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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
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第55話

■2015/09/05 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第55話




 ギルドの中庭で『倉庫』の魔法を発動してレナートを連れて家に帰ろうとしていたら、ヘルガが俺に声を掛けてきた。


「ソード。この子たちをあんたの家へ連れてっても良いかい?」


「来るのは別に構わんが、こんな時間に何の用だ?ヘルガ。」


ヘルガが教え子と一緒に住み始めてから1週間ほど経つが、彼女はいつも俺の家には一人で来ていた。


「この子たち、『秘伝』の一番最後の部分を教えられて無いらしいんだよ。

ヴィクトルは私と同じファミリーだから何とかなるけど、ヴェラはヘレナと同じファミリーだから私ではどうしようも無いからね。

ヘレナに協力して貰おうと思ってさ。」


「そうか。分かっているとは思うがヘレナは妊婦なんだから無茶させるなよ。」


「ヴェラの話しじゃ、教える方は口頭で済むみたいだよ。」


「分かった。君たちも俺の手に触ってくれ。」


俺は4人が触れたことを確認すると『倉庫』の魔法の中に置いてある輸送船に向かった。



 ヘルガの教え子であるヴィクトルとヴェラが、真っ白い空間に聳え立っている俺の大陸間輸送船を見上げて呆然としている。


彼らが住むこの街は大陸の中央部に在るので、河川用の小型船しか見たことが無かった可能性が高い。


しかも、水上に浮かんでいる状態ではなく、造船台に乗っている状態なので余計に大陸間輸送船が大きく見える。


 ヘルミーネの母方の又従姉弟であるヴィクトルは、ヘルミーネと同じ『秘伝』を継承しているファミリーでもあるので、極短時間だけ筋力をゴリラ並みにする瞬間的なパワーアップを使うことが出る。


ヴィクトルは赤毛に緑色の瞳と白い肌だし、15歳なのに既に身長は6フィートを超えており、俺と同じくらいの体格をしているので、ヘルガの息子やヘルミーネの弟と言っても違和感がない。


 一方のヴェラは、ヘレナの父方の又従姉妹で、ヘレナと同じ『秘伝』を継承しているファミリーでもあるので、人間からの攻撃なら刀剣での斬撃や斧槍での刺突を生身で受け止める事が出来るらしい。


ヴェラも黒髪に青色の瞳と褐色の肌だし、顔立ちも似ているのでヘレナの娘としか思えない。


もしも口に出したりしたらマウントポジションでタコ殴りにされそうだから、そんな事は絶対に言わないが。


ヘレナやヴィクトリアは未だ22歳なのに30歳位に見える老け顔だが、ヴェラは15歳なのにもう少し幼く見える童顔だから、余計にそう感じるのかも知れない。


 そのヴェラの横顔を見ていると姪っ子のミユを思い出す。


ケイにソックリなヘレナ、義母にソックリなヴェネッサに次いで、3人目のソックリさんである。


俺にはケイの兄の子供である中学生の姪っ子と幼稚園児の甥っ子、俺の妹の子供である小学生の甥っ子が居るが、ヴェラは肌の色と瞳の色と口調が違うくらいで、その他は顔立ちや体格や髪型などがソックリと言っても良いくらいに中学生の姪っ子に似ている。


ヘレナみたいに無表情ではないが、ヴェラも同じ系統の危険な『秘伝』を学んでいる以上は、精神的な無理が何処かに生じている可能性がある。


ヘレナの様に分かり易くは壊れていないので、その分だけ深刻かもしれないが、精神科医でもない俺にはどうする事もできない。



 俺とレナートを除くメンバーは、別の街に住んでいたとはいえ、生まれた時から同じ一族クランだった者達ばかりなので当然顔見知りだし、仲も良い。


リビングルームに入っていくと、いつも通りにヒルダが俺に駆け寄ってきたので抱きかかえる。


「ソード。」


「ヒルダ、今日はどうだった?」


「あのね。大っきなお人形があるお部屋を見つけたの。―――」


「あれ、もうそんな所まで行ったのか?!」


俺は、ヒルダが今日の出来事を拙い言葉でマシンガントークの様に話すのを聞きながら、時々ヴィクトリアに確認していく。


「ええ、その代わり1つ気付かずに見過ごしてしまったみたいです。」


船内には百数十もの客室があるので、1割ほどの部屋に人形や積み木などのおもちゃを隠しておいた。


ヘルミーネとの修行を終えると、ヒルダはヘレナとヴィクトリアを引き連れて宝探しを楽しんでいる。


「ヒルダ。どんなお人形だったの?」


「あのね、赤いお服を着てるの。―――」


途中からヴェラが相手をしてくれる様になったので、彼女にヒルダを任せて、俺はヘルガやレナートと酒を飲み始めた



 ヒルダとヘルミーネが眠った後は、ヴィクトリアを交えてムシどもについて話しをする事になった。


ヘレナは別室でヴェラに『秘伝』について教示しているが、あの口数の少ないヘレナがヴェラにどうやってそんな難しい内容を話しているのか気になるところだ。


 本格的な検死解剖は未だだが、甲殻スズメバチの死体を検分した結果、このムシはメッキした後に表皮を張ったかの様に表皮と皮膚の間にだけ金属質を含む事が分かっている。


そんなムシが、俺が誤爆で吹き飛ばした数百匹を除いて、追跡してきただけでも千匹近くも居るのに、同じ規模の巣穴が全部で7個も存在する。


 比較は非常に重要だ。しかし、比較するモノを知らなければ無意味になる。


例えば、標的の重量を述べる際に、隣にいる女性と同じくらいだと言う場合と、成人男性の平均的体重の3倍であると言う場合とでは、意味が変わってくる。


今回のムシの場合だと、金属製の表皮を持つ生物など過去の記録にさえないのに、同じレベルの生物もしくは、植物と共生関係にある部分だけ似ているハキリアリなどと比較してもあまり意味がない。


「そう言えば、地雷を再設置してくるのを忘れたな。」


「そんな余裕なかったからね。」


調査中の生物や要注意の生物に対しては、その巣穴の街側に地雷原を設けて万一の際の警報にする事が慣例となっている。


俺が誤爆で吹き飛ばしてしまったその地雷原の事をレナートが指摘し、ヘルガが子供たちを逃がすので精一杯だったと答えた訳だ。


地雷と言っても殺傷能力は全くなく、火の出ない発煙筒みたいな物なので、ヘルガの教え子たちみたいな新人が踏んづけてしまったとしても怪我をする事はない。


「カールが、何とかするんじゃないか?」


「しかし、どうやってあのムシどもを駆除したもんかね。」


「確かにな。ランク4ハンターの斬撃だと1匹を始末するのに、最低でも3発は叩き込まないと始末出来なかったし、彼らの魔法攻撃に至っては1匹も殺せなかった。」


「巣穴から全ての個体が出てきて敵を追跡する事など有り得ないから、恐らく1つの巣穴に数千匹以上いる可能性が高い。

こんな群れを少人数で駆除するのは、スタンピードを防ぐのと同じようなもんだぞ。」


「私やソードのレベルが幾ら高くても、これだけの数の暴力には勝てる訳がないからね。

ムシの数を減らすだけならまだしも、街に被害を出さずに駆除するのなんか絶対に無理さね。」


「数万の人間で攻撃すれば、中等竜ドラゴンの首だって取ることは出来るんだから、そりゃあ個体の性能が幾ら優れていても、圧倒的な数で攻めれば凌駕する事は不可能じゃないわな。」


「駐留軍と諸行軍の大半はランク3相当だし、戦闘能力のない役人もいるからね。今回は手の打ちようがないかもしれないね。」


「ヘルガたちには悪いが最悪の場合、俺はヘレナとヒルダを連れて他の街へ移るぞ。」


「私らだって、ミスター・ジョンドゥーの嫌がらせで死ぬ気はないよ。」


「俺もそうだな。単なるスタンピードなら限界まで抗うが、あんな糞野郎のお遊びに付き合う気はねぇな。」


一族クランの長老連中には私の方から話しをしとくよ。」


「頼む。ヘルガ。」


その後も暫くは話し合ったが、良い対策案が浮かぶ筈もなく、お開きとなった。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。


ヴィクトル……ヘルミーネの母方の又従姉弟。ランク3ハンター。


ヴェラ……ヘレナの父方の又従姉妹。ランク3ハンター。


ケイ……主人公の嫁。本名は、惣田恵子。


ミユ……主人公の姪っ子。本名は、香田美幸。



【秘伝魔法紹介】

『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。

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