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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
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第56話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第56話




 翌日の早朝、ギルドへ赴くと俺とヘルガにも会議への参加要請があった。


程なくして、辺境伯が軍の幹部を連れてギルドに現れたので、直ぐに会議が始まった。


駐留軍及び諸行軍の士官とギルドの幹部職員が、順番に状況と駆除作戦案を説明していく。


軍の作戦は攻勢防御のつもりらしく、敢えて目立つ場所にムシどもを誘き寄せて一網打尽にしようとするものだし、ギルドの作戦は各個撃破だった。


 戦いでは、敵が一番嫌がる事を的確に探り当てる事と、拙速が尊ばれる。


刻一刻と推移する戦況に対して、時間を掛けて作戦を練っていたら手遅れになるので、多少拙い作戦でも迅速に敵の弱点を突いて勝利を得ることが大切であるからだ。


しかし、駐留軍や諸行軍、そしてハンターギルドの立案する作戦は、俺から見ても杜撰過ぎる印象が拭えなかった。


だが、少人数での軍事行動くらいしか作戦立案能力のない俺に、数千人規模の作戦を修正する事など出来るハズもない。


 カールが補足説明しているのを聞いている内に、何となく杜撰なのは敵が人間ではないから綿密な対策が立て難い事が原因だと分かってきた。


人間同士の戦いなら、一体どういう経緯で戦いが始まり、どういった落とし所で戦いを終わらせるのかが関係してくるが、敵が人間ではない以上そんな事には意味がない。


捕虜を取ることも、寝返ることも、スパイを送り込むこともあり得ないし、事前に警告したところで容赦なく襲い掛かってくる。


 勿論、軍事作戦なのでハンターと兵士の連携などの調整は必要だが、事前の仕込みは大雑把な程度で十分である。


相手が人間ではない以上、臨機応変が肝要になるので、行動をあまり窮屈に制限し過ぎると予想外の反撃に対処しきれなくなる。


 そして、外人部隊時代の俺は敵地へ潜入しての戦いしか経験が無かったためにピンと来なかったが、この作戦はいわば本土決戦みたいなものなので、リスクマネージメントの配慮が全く異なる。


貴族や兵士は敵前逃亡したら家族もろとも死刑なので、ムシに殺されるくらいなら刺し違えてやる、といった意気込みで臨んでいるからだ。


例えるなら、大量のスズメバチの群れに囲まれて家族が襲われそうになっている最中に「何故」とか「どうして」といった詮索をしたところで何も状況は変わらない。そんな余計なことを考えている暇があったら、少しでも薙ぎ払い、突き刺し、叩き斬る事の方が優先である、といった感じである。


もっとも、大半のハンターにとっては細かい作戦なんかどうでも良いみたいで、何処で何を狩るのかにしか関心が無いらしい。



 俺とヘルガは会議が終わると、ギルドの酒保で待っているヘレナたちと合流して、早目の昼食を取る事にした。


午後から威力偵察に出掛けるからである。


結局、作戦は折衷案となり、各巣穴を1つずつ包囲殲滅していく事になったのだが、その前に各巣穴の戦力が均等なのかを測り、優先順位を決めることになった。


駐留軍の十人隊と諸侯軍の十人隊に加えて、有志のハンターが同行し、残り6個の巣穴に対して前回の様な威力偵察を行う予定である。


「折角のお誘いだ。ここはひとつ、アンタたちの教育に利用させて貰おうかね。」


「「え?」」


「それに、こういう偵察任務になると辺境伯は気前がいいからな。」


ヘルガはこの偵察にも教え子たちを見学に連れて行こうとしているらしいが、レナートは参加するだけでも金になるぞ、と言ってヴィクトルとヴェラの緊張を和らげようとしている様だ。


「怖いのは当たり前だよ。怖いと思わなければ、死んでたまるか、という執念も持てる訳がないからね。

自分の弱さを認識出来ないようじゃ、上達とか改善のしようがないから、それ以上強くなんてなれないよ。」


「は、はい!」「う、うん!」


ヴィクトルとヴェラは、ヘルガの言葉で怯えてはいるみたいだが、まるでスタントマンがアクションに挑むかのように、その視線が逃げ道を求めて揺れ動く事はなかった。


俺からしてもこの世界の教育方法は、逆境に勝る教育なし、といった感じのモノが多すぎる気がする。


「ミスター・ジョンドゥーの意図なんぞ知ったことじゃないけどさ。住み慣れた街がなくなるのは嫌だからね。出来るだけ抗う事くらいはしてやろうじゃないか。」


「人生なんか難しく考えるやつほど損をするんだ。結局、浮かれて騒いで楽しんだもんの勝ちってことさ。そんなに気張らなくても良いぞ。」


「だ、大丈夫です!」「だ、大丈夫だよ!」


親や師匠のために子や弟子が死んでいたら人類など滅んでしまう。


当然、子供を切り捨てて生き残る様な血族に未来などあるハズも無いので、ヘルガも実際に彼らを危険な目に合わせるつもりなどないし、もし危険が迫ったら命がけで守るだろう。


しかし、訓練中になかなか体得出来なかった技術や技能が、実戦の緊張感であっさり身につくことがあるのも事実である。


それに、具体的な敵が存在しないと小手先の技術に走って基本を忘れてしまい、恐怖を克服する勇気や心構えなどの成長が阻害される事にもなりかねない。


何より、格上の敵を前にして生命を危険に晒しながら学ぶ事には、大金を払っても得られぬ価値がある。



 俺たちは今回、城壁都市の西方にある巣穴の調査に来ている。


現在この街に居るランク5ハンターの内、レナートを除く20名が5分隊に均等に配属され、その他に十数名のハンターが同行していた。


俺とレナートが参加している6番目の分隊にも複数のハンターが同行しているが、その中にはヴィクトルとヴェラを連れたヘルガの姿もある。


ヴェラは素の視力が優れている上に『探査』の魔法の扱いも巧みであるらしく、一番最初にムシの姿を発見した。


「ムシを見つけた!あれ?!脚が8本ある!」


「何だって?」


前回の甲殻スズメバチの脚は6本だった。


軍の偵察隊からは脚の数が違う事についての報告はなかったハズだが、別の種類のムシでも混じっているのか?


「ヴェラ。8本脚なのは1匹だけか?それとも全部か?」


「えっと、見える範囲にいるのは全部8本脚だよ。」


 俺とヴェラの会話を聞いていた駐留軍と諸侯軍の士官の表情が変わったのが分かる。


8本脚のムシは6本脚のムシを捕食する事があるので、もしかしたら同士討ちを誘う戦法が可能になるかもしれないからであろう。


しかし、一体何を考えているのかは分からないとはいえ、ミスター・ジョンドゥーがこの程度の事も知らないとは思えない。


少なくともムシどもが捕食し合う事はないだろうから、共生関係だと想定しておいた方が良いのではないかと思える。


 そんな事を考えながら歩いていたら、俺にもムシの姿が見えて来た。


偵察隊が確認したのもこれくらいの距離だったハズだが、ここからだとムシの一番前の脚が触覚みたいに見えない事もない。


ステータスを読み取れる距離に近づいた時、俺の翻訳能力だとこのムシは『甲殻毒クモ』という名称である事が分かった。


このムシどもも甲殻スズメバチと同じく、全身鈍色で体長約6フィート、ダンゴムシみたいな甲殻を背負っているが、腹側からみると8本脚のアリみたいな身体をしている。


更に数十ヤードほど進んだところで、数匹のムシが俺たちの方に向き直り、暫くしてからこちらへ向かって近づいて来た。


「お友達が迎えに来たみたいだぞ!」


レナートがムシの接近を告げると、前回のアシッド・スプレー攻撃対策用として持って来ている軽量のタワー・シールドを兵士たちが一斉に構える。


しかし、前衛の兵士から十数ヤードほど距離に近づいたムシは、口からアシッド・スプレーを吐き掛けるのではなく、脚を伸ばして腹部を丸め込むとケツから粘着質の糸を時速100マイル以上の早さで放ってきた。


凧糸くらいの太さしかないその糸が絡まったタワー・シールドは、ムシが引っ張った瞬間にあっという間に持って行かれてしまう。


「な?!」


「何をやっとるんだ!」


怒鳴り声を上げながら前衛の兵士に近づいて行った駐留軍の士官の頭部にもムシの糸が絡み付き、あっという間に全身を持って行かれてしまい、ムシの牙でクビに噛み付かれる光景が見えた。


噛み付かれる前に恐らくクビの骨を折って死んでいたとは思うが、士官を救おうとして駐留軍の兵士たちが『突撃』の魔法での制圧射撃を開始した。


しかし、ムシに当たるまでに魔力の一部が霧散して威力が落ちているのに加え、ムシの身体が硬すぎてカーリングみたいに弾き飛ばすだけとなっている。


そして、魔法がムシに命中した際に壁にボールをぶつけた様な音が響いたために、その音を聞き付けたと思われるムシが数十匹単位で続々と集まってきた。


俺とヘルガとレナートの3人は、防壁代わりに『氷湖』の魔法で、自分の前面の空気を盾のように固めて無色透明な障壁を作っておき、『収納』の魔法から取り出した金属製の長弓を構え、4秒間に1本くらいの急射でムシを射止めていく。


こいつらに対して遠距離から物理的攻撃を仕掛けると、運動エネルギーが急速に減衰するだけでなく、軌道も偏向されてしまうが、銃撃みたいに音速を超えている訳でも、砲弾みたいに質量が大きい訳でもない弓矢は減衰率が低いので、ムシに対しては数十ヤード程度の距離までなら魔法よりも余程有効な攻撃手段となった。


その他のハンターたちやタワー・シールドを奪われた兵士も同じ様に弓矢で攻撃していくが、大半の者が所持している短弓ではムシの甲殻を貫通できないし、ムシを弾き飛ばす事も出来ないので、無駄弾となってしまっている。


長弓を所持している13人の攻撃で、数百匹ほどのムシを地面に縫い留めて身動き出来ない状態にしたところで、向かってくるムシがいなくなった。


巣穴の周辺には未だ大量にいるので全滅した訳ではないが、取り敢えず身動き出来ないムシを『凍結』の魔法で凍らせてとどめを刺してから、『収納』の魔法で纏めて格納しておく。


誰の獲物かは刺さっている矢を見れば一目瞭然なので、後で揉めることもない。


 俺とヘルガとレナートの3人は千本以上の矢を用意してきていたが、他の者たちはもう残りの矢が少ないし、既に矢が尽きている者も何人かいる状態であった。


俺たちの矢が尽きるか、予定時刻まで続行したいとの軍の士官の要請を受けて、短弓を所持している兵士たちがムシどもに近づいてから、矢を射掛けては数十匹ずつ次々に誘い込んで来たのを俺たちが仕留めていく。


1時間ほど続けたところでタイムアップとなったのだが、全部で千匹近くは仕留めたのに巣穴の周辺のムシは一向に減っているようには見えなかった。


 ギルドへ戻り、解体スペースに獲物を広げて取り分を買取って貰った後、事情聴取を受けた。


序に受けた説明によると、7つの巣穴にいるムシは全て別の種類である事が分かった。


死傷者が出たのは俺たちの分隊だけではないみたいで、他の分隊からも少なからず犠牲者が出ているらしい。


短弓を所持している者は多いが、長弓を所持している者は全ハンターの3割にも満たないので、長弓を全員に貸与するにしても在庫が足りない状態である。


今回の結果を踏まえて明朝からまた、会議を行うとの事だった。


既に2日間貫徹で仕事をしているカールがアンデッドみたいな顔色をしているが、俺たちに手伝えることなどないので、挨拶だけして帰路についた。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。


ヴィクトル……ヘルミーネの母方の又従姉弟。ランク3ハンター。


ヴェラ……ヘレナの父方の又従姉妹。ランク3ハンター。



【基本魔法紹介】

『突撃』……カノン砲での砲撃の着弾を再現したもの。対象を吹き飛ばす。威力は個人の力量に比例し、火の玉を投擲後に対象との接触で無音発動するが、手元を離れると10秒程で霧散する。


『凍結』……豪雪地帯で雪解け時に出てくる凍死体を再現したもの。対象を凍らせる。威力は個人の力量に比例し、接触している対象に発動する。


『氷湖』……物体が湖の氷に閉じ込められている光景を再現したもの。対象を凍らせる訳ではなく、指定位置周辺の動きを止める。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。



【秘伝魔法紹介】

『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。

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