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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
52/78

第52話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第52話




 亜竜や獣人のいる広場へと向かう途中で、駐留軍や諸行軍の兵士が槍襖での刺突攻撃を仕掛ける様子を見ていて気づいた。


ヒュドラーは魔法そのものを魔素に分解してしまうので、遠隔や遠距離からの魔法攻撃は不可能だし、接触して直接体内に魔法攻撃する事も出来ないかもしれないが、偏向シールドも無いみたいだし、槍での攻撃が有効である事からすると、魔法で起こした結果としての現象なら有効な筈である。


俺の有する『秘伝』である『溶接』の魔法は、封じ込めたガスに放電する事で発光させて気体レーザーを放つから、レーザー光線自体は魔法ではないし、『投影』の魔法も、空間に放出させた電子を加速して照射するから、荷電粒子砲自体も魔法ではない。


それと『気化』の魔法だが、指定位置周辺の物質を昇華する事が出来る強力な魔法ではあるものの、煙幕のせいで座標がズレる事を恐れて建物の傍では使ってなかった。


しかし、広場で使うのであれば、座標が多少狂ったところで建物やその中に居る住民を消す事もないし、煙幕を素材として再利用する訳でもないから、消し去っても問題はない。


最大有効射程距離が十ヤード程度しかない事も、そのせいで本来なら使い難い筈なのに、今回は逆に使い勝手が良いというのも皮肉である。


 広場に到着すると、隅の方にランク5ハンターたちやギルド職員が屯しており、カールが居るのが見えた。


「カール!」


「ソード!ヘルガ!無事だったんだね?」


「なんとかな。ヴィクトリアに状況は一応聞いたが、最新の情報を教えてくれるか?」


「特に変わってないよ。そう言えば、レナートの事は聞いたかい?」

 

「ああ、あいつの事は忘れない。今でも俺たちの心の中で生きている。」


「未だ死んでないよ。苦しんではいるみたいだけどさ。」


「苦しんだ挙句にグールやアンデッドになるくらいなら、一思いに息の根を止めてやるのも情けかもしれないな。」


「でも墓を用意するのも面倒だよ?!ソード。」


俺の冗談に、カールが笑いながら応えている。


「ソードも毒槍を突っ込まれて、さっき迄同じ目にあってたからね。その時に私が介錯してやれば良かったよ。」


「そうなのかい?まあ、冗談は置いといて何か良い手はあるのかい?」


常に命がけの戦いが身近にある人間は社交辞令でも無ければ、小さなことで一々過剰反応することなどあり得ないから、カールも俺が負傷した事など適当に流していく。


「ああ、煙幕もヒュドラーも単体なら何とかなる。問題は回収依頼のあった寄生生物やワーライノセラスの存在だ。」


「つまり、死体を回収出来ない様な状態にまで損壊させる魔法でも使うって事かい?」


「その通りだ。」


「諸行軍と駐留軍の士官に掛けあって来るよ。」


「宜しくな。カール。」


「ソード。何をするつもりだい?私の見せ場はあるんだろうね?」


「一番東側に居るあの匍匐型のヒュドラーはヘルガに任せるから、ハイなタンゴを見せてくれ。」


「仕方ないね。この煙幕を消してくれるなら、チアガール2人はあんたにあげるよ。」


「ああ、今度こそあのチアガールに俺のをぶち込んでやるさ。」


 駐留軍や諸行軍の兵士が盾と槍を構え、百人隊が16列の6列にファランクスを組んで集団で刺突攻撃を仕掛けているのが見える。


ある意味ではあれも範囲攻撃だから、多少標的の位置がズレたところで単体相手なら誰かの攻撃は当たる事になる。


勿論、彼らも刺突攻撃でヒュドラーを仕留める事など不可能なのは分かっているので、亜竜対策用の転移門へ追い立てようとしているのだが、ワーライノセラスが巧みに割って入り、邪魔をしている。


しかし、ワーライノセラス第3形態には、突き飛ばすだけとなり、全く効いてない。


ヒュドラーには、突き刺さったり斬り付けたりは出来ているが、2列目が攻撃する頃には1列目が負わせた傷が治っているので、効いていないとも言える。


ワーライノセラス第2形態とワーライノセラス初期形態には効いてはいるみたいだが、即死させられないので変異を促すだけとなっており、ワーライノセラス第3形態とワーライノセラス第2形態が増え、ワーライノセラス初期形態がいなくなった。


 そんな光景を数十分間ほど見ていたら、カールが駆け足で戻ってきた。


「ソード。辺境伯の許可も得たから、タイミングを見計らって諸行軍や駐留軍が北側に退く事になってるよ。そしたら後は頼むよ。」


「了解だ。取り敢えずこの辺りの煙幕を消すから一旦、ハンターたちを十数ヤードほど退かせくれ。

兵士が退いたら、俺がヒュドラー周辺の煙幕を消して回る暫くの間、ハンターたちに陽動を頼む。

但し、ワーライノセラスは気にしなくて良いから、俺の10ヤード以内にハンターは近寄らせるなよ。

そして、次に合図をしたらハンターたちを広場の端まで退かせくれ。」


「分かった。ハンターたちに要請してくるよ。」


 ハンターたちが十数ヤードほど離れた段階で、『気化』の魔法を正面2ヤード付近へ放ったのだが、右斜めの方向どころかほぼ真横の6ヤード付近の煙幕が掻き消えた。


この煙幕型の魔道具は、方向感覚の認識を阻害する場合には右斜めの方向へズラすみたいだが、座標感覚の認識を阻害する場合には角度だけでなく距離感までズラすらしい。


とは言え、今回は大した違いではない。自分を中心として四方八方へ『気化』の魔法を放って周囲の煙幕を消し去りながらジグザグ形に進んでいるだけだからだ。


 諸行軍や駐留軍が退き始めるのが見えたので、ヒュドラーの周辺を駆け周りながら、ワーライノセラスごと煙幕を消し去っていく。


ヒュドラーの何れかの首が俺に向きかけると、絶妙なタイミングでハンターが割り込んで関心を引き付ける。


寄生生物が操っているだけあって、ワーライノセラスどもはハンターを無視して、煙幕を消して回っている俺だけに狙いを定めているみたいだった。


だが、大回りをして俺の死角から襲いかかった所で、俺に一太刀も浴びせる事も無く、煙幕ごと蒸発してしまう。


ヒュドラーが有効射程内に入ると、『気化』の魔法の発動自体が阻害されてしまうので、コイツらの周囲の煙幕をどうしようかと悩んでいた。


しかし、最初の1匹目と同じく、ハンターたちの陽動にあっさりと引っ掛かって彼方此方と動き回ってくれたお陰で、広場の中の煙幕もワーライノセラスも全て綺麗に消し去ることが出来た。


残ったのは3匹のヒュドラーだけである。


「カール、退け!ヘルガ、行くぞ!」


「あいよ。」


カールから『光球』の魔法での合図が出るとハンターたちが一斉に退いていった。


「今度こそファ○クしてやるぜ、ベイベー!」


歩行型よりも匍匐型のヒュドラーの方が移動が速いので、歩行型を足止めしておいて、匍匐型を先に始末する事にした。


目の前にある片脚を『溶接』の魔法で切断すると、ヒュドラーが初めて威嚇ではない、苦痛の叫びみたいな咆哮を上げて、斜めに倒れ込んだ。


接合されても面倒なので、切り離した片脚を直ぐに『収納』の魔法で格納しておく。


回り込んで来た匍匐型ヒュドラーの5つの首からの攻撃を掻い潜りながら、端から1本ずつ首を切断していった。


最後の首を切断すると全ての首や胴体から力が抜けて、その巨躯が地に倒れる。


骨ごと切断されたせいなのか、脳ミソの再生に時間が掛かるせいなのかは分からないが、ヒュドラーは切り離された部分を再生する事なく、呆気無く死んだ。


次に、倒れているヒュドラーに視線を向けると、その奥の方で血塗れのヘルガが大きな笑い声を上げながらヒュドラーの腹を斬り裂いている姿が目に入ったが、今は無視する。


倒れていてもヒュドラーは長い首を振り回して俺を威嚇しているし、再生は未だしてないみたいだが、俺が切断した傷口は既に塞がっており、出血すらしてない。


背中側から攻撃出来れば楽なのだが、大気中ではこの距離だとレーザーの減衰率が大き過ぎてポインターにしかならないし、ヒュドラーも3本の脚で器用に這いずりながら向きを変えようとする。


とは言え、1匹目に比べれば固定されている様なモノなので、同じく『溶接』の魔法で端から1本ずつ首を切断していったら、アッサリと片付いた。


俺が2匹目のヒュドラーを始末し終えたのと、ヘルガが1匹目を仕留めたのはほぼ同時であった。


ヘルガは骨を切断する事を諦めて、腹部を切開いて内蔵をメッタ斬りにしたみたいである。


 何にしても、これでここ最近の赤字を埋めることが出来た。


ヘルガの場合は槍の損失分だけだったのでヒュドラー1匹で十分に黒字となるが、俺の場合は槍の損失に加えて予想外の酒代を支払ったので、ヒュドラー2匹でも大した黒字にはならない。


ヒュドラーの死体を『収納』の魔法で格納したところで、兵士たちやギルドの職員が事後処理のために駆け寄っ来る姿が見えた。


煙幕がなければ知能の低いヒュドラーなど俺たちの敵ではなかったので、これで状況終了である。



 ギルドへ戻ってから事情聴取を受けたあと、仕留めた獲物の買取りが終わった頃に、俺たちはコソコソと近寄ってきたヴィクトリアに応接室へ連れていかれた。


「ミスター・ジョンドゥーがまた来ていたみたいです。

例によって、丁度お二人がヒュドラーにとどめを刺した頃に、辺境伯の屋敷の転移門に現れたそうです。」


「一体、何処からこの街を観察してたんだろうな?」


「タイムラグとかを考慮すると、諸行軍や駐留軍が退き始めた頃に出発したのかね?」


「そうかもしれないな。」


「それで、アイツは何か言っていたのか?」


「いいえ。それどころか広場へ向かう途中で駆除終了の報告を聞いた途端、伝令兵を睨みつけて、その後は一言も発せずに帰って行ったそうです。」


「これで諦めてくれると助かるんだがな。」


「私らに2度もおもちゃを横取りされているし、1度はおもちゃが言うことを聞かなかったみたいだからね。」


「もしもケーファーノイドをまた引っぱり出されると面倒ですね。」


「確かにな。ランク6の亜竜どもなら俺たちで何とかなるが、ランク7のケーファーノイドが相手では、転移門に沈めるしか手がないからな。」


「大型ボーラの量産と転移門周辺への罠の設置は継続する事になりそうですね。」


「仕方がないな。俺たちはレナートの様子をみたら帰るけど、ヴィクトリアはどうする?」


「レナートは2~3日で復帰出来るみたいなので、私もレナートの様子をみたら帰ります。」


「妊婦が一人で居るのも何だから俺の家に来ると良い。そう言えば、ヘルミーネは何処にいるんだ?」


「ヘルミーネなら私の執務室で眠っていますので、一緒にソードの家へ連れて行きましょう。」


「じゃあ、行くか。」


俺たちはレナートをからかったあと、ヘルガがヘルミーネを肩に担いで、ヘレナやヒルダの待つ家に帰った。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。



【基本魔法紹介】

『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『強化』……亜人の頑丈さとパワーやスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではない。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。


『光球』……太陽の明るさだけを再現したもの。光だけで熱はなく、手元を離れると10秒程で霧散する。



【秘伝魔法紹介】

『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。


『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。


『溶接』……ガス溶接を再現したものだが、秘伝により実質的には気体レーザー。距離や威力は個人の力量に比例するが、数ヤードも離れると威力が急激に減衰する。発動までにタイムラグがある。



『投影』……蜃気楼を再現したものだが、秘伝と裏ワザにより実質的には荷電粒子砲。距離や威力は個人の力量に比例するが、数ヤードほどしか直進しない。発動までにタイムラグがある。



『気化』……水の蒸発を再現したもの。対象は液体に限らず、指定位置周辺の物質を昇華する。

距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。




【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。

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