表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
57/78

第57話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第57話




 翌日の早朝にギルドへ赴くと、昨日と同様に俺とヘルガにも会議への参加要請があった。


昨日と同じ時刻に、辺境伯が軍の最高幹部を連れてギルドに現れたので、直ぐに会議が始まる。


駐留軍及び諸行軍の士官とギルド職員が、順番に昨日の状況を説明していった。


 ムシは何れも遠間から見た場合には似たような外見をしているが、甲殻スズメバチが2種類、甲殻毒クモが3種類、甲殻毒アリが2種類の7種類で、名称から連想する生物と生態が大きく異る。


南東方向の巣穴に居た甲殻毒アリは、ケツから毒針を射出してきたらしい。

東方向の巣穴に居たのは、俺たちが数百匹ほど駆除したアシッド・スプレーを吐き出す甲殻スズメバチである。

北東方向の巣穴に居たのは、ケツから毒針を射出する甲殻スズメバチだったそうだ。

北方向の巣穴に居たのは、口からアシッド・スプレーを吐き出す甲殻毒アリだったらしい。

北西方向の巣穴に居た甲殻毒クモは、ケツから引っ張ると爆発する糸を吐き出してきたそうだ。

西方向の巣穴に居たのは、俺たちが千匹近く駆除した粘着質の糸を射出する甲殻毒クモである。

南西方向の巣穴に居たのは、ケツから溶解液に浸したような糸を吐き出す甲殻毒クモだったらしい。


 軍に所属する研究者の見解だと、このムシどもは人間ではない何者かが作った生体兵器みたいなモノで、名称は素体に使われた生物に過ぎないのではないかとの事だった。


捕獲してきたムシどもを同じケージに放り込んでみたり、他の種類のムシの巣穴の近くへ投げ込んでみたが、一向に敵対的な行動を示さなかったらしい。


もしもこのムシどもに融合コロニー性があった場合、複数の巣が繋がってスーパーコロニーを形成し、地中を相互に行き来する様になる可能性が高いので、早急に駆除する必要性が出てきた。


 最大の問題点は、ムシどもの血中に水銀が含まれる事が判明したため、食用にならないどころか、畑の肥料にする事すら出来ないし、駆除する際に死体を放置したら自然が汚染されてしまう事である。


今のところ、胃の中からこれらのムシの死体が出てきた生物は発見されていないが、念のため神託以降に狩ってきた食肉は全て検査するそうで、流通への影響が懸念されている。


そして、蟻塚というのは巣を地中に作る過程で土や砂や落ち葉や粘土などを入り口付近に捨てたモノなので、このムシの巣穴付近に存在していた蟻塚みたいなモノの大きさを基にして研究者が算出した数値によると、1つの巣穴にいるムシの総数は五千匹前後だと予想されているが、死骸を焼却した後の残骸の最終的な廃棄場所をどうするかが未だ決まっていない。


 俺たちが最初に数百匹ほど駆除したアシッド・スプレー型の甲殻スズメバチは標的1と呼称され、その他は時計回りに毒針型の甲殻毒アリを標的2、溶解糸型の甲殻毒を標的3、昨日俺たちが千匹近く駆除した粘着糸型の甲殻毒クモを標的4、爆発糸型の甲殻毒を標的5、アシッド・スプレー型の甲殻毒アリを標的6、毒針型の甲殻スズメバチを標的7と呼称する事になった。


偵察の結果、何れも同程度の規模である事がわかったので、当初の予定では、駆除した数が多いことから標的4を後回しにする筈だった。


だが、地下施設の避難所が何らかの理由で使用不可能になった場合を想定して、先ずは西門から脱出可能な状態にすべきではないか、とのギルドの提案が了承され、標的4の駆除が最優先目標となった。


 何れのムシどもがいるのも深淵の森ではないので、背後から亜竜などの強大な生物から襲われる心配もない。


そこで巣穴を中心として完全に包囲し、ムシを分散させて少しずつ確実に殲滅していく案が採用された。


自分たちの食料庫でもある森林地帯なので、何処かのアホな大国が考えるような焼却作戦など行う筈もない。


ちなみに深淵の森でなら焼却作戦を行っても人間の食料には影響が少ないが、食物連鎖に影響を及ぼしてスタンピードを誘発する結果になる事が過去の事例から分かっているらしい。


 今回の作戦には駐留軍と諸侯軍の実戦部隊の3分の1を導入するが、既に昨日中に準備は終えていたらしく、今日もまた午後一から出撃する事になっている。


他の街に比べて練度の低いハズの正規軍とは思えないほどの手際の良さだな、と一瞬思ったが、この街はある意味では最前線基地ともいえる場所に存在する事を思い出したら、何となく納得できた。


宗主国の軍隊に相当する駐留軍と、植民地の軍隊に相当する諸侯軍の兵士たちの何れもが縄張り争いや啀み合いをしていないのも不思議だったが、これも同じ理由なのかもしれない。


今回の会議で初めて紹介された軍の最高幹部たちは、連隊規模の駐留軍の総隊長が大佐相当の階級で、旅団規模の諸侯軍の総隊長が准将相当の階級らしいが、偉そうな素振りなど1度も見せる事など無く、俺たちハンターにも非常にフレンドリーに接してくるのが印象的だった。


当然ながら地球とは異なる階級制度を採用しているが、分かり難いので脳内翻訳では軍隊と同じ様な感じに意訳しているだけである。


 会議が終了して辺境伯たちが退出した直後、カールを含めた何人かのギルド職員が過労で倒れた。


既に3日間貫徹だったし、この街の最高権力者相手に2日続けてスピーチを行っているので、肉体的にも精神的にも限界だったのであろう。


取り敢えず、数時間ほど仮眠を取らせるらしいが、本作戦が終了するまで、ギルド職員に安眠はないと他の職員たちが話していた。



 午後一で西方にある標的4に向けて出撃となったが、先ずは巣穴の背後に回りこむ部隊が先発していく。


その後、南北に布陣する部隊、最後に手前に布陣する部隊の順番で出撃する。


駐留軍は8割ほどが実戦部隊なので百人隊が15個存在するが、諸侯軍は約3分の1以上が役人や文官なので実戦部隊は百人隊が30個ほどしか存在しない。


その3分の1が動員されているので、駐留軍の百人隊5個と、諸侯軍の百人隊10個が、続々と進んで行くのが見える。


 それに加えて、凡そ5百人ほどのランク4以上のハンターが均等に別れて同行している。


参加総数は、スタンピードの際に他の街からやって来る援軍と同じくらいにまで膨れ上がっている。


「2千人以上で囲むんだから楽勝だろ!」


「スタンピードの時みたい何百万匹もいる訳じゃないからな。一人頭2〜3匹狩れば終わりだ!」


俺たちの周囲にいるランク4ハンターたちがそんな会話をしている声が聞こえて来た。


実際には、魔法の弾幕で分断する者、長弓で縫い止める者、とどめを刺して回収する者という3つに業務を分担するので、そう単純には割り切れないが、そんな事は彼らも分かっているだろう。


 巣穴を中心にして、直径約1マイルの位置に約千5百人の兵士が等間隔で整然と並んでいく。


今の段階では隣の兵士との間が約4ヤードも離れているが、終着点である巣穴に近づくほどその間隔は狭まっていく事になる。


 駐留軍と諸侯軍の士官や下士官は、1マイル程度までしか届かない短距離無線通信を可能とする専用の魔法を幾つか修得しているので、各部隊間での連携も問題なく調整している。


この系統の『秘伝』の魔法も販売されているのは知っているが、それぞれで周波数帯みたいなモノが違うらしく、同じ魔法を修得した者の間でしか会話が出来ないので俺は購入はしていない。



 俺たちが同行した駐留軍の百人隊は、所定の配置についたあと暫く待機していたが、その他の全部隊の配置が完了したらしく、駐留軍の百人長がハンターたちにも聞こえるように出発を命令した。


「包囲は完了した。このまま接敵するまで巣穴を目指して進め!」


「動け、動け、動け!」


曹長や軍曹に相当する十人長や、伍長に相当する五人長たちが、怒鳴りながら命令を伝達していき、休憩していた兵士たちが進軍を再開した。


「俺たちも行くぞ!」


レナートの指示でハンターたちも兵士たちの後をついて行く。


十数分ほど進軍を続けたところで、真っ青な顔色をした斥候兵たちが戻って来た。


「標的を発見し、誘導に成功しました。」


「ご苦労。全隊止まれ!」


「止まれ、止まれ、止まれ!」


斥候からの報告を聞いた駐留軍の百人長が進軍の停止を命令し、下士官たちが怒鳴りながら兵士たちに伝達していく。


「攻撃用意!」


「野郎ども!お楽しみの時間だ!給料分の働きを見せろ!」


下士官たちが兵士たちを煽っている最中に、百数十匹の甲殻毒クモが現れた。


これだけの数のムシに追い掛けられたら、斥候兵の顔色が青くなるのも分かる。


ムシどもが十数ヤードまで近づいた時に百人長が攻撃開始の指示を出した。


「撃て!」


「撃て、撃て、撃て!」


下士官たちの合図で兵士たちが、最前列を除くムシどもに『突撃』の魔法を打ち込んで弾き飛ばして弾幕を張り、弓矢で確実に射止める事が出来る量を超えるムシどもを一時的に追い払う。


同時に、兵士やハンターを問わず長弓を所持する者たちが一斉に、最前列のムシどもを狙って急射を開始する。


第1陣のムシどもを全て地面に縫い留めたところで弓矢での攻撃が止むと、百人長が進軍を命令した。


「全隊進め!」


「動け、動け、動け!」


魔法攻撃は続行したまま、十数ヤードほど進軍したところで百人長が進軍の停止を命令した。


「全隊止まれ!」


「止まれ、止まれ、止まれ!クソッタレどもの第2陣をお迎えしろ!!」


下士官たちの合図で、兵士たちの魔法攻撃の着弾位置がムシどもの少し後方へ移り、第2陣のムシどもがこちらへ向かって行軍を再開する。


続いて長弓を所持する者たちが一斉に、第2陣の最前列のムシどもを狙って急射を開始した。


第2陣のムシどもを全て地面に縫い留めたところで弓矢での攻撃が止むと、また百人長が進軍を命令する。


「全隊進め!」


「動け、動け、動け!未だ始まったばかりだぞ!!」


魔法攻撃は続行したまま、更に十数ヤードほど進軍したところで、また百人長が進軍の停止を命令した。


「全隊止まれ!」


「止まれ、止まれ、止まれ!クソッタレどもを丁重にぶっ殺して差し上げろ!!」


下士官たちの合図で、地面に縫い留めておいた第1陣のムシどもにとどめを刺しながら死骸を回収していく。


第1陣のムシどもの死骸がなくなったところで、百人長が第3陣を迎え撃つ事を命令する。


「目標変更!」


「第3陣を地獄へ送ってやれ!!撃て、撃て、撃て!」


兵士たちの魔法攻撃の着弾位置が再度ムシどもの少し後方へ移り、第3陣のムシどもがこちらへ向かって行軍を再開した。


同時に、長弓を所持する者たちが一斉に、第2陣の最前列のムシどもを狙って急射を開始する。


以降も同じ様に巣穴までの9百ヤード弱の距離を十数ヤードずつ進んでいく。



 巣穴の姿が視界に入った頃には日没寸前だったので、定期的に照明弾が打ち上げられているが、何名かの兵士が『光球』の魔法を照明弾代わりに放って、木陰部分の明かりを補っている。


巣穴からムシが1匹も出てこなくなったところで、工兵隊が俺の知らない特殊な魔法を使って、巣穴の周辺に幾つも縦穴を開けていく。


工兵隊が作業を行っている間に、その他の兵士やハンターたちは巣穴から数百ヤードほど撤退した。


ナパーム弾みたいなモノなのか、燃料気化爆弾みたいなモノなのかは分からないが、工兵隊が縦穴に大量の爆弾を放り込んでから撤退してくる。


そして十数秒後に、轟音とともに巨大な炎の柱が吹き上がった。


十数分後に火が収まった頃、標的の殲滅を確認するために、またしても工兵隊が俺の知らない特殊な魔法を使って巣穴を拡張しながら潜って行く。


 1時間ほど経過した頃に百人長の1人が、「ご苦労。戻れ!」と声に出して、地下に潜っている工兵隊に帰投指示を出しているのが聞こえてきたので、恐らく生き残っているムシはいなかったのだろう。


その他の百人長たちは、適当に散らばっている兵士たちに命令を出した。


「撤退準備!」


「動け、動け、動け!おまちかねの家へ帰れるぞ!さっさと整列しろ!!」


下士官達が怒鳴りながら命令を伝達していき、休憩していた兵士たちが隊列を組んでいく。


「おら!お前らも集まれ!」


レナートなどの各部隊に振り分けられているランク5ハンターたちが、ハンターを取りまとめていく。


整列の終わった部隊から順に撤退を開始する。


十数分後に工兵隊が戻ってきた直後、最後の百人隊が撤退するのが後方に見えた。


 街へ戻ると兵士たちと分かれてハンターたちはギルドへ向かったが、ムシの死骸の回収を担当した者以外は、簡単な手続きだけで帰宅する事が許された。


俺たちも弓兵を担当したので、その後の事は特に気にせず、帰路に着くことにした。


一応、帰り際にカールに挨拶しに行ったのだが、ムシどもの死骸の集計に忙しそうで声をかけることも出来なかった。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。


ヴィクトル……ヘルミーネの母方の又従姉弟。ランク3ハンター。


ヴェラ……ヘレナの父方の又従姉妹。ランク3ハンター。



【基本魔法紹介】

『突撃』……カノン砲での砲撃の着弾を再現したもの。対象を吹き飛ばす。威力は個人の力量に比例し、火の玉を投擲後に対象との接触で無音発動するが、手元を離れると10秒程で霧散する。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。


『光球』……太陽の明るさだけを再現したもの。光だけで熱はなく、手元を離れると10秒程で霧散する。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ