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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
51/78

第51話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第51話




 目を覚ますとそこは自宅のベッド・ルームだった。勿論、借家の方ではなく、大陸間輸送船上に設置した家屋の方だが。


隣から聞こえてくる寝息の方へ顔を向けるとヒルダが眠っている姿が目に入った。


あれ?俺は何でここで寝てたんだったけな、と疑問に思ったところで反対側からヘレナの声が聞こえた。


「ソード、おはよ。」


「おはよう。ヘレナは今日も美人だな。」


そちらの方へ身体を向けると、少し疲れた様子のヘレナが見えた。


「当然。」


「こんな時に何をイチャついてるんだい、あんたらは?!」


俺たちがキスをしようとした所で、ヘレナの斜め後ろに立っていたヘルガが呆れた様な声を出した。


「あれ?ヘルガじゃないか、どうしたんだ?」


「どうしたじゃないよ!身体は大丈夫なのかい?」


「身体?!ああ、そうか。」


ヘルガが槍で刺されそうだった所へ飛び込んで無理やり転移した際に、ドジって俺が刺されたんだった。


恐らく、あの槍の穂先に毒が塗られていたせいで、立っているのも辛くなって意識を失ったのだろう。


「倦怠感があるくらいで、特に異常は感じられないな。見事な処置だけど、何の毒なのか分かったのか?」


この世界の医薬品は、化学合成などでは無く、生薬の組み合わせでしかないが、効能は地球製品と遜色がない。


しかし、仲間に医学系の知識を持つ人間がいないので、折角の医薬品も宝の持ち腐れになるかもしれない、と心配していた。


「違うよ。ヘレナが解毒薬を片っ端から、アンタに飲ませたのさ。」


「ん!」


ヘルガの言葉を聞いて、ヘレナを見ると腕を組んでドヤ顔をしていた。


「片っ端からって、全種類か?」


「そうだよ。」


先程から、妙に満腹感を感じるのはそのせいなのか。


それにしても百数十種類の解毒薬を全て飲まされるとはな。


毒をもって毒を制するというのが、たまたま上手く行ったから良いものの、一歩間違えれば過剰投与か副作用で死んでいたかも知れん。


 それこそ、運が良かったのだろう。


俺が毒の塗布された槍に突き刺されたのは、運が悪かったからではなく、俺がミスした結果だ。


しかし、解毒薬自体はギルドで購入したものだし、ヘレナやヘルガは簡易転移門を使えばここから自宅へ直ぐにでも帰れるので、仮に俺が事前に薬品を用意していなかったとしても結果に影響はしないだろう。


 自分のドジさ加減を自覚出来ずに、すぐに自分は運が悪いんだ、などと言う愚か者に限って、注意不足や判断ミスといったヒューマンエラーの累積を無視する。


だが、運の良し悪しとは、自己の如何なる判断や行動も結果を一切変えられない事に対する諦めの言葉でしかない。


「そうか。ありがとう、ヘレナ。」


「ん。」


ヘレナの返事と同時に起き上がってみると、俺は全裸にタオルケットが被せられただけの状態だった事が分かった。


上腕部分に包帯が巻かれているので、そこに傷口があるのだろうが、特に痛みは感じない。


「私もアンタも、ヒュドラーどもの返り血で血みどろだったからね。

ヘレナと一緒にアンタの装備を外して、風呂へ放り込んで洗ってみたら、そこにキズが有ることが分かったんだよ。」


「手間をかけたみたいだな。」


外人部隊であろうが正規軍であろうが下士官やプライベートは所属部隊と一緒にシャワーを浴びるのが普通なので、俺も裸を見られる事には慣れている。


それよりも意識を失ってしまって、義理の叔母にあたるヘルガに担がれて運ばれた事の方が恥ずかしい。


「ヒルダに心配をさせしまったか?」


「私らが戻った時には、ヒルダはもう眠った後だったんだよ。

治療が終わってあんたの容態が安定した頃に一度ヒルダが起きたみたいだけど、そのまま眠ったから特に心配はさせてないよ。」


「そうか。色々とスマンな。」


そう何度も幼児に心配をさせるなど保護者失格だからな。


「お互い様だよ。何か食べるかい?」


「いいや。もう一眠りさせて貰うよ。」


「そうかい。じゃあ、私も眠るとするよ。」


ヘルガが部屋から出て行ったあと、寝間着に着替えたヘレナがヒルダを挟んで俺と反対側からベッドに潜り込んできた。


最近はこうやって川の字で寝ているから特に違和感もない。


「おやすみ、ヘレナ。良い夢を。」


「ん。おやすみ。」


他のハンターたちの様子は気になるが、この状態で出て行っても足手纏にしかならない。


わざわざ味方の負担を増やしに行くなど利敵行為以外の何物でもないので、少なくとも自分のケツは自分で拭ける様になってから戦線に戻るのがハンターのルールになっている。


組織に所属する軍人ならまた違うルールの基で動く事になるが、俺たちハンターは個人経営の事業主だし、この仕事は善意のボランティアでしかないから、無理させて損耗が増えても無意味であるという事なのであろう。


それに戦線にいるからには、ランクに応じた働きを要求されるのが当然だ。


ボランティアでも作戦中に死ねば、ギルド職員の殉職と同じ扱いをされ、遺族に一応見舞金も出るらしいが、そんな端金が欲しくてわざわざ死ぬハンターなどいる筈もない。



 数時間ほど眠って、最低限必要な体力が戻った事を確認すると出掛ける準備を始めた。


こういった回復力の異常な高さもレベルアップの恩恵なのだろうな、とつくづくと感じられる。


ヒルダは未だ眠っているが、ヘレナはベッドに上半身を起こして俺の様子を観察している。


逆の立場だったら、俺もヘレナが未だ復調してないと判断した段階で出撃を止めるだろうから、気持ちは分かる。


「ヘレナ、大丈夫だ。危なくなったらヘルガを盾にして逃げるから。」


「ん。」


「何、危ない事をサラッと言ってるんだい、あんたたちは?」


「覗き見とは趣味が悪いな、ヘルガ?」


「わざとらしいんだよ。扉も開きっ放しだし、私が来たのも分かってたんじゃなのかい?!」


「やはりヘルガも一緒に行くのか?」


「当然じゃないか。前回は急に大勢に口説かれたから、驚いてステージから下りちまったけどさ、今回は全員と踊ってやるつもりだよ。」


「そうか。取り敢えず、ギルドで現状の確認を行うつもりだが、それで良いか?」


「ああ、それで良いよ。連れてっとくれ。」


「じゃあな、ヘレナ。行って来る。」


「ん。幸運を。」


俺は今度こそ、ハンターギルドの中庭へ向かって『転移』の魔法で移動した。



 シグブリット辺境伯領の城壁都市の大きさは直径約6マイル、凡そ28平方マイルなので、ジルヴェスター辺境伯領の城壁都市の半分強くらいの面積しかないが、それでも日本の八丈島ほどの広さがある。


城壁も一重だけだし、街並みも全体がサグラダ・ファミリアのあるバルセロナみたいに綺麗な碁盤の目をしているので、幅約18フィートほどの道路の路面には線路も敷かれており、馬車みたいな客車をひいたトロッコ列車を人力で走らせる事が出来る。


これが無ければ、一般市民の移動が著しく制限される事になるのだが、普段は路面電車や路面バスみたいに運用されており、一定間隔の時間毎に停留所から発車している。


そのため、俺の認識では自由に乗り回せるモノではなかったのだが、他の者にとってはタクシー程度の認識だったらしく、客車に兵士を満載したトロッコ列車を乗り回している駐留軍の姿が、ギルドの中庭に転移した俺たちの目に入ってきた。


「あの手があったね!」


「確かに、あれなら嫌でも真っ直ぐに進めるな。兵士ばかり楽しやがって!」


ヘルガも思い付かなかったらしく、俺と同じく感嘆の声を上げた。


俺たちなら走れば、街の端から端まで30分間程度で行けるので、普段からトロッコ列車など使って無い事も存在に気づかなかった原因になっている。


ギルドビル内に入って行くと、丁度ヴィクトリアがこちらへ歩いて来る姿が見える。


「ヴィクトリア!」


「ソード!ヘルガも!無事だったんですね?」


「なんとかな。それより状況を教えてくれるか?」


「つい先程の報告ですと、ランク4以下の生物を宿主にしている寄生生物の駆除はほぼ終わったみたいです。

但し、未だヒュドラーが3匹とワーライノセラスが7匹も残っているのが確認されています。」


「他に始末したヒュドラーとかは居たのかい?」


「この煙幕の中のせいで、ヒュドラーを転移門へ誘導する事に成功したものは未だ居ないそうです。」


「じゃあ、アイツらの連携を巧く分断出来たんだね!」


「貴方たちも奇襲を受けたんですか?

駐留軍がトロッコ列車で動き回ってるのが丁度良い囮役になってからは、分断して各個撃破出来る様になりました。

しかし、それまでは奇襲により、諸侯軍からは数十名ほど犠牲になったみたいですし、ランク5ハンターからも重軽傷者が何名か出ています。

レナートも毒槍を刺されて昏睡状態でしたけど、先程目覚めたばかりです。」


「ヴィクトリアはレナートに付いてなくて良いのかい?」


「目が覚めるまではレナートに付いてましたけど、未だ身体もロクに動かないクセに口だけは元気みたいですし、薬剤師からも付いていなくても大丈夫とのお墨付きを貰いました。」


「ソードも毒槍を突っ込まれて、さっき迄は夢の世界にいたからね。」


「もう復帰出来るんですか?」


「ああ、何処へ行けば良いんだ?当初の担当場所で良いのか?」


「いいえ。残りの亜竜と獣人は、全て直ぐそこの広場の辺りで駐留軍と対峙している筈なので、そこへ向かって下さい。」


「了解だ。他に注意点はあるか?」


「ヒュドラーは匍匐型が2匹と歩行型が1匹で、何れも5つ首です。

ワーライノセラスは1匹が第3形態へ、3匹が第2形態に変異してるそうです。」


「変異後の姿形や能力は、ジルヴェスター辺境伯領の獣人とおなじか?」


「ジルヴェスター辺境伯領から転居してきたハンターからの証言では、頑丈さ以外はその様です。

それとワーライノセラス第3形態はレベル104で、ワーライノセラス第2形態はレベル76前後みたいです。」


「他にも何かあるのかい?」


「今のところは、それくらいです。最新の情報は現場に出ているカールから聞いて下さい。」


「ありがとさん、ヴィクトリア。

それじゃあ、ソード。ショータイムに参加しに行くとするかい!」


「ああ、今度こそあのチアガールどもにぶち込んでやる!」


俺とヘルガはハルバートを担ぎながら広場へと向かった。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。



【基本魔法紹介】

『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『光球』……太陽の明るさだけを再現したもの。光だけで熱はなく、手元を離れると10秒程で霧散する。



【秘伝魔法紹介】

『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。


『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。


アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。


ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。

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