供の面倒を見るのは当たり前だったし、忙しい義兄や義姉に代わって俺が姪っ子の世話をしていたから、子供を嫌ったり避けた事など一度もない。


しかし、左翼ゲリラによって人間爆弾にされた子供と一緒に戦友がバラバラになる光景を外人部隊時代に何度も目の当たりにしてきたせいで、俺は無意識の内に子供を避けるようになってしまっていた。


だから、誘拐組織を潰した本当の理由は、誘拐された子供を助けるためじゃなく、子供を犯罪に利用する奴の存在を許せなくて皆殺しにしてやろうと思い立っただけだ。


 後に、あの誘拐組織は全員が重犯罪者として賞金首になっていた事を知ったので、仮に俺があの時誘拐犯を皆殺しにしていたとしても、罪に問われるどころか懸賞金を貰えただろう。


だが、あの頃は未だステータスの称号のシステムが分かっていなかったので、誘拐犯の首を圧し折る直前でステータスの存在を思い出して殺すのを諦め、誘拐犯全員の手足を二度と動かせない状態にしただけで誰も殺さなかった。


そして今更名乗っても手続きが凄まじく面倒なので、俺と幼児たちとの秘密として忘れ去る事にした。


 ヘレナに髪を櫛で梳かして貰っている内に、ヒルダも完全に目が覚めたらしい。


「はい、もう良いよ。」


「ありがと、ヘレナ。」


ヒルダはヘレナに髪を整えて貰った事の礼を言うと、俺に抱きついてきて昨日の出来事を話し始めた。


「ソード。あのね、昨日、お花をいっぱい見つけたの。」


「そうか。どんな花だったんだ?」


「えっとね、白くてね、―――」


いつもの如くヒルダは拙い言葉で懸命に説明しようとするので、マシンガントークの様に単語を紡ぎ出していく事になる。


ヒルダが言おうとしているのは、俺が彼女のために船室に用意しておいたドライフラワーの束の事なので当然知ってはいるが、彼女の楽しげに喋る様子をヘレナと一緒に眺めているのが非常に心地よい。


ちなみにこのドライフラワーは、干して乾燥させたモノではなく、乾燥剤で乾燥させたモノなので見た目は花束そのものである。



 朝食後、昨日と同じく0630時頃にギルドへ赴くと丁度、標的3の駆除へと向かって駐留軍や諸行軍、そしてハンターたちが出発していく姿が見えた。


兵士もハンターも1日に計画総数の3分の1ずつ動員して、ローテーション制にしているので、昨日の駆除作戦に参加した者達は基本的に今日と明日は待機となる。


これは、このムシどもが囮や陽動である可能性も考慮しているが、それよりもこのムシどものせいでスタンピードが誘発された場合、直後から1週間近く不眠不休で応戦する事になりかねないので、一部の者に疲労が偏らないように調整しているのである。


 昨日と同じ0700時頃に、辺境伯が軍の最高幹部を連れてギルドに現れたので、直ぐに会議が始まる。


駐留軍及び諸行軍の士官とギルド職員が、順番に昨日までの状況を説明していく。


但し、事情聴取を受ける人間だけでなく、偵察隊や斥候のメンバーも毎回変更されているので、既に昨日の会議で説明した範囲であっても、色々な事が新たに判明した。


情報提供者の視点や感性が情報処理者と異なるだけでも、問題を見過ごしてしまう事があるから、こうやって他の人間が確かめるのは重要である。


また、戦いで最も注意しなければならないのは、それが時間との競争であるという事なので、万全の備えではなくとも先ずは戦場に兵力を送り込む事を優先した結果、昨日の戦いで新たに得られた情報の検証がこうして標的3の駆除作戦と同時進行となっている。


 昨日の作戦に参加した、敵の狙点を計測する技能を持ったハンターたちによると、ムシどもは人間の顔面のみを狙って攻撃している事が分かった。


狙いが外れることが多いので、兵士やハンターたちは結果的に全身を負傷しているだけであるらしい。


 偵察時を含めると3度も、俺はこの目で何名かの負傷者を見ていたのにこの事に気付かなかった。


言われると確かに、初日にアシッド・スプレーを浴びたハンターたちの顔は、シネマのダークナイ○に出てきたトゥーフェイ○みたいに顔の半分が焼け爛れていたが、腕の傷は熱湯をぶっ掛けた程度だったハズだ。


2日目に粘着質のクモの糸を浴びた士官も顔面に糸が巻き付いて、釣上げられていた。


そして、昨日も木の上からムシに飛び掛かられて顔面から出血している兵士たちを見た。


 昨日は、長時間に及ぶ魔法の連続使用で疲労した兵士たちの攻撃が、威力も精度も密度も落ちていった為に、何箇所かで足止めに失敗してムシの接近を許してしまっていた。


人間はおっかなびっくりでいたり、疲れてくると視界が極めて狭くなる。


しかも、無意識の内に首を左右に動かして視界を確保しようとする事はあっても、上下に動かす事はあまりしないので、人間の足元や頭上は死角になる事が多い。


また、人間は油断していると、覚悟している時の3分の1にも満たない軽い衝撃でノックアウトされてしまう。


当然だが気絶してしまえば敵のやりたい放題なので、昨日のはムシに頭部を奇襲されて倒れた兵士が気絶し、その後たまたま兜の無い顔面を噛み付かれた、と思っていたがどうやら違ったらしい。


 そして昨日の作戦で新たに判明した最大の問題は、クイーンの存在である。


昨日の最終段階で工兵隊が巣の中心へ潜って行った。


そこで工兵隊は、熱のせいで破裂した大量の卵の中身を浴びながらも辛うじて生き残っていたクイーンを見つけたのだが、とどめを刺そうとしたら碧翠大陸の公用語で「少し待て!」と言ったらしい。


工兵隊の下士官は驚きながらも会話を試みたが、クイーンは同じ言葉繰り返すだけで、そのまま死んでしまった。


鳴き声が偶然そう聞こえただけの空耳なのか、クイーンが本当に人語を理解していたのかによって意味が全く変わってくる。


渉外担当でも研究者でもない工兵隊にはあれ以上どうする事も出来なかったとはいえ、持ち返ったクイーンの死骸を幾ら解剖したところで知識まで引き出す事は出来ない。


 今日の現場指揮官には、既にクイーンの事は伝えてあるそうなので、生き残っていたらとどめを刺さずに捕獲してくるハズである。


なお、ムシが人間の顔面を狙うという事は、魔法による無線通信で現場指揮官に伝達済みらしい。


他の街に補充用の矢を購入しに行っていた補給部隊が帰投した、との報告があったのを機に会議は終了した。


 明朝も同じ時刻から本日の戦果について検証を行う予定であるそうだ。


今日の午後はヒルダの船内探検に同行してのんびりと過ごす事にする。


船内に用意する新しいおもちゃは何にしようか、などと考えながら俺は家路についた。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。


ヴィクトル……ヘルミーネの母方の又従姉弟。ランク3ハンター。


ヴェラ……ヘレナの父方の又従姉妹。ランク3ハンター。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。


アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。


ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。

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