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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
53/78

第53話

■2015/09/05 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第53話




 ジルヴェスター辺境伯領に住んでいた頃は、第2郭の外側をヘレナと一緒に毎日走っていた。


だが、シグブリット辺境伯領は城壁が一重しかない上に城壁と森との間に岩石地帯があるため走れないので、転居してからは1辺が約1マイルほどの広さがある『倉庫』の魔法の中を、壁際に沿ってヘレナと2人で走っていたのだが、彼女が妊娠してからは俺独りで黙々と走る事になった。


 ハンターや兵士の基本は、装備などの負荷がある状態で走りながら戦う事である。


地球でも、長距離走が遅い兵士は、何処の軍隊でもエリート部隊や特殊部隊に入ることは出来なかった。


どんなに筋力があろうが、知略に長けていようが、強力な銃火器や魔法があろうが、戦力を維持できる持久力がなければ唯の飾りでしか無いからだ。


危険生物も野生動物も人間などに比べれば疲れ知らずといえる上に群れで襲ってくるので、普段の武器を装備した状態で長時間安定して動き回る事も出来ない様では問題外としかいえない。


特に対集団戦においては、身を守る頑丈な鎧や盾よりも、敵の攻撃を掻い潜る機動力の方が重要である。


 ヘルミーネの家が壊れてからは、ヒルダを俺の家で預かっている事もあって、ヒルダの様子を頻繁に覗いに来るヘルガと一緒に走る機会が増えた。


俺たちは、鎖帷子を編み込んだトーガの上から鎧や兜を装着し、サーベルやハルバートを装備した状態で、地球でなら世界記録を大幅に更新する様なペースでフルマラソンと同じくらいの距離を競争する。


偶にレナートやカールも参加するが、彼らと俺たちとでは身体能力に差異があり過ぎるので、その際には彼らに合わせて多少スローペースで走る事になる。


それでも独りで走っているのに比べれば、非常にありがたい。


 俺の郷の者は生まれてから中学校を卒業するまで毎日武術漬けの生活を送っているので、日常生活でも常に、一般人が柔道や剣道の道場で真剣に稽古している時みたいな緊張感を持って育つ。


郷には中学校までしか存在しないので他の街の高校や大学へ通う事になるのだが、郷の外はあまりにも空気が緩過ぎるというか、その緊張感の無さに気持ちが悪くなる者が多く、心が弛緩して堕落するのが怖くて精神的に参ってしまい、殆どの者は学校生活を全然楽しめなかった。


俺も緊張感のない日常には耐えられないタイプなのは分かっていたが、実は独りで修行すると気絶するまで走り続けてしまうタイプだったらしく、競争相手かつストッパーとして他の人間が必要である事をヘレナが妊娠してから初めて知った。


今までに2度ほど気絶するまで走り込んだ事があるのだが、普段は口数の少ないヘレナがその時には饒舌になり、数時間に渡り俺は滾々と説教される事になった。



 認識阻害効果のある煙幕型の魔道具の流出事件から10日ほど経過したが、あれ以降は取り立てて変わった事件など起こっておらず、本来のハンターとして偶に珍しい生物を狩る事の出来る日々を過ごしている。


ミスター・ジョンドゥーが他の街からの救援要請に応じた形跡がない事から、俺たちもハンターギルドもアイツが未だこの街を標的にしているとの前提で用心し続けていた。


100ポンドもの重量がある金属製のボーラの習熟訓練も終わっているし、亜竜対策用の転移門周辺に設置した罠の配置図も記憶済みである。


とは言え、この世界には難解ではあるが神託という的中率百%の予報が存在するので、現状は戦時体制ではない。


 現役を引退して予備役に就いた直後のハンターたちは後進の育成を行う事が多いらしいのだが、先月成人してハンターになったばかりの新人2人をヘルガが預かってきた。


新人ハンターは親やファミリーが教育するのが普通だが、この子たちは一連の巨人騒動で孤児となってしまった親族なので、一族クランの誰かが導く事になっている。


一般的な街だとハンターの9割はランク3以下だし、深淵の森に隣接している街だからここでは沢山見かけるとはいえ、本来ならランク5ハンターは百万人に1人くらいしかいない。


ましてや、ランク6ハンターなど全世界で約百人ほどしか存在しないので、新人たちがヘルガや俺を見る目は、ヒーローに向ける眼差しそのものである。


ヘルガもクランの子供の面倒を見る事には異存はないみたいだが、これには頬を引き攣らせて困惑していた。



 そんなヘルガをよそに、俺は新たに購入した天翔ける『秘伝』の修業の息抜きに、以前転移に失敗して辿り着いたアマゾン川みたいに巨大な川へ単独で狩猟に来ている。


ここには魚頭人身の生物や4足歩行する魚など、今まで深淵の森では見た事のない生物で溢れていた。


特に人頭鳥身の生物であるハーピーや人頭魚身の生物であるマーメイドを見た時は、妖精を初めて見た時以来の驚きがあった。


どうやら妖精とは異なり人間を忌避しているらしく、俺の姿を見るなり逃げて行ってしまったので、残念ながら一言も話す所を見ていない。


 それから、川の中洲にある森林には、ラフレシアみたいな外見の寄生植物たちが咲き誇っているし、寄生されたせいで最早エイリアンといっても差支えがないくらいに変形した亜人や、触手みたいな寄生生物を生やした状態の甲殻類がそこら中に居た。


思わず火炎放射器で焼却したくなる光景だったが、天然の寄生生物である以上は、勝手な事をすると生態系に影響が出る可能性が高いので、流石にそんな事はしていない。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。

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