第05話
■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。
第05話
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赤色のパラシュートコードで作った輪っかを5個ほど投げ上げ、昨晩寝床とした大木の天辺に引っ掛けて、ランドマークとするための目印にしておいた。
移動を開始してから、1時間ほどが過ぎた。
生きている生物ならば、ステータスにレベルの値が表示されるという事は、嫌になるほど確認出来た。
それと、仮に今直ぐ不思議能力による翻訳が働かなくなっても困らないほど、象形文字の解読も捗った。
これは、俺の特技の一つである。
その特技とは『言語理解』で、中学生の頃にアメリカ製シネマを数本視聴しただけで、俺は英語を聞いたり話したり出来るようになったし、対訳のあるペーパーバックを数冊読んだだけで英語の読み書きが出来るようになった。
今の俺は、シネマとペーパーバックに使用されている言語なら殆ど、ネイティブなみに話す、聞く、読む、書く事が出来る。
ついでにもう一つの特技は『形態模写』で、俺は一度でも見た事のある他人の行動を、完璧に真似ることが出来る。
それも、対象が書いた文字や絵だけでなく、対象が俺の知らない言葉で話している口の動きであっても、録画映像を再生するかのように真似る事が可能だ。
当然ながら、常軌を逸した能力を持っているので、サヴァン症候群の1種だと診断された事もある。
俺には未知への好奇心しか興味がなく、素の俺は感情を殺している訳でもないのに冷徹というか不感症で、未知との遭遇以外の出来事に対して感情的な反応が何も湧かない。
但し、関心ごとが少なく、感情の起伏が小さいというだけで、知能や知性は普通であり、厄介な事に学習能力や知識は逆に優れているらしい。
そのため、好奇心を満たすには色々な根回しが必要である事も理解しており、行動もしている。
普段から映画俳優や仲間の態度を真似して、人間らしく感情を表す役を演じていたせいで、特に意識せずとも演じられるようになってしまったくらいだ。
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下等竜の亡骸周辺にのみ生物が殆ど居なかっただけで、昨晩の寝床とした大木から100ヤードも離れない内に、昆虫類や爬虫類などを見かける頻度が普通のジャングルと大差なくなった。
しかし、体格がおかしい。
図鑑で見た事のある巨大な生物など比ではない。
2乗3乗の法則からすると、このジャングルにいる生物の身体の強さは、俺が知っている生物を遥かに凌駕している事になる。
アジア象並みの大きさのイノシシを見たので、哺乳類が大きくなっている事は予想していたし、化石と同じ様な大きさのデイノニクスを見ていたので、恐竜や爬虫類や両生類は大きくなっていないと予想していた。
しかし、体長約3フィート、四肢を含めると全長約8フィートの大きなカエルが、そこら中で鳴いている。
全長約9フィートもある大きなカメレオンが、舌を伸ばして虫を捕る姿も見かけた。
全長約2フィートの大きなゴキブリが飛び回っているというオゾマシイ光景も見たし、体長約8インチの大きなアリが、群れをなしているのも見つけた。
そのうち、ビデオゲームのアース・ディフェンス・フォー○に出てきた様な巨大なアリにも、出会いそうな気がする。
ここまで見た生物の傾向からすると、恐竜類は化石と同じ大きさ、哺乳類は全長が約2倍、両生類は全長が約3倍、爬虫類は全長が約4倍、昆虫類は全長が約5倍に巨大化している。
巨大な生物が棲息している様子からするとビデオゲームよりも何となくだが、フランスの作家ジュール・ヴェルヌが発表した冒険小説、神秘の島を原作としたシネマのミステリアス・アイラン○の方が雰囲気が似ている気がする。
勿論、俺の知っている大きさの生物もいたので、カエルやヘビなどの食料が確保出来るようになった。
但し、この辺りの生物も火や煙を嫌がるどころか、火に飛び込む蛾のように群がってくるので、調理せずにパッチテストなどをした上で生で食っている。
想定通り、此処は未だ最初に出会った下等竜の縄張り内らしく、他のドラゴンみたいな生物は見かけていない。
その代わり、俺の好奇心を満たしてくれる新たな生物を発見した。
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【名称】
ヒト型爬虫類 ダイノサウロイド科 リザードマン
【レベル】
56
先ず1種類目は、身長約6フィート、鰐頭人身、ゴリラみたいな筋肉量で、青銅色の鱗と皮膚を持つ、2足歩行の生物が4匹である。
大きなクワガタの大顎らしきモノを穂先にした槍を持ち、腰布を巻いて、胸部と背部にだけクワガタの上翅らしき鎧をつけている。
こいつらは、俺から数百ヤード離れた場所を北西へ向かって進んでいるところを見つけたので、殆ど観察できなかった。
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【名称】
ヒト型爬虫類 ダイノサウロイド科 スネークピープル
【レベル】
40
次いで2種類目は、身長約6フィート、蛇頭人身、細身で、TVドラマのブ○に出てきたエイリアンに似た頭部と、アスファルトみたいな紺色の鱗と皮膚を持つ、2足歩行の生物が4匹である。
木製の弓矢と、大きなカブトムシの角らしきモノを穂先にした槍、大きなカブトムシの上翅らしき盾を持っている。
膝上丈のスカートみたいなモノを腰に巻き、ノースリーブシャツみたいな布を着ており、その上からカブトムシの上翅らしき鎧を頭部と上半身にだけつけている。
俺から数十ヤード離れた場所をスネークピープルが微かな音を立てながら歩いていた。
先に気づいた俺は、10ヤード程進んだ場所に生えている大木に登って、こいつらを樹上から観察する事にした。
迂闊な事にこの時の俺は、10ヤード進む間に虫の座和めきが急激に小さくなっている事を大して気にしなかった。
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【名称】
亜竜目 石竜科 バジリスク
【レベル】
136
続いて3種類目は、体高約8フィート、体長約26フィート、博物館で見たアルバートサウルスの立体像くらいの大きさの恐竜型生物が1匹である。
羽毛はなく、コンクリートみたいな暗い灰色の鱗と皮膚だが、各部分の色合いが微妙に異なるせいで、色こそ違えど俺の着ている迷彩服みたいな不自然な模様をしている。
しかし、俺は何かが居る気配を感じてはいても、こいつが動き出すまで、俺の登った木から数十ヤードしか離れていない場所に潜んでいる事に気づけなかった。
スネークピープルたちも同様で、突然背後からバジリスクに襲われ、アッと言う間に2匹が咬み付かれて倒れた。
仲間の悲鳴に気づいて振り返ったスネークピープルは、1匹が弓で急射を行い、1匹が槍と盾を構えて突撃した。
槍を突き刺したスネークピープルがバジリスクの尻尾の一撃で吹き飛ぶと、弓を射っていたスネークピープルは即座に逃げ出したものの、十数秒後には追いつかれて咬み付かれた。
バジリスクが吹き飛ばされたスネークピープルを探している間に、バジリスクに咬まれたスネークピープルたちは這って逃げようとしていたが、段々と動きが鈍くなり、咬まれてから僅か1分程したら、変な体勢のままで固まって動かなくなった。
暫くすると、クッキーを食べている時みたいな音を立てながら、硬化したスネークピープルをバジリスクが食べ回る姿が見えた。
<続く>